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新津市小合中学校の理科の授業で
遺伝子組換え実験が行われました
(くらしとバイオプラザ21スタッフレポート)

 9月30日から10月2日までの3日間(1時間50分:6時間分)にわたり、遺伝子組換え実験を取り入れた理科の授業が行われました。公立中学校の授業の中に遺伝子組換え実験が行われるのは日本で初めて、ということで参観させていただきました。 実験は大腸菌にオワンクラゲの持つ緑色に光るたんぱく質をつくる遺伝子を組み入れ、光る大腸菌をつくるというものです。 小合中学校理科担当桂先生は、この体験学習のために新潟薬科大学応用生命科学部主催の理科教員対象・組換えDNA実験講習会(7月29〜31日)に参加、形質転換実験(遺伝子を組換えることによって生物の形質を変化させる実験)と「組換えDNA実験指針」(http://www.mext.go.jp/a_menu/shinkou/seimei/dna.htm参照)の勉強をして今回の授業に臨まれました。こうして桂先生の「足がつってしまう」ほどの緊張の中、授業が始まりました。

第1時間目(9月30日)
 地元新潟出身である研究者「応用微生物学の父」とよばれる坂口謹一郎先生のビデオを見て私たちの食卓にあるみそ、酒は微生物の力を借りた食品であること、これらの食品のキーワードは「バイオテクノロジー」であることに生徒たちは気が付いたようです。また、桂先生のお話から、異なる植物細胞を融合してつくられるメロチャ(メロンとカボチャ)、トマピー(トマトとピーマン)、ある植物に異なる植物をつぐ「接ぎ木」など、バイオテクノロジーは幅広く身近な技術であることもわかりました。

桂先生のお話
桂先生のお話
・ご参考:坂口記念館

第2時間目
 1865年メンデルの遺伝の研究(メンデルは修道院の庭にエンドウを植え種子の形など七つの形質を用いて交配実験をし、遺伝学の学問としての基礎を作ったといわれています。)から今日、中学校で遺伝子組換え実験が行われるようになるまで、生物学の歴史は大変速く流れました。これから、新津市教育委員会や新潟薬科大学の先生の協力も加わり、みんなは「初めての実験」に臨みます。
文部科学省の組換え実験指針が改定され、「教育目的の遺伝子組換え実験」が以前よりも簡単な手続きで行えるようになりました。けれども、部屋を閉め切ること、机や手を消毒すること、白衣の着用などの約束事もあります。
さあ、組換え実験指針の指示に従い、実験開始!

「畑に種まきゃ、花種子ついて、わんさか増える」
 これが今回の実験のあいことば。畑は寒天培地(微生物の栄養になる成分をプレートに寒天でかためたもの)。種子は実験用に長く安全に使われてきた種類の大腸菌。焼肉屋のエプロンみたいな白衣を着て、空気中の浮遊菌が付着しないようにガスバーナーの炎を高くして上昇気流を起こしながら、大腸菌を繁殖プレートとよばれる寒天培地にまきました。4名1班で全部で10班。それぞれが恒温槽に保管しました。
「あしたちゃんとコロニー(大腸菌が100−1000億ほど生えて集まってできる大腸菌のかたまり)ができていますように!」
机と手の消毒
机と手の消毒
大腸菌を繁殖プレートにまきます
大腸菌を繁殖プレートにまきます


3−4時間目(10月1日)
 昨日まいた大腸菌は10班ともきれいにコロニーを作っていました。まずはこれを観察。
何度も実験の手順、班の中の役割分担(時間をはかる人、指導書を読み上げる人、作業をする人)を確認、実験の意味も整理しました。
「遺伝子組換えに適している生物はどんな生物だろうか。」
3年生の回答をまとめると

→遺伝子が組換えやすいためには単細胞生物でよく分裂して増えるものが適している。
→ヒトや環境への影響を考えると有害物質を作らない生物がよい。
→増殖をコントロールできるためには、特定の条件下のみで生きられる生物がよい。

