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一般農場と花粉症緩和米を含む遺伝子組換え作物
実験ほ場比較見学会開かれる

8月3日(金)、くらしとバイプラザ21主催、恒例の農場見学会が行われました。北は仙台、南は松山、大阪から、中学生、高校生、主婦、サイエンスコミュニケーションを学ぶ院生、高校教師、会社員、生産者ら10代から60代と幅広く24名が参加し、「暑いつくば」を体験しました。


作物見本園

http://trg.affrc.go.jp/mihonen/mihonen.html
41種類のイネ、マメ類(フジ豆、アズキ、ササゲ)、油を絞る植物(ゴマ、ベニハナ)、雑穀(ヒエ、ソバ、キビなど)、繊維をとる植物(ケナフ、ワタ)など、沢山の暮らしに役立つ作物が植えられています。

作物見本園を見学する 作物見本園には1列ずついろいろなイネが植えてある


雑草見本園

農業の敵は、害虫、病気、雑草といわれています。雑草のことを知ることは、有効な除草の研究を行う上で大切です。雑草園では、雑草を混ざらないように栽培して、種をとっています。種がちりやすいので、集めるのも大変だそうです。

「雑草を決めた場所に栽培するのは、
作物を栽培するより手間がかかります」と香西先生
  隔離ほ場

質問:
  • 雑草と作物とが交雑しますか→例えば、健康食で、はやっている赤米のイネと雑草との間でおこるようです。交雑しやすいので、水田では離さないといけない。1000の1粒混ざったら米として買い取ってもらえないそうだ。


遺伝子組換え作物栽培用の隔離ほ場

花粉症緩和米用のイネが栽培されていました。施錠されたほ場には、全ての作業ができるように、農業用機械や器具の保管庫、洗浄場、組換え体を焼却する設備、堆肥を作る設備などが整備されています。ここで収穫される花粉症緩和米は安全性試験用として使われます。

交雑実験ほ場 

農業環境技術研究所の松尾先生と吉村先生からツルマメ(ダイズの近縁種、雑草)と除草剤耐性遺伝子組換えダイズの交雑実験の説明がありました。ここでは、ツルマメとダイズの開花時期をできるだけそろえ交雑が起きるように工夫した上で、お互いの距離を0、2、4、6、8、10メートルに離してして栽培されていました。
平成17年度は32502粒のツルマメのうち交雑が起こって除草剤耐性ができた種は1粒でした。
除草剤耐性の見つけ方は交雑実験をしたツルマメの種(1株から1000粒ほどの種がとれる)を蒔き、生育させた後に、特定の除草剤をかけ、枯れなかった葉を、判定用実験キットで調べる。そこで陽性だったものは、更に、組換え遺伝子が存在するか否かについて、DNAを取り出し調べます。

実験キットでは、赤いラインが2本出たら陽性 吉村先生と松尾先生

質問
  • この実験は何を調べようとしているのか→ダイズとツルマメとの交雑試験で、特に両者の栽培距離と交雑率との関係。
  • 組換え遺伝子が雑草に入ると何がよくないのか→ある除草剤に耐性を持つ雑草が生まれると除草作業が必要になる。
  • しかし、種類の異なる除草剤をかければ枯れるので、どんな除草剤にも耐性のスーパー雑草というものは存在しません。
  • 交雑は風の方向による影響を受けるのか→交雑は昆虫が介して起こると考えられており、昆虫も風向きにそった移動が多いと考えられるため、遺伝子組換えダイズを風上に、ツルマメを風下に配置している。
  • 天候の影響は受けるのか→はい(成長や開花は、日照時間や降雨の影響を受けるので)
  • この実験キットは妊娠検査薬検尿などで使うものと同じ原理だと考えていいか→よい。抗体を使うテストキットなどが販売されている。健康診断だけでなく、病気の人が持っている感染菌を調べるときなどにも使われるようになっている。

バイオプラントリサーチセンター

アグロバクテリウム(土壌微生物)を介して植物に有用な遺伝子を導入して遺伝子組換え植物をつくります。ここでは、遺伝子組換え植物を栽培する閉鎖系温室(空気や水が外に出ないように管理されている)と非閉鎖系温室である特定網室(外との空気の出入りはある)があり、栽培試験や土壌への影響などを調べています。

