くらしとバイオプラザ21

くらしとバイオニュース

ホーム
What's New

くらしとバイオニュース

バイオイベント情報

やさしいバイオ

リンク集

バイオカフェ

くらしとバイオプラザ21とは


バイオカフェレポート「うま味発見100年」

2008年10月16日(木)、バイオジャパン2008展示場にてバイオカフェを開きました。
話は味の素(株) 品質保証部長の木村毅さんによる「うま味発見100年」でした。始まりは北政扶美子さんによるインディアンアルパという種類のハープのソロ演奏がありました。

ハープの演奏 木村さんのお話


お話の概要

歴史
100年前、池田菊苗博士がうま味を発見し、1908年、新しい調味料の特許が受理されたので、うま味の発見は1908年だが、実は私達はうま味発見の前からこの味をずっと感じていた。
基本味はそれまで、甘味、苦い、塩味、酸味の4つだったが、うま味が加わり5味になった。うま味はトマト、アスパラガス、肉汁等にある味だが、人々に新しい基本味としてはなかなか受容されなかった。

うま味の有用性
母乳の中のアミノ酸
私達が始めて出会うアミノ酸は母乳にある。母乳にはグルタミン酸が多く含まれているが、ヒト、チンパンジーの母乳のグルタミン酸含有量はとくに高い。牛乳のグルタミン酸もそんなに高くない(天然のグルタミン酸も、微生物が作っている工業的なグルタミン酸も分析しても区別がつかない)。
・トマトやチーズのうま味であるアミノ酸
トマト、チーズ、生ハムは熟成するにつれてグルタミン酸が高まることがわかっている。
醤油と魚醤の中のアミノ酸
醤油と魚醤はともにグルタミン酸が高い。日本には「しょっつる」、「いしり」と呼ばれる魚醤があり、東南アジアには、ナンプラー、ニョクマムなどがよく使われている。
魚醤は古代ギリシャ・ローマでも好まれ使われていたことが、紀元前6世紀、魚醤工場の遺跡からわかった。魚醤工場の遺跡は、地中海沿岸ばかりでなくローマ帝国全体に広がっており、大きな産業だったことがわかる
地中海でとれた魚は日持ちしないが、魚醤にすると遠くまで運べた。液体で流通にたえたものが、ワイン、魚醤、オリーブオイルともいえる。アンフォラという魚醤を容れた焼き物には、現代と同じで生産地、生産者が表示されている。表示から魚醤にもグレードがあったらしいことがわかる(一番しぼりのような高級品は「花」と呼ばれていた)。

うま味と味覚
人に味覚の受容体があるということは、うま味が発見される以前から私達はうま味を感じていたことになる。
グルタミン酸はドイツの化学者が小麦グルテンから見つけたことに由来するが、小麦に多いのはグルタミンであってグルタミン酸ではなかった。グルタミンを加水分解するとグルタミン酸になる。
グルタミン酸ナトリウムを鈴木商店(味の素(株) の前身)が1909年に商品化。
グルタミン酸を小麦や脱脂ダイズなどから硫酸で加水分解して、工業的に得ていた。欧米では、テンサイの絞り汁からグルタミン酸を製造していた。
戦後まもなく、グルタミン酸の科学シンポジウムを米軍が主催した背景には、日本軍の携帯食が美味しかったことに由来すると思われる。
1956年に、協和発酵(株) が発酵法でのアミノ酸の製造に成功した。それから、アミノ酸は発酵法で製造されるようになった。

3つのうま味
グルタミン酸は1908年に池田菊苗が昆布から、イノシン酸は1913年に小玉新太郎がかつおぶしから、干しシイタケのうま味成分であるグアニル酸(核酸)は1956年に国中明が発見。このとき、グルタミン酸とグアニル酸の相乗効果によってうま味をより強く感じることがわかった。
うま味が新しい基本味であることはなかなか受け容れられなかった。今年はうま味発見100年だが、私達にはうま味の国際認知には100年近くかかったという思いがある。
基本味であることは、うま味の官能評価結果が4基本味と重ならないことから証明されている。
また、うま味の受容体についてわかってきている。現在、うまみの受容体の候補は4つぐらいある。