滅菌したループでコロニーの大腸菌を掬い取り、ふたつのチューブに入れました。
一方のチューブ(−)はそのまま。一方のチューブ(+)には抗生物質(微生物を殺す化学物質。本実験ではアンピシリンという抗生物質を使用)を分解する酵素(βラクタマーゼ)を作る遺伝子とオワンクラゲの緑色に光るたんぱく質(GFP)を作る遺伝子のふたつを持つプラスミド(環状DNA分子で独立して増殖することができる。本実験では「pGLO」と呼ばれるプラスミドを使用。http://biology.tripod.co.jp/QA/items/seibutu67.html参照)という遺伝子を加えます。
スポイトの操作
スポイトの操作

熱ショックを与えた大腸菌をプレートA〜Dにまきます
熱ショックを与えた大腸菌を
プレートA〜Dにまきます


pGLO(光るたんぱく質をつくる情報を持つ遺伝子が組み込まれている)だけでは紫外線を当てても光りません
pGLO(光るたんぱく質をつくる情報を持つ遺伝子が組み込まれている)だけでは紫外線を当てても光りません。

プラスミドを入れない大腸菌(−) プラスミドを入れた大腸菌(+)
プレートA寒天培地のみ
プレートBアンピシリンのみ
プレートCアンピシリン入り
プレートDアンピシリンとアラビノース(糖類の一種)入り

 両方のチューブを氷で冷やしたり、42度の湯で暖めて熱ショックを与えます。(+)のチューブの中では熱ショックで遺伝子組換えが起こるはず。これらの大腸菌の液を異なる4枚のプレート(A,B,C,D)にまきます。

第5時間目(10月2日)
 4つのプレートの意味を復習し、いよいよ組換えた大腸菌の観察です。
ドア、窓をしめ、机と手を消毒。暗幕を締めて白衣を着て実験開始。

 おそるおそる4枚のプレートを開いてみるとB以外には乳白色のコロニーが数の違いこそあれ、形成されていました。紫外線をあててみるとなんと10班全部のDのプレートが光りました。70個もコロニーができたテーブルでは「満天の星みたい」なんて素敵なつぶやきも聞かれました。大きさや数は様々でしたが、全班で10個前後から数十個の光るコロニーが得られました。 結果をスケッチして、大腸菌が回収されました。これで遺伝子組換え実験は終了。
星座のようにひかった大腸菌
星座のようにひかった大腸菌

第6時間目
 手と机の消毒をして、ほっとして窓をあけると台風一過の青空がのぞきました。これで大成功の遺伝子組換え実験は終わりです。
アンピシリンがあると大腸菌は死んでしまうこと。アラビノースがないとGFP遺伝子があっても光らないこと。正確にひとつひとつのことが、生徒たちの口から発言されました。
アラビノースの入っていないプレート(C)にアラビノースを加えたら、プレート(C)も光るのではないかという意見も出ました。 (組み換えた大腸菌を処分するためにこれは確かめることはできませんでしたが、アラビノース溶液をふりかけると3時間ほどで大腸菌が光ることが確かめられています。)
最後に新潟薬科大学藤井先生から「先端技術の勉強と同じくらい、予想される危険に対する配慮が大切です。今回使用した大腸菌は長年の実験で安全性が確認されていますが、組換え生物が不必要に実験室外に出て、自然環境中で増え、広がる可能性を防ぐために、毎回、窓をしめ、手の消毒などをしたのです。」というお話がありました。
生徒たちの感謝状とお花のプレゼントに縁の下の力持ちをしてこられた同大の太田先生、藤井先生の目頭が熱くなったように見えました。

感激の太田先生と藤井先生
感激の太田先生と藤井先生
理科室も実験中は出入り禁止になりました
理科室も実験中は出入り禁止になりました。


「生徒も教師も、新しいことを知って知識が増えることは楽しいことなんだ!」ということを再確認できた3日間でした。

日本で初めて中学校で遺伝子組換え実験が行われるには、新津市教育委員会、新津市中学校校長会、新津市の6中学校とその理科教諭の真摯な取り組みと入念な準備がありました。そのことについては次のトピックスでご報告します。





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