くらしとバイオプラザ21

くらしとバイオニュース

HOME
What's New

くらしとバイオニュース

バイオイベント情報

やさしいバイオ

リンク集

バイオカフェ

くらしとバイオプラザ21とは

東京都遺伝子組換え作物の栽培に関する検討委員会が終了しました

東京都では、1月21日、2月5日、3月23日の3回にわたり、遺伝子組換え作物の栽培に関する検討委員会を開き、短期的対応として、隔離圃場における栽培は農林水産省の実験指針に従い、一般圃場における栽培については都への事前個別協議を求めることになりました。
検討委員会では東京都の農業が消費者密着型で日本の中でも特異な農業であること、いかに生産者と都民の要望を汲み取って折り合いをつけるかということが論点となり、「共存」や「フリーゾーン」の考え方も持ち込まれました。現在、日本各地で遺伝子組換え農作物の栽培を規制する動きが起こっていますが、その中にあって3月19日(土)には東京都の農業を考えるフォーラム、「遺伝子組換え作物のMANDALA」を開催したり、社会科学の専門家が座長を務めるなど、幅広い議論を重視した姿勢はこれからの「科学技術と社会の関わり」を考えていく上で、ひとつの新しい方向性を示したものであると思いました。


検討委員会の構成

座長:大塚善樹武蔵工業大学環境情報学部助教授
委員:熊澤夏子NPO法人 食品と暮らしの安全基金
澤井保人澤井農場
日比忠明玉川大学学術研究所特任教授
平塚和之横浜国立大学大学院環境情報研究院教授
都田紘志JA東京中央会地域振興部参与



検討委員会の議論の経緯

各検討委員会の配布資料、議事録が見られます http://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.jp/norin/idenshi/idenshi.htm


検討委員会の結論

3回の検討を踏まえ以下のように問題の背景と提案が、都知事に対する報告書(案)として整理されました。

問題の背景
  1. カルタヘナ法
    カルタヘナ法には自治体への情報提供の規制がなく、同種の一般作物への交雑が考慮されていない。

  2. 国の責務は不十分
    試験研究が不十分。事前情報提供や交雑防止措置などを定めた「第1種使用規定承認組換え作物栽培実験指針」が文部科学省所管実験にいかされていない(東京大学大学院農学生命科学研究科による平成16年度試験栽培が事実上中止になった事例)。隣接地の同種作物との交雑・混入についてどうするのか等、一般ほ場での栽培に関する指針がない。

  3. 国民の新技術等への不信感、情報の不足

  4. 消費者密着型という特殊な環境にある東京の農業と国の農業政策の齟齬


都への提案

安全・安心の視点に立った「特別栽培の農産物認証制度」などと農業振興施策との整合性が必要であることに留意し、1−4の問題を踏まえた指導指針を作成することになった。
  1. 短期的対応
    1. 隔離ほ場における試験研究栽培
      1. 「第1種使用規定承認組換え作物栽培実験指針」に準拠するように指導
      2. 事実として交雑・混入等が認められ経済的被害が生じた場合の補償の考え方を付加する
    2. 一般ほ場における栽培
      1. 一律禁止でなく地域住民の理解、交雑・混入防止措置、補償等を記載した栽培計画書を作成し、都への事前個別協議
      2. 事前個別協議を行うにあたっての都の審査基準・制度の策定
      3. 制度ができるまでの都の緊急的な措置
  2. 都における情報公開と市民参加の手法の確立
  3. 中長期的対応
    1. 科学的検証システムの確立や「共存(遺伝子組換え農作物と非組換え農作物をともに栽培すること)」施策検討
    2. 都民・住民が自主的に取り組むGMフリーゾーン(遺伝子組換え農作物を栽培しない地域)の手法について情報提供
    3. リスクコミュニケーションの推進
    4. 対応策の随時見直し

