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公開シンポジウム「世界の科学教育」が開かれました

1月8日(土)1時より東京大学教養学部13号館において、標記シンポジウムが日本学術会議動物科学研究連絡委員会(NPO法人)、ティーチングキッズ(社団法人)、日本動物学会、高等教育フォーラムhttp://matsuda.c.u-tokyo.ac.jp/forum/の共催により開かれました。参加者は200名を越え、活発な討論がおこなわれました。このシンポジウムは1998年に初めて開催されたときには、午後1時から10時まで行われたという伝統のある「アツイシンポ」です(今回は7時40分終了)。
「理科離れ」がこれほど心配されているのに、初中等教育においては理科系教科内容削減などが進んでいるのが現状です。このような状況の中で、世界の科学教育の現状を聞いて、不安がさらに大きくなってしまった参加者も多かったことと思います。 この原因は「ゆとりの教育」にあると広く認識されている訳ですが、詰め込み教育からゆとりの教育に移行した背景も考慮した上での教育の見直しが早急に必要だという結論になりました。具体的には、中国、米国では、生徒の成績や進学状況により、ボーナスや昇給などの配慮もあると紹介されました。しかし、教育の場でこのような優遇措置が行われるのはいかがなものかとする意見が、会場の大半であったようです(参加者の7割は理科教師)。

講演の主な内容

1. 開会 星元紀(日本学術会議会員、慶応大学教授)
 最近はゲノム研究が進み、ゲノム万能のように考えられがちだが、環境も重要。特に脳の発達には後天的要因が大きい。日本の高等教育の重要性を考えていかなくてはならない。


2. 「教科書の変遷から見た理数教科内容削減の歴史」筒井勝美(英進館館長)
 昭和14年から九州で塾を開き、現在は15,000人の小中高生の受験指導を行う。昭和45年度の県立高校の入試の結果などを基に考えると、日本の子どもの能力は2学年低下したと思う。しかし、昭和43年からの理数系教科書のページ数や演習問題数の削減を見ると、楽しいばかりで、質、量ともに低下している背景があると思う。


3. 「日本学術会議における理科教育問題への取り組み」 北原和夫(日本学術会議会員、国際基督教大学教授)
 国際的な理数系の学力検査(TIMSS2003、PISA2003)の結果を見ると、日本の子どもは学力低下ばかりでなく、意欲もなく、自信もないことがわかる。学術会議では2004年4月に行動宣言を行い、研究者による地方行脚、科学館との連携などを開始。一方、大学の教員の対社会活動が評価の対象になるように働きかける。海外ではこのような社会と研究者が関わる試みは活発におこなわれており、イギリスでは研究者が社会人と科学に関する対話をするいわゆるout reach運動が進められている。さらに若手研究者と議員がペアを作って、議員が研究室に入り、研究者は政策検討に加わる試みも行われている。現在60ペアが成立しているという。


4.「数学教育の国際比較」西村和雄(京都大学教授) 
 米国では1983年「危機に立つ国家」という提言が行われ、数学・化学はビジネスに重要であるという立場から米国産業界の協力も得て改革が行われた。「勉強は重要であるキャンペーン」は学校の成績が就職に有利に働く仕組みと連動して、成果を挙げた。


5.「化学教育の国際比較」渡辺 正(東京大学教授)
 化学オリンピックには2003年から日本の高校生も参加している。
日本の理科離れには理科の学習内容が削減されてしまったという背景がある。さらに学習指導要領にしたがって教科書検定が行われているが、日本の教科書検定は、定められた事以外を書いてはいけない、海外は最低ラインを定めてライン以上は多く書いてもよいことになっているように思える。


6.「高校生物教科書の国際比較」松田良一(東京大学助教授) 
 海外の生物学教育が日本のものと最も異なっているのは、ヒトに関わる生物学が中心になっている点。生物学はヒトの健康と社会の安全のために学ぶものであるのに、日本の生物学教育の中におけるヒトの扱いは殆ど無く、ヒト以外の生物の話題に終始している。さらに米国の教科書ではドラッグを禁止するかわりに、神経系の学習の中で、ドラッグがどんな働きをするかが示されていたり、オランダの教科書ではヒトの単元で蘇生法や避妊についても解説している。日本では優秀な生徒に特別な教育をすることをエリート教育として不平等とみるが、海外では、優秀な人材は早期に教育して、国力につながるように育てている。


