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くらしとバイオプラザ21談話会報告

 2月28日(金)18時30分より第1回くらしとバイオプザ21談話会を開催しました。この談話会開催のいきさつ・目的を私たちは次のように位置づけています。
 これまでいろいろな機会にアンケートを用いて、国民のバイオクテクノロジーに対する意識調査が行われてきました。省庁の意見公募(パブリックコメント)がホームページで求められてそれを受けて政策決定に参考されたこともあります。けれども、公開された議事録に於いて、市民の代表の発言を読んで「そうかなあ」と感じることや、アンケートの結果をみて「これは本音かしら」と思うことがあったのではないでしょうか。
 くらしとバイオプラザ21は、科学的データに基づいたわかりやすいバイオテクノロジー関連情報をできるだけ中立の立場からお伝えするためには、まず「普通の人」と呼ばれる市民の気持ちを理解し、より有効な情報の伝え方を検討する必要があると考えています。アンケートのような統計処理されたデータを「定量調査」とするならば、私達は市民の声をひとつひとつ拾う「定性調査」を行ってみたいとかねてより考えていました。食事をしながらの談話会の開催は「定性調査」に近づくためにひとつの試みです。私たちの事務所で2ヶ月に1回、バイオ関連のテーマを決めておふたりのスピーカーからにお話をいただき、その後、参加者全員で話し合い、その内容をホームページでご紹介していく予定です。談話会をバイオコミュニケーションの試みのひとつとしたいと思っています。

挨拶をする日比谷事務局長
挨拶をする日比谷事務局長

 第1回のお題は「食とバイオ」でした。スピーカーは安西弘行氏(茨城大学遺伝子実験施設助教授。明治製菓で医薬品の開発に従事。遺伝子組換え機能性食品の研究や中高生へのバイオ教室を開催。)と三保谷智子氏(女子栄養大学出版部「栄養と料理」編集長。BT戦略会議委員。くらしとバイオプラザ21理事。)です。

講師のお二人
講師のお二人

安西氏のお話

植物における遺伝子組換えの手法

 植物体にクラウンゴールというこぶを作る病気には土壌微生物であるアグロバクテリウムが関与し、アグロバクテリウムの中には、プラスミド(小さなDNA)が存在していることがわかりました。このプラスミドを改良し、植物の遺伝子組換えを可能にしたのがアグロバクテリウム法です。植物と微生物の相性があり、イネ、トウモロコシにはこの方法は有効ではありませんでした。そこでこの方法でうまくいかない単子葉植物には、金の微粒粉末に遺伝子をまぶして火薬で植物にうちこむような物理的な導入法が使われました。これがパーティクルガン法です。しかし、現在では研究が進み、イネ、トウモロコシにもアグロバクテリウム法が適用できるようになりました。

遺伝子組換え農作物

 遺伝子組換え農作物にはウィルス抵抗性、除草剤耐性、害虫耐性の遺伝子を入れたものなどがあり、これを使うと労力軽減、農薬を減らせるメリットがあります。(同じ値段なら非組換えの食物がよいと多くの市民は思うでしょう。)

ゴールデンライスについて

 ゴールデンライスとはビタミンAを強化した遺伝子組換えコメのことでここ数年で市場に出せる状況。特許の問題は発展途上国に無償で提供することで解決し、いろいろな地域で栽培するのにふさわしい品種にするための研究が進んでいます。

国内外の市民の反応

 遺伝子組換え食品に対して欧州は反対派といわれていますが、遺伝子組換え技術関連の基本特許(1980年代の米国企業が主に取得)が切れる2000年代を見据えて遺伝子組換えの開発を行っています。農業国の多い欧州と米国で農産物の市場を争うという政治的、経済的背景があります。
 日本では遺伝子組換え、突然変異などことばのイメージが強く敬遠されがちで、新聞報道などでもそういう面が強調されてきました。

機能性コメの開発とこれからの遺伝子組換え食品

 価格が半値になる、ダイエット効果がある、頭がよくなる、健康になる、美肌になるなどのメリットがはっきり見える遺伝子組換え作物が作られると市民に利用されるのではないでしょうか。生研機構(生物系特定産業技術研究推進機構)では機能性作物の研究をしています。その中で私たちのグループは感染症に強くなるおコメ、他のグループは、糖尿病、花粉症、肥満に対して効果のあるおコメの開発や安全性や環境への影響について調べ確認をしています。病気を予防し、楽しいくらしにつながる、若い人の医療費の負担も減るような遺伝子組換え作物をつくれたらいいと思って研究開発をしています。大学、国立研究所はバイオテクノロジーの分野にチャレンジしていくのでメーカーも勇気を持ってもらいたいし、消費者にも勉強してもらい、自分で作った価値のある遺伝子組換え農作物はまず自分で食べ、息子にも自信を持って勧められるようにしたいと思っています。


