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第19回談話会「スギ花粉症の食べる免疫療法」レポート

2月17日(金)、談話会が開かれました。慈恵医大斉藤三郎先生が「スギ花粉症の食べる免疫療法」というお話をしてくださいました。これは昨年、「女子大生と考える〜遺伝子組換え食品のなぜ嫌われる」でいただいたお話をバージョンアップしたもので、花粉症に悩まされている人も多く参加しました。

山が大好きな斎藤先生  


斎藤先生のお話の概要

山を愛し、研究の道へ

医学部を退学して山小屋で働きたいと思うほど山を愛していたが、未踏峰、ヒマラヤのガネッシュ・ヒマールV(6950メートル)登頂などの経験を通じ、研究は山登りに似ていると思うようになり、卒業後は迷わず研究の道へ。慈恵医大が夏期、槍ヶ岳で開所する診療所で毎年、活動。年間15,000人ほどが泊まる山小屋の隣に診療所がある。最近は日本でも高山病での死亡者が出ている。来年度は高山病の初期兆候をとらえる4,000名のデータをとる予定。スポンサー募集中。

学生アンケートに見る花粉症
慈恵大学423名に花粉症のアンケートをしたら42%が花粉症であることがわかった。
花粉症の人も非花粉症の人でも他のアレルギー疾患を持っている割合が変わらないことから、花粉症は単独のアレルギー疾患と位置づけられる。家族の花粉症の割合を調べると、本人が花粉症の家族では81%、非花粉症では56%と、花粉症は遺伝と関係があるかもしれない。

深刻な花粉症の病態
4−7%のニホンザルが花粉症にかかっているようだ。序列でナンバー4だったモクちゃんは花粉症になってから、地位を保てなかったのか、群れから消えてしまった。
ディーゼルと花粉を与えたマウスの鼻粘膜細胞を染色すると、肥満細胞にIgEがいっぱい結合しているのが観察される。皮内の肥満細胞も同じようにIgEが結合している。

花粉症はどのように発症するか
スギ花粉のアレルゲンタンパク質を貪食したマクロファージがヘルパーT細胞への抗原提示細胞となる。T細胞が活性化するとB細胞に働きかけ、B細胞がIgE抗体を作るようになる。作られたIgE抗体は肥満細胞につく(感作の成立)。
さらに花粉が飛んできて、肥満細胞に結合しているIgE抗体をアレルゲン蛋白が架橋すると、肥満細胞は脱顆粒し、花粉症の症状(はなみず、くしゃみなど)がでる。(発症の成立)。

アレルギーを起こす原因によるふたつの流れ
ヘルパーT細胞は、その機能から2つのタイプに分けられる。花粉アレルゲンに反応して即時型アレルギーを起こすTh2細胞とウィルスやバクテリアに反応して遅延型過敏症をおこすTh1細胞。Th1とTh2細胞はお互いに抑制する。したがって、Th1を増加させてTh2の流れを抑えると花粉症は発症しない。

アレルギーに対する治療法
薬物療法:主に肥満細胞からのヒスタミンをおさえる。
減感作療法:アレルゲンをごく微量から投与して長時間与えて免疫反応を抑制する治療法。時に激しいアレルギーを起こす恐れがある。このため、微量のアレルゲン投与から治療が開始される。その結果、治療期間が長く、患者にも忍耐が必要。
ペプチド療法:T細胞はペプチド(アミノ酸の連なったもの。タンパク質より長さは短い)を認識するので、アレルゲンを与えなくてもペプチドを使えばいいのではないか。ペプチドは短くて肥満細胞に結合したIgEを架橋できず、副作用が起こる恐れがない。
中和抗体療法:IgE抗体が花粉症の発症に重要なら、IgE抗体を中和するような抗体を投与すれば良いとする治療法。臨床試験がなされているが、中和するために多量の抗体を筋肉注射する必要がある。価格も相当高いらしい。
DNAワクチン療法:バクテリアの非メチル化DNAがTh1の誘導に重要。そこで、このDNAを合成してアレルゲンと共に皮内投与すると、Th1細胞が優位になり結果的にTh2主体の免疫反応が抑制される治療法。
BCG療法:BCGを接種するとTh1が誘導されるために、花粉症の治療として有効かもしれない。また、乳幼児のワクチンとしてBCGワクチンを最初にするとTh1が誘導されるので、Th2主体のIgEを介した即時型アレルギーは起こりにくくなる。
最近のアレルギー増加は、Th1細胞が減少しTh2細胞が優位になったため。清潔になりすぎた環境下では感染症が少ないためにTh1が減少したと考えられている。

