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談話会レポート「世界の組換え作物と日本の現状」

2008年6月20日(金)、くらしとバイオプラザ21事務所にて談話会を開きました。お話はシンジェンタジャパン&シンジェンタシードのコーポレートブランディング&コミュニケーションマネージャー坂本智美さんによる「世界の組換え作物と日本の現状」でした。

坂本智美さん 会場風景


お話の主な内容

はじめに
世界人口は増え、飼料や肥料の価格が高騰している。2030年に世界人口は80億人になる。BRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国)で需要が増えるので、生産量を増やさなくてはならない。限られた農地でどうやって収穫を増やしていくのか。生産性の向上が不可欠。
私の勤めているシンジェンタという会社は、日本では余り知られていないが、アグリビジネスでは世界第一位。農薬では第2位、種子事業が第3位。90カ国の2.1万人の社員。植物の力を最大限に活かそうというのが方針。
従来育種が中心で、それでできないものは遺伝子組換え技術やマーカー育種で取り組んでいく。この考え方は、遺伝子組換え技術という位置づけを表していると思う。

世界の遺伝子組換え作物の栽培の状況
ISAAA2007によると11430万ha(中国の農地と同じ広さ)が耕作面積、ダイズ、トウモロシ、ワタ、ナタネ、その他が作られている。初めは先進国が先行していたが、2007年には途上国も同じくらいに追いついてきている。農業人口は1200万人に達し1年で170万人の増加。
栽培国:23カ国で、北南米(米国、カナダ、ブラジル、アルゼンチン)で盛ん。欧州はスペインが中心、ポルトガル、フランス、ルーマニアは政権により揺れている状況。アフリカで栽培しているのは南アフリカだけで、欧州を横にらみしながら、研究は進めている。
地域:中国、インドはワタ栽培をしており、国をあげて研究している。オーストラリアは伸びてきている。地域別に見ると、アジアでは中国、インド、フィリピンでワタが増加。南アフリカは食用のホワイトコーンの組換えを利用している。欧州では8カ国で10万haを超えたが、現在の政権をみると、2008年度は減少か横ばいだろう。
作物:世界の遺伝子組換え作物の占める割合はダイズの64%が最も高い。米国、アルゼンチンのようなダイズ産出国は最大に達しており、これ以上は伸びは少ないだろうが、トウモロコシは今後も増えるだろう。
米国で増加している品種は、スタックという複数の形質を持つもの(例えば害虫抵抗性と除草剤耐性)。

ISAAAによる今後の予測
スタック系統(複数の有用形質を持つ)の品種の増加、水不足を反映して旱魃耐性作物の誕生、アジアではベトナムが参入、ブラジルはラテンアメリカでの主導国になり、アフリカではエジプト、ブルキナファソ、ケニアなど参入。欧州は科学的評価の後、政治的判断があり複雑な状況だが、東欧で増加するだろう。
バイオ燃料への遺伝子組換え作物の利用の増加。2015年には40カ国になるだろう(欧州が増えるのか、アフリカが増えるのか)

日本の状況〜意識調査などから見えてくるもの
ここまで、遺伝子組換え作物の世界の栽培状況を中心に述べてきたが、日本の市民はどのように感じているのか。食品安全委員会の食への不安要因に関するアンケートでは、遺伝子組換えへの不安は7割を切ったところ。
不安の理由は、科学的根拠に疑問、食の安全性に関する情報が不足、漠然とした不安が上げられ、総合すると遺伝子組換え食品(GMO)への安全性への不安が払拭されていないことがわかる。
健康食品、農薬、添加物、BSE、遺伝子組換え食品を比べると、科学的根拠への不安がGMOの場合、特に高い。
今年発表された、教師の意識調査によると、教師の不安が強いことがわかり、子どもに伝える方たちが不安を持って教育していることに問題を感じた。GMOに関する設問への正解率が低く、正しい情報が伝わっていないこともわかった。
説明会に話をしに行くと、参加者に次のようなことをよく言われる。すぐに説明できることもあるが、返事に困るものもある。
「メリットばかり言われるとデメリットがあるはずだと思う」「安全だとなぜいえるのか」「たんぱく質は消化されてアミノ酸になるというが、子孫が食べて大丈夫か」「遺伝子組換え作物はなぜ登場したのか」「科学者の意見が、推進派と慎重派に分かれているので誰を信じていいかわからない」「GMOを食べていないと思っていた(不使用表示が目に付き、表示義務のない油などが出回っている)」

