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バイオカフェレポート「とっても体によい柿の話」

2008年10月15日(水)、バイオジャパン2008においてバイオカフェを開きました。お話は、島根大学生物資源科学部 板村裕之先生による「とっても体によい柿の話」でした。初めに北政扶美子さんと栗原尚子さんによるハープとバイオリンの演奏がありました。

ハープとバイオリンの演奏 板村先生のお話

お話の概要

柿の成熟と軟化の研究をしているが、今日は、柿の種類と渋の仕組みなどについて話す。

柿の種類
島根大学では50-60品種の柿を保存している。柿には甘いものや渋いものがあるが、正確には次の4種類がある。

  • 完全甘柿:種は8個、種が入らなくても渋が抜ける 例)富有柿
  • 不完全甘柿:種が入ったところだけ渋がぬけて褐斑が入る 例)禅寺丸(江戸時代に人気だった品種)、西村早生(岐阜産、甘柿だが後から渋柿になる)
  • 完全渋柿:渋がぬけない 例)清道柿(韓国に多い品種)
  • 不完全渋柿:種が入ると渋が抜け、褐斑が出る。不完全だが渋が抜け、種の周りだけ甘くなる 例)会津身不知

柿の甘さと渋味
私達が渋さを感じるのは舌の味蕾細胞のタンパク質と柿の可溶性タンニンが結合するから。これが、アセトアルデヒドによって不溶性タンニンに変わると渋くなくなる。
カキタンニンは4種類のカテキンがポリマーになったもので、分子量13,000-15,000。
大きなものとくっつきたがる。「長いものには巻かれろ」という感じ。例えば、タンパク質、セルロースに、カキタンニンに沢山ある水酸基(-OH)がよくくっつく。
ちなみにカテキンのうちエピガロカテキンガレート(EGCG)といわれるカテキンが、中でも最も機能性が高く、ガンに効く。EGCGを沢山持っているカキタンニンも制癌効果が高いことが知られている。

実験
塩化第二鉄の3価の鉄イオンと可溶性タンニンが反応するので、塩化第二鉄を含ませたろ紙に柿の切り口をあてると、タンニンがプリントされて青黒くなる。

いろいろな柿 参加者のお手伝いを得て、柿の実験

渋とその利用
渋はいつできるのかはわからないが、柿のかなり若いときにできるらしい。タンパク質と結合させて測定すると、花が満開のころにはできていることがわかった。
柿の渋ぬき(脱渋;だつじゅう)は、炭酸ガスまたはドライアイス、あるいはアルコールを用いて行う。密閉容器の中で炭酸ガスを処理すると、果実は酸素のない状態に置かれるため、無気呼吸を行う。すなわち、呼吸基質のブドウ糖はTCAサイクルにはいらずに、その手前の物質のピルビン酸からアセトアルデヒドやエチルアルコールができる。
このアセトアルデヒドとカキタンニンが縮重合することで、より大きな分子となって不溶性タンニンとなる。不溶性タンニンは唾液に溶けないので、渋味を感じなくなる。
渋の大きな分子にくっつく性質を利用して、①清酒のおりおとし、②紙の補強(セルロースと結合)、③さび止め、④携帯電話基盤の金の回収(柿の皮を硫酸で処理して加熱したものが、金と特異的に結合する)に利用できる。
ヒトの健康に対しては、①血圧降下、②抗ウイルス、③抗癌作用、③悪酔い防止などの働きがある。分子量13000のカキタンニンは血中に入らないため、②、③については、口から摂取しても効果があるかどうかわからない。①、③については経口摂取時の効果が証明されており、消化器官の中で特異な作用をしているとも考えられる。なお、脱渋した柿はカキタンニンが不溶性になっているが、胃酸で切られてもとの可溶性に戻る部分もあり、機能性に寄与していると思われる。

渋の働き
渋とアルコールの分解に関する研究報告がある。
ウサギの場合:柿をあらかじめ投与すると、アルコール摂取後の血中アルコールやアセトアルデヒド濃度を下げることがわかっている。ヒトならビール大ビン2本、日本酒2合の相当量で試験をした。
ネズミの場合:ウサギと同じ結果が得られた。
ヒトの場合:あらかじめ柿を1個(200g)食べておいて、日本酒を半合飲んでから、血中のアセトアルデヒドとアルコール濃度を測定した(インフォームドコンセントをとってあります)。血中アルコール濃度が、200ppm(爽快期)から100ppmに半減することがわかった。
これは摂取したタンニンが胃の中のアルコールと結合するからだと思われる。また、柿果実に多く含まれるビタミンの一種ナイアシンがアセトアルデヒドを分解するのを促すとも言われる。
なお、アルコールは繊維によく結合するので、りんごも効くが、血中濃度には柿ほど影響しない。
また、アルコールはセロトニン(やるきを出させるホルモン)を分解し、倦怠感などが感じられるが、アルコールの血中濃度を柿で抑えると、セロトニンが分解されにくい。
「晩夕飲力」は柿のタンニンを利用した飲料。お酒に弱い人は、一次会の前に、強い人は二次会との間に試してみてください。


質疑応答 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 「完全シブ柿」でも人工的にシブを抜くことができますか? →炭酸ガスでシブを抜いて売っている。柿は25万トンくらい生産されているが13万トンは渋柿で、果肉が緻密。富有柿は木の上で渋が抜け、肉質が荒粗くシャリシャリ感がある。
    • 富有柿には黒い部分が見当たらないようだが? →褐斑は不完全甘柿と不完全渋柿に出る。これらは種からアセトアルデヒドが果肉中に出て、その結果、カキタンニンがアセトアルデヒドと縮重合して不溶性となったものが、酸化されて黒く褐斑を形成しいわゆるゴマとなる。ところが、富有柿は完全甘柿であり種からアセトアルデヒドが出る前に渋が抜けてしまう。これは、カキタンニンが入っている液胞膜の穴がふさがれ、酸素が遮断されるために可溶性タンニンが固化して不溶性となるためと考えられる。このような形で不溶性となったものは、酸素と触れる機会が少ないため、酸化されにくく、褐斑も出にくいと考えられる。
    • 甘柿のタンニンは水に溶けないので、渋みがないということだが、癌に効くのは渋柿ということになるのか?→渋そのものはガンに効くが、不溶化してしまうと効果がないので、渋柿の方が癌には効果が高い。しかし、渋柿の可溶性タンニンは分子量が大きいため血中に移行しないので、柿を食べて癌に直接効果があるわけではない。今後の研究が待たれる。
    • 「高血圧に良い」という柿酢の作り方を教えてほしい →スライスした柿を酢につけておく。柿は熟していてもよい。
    • 柿を食べ過ぎると便秘になるのですか? →食べ過ぎるとなりますが、柿は体によく韓国では干し柿の皮を「牛に食べさせると良い牛になる」と言われているくらい、柿を無駄なく使いつくしている。
    • 体を冷やす作用があるということだが、「熱さまし」になりますか?→身体を冷やす作用はあることが証明されているが、解熱効果ありといえるかどうかは、不明です。
    • 「タンニン」が水溶性から不溶性になるときのメカニズムは? →プラスティック(ホルムアルデヒド樹脂)を作る時工程と同じメカニズムです。つまり、タンニンの水酸基(OH)にアセトアルデヒドが結合し、そこから水がとれる(縮合)ことで、タンニンどおしが結合し、それらが次々と結合し長く大きくなる(重合)ことで、不溶化する。