うま味のこれから〜うま味の新しい有用性
うま味の受容体は舌の味蕾だけでなく、胃や腸にもあるらしいことがわかってきている。胃や腸から脳に情報が届き、粘液の分泌促進などにより消化を助けたり、胃を守ったりできるらしい。このことから、うま味を(1)高齢者の低栄養改善などのQOL改善、(2)ピロリ菌感染による胃炎の改善、(3)解熱鎮痛剤による胃へのダメージの改善などに応用できそうだ。
消化へのうま味の関与は今、研究中。
味が味覚だけでなく消化にも寄与するならば、病院食を美味しくことの意味も深まる。
私達は、呈味物質が味覚受容体に結合すると味を感じる。2000年に入り、受容体がわかってきた。うま味受容体としては、舌にあるT1R1/T1R3の他にmGluR4、mGluR1があることが報告されている。
食を科学的に解明するために、味覚受容体の研究、天然物の解析、ヒト官能測定技術を続けていきたい。そして、当社は世界の食文化、特に和食文化に貢献したい。


会場風景1 会場風景2


話し合い     
  • は参加者、→はスピーカーの発言
    • QOL(生活の質)の改善について。末期ガン患者が食べられない時に、「胃に美味しさを感じさせる」ことにより食べられるようになりますか?→「唾液がでない」、「胃から胸にあがったような感じがして食べられない」等の理由で患者は食べられなくなるが「胃の受容体」とうまくつながれば食べられるようになるかもしれない。現在研究中。
    • 食糧不足の中、御社は自給率向上への貢献策を考えているか?→「食べ物を残さないようにする」ことが大事。そのためには「美味しく食べられるようにすること」がポイント。今、日本では自給率が低いにも拘らず、かなり食べ物を捨てている。生産だけの問題ではなく、残さず食べるようにすることが大事だと思う。
    • 「魚醤」は現在はあまり生産されていないようだが何故普及していないだろうか?→平安時代はかなり使われていた。醤油は鎌倉・室町時代から普及した。魚醤はギリシャ・ローマ時代から続いているが何故ヨーロッパでなくなったか謎が多い。作り方は今アジアで作っている方法と同じ。私個人は、東南アジアの魚醤が、ギリシャ・ローマから伝来して残ったのではないかと思っている。
    • うま味の相乗効果のメカニズムは?→構造がわかってきたうま味受容体ではちょうど食虫植物の花のような構造になっており、まず始めにグルタミン酸が入り、その上にイノシン酸が入り、グルタミン酸が出れなくなる。それで、うま味が強くなるのではないかと言われている。
    • 「アミノ酸」にはいろいろあるが、全部うま味成分があるのか?→うま味があるのはグルタミン酸、アスパラギン酸など酸の系統のアミノ酸のみ。アラニンなど、甘味があるものもある。
    • うま味を持つアミノ酸、甘味を持つアミノ酸で構造的な違いはあるのか?→甘み受容体との関係で、構造、形に関係があると思う。
    • 甘味のある物質はどうやって見つかったのか→昔は偶然発見したが、現在はレセプターがだいぶ分かってきたので、逆にレセプターから探索できる。今後はいろいろ出てくると思う。
    • 薬は取り過ぎると副作用があるが、アミノ酸も取り過ぎると副作用があるか→40年ほど前に「過剰投与」の実験が実施され問題になったことがあった。それはあり得ないほど大量投与したから。「調味料」としてとる場合は全く問題はない。
    • うま味の受容体の遺伝子解析はしていないようだが、国民によってうま味を感じる差はあるか?→ヒトの味覚の閾値をはかる研究はある。日本人でも欧米人もあまり変わらないが、その国の文化の中に「うま味」を表現する言葉がないと、感じていてもそれを表すことができない。トレーニング、文化的素養、言葉が味の表現の差になっていると思われる。例えばsavo(u)ryという言葉には、うま味に近い意味(英国)とそれに甘味が加わった味という意味(米国)があり、うま味を英国人はsavouryというが、米国人はsavoryはうま味と違うという。


    copyright © 2008 Life Bio Plaza 21 all rights reserved.
    アンケート投票 ご意見・お問い合せ