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セミナーレポート
「スペインの遺伝子組換え作物と非組換え作物の共存について」

3月13日(木)大手町サンケイビルディング会議室において日本モンサント(株) 主催によるセミナーが開かれました。初めに山根精一郎社長から以下のような挨拶がありました。「世界の23カ国で、日本国土を超える面積の遺伝子組換え作物の栽培が行われている現状から考え、遺伝子組換え技術は重要だと認められているのに、日本では試験栽培も「悪」という状況。これは共存の考え方ができていないためではないかと考え、欧州における遺伝子組換え作物栽培のリーダーであり、共存の実施と研究に関わっているおふたりをスペインからお招きした。日本の農家からは、外国から不分別原料が輸入されているのに、日本でどうして栽培できないのかという声もあり、今日は皆さんと考えたいと思う」


「農業での価値創造は難しくない」

ファン・アントニオ・クラベリア・モラント氏 農学者・農業生産者

私の家族は5つの農園(合計2100ha)を持っていて、そのうちのふたつは灌漑用水を引いている。私は20年前からその約400ha(灌漑用水あり)を担当し、コムギ、トウモロコシ、マメ類、アーモンド、ブドウを栽培。場所はアラゴン県。そこを流れるエブロ川は水量が豊かでバルセロナに流れつく。ここ4年は最も干ばつがひどい状況。
毎年の作物の耕作面積の割合は水量と作物の価格によって検討して決める。今は、3分の1にコムギ(水を必要とするのが3−5月)、残りの3分の1にマメとトウモロコシ収穫サイクルが短い)の連作と周期の長いトウモロコシ、最後の3分の1にブドウとアーモンド。ブドウはワイン用で大企業と契約栽培をしている。1haあたりの平均収量は、コムギ6,000Kg、エンドウマメ7,000Kg、トウモロコシ4,000Kg。アーモンドはまだ植えて2年目なので収穫なし。3年後の予想は殻つきで3,000Kg/ha、ブドウは12,000Kg/ha。
農家はこの10年、必要からバイオテクノロジー(遺伝子組換え作物)を利用している。
スペイン国内では、遺伝子組換えBt(害虫抵抗性)トウモロコシはアワノメイガの被害が多い地域で作られている。2007年、アワノメイガの被害がひどいアラゴンとカタロニアは集中して75,000haの害虫抵抗性を持つBtトウモロコシを栽培した。トウモロコシの生産は干ばつで減っているが、Btトウモロコシの栽培は少しずつ増えている。現在は、スペインのトウモロコシ栽培面積の21%が組換え。アワノメイガがつくと、茎に入り込み、風でトウモロコシは倒れてしまう。トウモロコシの穂に達すると、粒を食べてしまい、カビが生えて、カビが作るマイコトキシンという猛毒物質ができてしまう。これでは市場には出せない。また、Btトウモロコシはまっすぐに立っているので、コンバインも時速5Kmで使えて効率がいいが、倒伏すると2Kmで走らせなければならない。
農業生産者は天候、肥料、農費、従業者など、いつも心配を抱えて経営をしているが、Btトウモロコシだと安心して仕事ができ、この魅力は大きい。モンサントの実験ではBtトウモロコシは1haあたり1,000-1,300キロの収量増加が認められている。実際には気を緩めたり気配りが足りないと収量が落ちてしまい、14,000Kgのはずが7,000-8,000Kgに落ちたこともある。私たちはモンサントやパイオニアなどの会社からプレッシャーを受けたこともないが、この安心感を含めて自分たちで効果を確かめた上で、アワノメイガの被害の多い地域では、自主的に組換えトウモロコシを選んできた。43,000円/ha増収になった。

農業生産者のコミュニティ
我々には、中世から灌漑用水を近隣農民で合議し決めてきた歴史があり、ほとんどの農業地帯のグループでは水、価格、栽培作物について話し合っている。同じように非組換えと組換えの混入限界値を考慮しなければならない場合には、必要に応じて非組み換えトウモロコシと組み換えトウモロコシとの間に距離をあけて栽培している。
出荷価格はBtトウモロコシと非組換えトウモロコシでは、同じ価格で推移している。

適正農業規範(Good Agriculture Practice)
種子の袋(5,000粒入り)に業界適正規範ガイドが添付されている。これは自主基準であり、アワノメイガが害虫抵抗性トウモロコシへの抵抗性を獲得しないための措置として、栽培面積の2割を緩衝地帯として設置することの重要性など説明されている。私もそれを守っている。トレーサビリティと表示の義務についても触れられており、守られている。