7.「科学系博物館の科学教育」椎 廣行(国立教育政策研究所社会教育実践研究センター長) 
 日本では子どもの理科離れや学力低下ばかりではなく、社会の意識として環境汚染を除いて科学への関心が低い。科学館では、来館した生徒に発見、調査、考察の機会を与えたり、学校に出前授業にいくなどの学校教育への支援を行っている。
国立科学博物館で2泊3日のキャンプを行ったときに、参加した生徒は科学の内容以上に科学者の姿に感動していた。今後の課題は大人への科学教育。


8.「GEMS, Great Explorations in Math and Scienceの活動とアメリカの科学教育」古川 和 (ジャパンGEMSセンター事務局長)
カリフォルニア大学バークレー校ローレンスホール科学研究所には自分で考え見つける面白さや応用する体験を重ねる探求型プログラムがあり、日本でも広める運動がおこなっている。各国からもローレンスホールに研修に来ている。GEMSでは1テーマに3年くらいかけて、テキストを作っている。日本でも個々の先生は、面白い実験プログラムを持っているが、それが統合されていない。


9.「シカゴの公立高校におけるAP (Advanced Placement Program) 教育体験」 酒井由紀子(東京大学教養学部理科2類2年)
 大学入学時にAPの単位が考慮されるので、AP担当教師には特に資格はないが経験豊かな教師が担当しており、修士号、博士号を持っている先生も多い。生徒はそこまでにある程度単位をとっていることが履修の条件で、宿題の量、テストの回数などはホームページに掲載されるので、それを見て生徒は選択する。能力のある生徒には大変有効な教育であるが、広く浅く大学入試の道具になっているという短所もあると思う。


10. 「ダラスの公立高校における AP教育体験」 古谷美央(東京大学大学院医学系研究科博士課程1年)
大学入試では、APの単位を取得し、「困難な状況で努力したこと」が評価されるのだと思う。履修した生物と化学では実験も多く毎週レポート提出が大変だった。APの教師たちはとても教育熱心で興味ある授業を展開してくれた。コロンビア大学やスタンフォード大学の入試では、卒業生が受験生と面談し、その卒業生の意見を合否判定に反映させる仕組みを作り、大学は単なる試験成績とは異なる情報も積極的に集めていた。


11.「中国に遅れる日本の公教育」林 万雅(中国語教師)
 自分や姪が中国で受けている教育と自分の子どもが日本で受けている教育を比べると2年は日本が遅れている気がする。中国では小学1年生は1日6時間授業、中学生は8時間授業を受け、自宅でも勉強する。「教師の日」には国の要人も恩師に贈りものをするなど、教師を敬う習慣がある。教師には教え子の成績により、ボーナスが出るなどの優遇が行われている。


講演者全員にコメンテーターを加えたパネルディスカッションが行われました。
コメンテーターによるコメントの概要は以下の通りです。

立花 隆(評論家、元東京大学客員教授)
このシンポには1998年の理科教育問題の問題提起から関わっている。生徒の学力の低下に続いて理科教科書内容の削減が続いた。教育の問題が社会現象となって現れているには時差がある。今後、日本では、かなり長期間にわたって「ゆとりの教育」の弊害が続くことになる。今日の中国の若手科学者の台頭は注目に値する。


黒田玲子(東京大学教授)
第三期科学技術計画では安心、倫理、人材育成がテーマ。基本的には「教育をしっかり行う」につきる。まずは大人が暮らしの中に科学があることをよく理解しないと子どもに科学の面白さは伝わらない。イギリスでは数学と物理学の教員の給料を高くして、教員の人材確保をはかっている。


下村博文(文部科学大臣政務官)
義務教育を地方財政に委ねることについては、文部科学省も国として危機感を持っており、中山文部大臣は学力の低下を初めて認めた。文部科学省では教育を国家戦略のひとつと捉え、予算を投入し、学力試験を再開、学習指導要領の見直しを行う。理数教育に関しても随時、外部からの専門家を招き議論を進め、今年中に方針をまとめたい。高校以上の教育負担についてはバウテャー制度を提案している。




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