    「共存」をめぐる最新の動向〜EUガイドラインと各国の動向: http://www.monsanto.co.jp/data/report/overseas_05.shtml

  4. 国への要望
    1. 一般ほ場における栽培のガイドライン策定
    2. 試験研究の充実
    3. 各省庁連携のもと、風評などの経済被害への対応(たとえば、調査、除去・処分、損失補償等)の考え方を追加する等、実験指針の充実をはかる
    4. 情報の公開


主な議論の内容(→発言に対する回答などを示す)

○ 都内では、組換え作物が商用栽培されることは近い将来はまず起こらないのだから、試験栽培は事前協議の対象外にしてはどうか。→遺伝子組換え技術は重要な技術であると位置づけている以上、当面は栽培しなくても、それについて議論の場を設け、都民・住民の認知を高める機会は残すべきである

○ 東京都は消費者密着型であるので、東京都をGMフリーゾーンとしてはどうか

○ 都内の農家では、農薬散布直後の庭先販売の売り上げが落ちるなど、地元住民の情報交換の影響を受けるので、風評被害への経済的補償を国に要望してほしい→風評被害の評価・認定は難しいが、国に対して経済的な考慮も要望する

○ 経済的補償以外の方法で風評被害を最小限にするというのはどんなことか→情報発信やマスコミ報道を通じて、正しい情報が定着するような情報提供などを行う

○ 東京都では、当面、遺伝子組換え作物を栽培しないならば、それまでガイドライン作成は不要ではないか→今回、東京都の農家にアンケートをとったところ、2割が「条件がそろえば組換えを栽培したい」と回答しており、そのような農家への対応とそのような事態への対応のためにもガイドライン作りは必要

会場は薄暗く、席は放射状 第2部のコーディネーターの平川先生は同心円の中心に


都民フォーラムのレポート

3月19日(土)東京国際フォーラムホールD5にて、「遺伝子組換え作物のMANDALA〜その萃点(スイテン)を探るための縁起の座」が約90名の参加者を得て開かれました。スイテンというのは博物学者である南方熊楠の述べた「いくつかの自然原理が必然性と偶然性の両面からクロスしあって、多くの物事を一度に知ることのできる点」のことのようです。今回のフォーラムのタイトルも熊楠の唱えた「南方曼荼羅」にちなんで、曼荼羅図のように様々な立場の人たちが集まって、様々な意見がクロスし影響を与え合う創造の場とすること目指しています。

第1部 「縁の座〜東京の農業を考える」
お話 中沢新一さん(中央大学総合政策学部教授)


人間は農業を行う中で自然を壊しながら食物を得ているが、そこで、どのように自然と折り合いをつけていくのがよいのか、里山や学生さんとの稲作を通じた学習の事例を交えてお話がありました。

第2部 「起の座〜都民にとっての遺伝子組換え作物栽培とは?」

 検討委員会委員(大塚座長、日比委員を除く)に中沢さん、田部井豊さん(独立行政法人農業生物資源研究所)を加えたメンバーが座の衆で、平川秀幸さん(京都女子大学現代社会学部助教授)は座長。参加者は座長を中心に同心円状に、座の衆は最も外側の円周に座りました。

座の衆の主な意見

熊沢:GMには社会的、心理的、様々な意味で反対。科学的議論ではおかあさんの作ったおにぎりと嫌いな人が衛生的に作ったおにぎりの違いのような、心理的な部分が軽視される傾向がある。中沢さんのお話から組換え技術を使って日本に里山は作れるのかと考えた。

澤井:八王子で農業を営んでおり、農家には風評被害が最も怖い。今日は花粉症緩和米ができたら、皆さんはどう思うか聞いてみたい。

田部井:組換え技術については研究し、情報発信をする立場だが、かつて行政で規制担当でもあった。また消費者でもある。日本は多くの農作物を輸入している事実や、農作物は組換え技術以前に人間の都合でいびつな植物になっていることを認識したうえで、一緒に考えたい。