近隣農家との関係
近隣農家には、Btトウモロコシ栽培予定を伝えている。合意ができないときは50mの間隔をおくように薦められているが、過去、そのような事もトラブルも起きたことはない。
前述のように、必要に応じて混入限界値を考慮する必要がある場合は、遺伝子組換えトウモロコシの周りに4列の非組換えトウモロコシを植え、そこから収穫されたトウモロコシは組換えと表示して出荷する。また、非組み換えトウモロコシと組み換えトウモロコシの両方に使用する播種機器やコンバインは、0.2haの非組換えトウモロコシを処理することによって清掃する。この際に収穫された0.2haのトウモロコシは組換えトウモロコシの表示をして出荷する。
これとは別に、害虫の抵抗性獲得を遅らせるための措置として2割の面積に非組換えトウモロコシを栽培している。
農業関係の法廷闘争は年間1,400件ほどある。しかし、Btトウモロコシを栽培して10年になるが、組換えと非組換えに関わるものはひとつもない。このように、スペインでは農業を通じて生活向上を目指す農家が、企業の圧力を受けることなく、バイオテクノロジーを利用している。アラゴン、サラゴサ、カタロニアは特にアワノメイガ被害対策として利用している。

将来への希望
教育を受けた農業生産者が技術的競争力を持った農業者として育っていくことが私の願い。
害虫抵抗性品種の次には、干ばつに強い品種を開発してほしい。また、窒素は川を汚染し土壌に残るので、余り散布したくないと思っている。



スペインにおける共存:組換えとうもろこしと遺伝子組換えイネでの実践

スペインカタロニア州農業商品研究開発研究所研究員 モンセラート・パラウデルマスさん

世界の状況
遺伝子組換え作物は世界で1996年より、大きく増加。アメリカやアルゼンチンが中心だったが、ブラジル、インドが最近活発化している。トウモロコシの栽培面積は3500万haに達し、日本の総面積3700万haに近い。多くは除草剤耐性、害虫抵抗性、それらの組合せ。

共存とは
共存は、ある作物の収穫物の中に他の作物の収穫物が意図せずに混入することによって生じる経済的な結果である。また、一般原則として農家には栽培の自由と権利がある。共存は作物の安全性に関わる問題でなく、マーケティング上、「非遺伝子組換え」と表示などの必要がある際に、意図しない混入があった場合のために考えられた概念。表示義務がないマーケットに対しては、混入は問題とならず、したがって、共存を考慮する必要もない。
EUの表示のシステム上定められた意図せざる混入の閾値は0.9%で、これ以上混入しているときには「組換え」との表示義務が生じる。表示義務が生じるマーケットに出荷する従来作物を栽培した農家の収穫物に、組換え作物が閾値を越えて混入した場合、GMO表示をしなくてはならない。意図せざる混入の理由には、1)前作作物の自生、2)交雑、3)種子の純度、4)穀物管理がある。種子栽培の設備、保管、輸送、農場出荷後の加工などが考えられる。
最も問題になるのは交雑で、これは栽培者には、コントロールは不可能(気象状況、栽培品種、花粉の飛散の特徴などが関係する)。
生産者と食品企業と種子企業との間で、自主的な合意基準が存在し、効果をあげている。

  • 種子メーカーとの合意:適正農業規範に従って生産者は生産し、飼料に用いられる場合は、非組換えとBtの価格の差はない。飼料に使われる際には、非組換えトウモロコシであっても、除草剤耐性ダイズと混ぜて飼料が作られる。
  • 食品メーカーとの合意:個別の契約によって非組換えトウモロコシを提供する。
  • 有機栽培生産者との合意:相談し、緩衝地帯を設置するなど、農業適正規範を守る。
欧州の意図せざる混入の閾値を保証する距離として科学的ほ場試験で決定された距離は、英国24.4m、カナダ30m、スペイン20m、イタリア18m。しかし、組換えフリーまたは有機であると表示するための隔離距離として提案されている距離は、科学的な面以外のファクターによってドイツ、スロバキア、ポルトガルは300m。ルクセンブルグ800m、オランダ250mなど、従来の作物の交雑とはかけ離れた値になっている。

交雑実験
SIGMEA(Sustainable Introduction of GMO’s European Agriculture:遺伝子組換え作物の欧州農業への持続可能な導入)というプロジェクトで、トウモロコシと米を用いて、遺伝子の移動に関する実際の共存状況における農場レベルの研究を行った。