質問

  • 遺伝子組換え技術にはどんなよいことがあるのか→近縁種以外の有用な遺伝子を使用することができる。
  • 温室の試験は何を調べるのか→土壌微生物への影響。発育状況の観察など


宮尾先生 飯先生の説明
 
特定網室の気温は39℃  


遺伝子組換え作物隔離ほ場及び展示ほ場

この隔離ほ場では2種類の遺伝子組換え花粉症緩和米用イネが栽培されていました。隔離ほ場には、監視カメラが設置されていて、試験中の遺伝子組換え植物が持ち出されたりしないように監視されていました。
別に、既にすべての安全性審査を終えた遺伝子組換えダイズやトウモロコシの展示ほ場を見学しました。そこでは遺伝子組換えダイズを無除草区(雑草に覆われダイズが見えない畑)、慣行除草区(種まき後土壌処理剤を散布、ダイズの間に雑草が生えはじめている畑)、非選択性除草剤散布区(除草剤で雑草だけが枯れ、ダイズだけ生育している畑)の3つの区分けして栽培されていました。
普通のトウモロコシの葉は虫食い穴があき、枝が折れていました。この後、中のズイにムシ(アワノメイガ)が入るとトウモロコシは倒れてしまうそうです。

http://www.nias.affrc.go.jp/gmo/exhibition2007/
見学者有志6名で10分間、除草していないダイズの畑5平米(1m×5m)の除草を行いました。


「金網から手を差し入れないでください。
警察に連絡が行きます」
展示ほ場。手前左は雑草に覆われた無除草区、
右は組換えダイズに除草剤をかけ雑草だけが
枯れたほ場
雑草の方がよく育ったほ場で10分間の除草作業 筆者が1ヶ月前に除草したところ(向かって左)は雑草だらけになっていた


お話「遺伝子組換えを用いた農作物の育種」     田部井豊先生

品種改良をするときには、育種目的にあった遺伝子を探すところから始めます。育種には交配・交雑と変異(突然変異)、細胞融合、胚培養、遺伝子組換え技術がある。これまでに培った育種技術があって先端技術である遺伝子組換え技術も利用できるので、遺伝子組換え技術がすべてではないと思っています。いずれにしても新しい品種が生まれるまでには時間がかかります。トマト、稲なら10年、果樹や茶などは20-25年かかります。
突然変異体を作る方法に放射線を当てる方法があります。ガンマーフィールドという施設でコバルト60を用いて放射線を当てて突然変異育種を行います。
純白系のエノキダケ、色かわりの菊、梨の「黒斑病に強いゴールド二十世紀」はこの方法で作られました。
遺伝子組換え技術による育種も行われています。世界では、遺伝子組換え作物の作付け面積が10年で60倍になり、その広さは日本の国土の面積の約2.7倍です。2006年は22カ国で遺伝子組換え作物を商業栽培しました。面積の大きい順に並べると、米国、アルゼンチン、ブラジル、カナダ、インド、中国となります。日本では、ダイズ、とうもろこし、ナタネ、ワタが輸入に大きく依存しており、遺伝子組換えをしたものが入ってきていると考えられます。
環境への影響はカルタヘナ法で、食品としての安全性は、食品衛生法により保証されます。飼料としては、飼料安全法に従って安全性審査がなされています。環境影響では、1)競合における優位性を持たないか、2)有害物質の産生はないか、3)交雑による生物多様性に影響を与える恐れはないかを調べます。
農林水産省所管の試験場では、「第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針」に従って試験栽培を行っています。
第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針

http://www.nias.affrc.go.jp/gmo/indicator20060308.pdf
安全性審査では、1)組換えと非組換えで違いがあるか、2)導入した遺伝子が作るたんぱく質の安全性(毒性の無いことやアレルゲン原因物質となっていないこと)を調べます。

開発されたものには、遺伝子組換えダイズ、トウモロコシ、ウイルスリングスポット抵抗性パパイア、青紫色のカーネーションなど、開発中のものには、コマツナのディフェンシン遺伝子を導入したイモチ病抵抗性イネ(イモチ病による減収は2%で、その対策に4億円かかっている)、ゴールデンライス(βカロチンをつくるコメ)などがある。
スギ花粉症緩和米は、腸管を経た食物にはアレルギーを起こさないという特徴を活かして作られている、即ち、スギ花粉のアレルゲンそのものを入れた米ではアレルギーを起こす可能性があるので、アレルギーに関わるペプチド(たんぱく質の一部分)を入れている。
一方、農業経営者の調査では、遺伝子組換え作物に対する生産者の関心は高い。
将来のことを考えると、太陽エネルギーの有効利用のために、植物の上手な利用が考えられる。食糧不足になったからといって人々は明治時代の生活に戻れないだろうから。


