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第11回談話会「ナナメから見たナノバイオ」


10月29日(金)談話会が開かれました。スピーカーに、ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンター情報部門グループリーダーの佐藤哲治さんをお迎えし、ナノテクノロジーとは何か、日本、米国、イギリスでどのようにこの技術が捉えられているかについてお話をうかがい、14名の参加者でディスカッションを行いました。驚いたことに、ナノテクノロジーにおいても、この技術が将来生み出すものやナノサイズの微粒子の生体への影響などに懸念や不安がすでに示され、英国ではそのことを取り上げて、公開討論の拡大を勧める報告書が作られているそうです。そして、引き合いに出されるのは遺伝子組換え食品だとか。私たちは、バイオテクノロジーへの市民の気持ちは通り一遍のアンケートではわからないはずだと考え、ひとりひとりと双方向の意見交換ができるこの談話会をはじめました。英国の報告書を拝見し双方向の意見交換の手法について、襟を正して考えていかなくてはならないと思いました。佐藤さんのお話の主な内容は次のとおりです。


ナノテクノロジーとは何か

ナノテクノロジーは今注目されているが、社会の中で具体的なイメージを追究してみるとなかなか分かりやすいものは出てこない。あまりにも広い分野にわたり、あまりにも奥底の微小なところに関わる技術なので全体にわたる専門家はあり得ない、だから専門家ではない立場でナノテクノロジーをナナメに見てしまおう。
1ナノメートル(10-9m)は10億分の1メートルのこと。水分子は0.3nm、DNAの幅は2nm。ナノテクノロジーでは0.1〜100nmのナノスケールでものを扱い、原子や分子の織りなす微細構造を観測したり、ナノ構造を作り出す技術を利用してデバイスを作ったりすることができる。ナノの世界になるとものの性質が大きく変わってくるのが特徴で、単なるサイズが小さくなったことプラスアルファの現象が起こる面白さがある。ひとつは、同じ物質でも微粒子化によって比表面積が増えるので、化学的な反応性が高くなり、強さや性質が変わる。もうひとつはナノスケールでは物質の光や電気、磁気に対する振る舞いの中で量子効果が支配的になること。微粒子の世界では、力や運動の関係が私達が目にしている古典力学と呼ばれる世界とは異なった関係になってくることで、これを量子的効果が現れてくるという。こういった特徴が、今後、どのように応用され、新しいもの、新しい製品となっていくか、大いに期待される。


身振り手振りでナノを説明。
ナノは難しい。。。 全員写真


ナノテクノロジーの世界を切り開いたふたつの技術

微細構造の観測が可能になる
ナノテクノロジーを象徴するのが、走査プローブ顕微鏡。これは見たいものをプローブとよばれる筆でなぞり、ものの表面全体を走査し、その筆の感触を画像にするもので、0.005nmの解像度で物質の表面の原子の凸凹まで見える。なぞるといっても実際にさわるわけではなくナノスケールの微妙な空間が空いており、この時、この空間を越えて物質とプローブとの間に流れるトンネル電流を指標に利用する。このトンネル電流の値はこの空間の距離に対して指数関数的に変化するため垂直方向のプローブの動きを精細に捉えることができ、トンネル電流が一定になるようにプローブを精密に動かすと、そのプローブの軌跡を画像化すれば、それが物質表面の画像を表現していることとなる。同じような考え方で、トンネル電流のかわりに物質間に働く力(原子間力)を検知して走査するのが原子間力顕微鏡。これらを使ってナノスケールの形をみていくことから新しい発見が生まれることも期待される。この他、光の波長以下のナノスケールのものを見るために新しい光ともいえる近接場光の利用が進められている。

ナノテクノロジーを用いた加工技術
もうひとつのナノテクノロジーを開花させた技術がナノスケールの構造を作り出す微細加工技術だ。現代の家庭にある普通のコンピュータでもそのCPUの中は1cm角の中に数千万個のトランジスタを作りこむ技術に支えられている。このとてつもない数の集積回路をつくる技術はさらに発展してDNAチップなどのナノ構造を作成するのに応用され、数センチ角の中に少量の血液から特定の成分を抽出し測定することが可能なナノデバイスをつくりこむ技術へと発展しつつある。

変貌しつつある科学
ナノテクノロジーがプラスティックによる発光技術を進展させる中で、必要な機能や構造をもった有機化合物をつくりだす科学分野が発展し、有機合成化学分野がナノサイエンスとして脱皮しはじめていると感じている。このことの影響は広範囲にわたり、とくに新しい医薬品の誕生が活発化すると期待される。
ナノバイオで今後も大きな分野となるであろうものとして、医薬品分野のDDS(drug delivery system)があげられる。DDSとは、ガンを治療のために攻撃すると、患者の身体にもダメージが及んでしまうような場合、標的(病巣)に直接くすりを送ることができるシステム。効果が大きく、副作用を小さくすることができると期待される。


ナノテクノロジーの歴史

初めてナノスケールの領域への期待を述べたのは、ノーベル賞物理学者のファインマンだった。その後、ナノテクノロジーと名付けて語り始めたのが、1980年代のドレックスラーや米国MITの研究者達だとされている。日本では既に1960年代からナノスケールの議論がされていた。さらに1992-2002年にはアトムテクノロジープロジェクト(原子・分子識別操作技術、表面・界面ナノ構造形成制御技術、スピンエレクトロニクス、原子・分子動的プロセス理論解析技術の4テーマ)が行われており、日本のこの動きが米国に影響したともいえる。決して出遅れてはいない。

