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市民参加型展示ほ場におけるダイズの収穫

2008年10月25日(土)、(独)農業生物資源研究所で、市民参加型展示ほ場で非組換えダイズの収穫見学会が開かれました。初めに、自分達で除草したほ場を確認して、除草作業がダイズの生育にどのような影響を与えるかを確認した後で、脱穀作業の実演を見学しました。
昼食後、遺伝子組換え技術や分子生物学の研究に欠かせない技術であるPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)のお話をうかがったり、日本の農業や遺伝子組換え技術について話し合いをしたりしました。

ほ場見学

私達が除草したほ場は、雑草もダイズも半分枯れ、前夜の雨にぬれていました。日の当たる外周のダイズには実が入っていましたが、畑の内側のダイズでは数株に1株しか実がついたものはありませんでした。これらはついていてもせいぜい数個のさやがあるだけで、それも指でつまむとほとんどがペシャンコになっていました。自分が担当した5m2平米のほ場から収穫しても、ダイズは20粒しかとれなかったでしょう。後で伺った羽鹿先生のお話で取れなかった理由が分かりましたが、農業は本当に難しいものだと思いました。

3ヶ月ぶりのダイズ畑 無除草区のダイズ
慣行除草区のダイズ 徹底除草区のダイズ

刈り取り乾燥させたダイズを脱穀機にかけると、さやのとれたダイズの実が収穫できます。この時点ではダイズの茎の破片がたくさん混じっていますので、これが製品になるまでには、選別作業が数回行われます。


脱穀機にかける 脱穀されたダイズを細かい葉や茎と分ける

ダイズの研究をされている羽鹿牧太先生(作物研究所)が参加者の質問に答えられました。
質問1 さやが膨らんでいても、指でおすとつぶれてしまうのはなぜか→カメムシが吸汁してしまい実が入らない。さらに、かびて腐ってしまう。今年の畑は虫害がひどかった。
質問2 殺虫剤は使ったのか→殺菌剤、殺虫剤を3回散布した。カメムシは吸汁して数日で移動していく。殺虫剤には、その場にいる虫を殺して残存しない薬剤と、浸透して殺虫する薬剤(脱皮を阻害する)がある。
質問3 外周は実が入っているが、これは日照のせいか→外周は日当たりがいいので良く育つ。内側は、雑草が生えると日照をとられてしまい成長はよくなくなる。しかし、広い畑だと内側に植えたものは虫から助かるので、外周のダイズを犠牲にして内側のダイズを収穫する方法もある。
質問4 連作障害はあるのか→ダイズには連作障害があり、稲やムギと組み合わせて3年に1度、ダイズを栽培するようにする

お話「DNAの塩基配列の決定法とPCR」
              作物研究所 大島正弘先生

DNAの塩基配列の決め方
遺伝子DNAの塩基配列が分かると生物の様々な性質が分かるようになる。日本はイネの全遺伝子の塩基配列の解明に大きな貢献をした。
DNAはPCR(ポリメラーゼ連鎖反応)という実験技術で大量に増やすことが出来る。これは増やしたい部分を鋳型にして新しいコピーを作り、それをまた鋳型にして増やす、という操作を溶液の温度を上下させることによって行う方法で、増えたDNAは寒天やアクリルアミドなどを固めたゲルに入れて電気をかけることで、大きさによって分けることができる。
塩基配列は、PCR反応を行う際にダイデオキシヌクレオチドという人工の塩基に別々の色素をつけたものを反応に加えておくことで、それぞれの塩基の場所でPCR反応がストップし、それぞれの色の付いたバンドが見えることを利用して決定する。