参加者のみなさん


話し合い     
  • は参加者、→はスピーカーの発言
  • 市民が必要としている情報は何か。遺伝子組換え作物の研究開発を進めてきた農林水産省や文部科学省及び研究者から情報発信やその体制整備が必要であること、市民も自分の食べ物のことなのだから食物がどこからどうやって届けられるのかは知るべきだという意見が出ました。談話会の大部分の時間は、研究者、一般市民、企業、ジャーナリスト、公務員などのみなさんにより、活発な意見交換に費やされました。皆さんの意見は次のとおりです。

    分別流通、分析と表示
    • 混入率を詳しく分析するほど、コストがかさむことが知られていない。
    • 非組換えダイズが世界で4割あるなら、それを使えばいいというが、商社は実際には集められない。何故ならば、インフラが整っていなかったり、輸送コストがとても高くなったり、日本の要求する品質に合わなかったりするから。
    • 分別流通管理のコストが高く、海外の農家は本当は日本のために非組換えを栽培・分別流通管理をしたくはない。
    • 米国の農家は日本用非組換えをプレミアつきで仕方なく作っている。これはメディアで書いても伝わらない。中間がそのコストを吸収している事を消費者も知るべき。
    • 0%が混入の基準になれば不使用表示はできなくなる。
    • 国産牛といってもいつから日本にいるのか、表示は難しいのではないか。
    • 表示制度が見直され、表示が始まると今までだましていたと思う人が多いだろう
    情報提供のあり方
    • メディアへの情報提供がやはり大事だと思う。
    • 農林水産省と厚生労働省には積極的な情報提供をやってもらいたいと思う。
    • 申請をして認可され企業からみると、行政が安全かどうかわからないといわれたら、矛盾を感じるのではないだろうか。
    環境への影響の評価
    • 遺伝子組換え作物に関する栽培間隔は非組換え作物同士のそれより厳しくておかしいと思う→種取りには基準があるが、非組換えなら誤差の範囲で認められる。遺伝子組換え作物では求められるような交雑のデータは十分そろっていない。
    • 環境評価にはカルタヘナ議定書があるが、遺伝子組換え食品の安全性については国際基準がないのではないか→食品安全性の考え方は、CODEXのレコメンデーションに従って各国が規制をつくる。
    • 米国は勝手に栽培できるのではないか→米国はガイドラインだが、申請することがmustになったので、自由に栽培することはできない。
    • 日本の種子会社はなぜ組換えをしないのか→品種改良は国か県でしかできなかった。種子は組換えでもそうでなくても純度100%はなく、純度を高める努力・工夫(環境の管理)が大事。実際の方法も一緒に説明しないといけない。
    • それでは、日本種子会社は組換えはやらないのか→当分、やらないと思う。
    • ビジネスを進めるためにネガティブな情報を隠していないかといわれたらどうしますか→食の安全については評価が進み、ネガティブなことはないと思っている。有機栽培の生産者にとっては交雑への配慮をしなくてはならないことはネガティブだといえるのではないか。害虫が抵抗力を持つリスクを回避するための管理がネガティブだともいえる。IRM(抵抗性害虫管理)により抵抗力を生まないような使い方に協力してもらっている。米国では予防管理がEPAの命令なので従わないと、罰金になる。この命令は企業がEPAに働きかけて予防管理を取り締まって生まれた。例えば、ワタの予防管理は非組換え体をある程度は必ず植えて、害虫の耐性獲得を回避している。
    市民の気持ち
    • 10数年前と今で消費者アンケートの結果が変わっていない。説明が理論的でないからだと思う。例えば、ダイズに対する雑草の影響が大きいことを説明すれば除草剤耐性ダイズの価値がわかると思う。
    • この10年、何も問題が起こっていないことを説明すればいいと思う、
    • 科学者の説明でごくごくわずかのリスクがあるというような表現が多く、言い切らないのが不信につながる。
    • 技術論が苦手な人は拒絶してしまうのではないか。