三保谷さんのお話

食は総合的なもの

 食べることは総合的な人間の営みで、これさえ食べればよいということはありません。目で見る、においをかぐ、噛んで味わうなど五感で感じるものです。いっしょに食べる相手、食べた場所、そのときの思い出まで幅広い意味を持っており、それを大切にしていくべきです。

気を使って食べる、考えて食べる

 1970年代に日本にファーストフード店ができ、今ではコンビニなどの出現によって24時間いつでもどこでも食べられるようになりました。
 気を使って食べないと健康は維持しにくいのです。中国のやせ薬をインターネットで買って飲んで健康被害が発生した事件がありましたが、このようによく調べず新しいものを受け入れてしまうような安易な考え方にも問題があると思います。市民は食生活を「手軽に簡単にすませたい」と思う傾向があるようですが、病気になってから考えるでは困ります。また、何をどれだけ食べればよいのかの基本を知らないままサプリメントに頼るのは、よくないと思います。

食物ができるまでを知ること

 小学校の総合学習を取材する機会があります。地域の方の支援を得て、ダイズを土作りから始めて栽培し、収穫したダイズから豆腐や納豆などを作っていました。自分たちの手で作物を栽培し食品の加工までを体験することで多くのことを学んでいるようでした。

積極的な食

 「あれを食べてはだめ」、「これはだめ」という否定的な話ではなくて、市民が健康増進につながる食行動を起すようになっていただきたいです。日本人は食べることを軽んじてきたようです。料理をする男の人はかっこいいのです。キッチンには科学の素材がたくさんあります。このような場を家庭が手放すことは残念ですし、食は家族の会話の潤滑油になります。是非、大人が食を通じてこどもたちを正しく導いてほしいと思っています。


ディスカッション

 お二人のお話を参考に1時間以上、14名の参加者全員でディスカッションをしました。概要をまとめてみると。

・遺伝子組換え食品
 腎臓病の患者さんは低蛋白コメを使うと献立作りが楽になるし、最近若い人に多いクローン病(消化管全般でかいようなどの病変が起きる病気です。高頻度で再発を繰り返し、完治が難しく厚生労働省の特定疾患治療研究事業対象疾患に指定されています)の患者さんは残渣のあるものを避けないといけない。このように病気の方の役に立つような遺伝子組換え食品は食卓に受け入れられやすいのではないか。しかし、メリットがあるといっても店頭に並ばない現状では、遺伝子組換え食品を選択肢のひとつとはならない。

・マスコミ
 マスコミにはもっと勉強し、センセーショナルな記事や売れるタイトルにあわせた内容の取材記事を書いたりしないでほしい。掲載する場合は、せめて署名記事を出して、責任の所在を明確にしてほしい。けれど現代はマスコミもどのように考え捉えたらよいのか迷っている時代のようにも思える。情報を提供する人は、マスコミ担当者へ定量的な情報を出すなどの努力と掲載後のチェックをしなくてはならない。

・わかりやすい情報
 バイオテクノロジーに関連する話は内容が難しいので、たとえ話を用いるとわかりやすくなることもある。反面、わかりやすさを追求すると正確さを欠く恐れもある。ビジュアルで見せられるバイオ展示などの工夫がなされるといい。説明するときにカタカナを使わないようにするのは聞く人へのマナーのひとつ。情報提供においてもレストランなどサービス産業のようなホスピタリティ(もてなしの気遣い)のある姿勢が大切。

・ことばの誤解
 専門用語の翻訳や説明が、サイエンスを市民から遠いものにしてしまうことがある。組換えDNA技術は「遺伝子組換え技術、遺伝子操作」と呼ばれているが"神聖な遺伝子を操作する行為"のようなよくないイメージを与えた。電力会社関係では、海岸沿いの火力発電所や原子力発電所から出る排水の温度は、自然海水の温度より僅か7度高い程度(例えば、発電所に取り込む海水の温度が15度なら排水温度は22度)であるのに「温排水」と説明したため、高温と判断され魚に悪影響を及ぼす印象を与え、補償問題に影響した。

・教育
 先生方への新しいバイオテクノロジーの情報提供も必要ではないか。体験する、実物を見ることは大切なので最近の総合学習には期待できるものもある。1年くらいで成長を通じ生命について知ることができる経験が大事。先生自身が理科好きだと生徒も理科を好きになるのではないか。教育は根気よく具体的な指示ができるような指導が有効である。スポーツの指導、訓練方法などは最近とても改善され昔の方法とは変わってきている。

・情報
 バイオテクノロジー関連情報は出されているといっても情報量が絶対的に少なすぎるし、情報の入手方法がわからない人が多い。


 マスコミも迷う時代なのかもしれないと情報が氾濫する中で、ひとり歩きすることばのイメージ、うまくミートする情報や教育に会えない現実など貴重なご意見・感想をうかがうことができました。
 次回は「バイオと教育」というテーマを扱いたいと考えています。

談話会参加者全員
談話会参加者全員






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