品種改良への応用(マーカー育種
おいしいお米は収穫して食べてみないとわからない。ある病気に強いかどうかは、病気にかからせてみないと分からない。お米をおいしくする遺伝子が入っているかどうか、病気に強い遺伝子が入っているかどうかが簡単に分かれば品種改良(育種)を効率的に進めることが出来る。PCRを使って目印になるような遺伝子を分析し、育種を進めるやり方を「マーカー育種」といい、育種に大きく貢献している。
質問1:プライマーはどうやって作るのか→目的の遺伝子配列がわかっていると、人工的に合成できる。プライマーは機械を使って比較的簡単作れる。
質問2:病気に強い遺伝子を見つけるのが大変だと思うが→ある病気にかかりにくい遺伝子の大体の位置が育種研究によってわかっているので、そのあたりの塩基配列を調べる。それから、もうすこし正確な配列にあたりをつけて、詳しい解析を行い、確認をする必要がある。
質問3:ねらったものが確かに増えたかどうかはどうしてわかるのか→プライマーの設定が正しくないと、うまく増えないので、そんなときはもう一度プライマーを設計し直すこともある。


ワークショップ

田の字法という手法を使って、参加者の意見の吸い上げを行いました。参加者は3つグループに分かれて、話し合い、皆で「田の字」を完成させました。 田の字法は、現在よいと思うところと悪いと思うところ、将来よいと思うところと悪いと思うところを、漢字の田の字に記入しながら、全員の田の字を話し合ってまとめます。田の字の結果は図1のとおりです。

会場参加者でまとめた田の字(農業生物資源研究所資料より)

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

  • 農業、遺伝子組換えについて考えていること、感じていること
    • 「農業は手間をかければかけるほどおいしいものができる」と教えている人達がいる。そのような意見を持っている人にどのように伝えたらよいか悩む。
    • 農業は現在の栽培状況を日々(生産者が)観察することが大切。
    • 「観察」そのものが現在の小学生にはできない。「農業の現状」と「日々の生活」が離れすぎている。
    • 「いろいろな使い方ができる」という意味で「小回りの利く遺伝子組換え作物」が必要だと思っている。
    • 「スギ花粉症緩和米」の研究・開発が実質的にはストップして、とてもがっかりした。

    一般の方に遺伝子組換えに対する不安感はあるのか?その場合どのような理解促進活動をすれば良いと思うか?
    • メディア、専門家が一般の人に分かる言葉で「易しく」「繰り返し」伝えて貰うことが必要。
    • メディアの報道の仕方にも問題があるのではないか。
    • アメリカでも一般の人はGMについてあまり理解していない。別に皆が理解したから栽培が進んだわけではない。アメリカでは民間企業主導で進めてきた。
    • 日本でも民間企業がやれば理解が進むのではないか
    • 「遺伝子組換え」により「確実にどのようなメリットがあるか」具体的に生産者に伝えて欲しい。
    • アメリカの農家はメリットを実感しているので不安を持っていない。
    • アメリカでは技術が先行し、メリットが知られたから進んだのではないかと思う。
    • 1回やってみてメリットを感じた農家が増えていった。反対運動は遺伝子組換え作物栽培を少しずつ遅れさせるようになった。
    • バイオでできた物がない状況では議論にもならない。頭だけで議論してもダメではないか。国産でなくてもいいので「物」が流通する道を残すべきではないか?
    • 現在、非組換え原料の確保に苦労しているため「不使用表示」は激減してきており「不分別」になってきている。

    学校教育ではどのように扱われているのか
    • 内閣府の調査によると、遺伝子組換え作物について理科の先生はポジティブな発言をするが、家庭科と社会の先生はネガティブな話をするようだ。教師に「どのような情報を伝えたらよいか」、現場の先生の話を聞きたい。
    • 理科の教科書には遺伝子組換えの話はでてこない。
    • 遺伝子組換え技術がいかに農家にメリットを与えるかが重要だが、国民の理解が得られなければ農家は使えない。国家レベルでの判断を是非して欲しい。

    まとめ

    後日、私達が除草した畑から収穫された大豆の量を測定した報告がありました。23区画(5m2/区画)のうち、600g以上収穫できた人が2名。300-450gが最も多く10名でした。私の収穫量は5粒かと思いましたが、300g以上あったそうです。図2は参加者の収穫量です。
    農家では10a栽培していたらと想定して、日米の農家の平均収穫量と比べてみたのが、図3です。


    図2 参加者の収穫量(農業生物資源研究所資料より)
    図3 日米の農家の平均収穫量と私達の収穫量の比較(農業生物資源研究所資料より)