減感作療法とペプチド療法の長所と短所の整理
減感作療法(アレルゲンを利用する)
 長所;アレルゲンタンパク質そのものが使える
 短所:アナフィラキシーの恐れがある 微量から長期間行う必要あり
ペプチド療法(アレルゲンの一部のペプチドを利用する)
 長所:副反応のおそれなし
 短所:対象になるペプチドを見つけるのが大変。ペプチドを合成しなくてはならない。
スギ花粉症ニホンザルでペプチド療法の有効性を確認。しかし、有効なペプチドをすべて使わないと症状まで良くならない。

「食べるワクチン」というアイディアへ
ペプチド療法に用いるペプチドを発現させたスギ花粉症緩和米を経口摂取することで花粉症の症状を改善しようとする方法。
経口免疫寛容:経口摂取した蛋白に生体の免疫反応は応答しないことがよく知られている。
うるし職人がうるしを少しずつなめるのはこれを利用している。
イネを利用した理由は、イネの研究は日本が世界一で、量産でき価格も安い。日本人は主食で使っておりそのまま炊けばいいので加工する必要がない。
ペプチドはコメ胚乳のプロテインボディに発現する(1粒に50μg、コメ1gに2.5mg、コメ1合で約500mg発現している)
価格で考えると、精製アレルゲンはかなり高い(Cry j 1: 50μg 28000円、Cry j 2: 25μg 28000円)が、お米では大量に発現できるので安くなる。
コメで発現させたペプチドは花粉症患者用に作製したものであるが、あるマウスのT細胞が認識することがわかった。 そこで、前もってスギ花粉症緩和米をこのマウスに経口摂取させると普通の米を食べさせた群に比較してT細胞の反応が優位に低下していた。さらに、後から治療的に経口摂取させてもIgE抗体の産生が半分以下に低下することが判明した。
スギ花粉症米の供給は、パック型加工コメを医者から供給する形を想定。現在、パック型加工米を動物に投与して安全性試験を行っている。
なお、パック型加工の過程でペプチドの発現量に変化は認められない。
さらに、スギ花粉症緩和米から、ペプチドを取り出すこともできる。コメを使って、試薬作りができることもわかった。

研究の流れ
この研究は、16-18年度にアグリバイオのプロジェクトで行なわれている。基礎研究として組換えイネを作成。モデルマウスでの有効性評価、イネでの発現量・有効性の調査が行われた。
17年度: 実験動物を用いた安全性の確認を、マウス、ラット、カニクイザルで実施。
18年度:患者のスクリーニング 少数の健康人対象に安全性確認をする予定。
さらに、少数の患者対象に有効性を確認したうえで、時間はかかるが、多数の患者対象に有効性確認する予定。臨床試験は費用がかかるので大変。

注射は痛いから嫌ですよね 参加者のみなさん


質疑応答
(・は参加者、→はスピーカーの発言)

