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セミナーレポート
「中国の農業分野におけるバイオテクノロジーの発展」

2007年10月4日、東京コンファレンスセンター品川においてバイテク情報普及会主催セミナー「中国の農業分野におけるバイオテクノロジーの発展からインパクトと持続可能性」が開かれました。講師は中国科学院農業政策センター長黄季焜氏でした。

黄季焜氏 黄季焜氏


はじめに

黄先生のお話の概要
1980年代半ばから、研究投資は急増しており、1960年以降は3−4年ごとに倍増し、2003年には16.5億元(2億米ドル)となった。これは、世界で最も大きい投資額
農業分野への投資のうち6割は作物、4割は家畜
他の国は民間助成が多いが、中国における農業バイオへの投資の9割は公的な組織による。
貧しい農家救済のために、20品目以上のGM作物に研究開発の投資をしている
私の専門は経済なので、今日は技術的なことや安全性にはふれず、経済的インパクト、持続可能性について説明する。


どんな作物が開発されているのか
2006年までに、遺伝子組換え作物の安全性審査の申請は1500件余りあり、小規模ほ場試験が中心で、環境放出試験、試験栽培、商品化に関わる様々な認可を受けたものは1024件。
ペチュニア、トマトは商品化されているが、作付けはまだで、ポプラの作付け面積は300ha、パパイヤは5000ha。
最も多いのはワタの160品種で、作付け面積は、360万haで、これは中国のワタの3分の2にあたる。
25品目が許可されているのに、ワタしか作付けされていないのは、食品安全性、バイオセーフティ、経済効果、持続可能性の懸念が関係しているから。


遺伝子組換えBtワタ栽培試験
遺伝子組換えBtワタとはボールワームという害虫の抵抗性を持たせたワタのこと。
1999-2006年の間で、遺伝子組換えワタを河南省(2000-2006)、湖北省(2004)、安徽省(2001,2006)、江蘚省(2001,2004) 、山東省(1999-2006)の6つの省で、50haのほ場における栽培状況を調査した(カッコ内の数字は実施年)。
Btワタに対する農薬使用回数は1999年から2006年の試験で、6−7回で、非組換えワタの10−14回より少なかった。
ワタの収量は、Btワタは少ないときには1割、多いときは2−3割増収だった。
計量経済学のモデルから検討すると、収量増加は1割増、農薬使用量の減少は6割、労働力は7%減。農家の収入は9割の増加となった。


遺伝子組換えBtイネ栽培試験
遺伝子組換えBtイネとは、害虫抵抗性を遺伝子組換え技術で持たせたイネのこと。
2002年から2004年、湖北省と福建省の214農家、584区画で調査した。
遺伝子組換えBtイネと、非遺伝子組換えイネを無農薬で試験栽培したら、明らかにBtイネだけが生き残った。非遺伝子組換えイネに農薬を散布しながら栽培し、遺伝子組換えBtイネと比較したところ、その収量が特に多いことはなかったが、農薬使用量は9割減だった。
計量経済学のモデルから検討すると200-2004年において、組換えイネの農薬使用量は8割減、収量3−8%増、労働力5.5%減、純利益は82−100米ドル/haの増加となった。


経済全体に与える影響
バイオテクノロジーの発展により収量増とコストダウンが期待できる。
次の3つのシナリオについて検討を行ったが、中国にとって遺伝子組換え技術の与える恩恵はこれまでの投資を回収できるものであることがわかった。
シナリオA:Btワタの商品化により、2010年までに年間10億USドルの利益を得られれば、15年間の投資が回収できる
シナリオB:Btワタ とBtイネにおいて貿易の障壁がないとすると、得られる利益で中国は今まで遺伝子組換え技術の研究・開発に使った投資をすべて回収できる
シナリオC:日本、韓国、東南アジア、EUがGM コメの輸入を禁止したとしても、99%のコメは中国内で消費するので、利益は変わらず、中国が今まで遺伝子組換え技術の研究・開発に使った投資をすべて回収できる


農業作業者の健康について
湖北省と山東省のワタとイネの生産者を対象に調査を行った。
農薬を散布するときに、ワタの草丈が人の身長くらいになると、作業者は農薬まみれになってしまう。ワタを栽培する農家は貧しくて保護マスクも買えず、衣服が汚れないように薄着で散布することが多い。
非遺伝子組換えワタだけを栽培するとき、遺伝子組換えワタと非遺伝子組換えワタを栽培するとき、遺伝子組換えワタだけを栽培する生産者の中毒症状の発生は4:2:1だった。
非遺伝子組換えイネだけを栽培するとき、遺伝子組換えイネと非遺伝子組換えイネを栽培するとき、遺伝子組換えイネだけを栽培する生産者の中毒症状の発生は5:3:0だった。
遺伝子組換えイネ・ワタにより、農民の健康が増加した。経済的にも、持続的に利益が得られて、農家にとっての投資回収率も高い。


