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茅場町バイオカフェ
「放射線を照射した食品って安全なの」

2007年1月19日(金)、今年最初のバイオカフェが茅場町サン茶房で行われました。お話は、高崎の原子力研究所の小林泰彦さんでした。始まりは、高橋節子さんによるバイオリン演奏。澄んだ響きがお店いっぱいに広がりました。
参考サイト:報告書「食品への放射線照射」(くらしとバイオニュースより)

リサイタルを終え、ますます充実の高橋さんの演奏  小さな不安にも丁寧に説明される小林先生


お話の概要

食品照射って何
定義は「食品や農産物に放射線を当てて、殺菌、殺虫、芽止めなどを行う技術」
1)食糧・農産物の保存、貯蔵中の損耗防止(カビや虫がつかないようにしたり、ジャガイモの発芽を抑えるなど)と、2)食品の衛生確保と食中毒防止(アメリカでO157被害防止のためにひき肉に使われた)の、ふたつの目的のために行われている。

放射線とは
「放射線」と「放射能」の違いを説明すると、「放射線」は、放射性物質(放射能を持つもの)から放たれるもの。放射線漏れはシェイドの破れから光が漏れるイメージ。「放射能」は、放射線を出す能力や性質のこと。放射能漏れは放射性物質の漏出すなわち夜光塗料のかけらのように自ら光を放つ物質がこぼれて出るイメージ。
放射線は宇宙そのもの、自然の一部なので、放射線から逃げることはできない。生命誕生の材料となる有機物は宇宙の放射線や紫外線の作用で合成されたと考えられている。なのに、生命体は放射線や紫外線にとても弱い。原始の地球上には強烈な紫外線が降り注いでいたが、オゾン層ができて紫外線が遮断されたおかげで地上に生物が住めるようになった。地球の外側の磁場も宇宙線をかなり遮っている。こうして現在の地球の生物圏は宇宙の中でも例外的に「放射線が少ない環境」。もともと自然界にあり、生物に対する脅威という意味では、放射線も紫外線も同じ。どちらも細胞の中のDNAに作用し、殺菌にも使えれば、がんの原因にもなる。放射線だけが極端に恐れられているようだが、紫外線の浴び過ぎに気をつけるのと同じ感覚で扱えばいいと思う。

放射線の利用
病院や空港でのX線透視、製鉄・製紙工程での厚さ計、化学プラントの液面計、ジェットエンジンの非破壊検査など:透過力を利用して切らずに内部を見る。
煙感知器、夜光塗料、真空計、避雷針など:電離(イオン化)・励起作用を利用。
ラジアルタイヤ、発泡プラスチック、耐熱性電線、タイルや高級印刷用紙の表面処理、ハイドロゲルなど:ラジカル反応による化学変化で工業製品を加工。
医療器具、医薬品、飼料の殺菌:病原菌や腐敗菌のDNAを傷つけて死滅させる。
ジャガイモの芽止め:弱い照射で芽のもとになる細胞だけ分裂できないようにする。
がん治療:がん細胞を放射線で死滅させ、がんを小さくする。
品種改良:人工的に放射線を当てることによって自然界で起こっている突然変異を加速し、優良な変異体(新品種)を作り出す。

食品の保存と衛生化への利用
設備などが高価なので、加熱処理や化学薬剤処理と比べてメリットが大きいときや、他に代替法がないときに限って使われる。
メリット1:透過力が大きいこと。形状を問わず包装後に殺菌できる。開封するまで内部は清潔に保たれる。粒状、粉末状、液状の食材でも容易に均一に処理できる。
メリット2:非加熱処理であること。ほとんど温度が上がらないので、食品の成分や品質の劣化が少ない。加熱できない生鮮食品や冷蔵冷凍食品にも使える。
メリット3:残留毒性、環境汚染がないこと。化学薬剤を使わないので、食品への残留のおそれが全くない。化学薬剤の場合は使用済み薬剤の無害化処理が必要な上に、外部への漏れ出しによる環境汚染のおそれがあるが、照射にはない。