    • 私はGMOをいいと思うので、どうして受け入れられないのかと思う→職業のように反対運動をしている人は仕方ないが、集まる人には情報が入ると自分から考えようとする人もいる。自分で考え選ぼうと思って頂きたい。無用な心配をする必要はないと思う。
    • 遺伝子組換えというのはすごく大変な事だろうと感じている→見て体験して頂きたい。
    • 日本人はゼロリスク好き。実際には遺伝子組換え作物の試験栽培もできない状況。事実上、試験栽培ができないガイドラインをなんとかしてほしい。
    • GMOは今後、自然に浸透していくだろうと思う。次に来る問題は何だろうか→今は生産性をあげるものだけだが、生活習慣病予防のような遺伝子組換え食品がでてきたときに、今までの実質同等が使えなくなり、評価方法をどうするのか。国際的な議論をしないといけないだろう。
    • GMOの受容は時間の問題で、ころっと人々の心は変わるだろう。GMOがいいかどうかわからないという人はで関心がないだけ。必要になれば関心は生まれる。
    • 10年で遺伝子組換え食品への市民の対応は変化していると思う。日本は平和ボケしてきたが、遺伝子組換え食品も買わざるを得ないという気持ちの人が増えてきている。
    • 説明は理解したが、それでも嫌だという人には科学的説明は難しいと思う。だから、尋ねられた時にいつでも説明できる体制を整えておくのがいい。
    • マーカー育種の方が受け入れられやすいのではないか。マーカー育種とは植物のゲノム情報を利用し、交配などの遺伝子組換え以外の方法で効率的に品種改良をすること。
    私達の食物とこれから
    • 先進国で栽培していないのは日本くらい→日本人の農業離れがひどくこれは大問題。
    • 環境までは理解できなくても、皆食べているのだから、食物を知らないのはいけないことだと思う。
    • 安全性について理解できず、わかろうとしない人もいるが、自分の食物がどこから来るのかだけは知るべき。
    • 食品や農作物を説明する説明資料をみても、「私達の食べ物」に関する記述は少ない。食物全般について一般市民が知る必要がある。
    • 食べ物で信用を失うと会社のダメージは大きく倒産してしまう。だから食品メーカーは遺伝子組換え原料に手を出さないのだろう。
    • 今は食糧サミットでチャンス。食品は経済原則で動いている。わかりやすい説明が必要→種子会社は、生産者だけでなく食品メーカーとも一緒にやっていかなければならない。
    遺伝子組換え技術のリスク
    • 医薬品で考えると、サリドマイド薬害はマウスでは問題なかったが、霊長類以上で発生した。今の基準ではマウス試験でいいとサリドマイドもパスしてしまう。薬に完全な安全はない。遺伝子組換えのリスクはどう考えればいいのだろうか。
    • 薬や添加物は化学物質で、遺伝子組換えとはリスクの種類が違う。
    • 遺伝子組換え食品で動物実験がされないのは、たんぱく質の一次構造の比較、分解性が高いことがわかったから。消化性が悪い物がでれば動物試験を求められるだろう。
    • 不安として最後に残るのはアレルギーと環境影響だと思う。作付け面積増加の中で蓄積されたアレルギー関連のデータは説明に利用できないのか→アレルギー誘発についての評価は蓄積されている。日本は特に厳しい。交雑性に関するデータの方は農業推進機構で蓄積されている。
    その他
    • 種間交雑できない植物の品種改良が行えるので、遺伝子組換え技術は優れていることは確か。
    • 役所のリスク管理は役所の責任にならないように努力しているように見えてしまう。
    • 日本で組換えを栽培することはビジネスになるのか?→日本の農業者への補助金は、法律により日本産の品種を栽培したときだけに限定されている。これでは、遺伝子組換え作物を栽培したいと思っても生産者は作れない。
    • 大学では栽培許認可手続きが大変で苦労している。手続き作業の支援が必要だと思った。民間は組換えの実験はできないが、せめて大学の組換え植物栽培申請のお手伝いがあればいいのではないか。


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