・たんぱく質はアミノ酸に分解して吸収されるはず。抗原性を保ったまま大きい分子で腸までくるのか。
→タンパクは唾液、胃、腸で分解されることになっているが、実際はペプチドまで分解して体内に入っていく。
・体に入るペプチドはどの位か?
→タンパクにラベルして血液をとりながら、どこまでペプチドがこわれているかを調べられないかと思うが、それは難しいらしい。
・人によって消化の様子は異なるのではないか
→コメはプロテインボディに入っている。米はペプチドの運び屋として適している。
・斎藤先生らしい研究だと思う。 
・研究と山との関係は→好きな山に行く、好きな研究をする 大きな違いは、研究は人の世界にアピールしないといけない。論文にしたり、発表したりとか。山は自分が満足すればいい。人に批評される必要はない。
食べましたか
→科学者には寄生虫のたまごを飲んで実際どのようになったのか身をもって研究することが昔は美談でありましたが、現在は売名行為と思われる。また倫理を軽んじていると非難される。したがって、食べたかどうか私は答えられません。
・食品として考えるなら、今、用いられている遺伝子組換え食品の評価方法によるものだけでいいのではないか
→今、私達が食べている物の中では普通の交配の方が遺伝子まで調べていないので怖いという人もいる 組換えはどんな遺伝子がどこに入っているかがわかる。
・日本人はわかっているとこわくて、わからないとこわがらない傾向があるような気がする。少数の患者での有効性がわかると、協力するボランティアも多いのではないか。
→第三者機関を通した臨床試験をする予定
・私たちに恩恵が届くのはいつごろですか
→大規模な研究が必要で、結果を見ながら進める
・海外で食品にペプチドをいれたものは
→そういうものはない。薬をつくる植物の研究・開発もこれからは進むはず
・どのくらい食べて効果がでるのか
→マウスとヒトでは異なるので実際に食べてみないとわからない。マウスでは経口摂取6ヶ月後でも、効果が持続していた。ボランティアにどのくらいの量をどの位の期間与えたらいいのか、今後調べる必要がある。
ペプチドだけを錠剤にすればいいのではないか
→コメは安くてたくさんとれるので、コメから大量にとれたらいいという考えを持っている。
寄生虫の藤田先生は花粉症になっていないというが
→寄生虫とアレルギーは相関しているという話はある。花粉症は肥満細胞に花粉に対するIgEがついたときに起こるので、寄生虫にかかると肥満細胞を寄生虫のIgEが取り囲んで花粉症のIgEが着く場所がないという考え方ができる。疫学調査によると、養豚業がさかんなところで豚回虫がヒトについていることもある。豚回虫を持っている人といない人の花粉症を見たら、豚回虫に対するIgE抗体価の高い人の方が、花粉症に対するIgE抗体価や花粉症の発症率が高いという結果が出た。また、寄生虫などの感染では非特異的なIgEの抗体価が高くなると、肥満細胞のIgE結合力もあがるために、花粉症特異的IgEが結合するのを抑えるのは困難と思われる。
・ピロリ菌のある人は花粉症になりにくそうというのは→わからない。
ディーゼルと関係があるのか
→ディーゼルと花粉を混ぜてマウスに点鼻すると花粉だけよりはIgE抗体価は高くなる。しかし、関東ロームや火山灰と花粉をまぜてもIgEはあがることが観察されているので、ディーゼルだけが悪いとも言い難い。
・山の木の伐採をする人がいなくて花粉はふえたのではないか
→背景として考えられる環境の変化として、感染症の減少。花粉が増えた、大気汚染などにより環境は悪くなった。
・花粉症には心理的な要素が働くようだが
→アレルギーになるのは気合が足りないという人がいた。私はマウスアレルギーで、気合をいれて動物実験を行ったら少しいいような気がしたことがある。
・花粉症対策のマスクは、日本赤十字から始まり、プリーツ型やカラステング型があり、いろいろなメーカーが工夫して作っている。
・花粉暴露室を作ってボランティアに試験をした研究者もいるそうだが
→暴露室に入る前の自然花粉暴露のバックグランドが、かなり結果に影響すると私は考えている。花粉症暴露室に入る人がかわいそうな気がしてしまう。動物実験のような気がして。
・花粉症をお米で治すアイディはどこから
→ペプチド療法は注射。食べた方が患者の負担は少ない。組換えコメは企業イメージに影響するといって消極的になるメーカーが多いようだ。
・今の組換えは生産者サイドのメリットが大きい。消費者へのメリットを訴えるので受け入れられやすいのではないか。
・これは突破口になると思うのでしっかりステップをふんで、世の中に出してほしい。斎藤先生、期待しています!



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