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人クローン胚研究に関する意見聴取会開かれる

平成18年8月26日(土)、東京霞ヶ関ビル東海大学交友会館にて文部科学省科学技術・学術審議会生命倫理・安全部会、特定胚及び人ES細胞研究専門委員会人クローン胚研究利用作業部会により「ご意見を聴く会」が開かれました。

http://www.lifescience-mext.jp/new/Opinionaudienceassociation.pdf

同部会は平成16年12月から18年6月までに19回の会合を持ち、研究の進捗状況、問題点抽出を行い、「人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方について〜人クローン胚研究利用作業部会中間とりまとめ」を作成し、パブリックコメント募集と大阪(7月29日開催)と東京で「ご意見を聴く会」を開催しました。東京会場では、作業部会の活動の経緯の紹介、論点が提起された後、難病の患者さん、産婦人科医師、不妊カウンセラーなどの8グループの代表が、意見、不安、希望などを述べました。

この研究の成果が治療法の開発・改善につながることへの期待、研究に欠かせない卵子の提供に関わる可能性のある方たちの抱く不安、人クローン胚が作成されても、その後につながるべきヒトES細胞を作る技術がまだ確立されていない現状、人クローン胚由来のヒトES細胞が樹立がいかに困難であるかが明白になった韓国ファン教授のデータ捏造事件の波紋、立場の異なる人たちの考えがそれぞれ述べられました。利害が一致しない多くの人たちが議論することの難しさと、だからこそ、ここまで丁寧なアプローチが重要であることを考えさせられた、意義深い意見聴取会であったと思いました。

中間とりまとめ http://www.lifescience-mext.jp/new/CloneArrangement.pdf


経緯の説明   人クローン胚研究利用作業部会

平成9年2月、体細胞クローン羊のドリーの誕生が発表され、人クローン個体産生の懸念が生じ、世界各国で人クローン個体の産生を禁止する措置がとられた。翌年、米国で、余剰胚(生殖補助医療などにおいて、利用されなかった受精卵)よりヒトES細胞が樹立された。
日本では平成9年に科学技術会議に生命倫理委員会、10年にクローン小委員会、ヒト胚研究小委員会ができた。クローン小委員会では、人クローン個体の産生は禁止するものの、移植医療に有用性が認められる人クローン胚の研究には規制整備が必要であるとした。
平成12年、ヒト胚研究会では、人クローン胚の胎内への移植を禁止する法律が制定され、平成13年に文部科学省により、特定胚の取り扱いに関する指針が策定された。同じく、平成13年、ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針が策定され、凍結余剰胚に限定して、ヒトES細胞の樹立を認め、研究計画を国が確認することが定められた。


中間報告書「人クローン胚の研究目的の作成・利用のあり方について」の論点整理

人クローン胚(受精していない卵子の核を除き、採取した体細胞から取り出した核を入れて作る)は胎内に戻すと人クローン個体になる可能性がある。人クローン個体の産生は禁止されているが、人クローン胚から作られるES細胞は、体細胞の核を提供した患者に対して拒絶反応が現れず、再生医療に貢献できると期待されていることから、人クローン胚の作成・利用について検討した。そこで、以下の論点が洗い出された。

論点1 人クローン胚の作成・利用の範囲
他に治療法がない等の難病の治療に役立つ再生医療の研究で、科学的合理性、社会的妥当性の条件を充たす場合に認められる。難病の範囲には、ドナーの不足も含め、予後の改善が認められない場合や慢性で介護が不可欠な場合も含めた14の疾患群を選んだ。直接、治療に使われなくても遺伝性疾患の患者の病態理解などに役立つ研究は認める。

論点2 未受精卵の入手について
1)生殖補助医療において廃棄されると決まった未受精卵と、受精しなかった非受精卵(個人情報保護が条件)、2)生殖補助医療の中で自由意思に基づいて無償で提供されもの(ホームページで呼びかけるなど、関係医療機関が関わらず、圧力によって入手されたという疑惑を社会から受ける可能性が無い場合)、3)手術等で摘出された卵巣や卵巣片からの未受精卵を、妥当な入手方と認める。

論点3 人クローン胚研究における体細胞の入手
新たに侵襲(肉体的な苦痛など、患者への負担)を加えない範囲で手術等により摘出された組織からの細胞。個人情報保護の十分な措置がなされた場合に限る。遺伝疾患の患者の体細胞入手の機会は限られているが、そのような疾患に関わるES細胞樹立のために口腔粘膜など侵襲の少ない細胞入手については、検討継続となった。

論点4 研究実施機関
研究の実施は、研究能力や設備、研究の管理、倫理的な検討を行う体制などが十分に備わった研究機関に限る。また、作成・利用する人クローン胚は最小限にする。

