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セミナー報告
「欧州における遺伝子組換え作物の現状と将来像」
〜欧州バイオ産業協会 ラファエラ コロンボ氏による現況報告〜

2007年9月28日(金)、コンファレンススクエアエムプラス「サクセス」で開催されました。講師は、ラファエラ コロンボさん(欧州バイオ産業協会(ヨーロッパ・バイオ)ヨーロッパ・グリーン・バイオテクノロジー プロジェクト・マネジャー)でした。

参考サイト:「未承認の遺伝子組換え作物(GMO)がEUの飼料輸入と家畜生産に及ぼす影響」(“Economic impact of unapproved GMOs on EU feed impacts and livestok production”http://www.ec.europa.eu/agriculture/index_en.htm

ラファエラ・コロンボさんのお話

講演の主な内容

1.欧州バイオ産業協会(ヨーロッパ・バイオ)について

  1. 81の法人メンバー、11の準メンバー、25の全国組織のバイオテクノロジー連合(約1,800の中小企業の代表)から成る。
  2. 使命は、欧州において、@バイオテクノロジーを基盤とする、革新的でダイナミックな産業を推進すること、A責任感のあるバイオテクノロジーの使用を擁護し、その可能性が人類と環境のために駆使されるように務める、Bバイオテクノロジーとその応用の倫理的、社会的、経済的側面について、すべてのステークホルダーと事実に基づいたオープンな対話を行うことを約束する、など。
  3. メンバーは、3つの主要バイオテクノロジー(工業バイオテクノロジー(ホワイトバイオ)、ヘルスケアバイオテクノロジー(レッドバイオ)及び植物バイオテクノロジー(グリーンバイオ))の分野に関わっている。
2.ヨーロッパ連合(EU)規制枠組みの完成
 立法枠組みは2003年に完成した。EU規則は、3つの原則‘@安全性、A選択の自由、Bケースバイケースの評価’からなる。
以下に例を示す。
  1. バイオテクノロジー作物の栽培に関して
    1. EU指令(2001/18):遺伝子組換え体の環境中への意図的放出について
      • 人の健康及び環境に対する安全性を確かめるためのリスク評価を行う
      • この指令は、EU内で栽培していないが、生体(生物体)として輸入され、どこかで成長し、環境中に分布する可能性のある作物も対象としている。
      例えば、GMOから作られた菜種油のような加工製品については、この指令に従う義務はない。加工製品は成長しないので法律上生体とはみなされない。
    2. 欧州委員会(EC)勧告(2003/556/EC)
      遺伝子組換え栽培と従来の栽培および有機栽培の共存を保証するための国内戦略並びにベストプラクティスの展開についてのガイドラインが2003年7月23日に勧告として出された。
  2. 遺伝子組換え食品および飼料の使用
    1. 規制(1829/2003/EC):遺伝子組換え食品および飼料について
      この規制は、GMOである食品(例 スイートコーン)および、GMOから作られた加工食品(例 コーンスターチ)を対象とする。食品や飼料に適用され、人や動物の健康および環境も取り組む。
    2. 規制(1830/2003/EC):遺伝子組換え体のトレーサビリティと表示、およびGMOから作られた食品および飼料のトレーサビリティに関する規制。

3.EUによる承認プロセス
参考サイト:http://www.gmo-compass.org/eng/gmo/db/
EUでの承認プロセスは以下の様に決まっている。
  1. 製品の使用に関する承認するプロセスは、規制(1829/2003)による
      申請者→国家機関に申請→EFSA(欧州食品安全機関)でリスク評価
    →欧州委員会で認可の有無の提案書作成→食品生産流通過程および家畜衛生常設委員会→農業理事会(投票者の2/3により承認)→問題があれば欧州委員会へ
    *投票者数は各国の人口数に応じて割り当てられている。例、ドイツ、イギリス、フランスは29票、スエーデンは7票、マルタは3票
  2. 栽培に関する承認プロセスは、指令(2001/18/EC)による
      申請者→国家機関に申請→欧州委員会で安全性評価→異議申し立てがあった場合はEFSA→以下は規制(1829/2003)と同じステップ。
  3. その他の、承認プロセスの事項として、欧州議会が追加権限を請けたが、欧州議会の製品承認への関与の可能性は、議論の最中にある。
  4. 投票による欧州の組換え作物に関する現況では遺伝子組換え賛成へと移ってきている。
    1. 2006年度において、遺伝子組換え賛成は74%
    2. 掛けあわせ品種について、2006年、遺伝子組換え賛成が25%であったが、2007年6月では、遺伝子組換え賛成が62%となった。
  5. 1996年以後に欧州で承認された遺伝子組換え植物は29件、遺伝子組換え微生物は2件である。
  6. 欧州における遺伝子組換え承認および製品の課題
    1. 時間のかかる政治化した承認プロセスと世界の他の地域とのズレがある。因みに、GMOの承認がEUでは2年半以上、米国では平均15ヶ月
    2. 非遺伝子組換え種子の中に低レベルで存在する遺伝子組換え種子に関する最大許容レベル設定すること
    3. EU以外で承認された遺伝子組換え原料が、低レベルの輸入商品としてEUに入ってくるが、その最大許容レベル設定すること
    4. 選択の自由のための、受け入れることができる共存ルールの設定
4.異なる農業システムの共存
 欧州委員会は2003年に「共存とは、ある作物由来のものが、別の作物に意図せず混入することによる「経済的な効果」と、農業生産者が、遺伝子組みえ作物であれ、従来の作物であれ、有機栽培の作物であれ、選んだ農作物を自由に栽培できるべきであるという原則を意味する」とある。共存は、生産や販売に関することで、その規則および手段はECにより認可され、リスク評価で前向きな評価を得たバイオテクノロジー品種のみに適用される。また、共存は、非遺伝子組換え作物の需要がある場合に問題となる。
 2003年7月には、@遺伝子組換えトレーサビリティおよび表示に関する規制(1830/2003)では、「非遺伝子組換え作物の収穫物又はそれから作られた製品の中に、意図せずあるいは技術的に回避不可能な遺伝子組換え作物の混入の閾値は0.9%、AEU共存に関する勧告(2003/556/EC)は、国内戦略およびベストプラクティスの展開のためのガイドライン---必要あれば---非遺伝子組換え栽培地から収獲された製品を表示閾値以下に抑えるために適用される。
共存について、現在までに法律や自主規定を整備した国は5カ国(デンマーク、チェコ共和国、ポルトガル、オランダ、フランス)、提案のドラフトをECに提出した国は12カ国(オーストリア、ドイツ、イタリア他であり)、ECにおいては、共存は“政治的”問題である。
現在、欧州では、バイオテクノロジー作物の作付面積は増加している。