農耕地における遺伝子組換えワタの持続可能性
害虫のボールワームに耐性ができないか、二次的害虫が発生しないかという懸念がある。
山東省において、2000年から2006年に、Btワタに使った殺虫剤は3分の1弱に減っていた。このことから、抵抗性を持った害虫の発生を推定すると、遺伝子組換えBtワタの栽培を始めて10年たったが、ボールワームの抵抗性は生じておらず、ボールワームの数も減ってきていることがわかる。
河南省では、Btワタと非Btワタの農薬散布量は2000-2006年でそれぞれ半分になった。組換え・非組換えの両方で農薬散布が減ったことから、ボールワームそのものが減ったと考えられる。そして、トウモロコシ畑での農薬散布量も減った。これは、トウモロコシの害虫も減っていたことを表している。
また、害虫に抵抗性が生じないようにするために、中国北部(湖北省、山東省、河南省、安徽省)のワタ栽培地域では昆虫学者の定める基準をはるかに超えた緩衝地帯を設置している。また、一般に中国では1種類でなく、各農家がBt作物の横にいろいろな作物をつくるので、自然に緩衝地帯の役目が果たされているようだ。
地域によってはカメムシなどの二次的害虫への農薬散布が始まっている。これでは、Btワタで得られた農薬削減の利益はキャンセルされてしまうのか。2004年から2006年にかけて1haあたり10kg増えているが、ワタのボールワームに対する農薬の削減が1haあたり30kgなので、全体では、削減になっている。しかし、将来も害虫の状況を監視することは重要。


遺伝子組換え作物のこれから
Btワタの商品化によって生産性が増え、生産者の健康も改善された。農薬が削減されたために地下水などの環境も改善された。しかし、これはバイオテクノロジーの恩恵で一部でありバイオ燃料、家畜の飼料などへのバイオテクノロジーの応用が期待される。
日本人はバイオテクノロジーを受け入れられないそうだが、日本はダイズやトウモロコシを輸入しなくてはならない状況にある。アメリカは、バイオ燃料にトウモロコシを使い始め、将来、トウモロコシの輸出を増やすと思えない。米国からの輸出が減った場合、中国は花きを栽培している農家がトウモロコシを栽培することで、トウモロコシを自給できるが、日本や韓国のように輸入している国にとって、バイオテクノロジーはもっと重要になるだろう。
中国では、ボールワームの耐性はできておらず、ボールワーム全体の数が減り、遺伝子組換え・非組換えワタ生産農家に、この技術は恩恵を施している。カメムシ、アブラムシなどの二次的害虫の増加には慎重な対応が必要だと考えている。結論として、バイオテクノロジーは食糧安定供給、貧困への対策として有効である。



質疑応答
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • 農家は遺伝子組換え作物をどのように意識しているのか→Btワタを栽培することについてヒヤリングをしたところ、「Btワタを栽培しないと生きていけない」と農家は回答している。1990年代、ボールワームの危害が甚大で、遺伝子組換えワタがなければワタを作り続けられない状況だった。意識調査では、遺伝子組換え作物をめぐる議論があることを3分の2の農民は知っていた。また食品としては、人々は食用油としてトウモロコシ油から安い遺伝子組換えダイズ油に切り替えている。遺伝子組換え食品かどうかよりも安い油を選んでいた。
    • Btワタの種はどこで作っているのか:中国には、モンサント社のBtワタを扱う代理がある。また、CSSA(中国農業科学院)の作った2つの遺伝子を導入したワタが100以上の会社を通じて販売されている。100万人住んでいる郡に販売会社が10数箇軒ある。
    • 害虫抵抗性と除草剤耐性をあわせ持つワタを使わない理由は何か→中国ではそんなに雑草の被害がないため。
    • どんな農薬を使っているのか→ボールワーム用農薬が100種類、カメムシとアブラムシ用農薬が700-800種類ある。名前が違っても7-8割は中身が同じ。2-3種類の農薬を混ぜて散布することもある。
    • ワタに対して農薬使用量が減ったことをボールワーム数の減少と考えてよいか→農家はボールワームの状況を見て散布を調節しているので、数が減ったと判断した。ワタにボールワームがつくと、ピーナッツやトウモロコシにもボールワームがつくので、Btのワタで得られた利点がトウモロコシのボールワームにも影響したと考えられる。
    • 農薬使用量はイネやトウモロコシにおいても、ワタと同じような減少傾向がみられたそうだが、トウモロコシ、イネが商品化されていない。トウモロコシ、イネの状況や今後は→将来Btトウモロコシができたら、何を緩衝地帯に植えるかなどの新しい検討が必要になるだろう
    • 甘唐辛子の作付け状況は→ペチュニア、トマト、甘唐辛子の作付けはゼロ。経済的利益が見えないので、審査を通過しても市場としての可能性はない。
    • 今後、商品化が決まっている作物は→数年は新しい遺伝子組換え作物を開発する可能性はない。現在は米が余っているが、食糧不足が予想される状況になると遺伝子組換え技術を用いた主要作物開発の可能性は増すだろう。しかし、常に、研究開発と技術蓄積は必要である。
    • 主要作物に遺伝子組換え技術を導入するときに懸念されることは何か→中国では、1つかふたつの作物に頼るのはよくないと考えている。Btワタの場合には害虫の被害が余りに大きく、農家の強い要望があったので、Btワタが導入され、多く栽培されるようになった。トウモロコシ、ダイズにおける遺伝子組換え技術の応用は遅れている。懸念というならば、中国が遺伝子組換えイネを作って輸出したら、世界の貿易に与える影響もそのひとつ。国民の不安についていうならば、中国全体の遺伝子組換え食品に対する市民の意識はわからないが、少なくとも都市部の7割の市民は遺伝子組換え食品を受け入れているので、これは懸念として大きいものではないと思う。
    • 中国における表示はどうなっているのか→中国は世界で一番厳しい表示制度を利用している。つまり、使っているか使っていないか。例え0.001%利用しているのならば、使用と書かなければならない。従って食用油(大豆油)なども、GM表示が必要になっている。不使用と書くための分析の費用をかけるくらいなら、使用と書いた方が合理的だとメーカーは考えている。
    • トウモロコシへの遺伝子組換え技術の導入はないと考えていいのか→病気と害虫の被害よりも、水不足の方が問題。旱魃耐性トウモロコシがあれば、そういう需要はあると思う。



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