平塚:練馬大根はウイルスで全滅し、ハワイのパパイヤは遺伝子組換え技術でウィルス抵抗性を付与され、生き残った。特産物を救える力を持つ技術として遺伝子組換えを皆さんはどう思うか。組換え農作物はやがて出回るようになると思う。

都田:両親が農業に関わっていた。中沢先生は農業をきれいに語ってくださったと思う。漁業と農業には獲る技術と育てる技術という本質的な違いがある。


会場を交えた質疑応答

○ 遺伝子組換え技術は世界の貧富の差を広げるから反対

○ 遺伝子組換え技術は種の独占による社会的リスクを持っているので反対。バイオ産業は利益があがるので、やっているだけで、これで食料危機は救えない。特許もなくすべき。

○ 組換え技術は食料不足解決のための一つの有力な技術。世界の人口を支えるために収量増加に備える技術も必要。特許も先見性や投資にみあったものならよいし、生命線に関わる食料では特許フリーもある。日本も自動車業界では多くの特許を持っている。研究などへの投資に見合う利益を得ることも産業発展には重要。

○ 環境の変化に対応するのは生物の多様性。組換え農作物は世界の農業を急速に画一化し多様性を失わせている。ロシアの政変で食料の飢饉が起きなかったのは、ダーチャ(家庭菜園付き小屋)で週末に農作業を楽しむ習慣があり、市民の8割がジャガイモを栽培していたからだと聞いた。これも多様性だと思う。→組換え技術が画一化を促進するは誤解。むしろ、ジーンバンクではいい品種が出たときに捨てられる品種も保管している。

○ リオサミットで予防原則が唱えられた。日米は欧州と異なり、事後に科学的検証をしている

○ 日本は欧州と異なり、予防原則に従っていないと思う。→日本も予防原則を守っている。実際には政治・経済の力学が働くことが多い

○ 予期せぬことに対する安全性審査は予防原則に属し、これまでの科学で検証するのがリスクアセスメント。EUのモラトリアムには科学的でない側面もあるようにみえる。

○ ウィルスが発生し、農作物が絶滅するのも人間の都合を追及した結果と受け止めるべき。私は今、子育て中で不安がある。

○ 除草剤耐性農作物を作り、雑草だけ枯らすのは人間の勝手

○ 雑草とりは本当に大変なので、組換えも?→除草剤の特性を考え使い方を工夫する

○ インドに1年滞在した。貧しい農家では、使い易く、少ない農薬で済む遺伝子組換えワタを使えると、初めて少し平等に近づけるというような厳しい状況だった。有機栽培は方法が難しくて高い教育を受けた人でないと上手にできない。

○ 練馬大根のような弱い品種は雑草と一緒に育てなくてはならず、そういう見栄えの悪い野菜を買うように消費者に学んでもらいたい。

○ 生産者と消費者の距離が短くなるのがいいと思う。東京に組換えは不要ではないか

○ 農薬にも役目がある。使用量を減らしつつ、情報提供をして理解を促したい

○ 組換え農作物の人体への影響はまだ出ていない。この状態で作りたい人がいることが理解できない。花粉症緩和米には薬の効果があるから受け入れるという意見も理解できない

○ 除草剤の使用量が減ると聞いても組換えに不安がある。都民の賛成・反対が半々ならば澤井さんはどうしますか→組換は嫌いが普通の感覚だと思う

○ 子育てをする会社員。農業と科学には相反する側面があるが、現実の世界は相反するものの中で、二極化せずにおりあいをつけていくもの。私は、子育ても不安や仕事との両立の中で自分で考え、調べ、自分なりに見極めていきたい。

「いい、悪いでない、新しい形の議論を続けたい」と、平川座長は締めくくりました。





ご意見・お問合せ メール bio@life-bio.or.jp

Copyright (c) 2005 Life & Bio plaza 21 All rights reserved.