論点5 無償ボランティア
卵子提供者の負担を考え、原則として認めるべきでない。例外的に、純粋に本人の同意がある場合の提供には可能性を残すべきとの議論もあった。(無償ボランティアを認めているのは英国と韓国のみ。霊長類のES細胞の樹立までは、ボランティア認可を急がない方がいいという意見も作業部会にあった)



各団体による意見陳述

1. NPO法人日本せきずい基金
私たちは脊髄損傷者のサポート団体です。神経幹細胞やES細胞研究の着実な発展を期待している。10%の神経の修復でも脊髄損傷者のQOLは大きく向上する可能性があること、脊髄損傷の可能性は誰にでもあることを理解してほしい。
受精は生命の萌芽であるという考え方があるが、23週目の胎児から医療サポートで生きられる可能性があることから、法的に保護すべき存在となるのは受精23週後以降という考えもある。今回のとりまとめは、安全で、責任問題が生じないようにすることに重点がおかれているように思われる

    論点へのコメント
  • 口腔粘膜や皮膚の組織片の採取における侵襲は受忍限度内である
  • 人クローン胚取り扱い機関の条件が厳しすぎる。海外の研究を待つだけでいいのか
  • 卵子提供者へのリスクを明らかにし、リスク低減方法を研究してほしい
  • 脊髄損傷者とその家族からの自由意思による卵子提供を認めてほしい


2.全国心臓病からこどもを守る会
私たちは心臓病の子供を持つ家族の会です。1963年設立し、5600家族が加入し各都道府県に支部がある。発足当時は莫大な費用をかけてロシアに渡って手術をしていた。
心臓病の子供は、1000人に8〜10人の割合で生まれるが、多くは手術で生きられるようになった。しかし、心筋症といわれる臓器移植対象が会員の2%おり、移植ができない日本の現状では、移植対象は死の宣告を意味する。また、先天性の心疾患のこどもは成人までに10回以上の手術をしなくてはならないが、英米のように心臓移植を早く受けられると、何度も手術をしなくてよくなる。10年前に移植法ができたが、15歳以下は臓器提供ができず、海外で手術を受けている。日本人特有の感性や文化といういいわけのもと、子供への心臓移植はほとんど進まず、再生医療に期待する。
人間は、自分の治療に直接に役立たなくても、研究が進み、治療の道が開かれるという希望があれば生きていけるということをわかってほしい。
    論点へのコメント
  • 一部の研究者による「密室の研究」としないこと。複数の研究機関が競合するようにしてほしい
  • 研究者は倫理規定をしっかり守る気構えをもって臨んでほしい
  • 文部科学省は十分な研究費を投入するべき。
  • 研究への透明性の確保
  • 学会、文部科学省、厚生労働省も、連携して研究発展に向けて万全の体制で臨んでほしい


3. NPO法人日本IDDM ネットワーク(小児病棟のサポート)
私たちは1型糖尿病(子供の糖尿病、2型は生活習慣病)の患者・家族の会、50団体をつなぐ組織です。1型糖尿病患者数は10万人以下(日本の糖尿病の1%)、自己免疫作用によりインスリン分泌が枯渇してしまうので、1日平均4回注射する。5000人にひとりが発症。インスリン療法は血糖値管理の難しく、インスリンの副作用で低血糖になったり、合併症によって失明したりする。厳しい治療には、患者の心理的な強さも必要。
インスリン生産ができるβ細胞の膵島への移植による根治療法に期待している。12人が治療を受け、4人がインスリン離脱に成功しているが、ドナーの不足、用いられる免疫抑制剤や手術代が保険適用外であるなどの問題がある。
    論点へのコメント
  • 女性患者、患者家族からの無償ボランティアによる卵子の提供は認めるべきではないか
  • 患者本人で、かつ意思がある無償ボランティアから体細胞提供を認めるべき
  • 研究は多くの研究機関で実施されるべき


4. フインレージの会
私たちは会員数300−400人で不妊に悩む人の自助グループ。子供の有無で抑圧、差別されない社会を目指しています。今回の報告書について、卵子入手に対し厳しい条件が課され、高く評価しており、当事者への配慮を望む。不妊治療現場からの卵子提供が現実的。厳しい治療の中で医師を絶対だと考えてしまったり、卵子提供の負担や不安を理解してほしい。 
    論点へのコメント
  • 研究のために卵子が必要とされている現状を知らないと、意思決定ができない。平素からの広報が重要。
  • 不妊治療において、研究参加の意思を示した女性に対し、必要以上の過排卵が誘発されるという不安がある(母体への負担軽減のため、卵の数を減らすのが現在の傾向)
  • 研究協力意思を撤回すると、治療に影響するのではないかという不安があり、第3者機関からコーディネーター派遣など、卵子提供者への配慮ある環境整備を望む。