食品照射の目的と実例
目的によって必要な放射線の量(線量)が大きく異なる。Gy(グレイ)は線量の単位。1Gy=物質1キログラム当たり1ジュールの放射線エネルギーが吸収された状態。
芽止め(30〜150 Gy):収穫後のジャガイモに適当な線量の放射線を当てると、芽のもとになる細胞だけ分裂できなくなるが、それ以外は新鮮な状態で、何ヶ月も保存できる。タマネギやニンニクの芽止めも可能で、中国などで利用されている。
殺虫(0.1〜1 kGy):1 kGy=1000 Gy。穀物・青果物の害虫や肉・魚介類の寄生虫を殺す。米や小麦、豆、木材などの病害虫駆除には臭化メチルによるガス燻蒸が行われていたが、オゾン層破壊物質に指定されて使えなくなった。代替品のリン化水素は完全に殺虫するのに長時間かかるため一部が生き残ってしまうことが多く、耐性害虫が生まれるのは時間の問題。そこで米国などでは輸入及び国産の生鮮青果物に病害虫駆除のための照射を実用化している。
殺菌(1〜10 kGy):香辛料、乾燥野菜、肉・魚介類、果実などで、食中毒の原因となる菌を死滅させる、または腐敗菌の数を減らして日持ちを長くする。香辛料はそのまま食卓で料理に振りかけて使う分には特に殺菌の必要はないが、例えば挽肉と混ぜてソーセージを作るなど加工食品の原材料としては、殺菌処理(菌数低減化)の要求がどんどん厳しくなってきている。
滅菌(20〜50 kGy):医療器具や医薬品と同様の完全な殺菌。宇宙食、免疫不全のヒトの病院食にも。

日本での食品への利用
日本で許可されているのはジャガイモの芽止めだけ。秋から冬に照射して翌年春の端境期(3月下旬から4月)に出荷する。段ボール箱に「照射芽止め」スタンプ。生食用(八百屋やスーパー)に、品質の良い高級品として売られる。ポテトチップなどの加工用には使われていない。大手メーカーは、反対運動が盛んだった約30年前に「照射ジャガイモを使わない」宣言を出してしまい、撤回する勇気がない。
中国などではニンニクの芽止めにも利用。日本では、従来ニンニクの芽止めには農薬(マレイン酸ヒドラジド、商品名「エルノー液剤」など)を使っていたが、発がん性の問題で2002年から使えなくなり、産地は一時パニック状態になった。現在、冷蔵貯蔵や乾熱処理でなんとかしのいでいるが、市場に出すと短期間で芽が出てしまう。

安全性試験
ジャガイモの芽止めの実用化に際し、日本でも1971年からオールジャパン体制で安全性試験をした。品目は、ジャガイモとタマネギ(芽止め)、米と麦(殺虫)、ソーセージとカマボコ(殺菌)、みかん(表面殺菌)の7つ。みかんは電子線、他はコバルト60のγ線を照射し、マウスやラットに食べさせて、照射による影響はないと結論した。海外では、中には安全でないという実験結果もあったが、後に否定されている。WHOは、各加盟国での消費者からの不安・批判に答えるため過去の膨大なデータを検討・評価し、1980年以降何回か安全宣言を出した。

利用される放射線源
コバルト60のガンマ線:半減期は約5年。買い足す費用がかかる。透過力が大きく、厚いものでも照射できる。分厚いコンクリートの建物の中で照射。
電子線加速器で作る電子線:透過力は弱いが線量率が非常に高い(コバルトで1時間かかるところが1秒で済む、など)。電源を切れば放射線の発生も止まる。透過力の弱さを逆手に取って、表面だけを選択的に照射殺菌することも可能。
変換X線:加速器を用いて電子線を重金属に当て、そこで発生する制動X線を利用。医療用のX線装置と同じ原理。X線の性質はガンマ線と同じで、透過力が大きい。加速器の電源を切ればX線も止まる。コバルト60と電子線加速器のいいとこ取り。ただし、エネルギー変換効率が悪く、コストが高い。

食品照射のデメリット
1)コストが高い。メリットが大きい場合や、他に方法が無い時に限って使われる。
2)消費者に敬遠される。肉や魚の缶詰や、牛乳の加熱殺菌でも、最初はそうだった。
3)食品によっては風味が変わる。缶詰の魚の味が刺身や焼き魚とは異なるように、新しい処理法の個性として受け入れられるまでは対象となる食品を選ぶかもしれない。

検知法
照射食品の品質管理と表示の正しさの保証のために、また行政による規制の実効性を担保するために、照射食品判別法(検知法)が必要。国際的には、EUのヨーロッパ標準分析法と、国際食品規格委員会のコーデックス標準分析法がある。
骨やセルロースにトラップされたラジカルを測るESR法、農産物に付着・混入した砂などのケイ酸塩無機物の発光を測る熱ルミネッセンス法、脂肪の放射線分解産物を測るGC/MS法など。日本では行政検査のための公定検知法はまだ定められていない。