米国の取り組み
2000年1月、クリントン大統領はNNI(National Nanotechnology Initiative)を発表し、国家戦略としてのナノテクノロジー振興策を明らかにした。
その中では7つのグランド・チャレンジが提示されている。
  • 米国国会図書館の全情報を角砂糖大のメモリーに格納する
  • 省資源、極小汚染のボトムアップ製造技術
  • 鉄の10倍強く、重さは数分の一の材料
  • 処理速度数100万倍のコンピューター
  • 数個のガン細胞を検出する診断技術
  • 水や空気の汚染を除去する物質・プロセス
  • 変換効率を倍増した太陽電池
こういった大きな目標を実現するための基盤となる基礎研究投資が始まっている。一方、産業界の協力を得て、これらの目標に関連するロードマップの作成も行われている。
このような米国のナノテクノロジー戦略の進め方から、ナノテクノロジーそのものは科学の分類の中でのモード1に属する基礎研究ではなく、問題を設定し、それを解くために学際的な学問を動員するモード2の技術として捉えるべきだとの意見も出てきている。
*モード1とは科学の真理を追及するための学術的な研究をさし、モード2とは、生活者の側に立ってどのような問題を解決したらよいか研究すること。

英国の取り組み
英国では、米国や日本などに負けてはいけないと研究開発投資が始まっているが、その一方、新しい技術の勃興期にその社会受容をいい加減にせず、しっかり根付かせて議論をしようと英国王立協会および王立工学アカデミーは2004年7月に「ナノサイエンスとナノテクノロジー:期待と不確実性」という報告書を作り、ナノテクノロジーの意味と幅広い応用(ナノ材料、計測技術、エレクトロニクスおよび情報通信技術、バイオナノテクノロジーとナノメディシンなど)についてレビューするとともに、ヒトの健康や環境への影響、社会的および倫理的影響について言及している。その中で必要な規制を整え、利害関係者による公開討論の実施し、さらにそのレビューを公開していく形でナノテクノロジーを振興策を進めていくことを勧告している。

日本の場合
ナノスケールのサイエンスとテクノロジーについての研究者の関心は高く、また科学技術振興策も米国や欧州と方を並べる規模で実施されている。また産業界もナノテクノロジービジネス推進協議会を設立、平成16年5月18日にナノテクサミットが開催されるなど産学官の活動は活発である。

科学ジャーナリズムとナノ
ナノテクノロジー総合支援プロジェクトセンターでは隔週でナノテクメルマガを発行している。そのメインの記事として、今まで70名余りのナノサイエンス・ナノテクノロジーの研究者にインタビューを行っているが、普通の人の目線でナノテクを如何にとらえ、表現していくか、これからのナノテクノロジーにとっても重要な問題と考えている。ナノテクノロジーはその範囲が広く、研究者であっても専門外のことはなかなかつかみにくいところがあるが、それを普通の人という軸で一本通していければと思っている。英国ではナノテクノロジーに懸念を表明しているグループの記事をチャールズ皇太子読み、意見を述べ、それに対して科学者がその論点を批判するということが普通に起きている。そういう活発に意見交換する環境は面白いと思うし、日本にも欲しい。


質疑応答

ナノテクのこれから
・ピコテクノロジー(ピコは10の-12乗)は発展するだろうか→ピコが新しい世界を開くかもしれないが、技術は人間の背丈の大きさになってはじめて実用化するので、まずはナノという感じ。ただ、将来のことは何ともいえないところがある。
・細胞内の挙動がナノテクノロジーで解明されるかもしれない→細胞内では酵素反応などで、どうやって特異的に基質と出会って反応していくのだろうと考えたときに、レールのようなものがあるではないか、それがナノの技術で明らかになってくるかもしれない。
・有機合成分野に関しては、今まで作れなかった医薬品が合成でき、生まれてくることに期待している→確かに有機エレクトロニクス分野の中で、これまで困難だった有機合成の新しい方法が次々と開発されているように見える。有機合成の分野自体がナノテクの中で様変わりし始めていて、すごい成果を期待できるのではないかと思っている。

日本のナノテクの行方
・日本のナノテクはどのくらい進むか→予算は米国とほぼ対等だが、米国は国防予算も加えるので、正確なところは分からない。日本のポスドクが米国の研究の一線で活躍しているので、才能も負けていないと思うが、標準化などの戦略で負けてしまうかもしれない。
・化粧品への応用は?→すでに応用されている例もあると聞いている。微粒子化すると透明に見えたり、逆に黒く見えたりして表現の多様性が増すと思う。肌から浸透する効果を期待するならば、微粒子の方が入り込みやすいと考えるのが自然かもしれない。
・ナノテクノロジーではどんな部分がのびていくだろうか→情報通信分野の技術はその底にナノテクノロジーが活躍していることが多い。話題のSED(薄型テレビ)もナノテクノロジーの応用。縁の下の力持ちがナノテクノロジーかもしれない。

社会とのかかわり
・不安があっていいと思うが、議論ができる社会がいい→心配は否定できないから、心配を感じる人と心配を感じない人がお互いに自由に意見をいい、お互いの論拠を納得できるようになることが必要と感じている。
・ナノテクノロジーでは開かれた対話が必要。組換え技術と対比されるが、はじめから開かれた取り組みが大切
・米国ではELSI(Ethical Legal Social Implement)にヒトゲノム研究や遺伝子組換え技術に関して予算をつけている。

感想、そのほか
・スピーカーの夢はコンピューターで人間のような思考ができることだそうだが、コンピューターに人間が負けるようになると夢がなくなると思う。
・内容は難しかったが米国の新技術導入の仕組みつくりなどのお話が面白かった。
・新しい技術にはすぐに実用に役立つものとそうでないものがあり、たとえばレーザーは20年余り応用されることがなく電子工学のプレイボーイ(フラフラしている)といわれた。ナノテクノロジーも初めはそうかもしれないが今後が期待される
・今日のお話でナノテクノロジーに親しみを持てるようになった。




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