5. 子宮筋腫・内膜症体験者の会 タンポポ
私たちは子宮内膜症や子宮筋腫など良性婦人科疾患の患者と家族の会です。手術には子宮全摘と卵巣摘出がある。乳がんの既往がある人や子宮摘出時に、予防的片卵巣摘出を勧められたという患者からの問い合わせが多いが、この処置がQOLに貢献するというデータはない。治療という名目のもとに不必要に健康な卵巣が摘出され、未受精卵が研究に利用されるのではないかという疑問を持つ。この疑惑は韓国のファン教授の研究から強まった。


6. 京都大学再生医科学研究所長
私は本研究所の所長です。この方針案では、日本でクローン胚研究は実際にはできないに近いし、倫理的な問題点など踏まえると、私自身は実施するつもりはない。なぜなら、卵子提供者に心身の負担をかけることになるし、クローン胚研究に寄らなくても、患者ゲノムをもつ多能性幹細胞株の作成は他の方法もいくつかあるし、その可能性も高くなってきた。
現在の日本における難病治療の可能性を追求するヒトES細胞研究の進展を妨げている律則段階はクローン胚研究規制ではなく、むしろヒトES細胞の使用研究の審査手続きの過度の厳しさである。
免疫抑制剤を用いて細胞移植を試みる研究が行われている世界の状況から考えて、数年後に世界で臨床研究が始まる可能性は確かにある。クローン胚研究は病気のモデル細胞を作る研究には有効であろうが、個人個人から多能性幹細胞株を作成してその増殖安定性を検証したのち、治療目的に合わせた目的分化細胞を作ってその安全性と有効性を確認するなどの膨大な作業のすべてを、GMP(good manufacturing practice)基準で適合した施設と作業手順で実施して、始めて実用化できるとすると、このような患者個人対応の細胞株を個別に作る臨床治療の実現可能性は低い。ごく一部の人たちを除いて、必要な時間とコストが治療実施可能な範囲を超えるだろう。もっと汎用性のあるすべての人たちに使える治療法確立を目指すべきではないか
    中間とりまとめへのコメント
  • 実施不可能に近い規制を課すことで、研究推進への政策責任を不透明にしている。
  • 中間報告の考え方によればクローン胚研究実施機関の要件に当てはまるのは、我々の機関しかない。明らかに行き過ぎた制限であり、受精胚からのヒトES細胞株樹立の技術と経験を持つ研究者が参加していれば良いという形にすべきである。
  • 廃棄の決まった非受精卵の研究利用への厳しい規制は準備的研究実施も不可能にする。
  • 私は自分で実施するつもりはないが、研究を促進しようとするならば新鮮卵子提供ルールは必要。新鮮な卵子を使えなければ成功は非常に難しいだろう。従って、卵子シェアリングやボランテアからの提供を認めなければ、成功は不可能だろう。
  • クローン胚の建物持ち出し禁止規則は、研究連携体制構築を困難にする一方で、その理由は理解できない。不要である。

7. セントマザー産婦人科医院
私は生殖補助医療を行っている産婦人科医院の医師です。精子と出会っていない卵子が未受精卵で、精子とあっても受精していなかったのが非受精卵。未受精卵の方が妊娠率が高い。受精の可能性が高い卵子の方が人クローン胚に適している。未熟な段階で取り出した卵子を体外成熟させても、胚盤胞に至らなかったり、流産してしまうことがある。非受精卵は技術向上に使えてもES細胞は作れないだろう。凍結保存した未受精卵は胚盤胞になる率が低下、受精卵を凍結保存をすべき。未受精卵、非受精卵はトレーニングには使える。ES細胞樹立のためには長期間継続して一定数の新鮮な卵子提供が必要。このために、提供機関と研究機関を同一にし、胚盤胞、ES細胞段階で凍結移送がいい。
患者さんのアンケート結果から、回答者の6割は卵の数が多いときには無償で1個は提供してもいいという回答が出たので、ボランティアの実現は可能だと感じた。但し、具体的なリスクや展望を示すべき。夫婦外の体外受精が進むと卵子の入手も進むのではないか


8. 日本不妊カウンセリング学会
私たちの学会には、医療関係者、不妊治療中の患者など1200名の会員がいる。 
    報告書へのコメント
  • ファン教授の研究から、研究者の良心を信じられない現状では罰則が必要。人クローン胚からのES細胞樹立ができていない現在、入手ルール作りは、全ての人が恩恵を受けられる状況になってからでも遅くない。
  • ヒトES細胞の技術が確立した後、卵子提供を求められる不妊カップルの心情を尊重しつつ、生殖医療、再生医療、移植医療の広い議論・法整備、倫理的コンセンサスが必要。
  • 卵子提供者に圧力かからないように配慮し、インフォームドコンセントをとるようにカウンセラー、コーディネーターに求めているが、同じ施設内に勤務する人が併任してしまうと圧力を感じて当然。施設外の人が担当すべき


この後、作業部会委員が、研究者、看護士、法学者などそれぞれの立場から、うかがった意見に対するコメントを述べ、参加者全員による意見交換が行われました。


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