暑い一日でした。参加者のみなさんご苦労さま

質疑応答
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • 質問:遺伝子組換えで発がん性試験はしているのか→たんぱく質の性質、消化性の試験結果からガン変異性試験は必要ないと判断された。それで発がん性試験はしたことはない。
    • 質問:花粉症緩和米はなぜ医薬品になったのか→厚生労働省が判断した。私たちは非臨床試験を終わらせたいと思っている。
    • 質問:医薬品かどうかはどうして決まるのか→症状の改善などの効果効能を謳うと薬事法により医薬品になる、花粉症を緩和するということから、医薬品になると判断された。
    • 質問:1合の米を数週間食べると花粉症がよくなるというのはどうやってわかったのか→マウスに4週間食べさせたときの実験結果をヒトに換算したもの
    • 質問:遺伝子組換えの研究が進んでいる国はどこか→米国、欧州に中国、韓国、日本が続く。アルゼンチンは組換え導入後の伸びが速かった。
    • 質問:耐乾燥性の組換え植物の研究の状況は→東大の篠崎先生はシロイヌナズナの耐乾燥性遺伝子を導入された。メキシコに供与して、乾燥に強いコムギを作っている。モンサントも研究中。
    • 質問:アグロバクテリウム以外の遺伝子の運び屋はあるのか。他の方法はあるのか→アグロバクテリウムとウイルスが使える。他にアメリカで発明されたパーティクルガン法、プロトプラスト(細胞壁を取り除いた裸の細胞)を使って入れる方法などがある。動物より植物の方が導入できるものが多い。
    • 質問:ガンマーフィールドは何がでてくるのかわからないと思うが、それは遺伝子組換えでも同じか→放射線はDNA上のどこに傷をつけているかわからない。遺伝子組換えの場合は1-2個の遺伝子なら導入しても生きられるが、3−4個入ってしまうと植物は生きられず、バッククロスの交配を行い、導入遺伝子を減らすなどする。だから、どんなものができてくるかは予想できる。
    • 質問:遺伝子組換え作物と非組換え作物の共存についての世界の共存法の状況。国内の共存のあり方について→日本の商業栽培においては、混入率、共存などについては未整備。EUの共存のガイドラインでは、全ての農業者に栽培する権利があるが、新規に農業をする人には共存法への理解を要求している。デンマークはGMO共存法を2004年に完成、政府がライセンスを与えている。日本では、共存、混入率の設定、セイフティネットについて整備ができておらず、自治体が規制をつくっている。農林水産省はその必要を認めていない。混入率が決まると隔離距離も決まってくるのではないか。つくば市、東京都は共存のためのルール作りを政府に求めている。
    1. 帰りのバスで参加者からの意見とアンケートをまとめると
    2. 楽しい見学会であった。
    3. 閉鎖系温室と非閉鎖系温室に入り、試験栽培と温室の管理の説明を受けたこと、展示隔離ほ場で除草剤耐性のダイズと非組換えダイズの雑草の生え方を比較できたこと、トウモロコシの害虫であるアワノメイガも観察できたことなど、実際に体験できてよかった。
    4. 説明をしていただいた先生方が真剣に取り組んでいることが分かった。
    5. 現場を見ることと講演で育種の話を聞いて全体像がみえた。
    6. 遺伝子組換えの応用研究はあまり進んでいないとの印象を持った。(1名)
    7. 講演を聴いて遺伝子組換え技術とその安全性、品種改良についての理解が深まり、日本の農業の将来性について考えさせられた。
    8. 他の参加者の意見が聞けてよかった。
    9. 今回の体験をどのように他の人(一般のヒト)に伝えるかが課題と感じた。
    10. 遺伝子組換え農作物についての感想(アンケート結果では)では、「理解が進んだような気がする」と「理解が進み、身近で特別なものではないように思った」が91%であった。


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