(単位:ヘクタール)  2006年  2007年
スペイン53,66775,148
フランス5,00020,000
チェコ共和国1,2905,000
ポルトガル12504,900
ドイツ9502,000
スロバキア30900
ポーランド100300

5.業界への影響

1)EUの家畜産業は、飼料用タンパク原料を輸入に依存している。
  1. 農業経済的条件および気象条件により、EUは、油糧種子、植物油、高たんぱく質飼料、および食品原料の自給ができず輸入している。
  2. 輸入大豆1,400万トンのうち、約50万トンが非遺伝子組換え大豆である。
  3. EU内で消費される大豆ミールの約5%が非遺伝子組換えである。
  4. 非遺伝子組換え製品のプレミアム価格は常に上昇している。
2)資料に示す「未承認の遺伝子組換え作物(GMO)がEUの飼料輸入と家畜生産に及ぼす影響」と題する欧州委員会がまとめたレポートでは、以下の問題点と懸念をしている。
  1. EUでは承認までに長い時間を要することが問題。
  2. 輸入品の中にEU未承認の組換え作物の微量混入による、飼料・食料品に派生する遺伝子組換え作物の輸入が減少する可能性が出てくる。
  3. その場合、経済インパクトは飼料供給分野で最も早く現れる。
  4. 飼料の供給不足は、欧州における家畜数が劇的な減少を引き起こし、結果として、失業や動物製品の値上がりにつながる。
大豆および大豆ミールの輸入中断が@アメリカのみの場合を「影響の最も小さいシナリオ」として、Aアメリカとアルゼンチンの場合を「受ける影響が中規模のシナリオ」として、Bアメリカ、アルゼンチン、ブラジルの場合を「最悪のシナリオ」として分析している。例えば、鶏肉の生産では、最悪のシナリオで、2009年では、ベースラインより29%、2010年では44%下回り、消費は価格高により2009年では16%、2010年度では26%ベースラインを下回る。同様のシナリオでは、豚肉や牛肉の生産では鶏肉以上の大変な影響を受けることが示されている。

6.遺伝子組換え表示制度
(遺伝子組換え体のトレーサビリティおよび表示に関する規制1830/2003)
  1. EUの表示は、安全性とは関係のない消費者の懸念に対するもので、情報を与えるものである。
  2. 遺伝子組換え作物、これを原料として作られた食品・飼料にはラベル表示する。
  3. 食品および飼料における遺伝子組換えの混入の閾値は0.9%である。
  4. 0.9%以上を含む製品はすべてラベル表示されなければならない。
  5. まだ未承認であるが、EUのリスク評価で肯定的な決定を受けた製品の最大許容レベルは0.5%。
  6. 遺伝子組換え飼料で飼育されたか家畜の肉、乳および卵は、遺伝子組換え表示は義務て いない。
7.パブリック・アクセプタンス 欧州人の遺伝子組換え食品に関するアンケート(2005年)では、健康的である、農薬の使用が少ない場合には購入するが、EUが認可しているとか価格が安いという条件では選ぶに十分ではないと答えた。又、EU加盟おける遺伝子組換え食品の全EUでの平均支持率は、27%であった。
8.将来展望   欧州委員会は、EUのバイオテクノロジーおよび生命科学に関する政策を見直しについて、以下のことを確認・推進したい。
  • EU域内の法律によって定められた期間内に、バイオテクノロジー製品の安全に関する意見を述べるようにEFSAを促す。
  • バイオテクノロジー製品を市場に出すため草案決定をEU域内の法律で義務付けられているタイムリーな方法で提出する。
  • 種子に関する実用的な遺伝子組換え表示の閾値を設定する。
  • 日常品にはバイオテクノロジー製品およびバイオテクノロジー由来原料が低レベル存在することを認めてもらう。
  • 共存の規則が公正で実践的であることを、加盟国に納得してもらう。
  • バイオテクノロジーに関すること、その安全、その利点、規制の枠組みについて市民とコミュニケーションを進める。

質疑応答
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • 家畜の飼料の問題でGMに対する消費者に伝わっていないとのこと、消費者の理解を進めるのか→緊急性の訴えをもとに、委員会も理解してきたので、今後理解活動を進めていくだろう 
    • nonGMO、有機農業、GMOと農業補助金について→農業政策の見直しと改革を行っているが補助金についてまでは議論に上っていない。
    • EUのGMO承認のプロセスで政治的な思惑があるか→一部に、閣僚の主義・主張やイデオロギーの点でEFSAを通過しても否決される場合がある。



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