(1)トウモロコシの実験
トウモロコシは自家受粉ではない。アワノメイガ、地中海トウモロコシボーラの害虫被害を受けると、トウモロコシは倒伏し、粒は小さくなり、カビで色が悪くなる。
データ蓄積のための試験栽培をスペインのカタロニア地方で2004〜2007年に実施し、Mon810系統(認可済み)を使用。
ある指定された地区の各圃場で栽培している作物を調査し、圃場のマップを作成。その中の非組換えトウモロコシを栽培している5箇所を選んで、その圃場への組換えトウモロコシの花粉による交雑を分子レベルで分析した。5つのうち3つでは検出されず、残りのふたつでは検出されたが、0.9%の閾値に達していなかった。この差は組換えトウモロコシの栽培圃場からの距離によるものである。
2004年の実験では、24haのホワイトコーンの圃場の中心に4haのイエローコーンを栽培し、ホワイトコーンに黄色い粒がどのくらい入るかで交雑を調べる試験を、風向き調査とともに行った。イエローコーンから15m離れた地点では0.9%の許容値を下回る交雑で、30mでも0.9%以下だった。以上から50mあければ交雑は0.9%を下回ると考えられる。
この距離に作物が栽培されているか、空き地であるかによっても交雑率は影響を受ける。たとえば、10mの距離を農道で隔てると混入率は5%、農道ではなくトウモロコシが栽培されていると2%であった。
2004-2007年、400haの畑で行われたトウモロコシの調査をまとめると、年々、干ばつでトウモロコシの生産は減っているが、組換えトウモロコシは増えており、生産者の87%がGMと非GMの両方を選択していた。また2004年当初は組換えの品種は播種が遅いものであったが、その後、播種時期の違うものが出てきている。開花時期も当然ずれてくることが多かった。実際の混入率は2004年0.11%、2005年0.09%、2006年0.25%だった。検出されたところは開花期が重なっていて、距離も近かったことから、開花期と距離をパラメーターとして「交雑予測インデックス(ECP Estimate cross pollination index)」を開発。それぞれのパラメーターを変化させると、その地域の全部のほ場への影響を予測することができるシステムができ、グローバルインデックスと定義した。
以上より、意図せざる混入率は開花期の一致度と距離で決まり、20mは0.9%の閾値を守るのに十分な距離であることがわかった。またグローバルインデックスを用いると、意図せざる混入率も算出できるようになった。

(2)米の実験
米は自家受粉する植物で、欧州で認可されている遺伝子組換え品種はない。したがって、米については、未認可品種の野外試験として行った。
米の栽培試験は直径約10mの円形の水田に、同心円状に非組換え、赤米(イネ科の雑草)、遺伝子組換え米、赤米、非組換えの順で植え、水田全体に対する風の観測を行い、非組換え米と赤米を収穫した。収穫したコメは温室で育て除草剤を散布し、耐性を獲得したかどうかで交雑率を調べた。試験後の米はすべて焼却処分した。
結果として、組換えから赤米への遺伝子の移動(交雑)は約0.036%であることがわかった。
0.5m間隔のとき、組換え米から非組換え米への遺伝子の移動は約0.086%。2mで0.05%以下、5mで0.005%以下になった。また短距離の場合には風の影響が強くあらわれた。これからは、米の商業栽培での遺伝子の移動について研究したい。



質疑応答
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • 種はどこから買うのか。組換え種子は高いのか→自分の好きな種子会社を選んで、組換えを80%、非組換えを20%種を買う。遺伝子組換え種子は約5%高いが、殺虫剤を使う回数が少なく、経費は相殺できる。
    • 非組換え作物を作っている農家は0.9%以下であることの検査をするのか。検査の費用は誰が負担するのか→検査が必要な場合は非組換え作物を契約栽培している場合である。検査費用はユーザーであり、その非組換え作物を原料に使っている食品企業が負担する。その際は、その会社に納めるときに会社が独自に設けた0.9%より厳しい基準で検査する。それ以上の混入があればトラックごと返される。しかし、その農家はその農産物を組換え作物として飼料会社に売ることができる。
    • 組換えと非組換えのどちらを栽培するかの判断はどのように行っているのか→その地域の気候や害虫の状況による。害虫の害が小さいところは、非組換えを作っている。私は、害虫の被害が大きいカタロニア地方にいることと、安心して栽培管理をしていたいので、組換えを選んでいる。
    • スペインの組換えトウモロコシは飼料用か家畜用か→世論により、ヒトの食用には非組換えトウモロコシが利用されている。


    参考サイト 第1種使用規程承認組換え作物栽培実験指針

    http://www.nias.affrc.go.jp/gmo/indicator20060308.pdf

    日本では農林水産省所掌に関わる試験研究を行うときに上記の指針に従うように指導が行われています。イネの隔離距離は30m、トウモロコシは600m(防風林のない場合)です。


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