熱心に聞き入る参加者 大入り満員


質疑応答
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • 照射して食品にダメージはないのか→照射による成分変化は加熱処理よりずっと少ない。
    • 殺菌効果は放射線と紫外線では同じですか→DNAが傷ついて細胞が分裂増殖できなくなるという原理は同じだが、傷の種類が異なる。生物は放射線や紫外線で傷ついたDNAを絶えず自分で修復する仕組みを持っている。
    • 放射線を浴びた食品は、何かが残留するわけではないので安全だと思った→そうです。世界中で使っている方法ならば採用してもいいのではないか。嫌だなと感じる人は避けられるようにすればいい。
    • コバルト60はどこから手に入れているのか→カナダから輸入しているところが多い(世界のシェア75%)。カナダでは独自設計の発電用原子炉で副産物としてコバルト60を製造している。他にロシアと英国の合弁会社もある。
    • 日本で使われない理由は何か→法律が禁止しているから、ではないか?
    • 法律改正が行なわれない理由は→厚生労働省は必要がないと判断したらしい。ニーズがあっても業者は消費者の反発をおそれて言い出せない。一般の消費者は照射という手段があることを知らないし、法律で禁止されている位だから危険だと考えてしまう。
    • 食品容器は規制の対象外ということか→そうです。過酸化水素水、エチレンオキサイドガス、紫外線、放射線の中から技術的な理由とコストで選択され、または組合せて、無菌包装を実現している。
    • 医療器具の消毒はどこでしているのか→照射サービス会社に依頼しているようだ。
    • 世界で芽止めジャガイモの食経験はどのくらいになるのか→商業規模での実用化は1974年の日本が最初で、今年は33年目。トラブルは起きていない。
    • 士幌に取材で行ったことがあるが、豊かな町で高齢者施設などが整備されていた。町民は放射線照射に理解があるのか→理解があるかはよく知らないが、豊かである背景に、当時の農協理事長の先見の明があると思う。士幌では自前のでんぷん工場を建てたり芽止め用の照射施設を作ったり、ジャガイモから安定して利益を上げられるようになることを目指した。
    • 最近のジャガイモは芽がよく出ると思う→従来ジャガイモ農家ではトラクターで収穫しやすくするために農薬を散布して葉や茎を枯らしていた。この農薬(マレイン酸ヒドラジド)には同時に芽止め効果もあった。ところが、発がん性の問題で2002年から使えなくなったため、芽止め効果も失われた。
    • ジャガイモの芽止めはどのくらいの期間、効くのか→通常、秋から冬に収穫後に照射して貯蔵し、翌年春の端境期(3月下旬から4月)に出荷するまで十分もつ。もう1年持ち越すことはしないので…。
    • 食品照射を最も行っている国はどこか→中国ではないかと思う。スパイス、乾燥野菜、ニンニクなどに年間14万トンくらいと推定される。次は米国で、スパイス、牛挽肉、食鳥肉、果実などに年間9万トンくらい。日本のジャガイモは年間約8千トン。
    • 7品目調べたのに、ジャガイモだけ通ったのは→その後、消費者団体の反対運動が起こったため、タマネギなどへの許可品目の拡大の動きが止まってしまったらしい。
    • 電子線照射とコバルト60の価格競争ということだが、食品にはどちらでもいいのか→一長一短ある。電子線は透過力が弱いので、重くて中身が詰まったものは不向き。その代わりごく短時間で高線量を照射できるので、フィルム状、シート状のものならどんどん流しながら素早く殺菌できる。
    • 世界で使っているのは→2004年で約30万トンと推定。オランダでは2002年の照射食品流通量は約7千トンでそのうち4千トンがスパイス・ハーブ類。これを多いと見るかどうか。フレーバーティのように高く売れるものにつかうのでは?
    • 日本は認めていなくても、輸入されているものは照射されているでしょう→今まで公定法がないので、検知していなかった。文書で確認しなさいというのが行政の対応。
    • EUの公定法をなぜ日本は使わないのか→同感。弁護する気はないが、違法な照射があっても健康被害はないので後回しにしているうちにここまで来たのではないか。
    • 原研から、照射食品が出回っているとニュースを出したらどうか→たまたま知らずに輸入してしまった会社が悪者になるのは気の毒だと思う。早く公定法を定めて、抜き取り検査で表示のウソを一罰百戒で抑止すればよいと思う。安全な照射食品については、法改正で違法状態が解消されればそれにこしたことは無い。
    • 高齢者施設で長く暮らす人は加熱したものしか食べられない。たんぱく質は硬くなるので、やわらかい食べ物が放射線殺菌で食べられるようにならないだろうか。夢のある技術だと思う→厚生省に毎日通って訴えられる人はそうそういないのが現実。食品安全委員会などから働きかけてもらうのがいいのだろうか。
    • メーカーが放射線照射の利用にメリットを感じていないので進まないのではないか→メーカーの勉強不足もあるかもしれないが、要請するメーカー側にあまりにも重い負担を強いる今の行政の仕組みが問題だと思う。



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