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談話会レポート「今こそ考えよう、私達の食と日本の農業」

 2008年11月7日(金)、くらしとバイオプラザ21事務局会議室において第30回談話会を開きました。京都大学間藤徹先生をコーディネーターとしてお迎えし、参加者の話合いを中心に行いました。

和やかな会場 間藤先生のお話

はじめに    間藤 徹 先生 

   私の専門は化学肥料だが、堆肥についても研究してきた。堆肥は窒素含量が低く、堆肥を使ったらおいしくなる、環境にやさしいというのは正しくないと考えている。化学肥料の窒素は46%だが、堆肥は1%。堆肥信仰は強いが、効き方が一定でないので堆肥は使い方が難しい。
 息子に継がせようと考えるほどに経営がうまくいっている農家もある。京都には京ナスビをひとつ1000円で北京で売っていこうとするような意欲的な農家もある。彼らは苗作りには、ニシンカス、イワシカスを使い、照りを出すにはニシンカスを使うなどのノウハウを持っている。これらは、京都の錦市場で1個500円で売れている。私もこのごろ「売れる農業」を見てみたいという思いがある。
 海外の農業については、ラオスで焼畑以外の農業を導入するJICAのプロジェクトに10年前に参加した。ラオスには各国のNGOが多く入っていて、マンゴー栽培などによって焼畑をやめさせようとしていたが、お茶もマンゴもラオスに市場はなく、NGOが帰ると焼畑が再開された。私達は、谷の水田を増強し水稲生産力をあげて、斜面の焼畑をやめさせようとした。土がよいとよく収穫できたが、自分達が帰ると陸稲の方がおいしいといって、陸稲に肥料まいて作っていた。このような経験から、その土地の人の考え方がわからないと農業指導はできないことを痛感。分析だけではだめ。どこまでやって何ができるかまでをパッケージ化した農業が大事!生産者が喜び、人も育てられることが大事!
そこで、京大の農薬、肥料、育種の3つの研究室で「ちゃんと農業ができる」学生を育てるような連携を始めた。


話題提供

 ここでモノ申す人(事前に発表を希望した方)おふたりのお話がありました。

「GMOに関わるリスコミ再挑戦」 横山勉さん
世界で一番大きい問題は人口増加だが、現在の援助には問題があると思う。日本では農業従事者の高齢化と低収入が深刻で、大規模化して低コスト化を図る必要がある。具体的には、高い付加価値化、流通の工夫を行い、不足分は農家の収入補填が必要ではないか。
 選択肢のひとつであるGMOについてはリスクコミュニケーションが重要。現在は耳を傾ける市民が増えてきているので、GMOの見える化(不使用表示の廃止、表示ルールの見直し、遺伝子組換え飼料を食べている牛は健康だ!と調査・発表する、収量向上のために必要なGM技術をアピールするなど)が必要。
具体的には、①休耕田でGMO飼料米を栽培し、作業を軽減し、水田機能を保全したり、②第二世代(消費者にメリットが見える)GMO栽培を実施したりなどを行う。

「LCA(Life Cycle Assessment)の導入」 刑部謙一さん
 原料を作り、使い、捨てるまでの環境影響の評価をLCA(ライフサイクルアセスメント)という。
2つのバイオ製品LCAの表示例を紹介する
 ネーチャーワークス(NW社):バーチャートを用いての炭酸ガス負荷比較,製造プロセスを中心にした説明は分かり易い.NW社は、ポリ乳酸の研究を続け、いろいろなプラスチックを比較し、環境負荷がマイナスになるまでに改良した。
 BASFは、「エコ効率分析」を提案している.作って,使って,捨てるライフサイクル全体に網をかけた、「エコ効率マップ」を提案している.環境負荷と金銭的価値を縦軸、横軸にとって評価、比較している。これは異分野でも利用できると思う。
このような観点でバイオマスエネルギーを評価してみると、採算はあうのか、地産地消がいいのか、セルロースのバイオマスの実現性は、バイオエタノールは本当に環境に優しいのか、などの疑問が出てくる。バイオエタノールを作れば作るほど、加工段階で二酸化炭素が増えてしまう懸念がある。このように考えてくると、好環境性と言えるのはブラジルのエタノールだけではないか。


会場風景1 会場風景2


話し合い 

遺伝子組換え技術の安全性をどうアピールすればいいのか
  • 遺伝子組換え飼料を食べている牛の健康をアピールするというのはいいアイディア。と殺場で牛の健康は調べているはずで、このデータが使えるのではないか。
  • 遺伝子組換え食品を積極的に食べる人を募集してキャンペーンをしてはどうか。私達は老夫婦なので協力してもいい。
  • 市民参加型イベントで遺伝子組換えスイートコーンを食べる企画はどうだろうか。
  • 現地で食べるパフォーマンスは、結構効果がある。農林水産省の食堂で遺伝子組換えダイズの納豆を置こうとしたが高くてできなかった。
  • BSEの時のように農林水産大臣が食べて見せるような一瞬のパフォーマンスではだめ。

リスクコミュニケーションはどうあるべきか。
  • GM作物は作物ごとのリスクを市民にきちんと知らせるべき
  • リスコミは必要なのだろうか。GM作物から作られた油や飼料を国民はすでに受容している。国がきちんと説明すれば、国民はもっとすっきり受容するのではないか。
  • 日本人は知らないだけで受容してはいないと思う。GMOを食べていることを知ってもらうことが第一歩。いくら反対しても受容せざると得なくなって実態を知ると驚くだろう。聞く耳が備わった時に、今まで問題が起きていなかったことを伝えるのがいい。理解して受容するステップが大事。
  • これだけ多くのGMOを使っているのだから受容するはずだという考え方はよくない。市民と農家にGMの選択肢を残す仕組みづくりが大事。
  • 今、行われているリスコミは基調講演、パネルディスカッション、数人の会場の質問を受け「一丁あがり」という感じで本当のコミュニケーションとは思えない。
  • リスクコミュニケーションの活動をずっと続けることが大事
  • 農業改良普及員を積極的に啓発したらどうか。

遺伝子組換え食品の表示について
  • 一手段としてリスクコミュニケーションは重要。GMの安全・危険は普通の人には最後までは理解できない。それでも、市民が最終的な選択ができるような表示が大事。表示の正しい理解のためのリスコミが大事。
  • 表示制度が不完全 整理が大事
  • 表示について、安全なものに表示するのはおかしいと思って、表示を検討していた当時、表示は不要だと思っていたが、今になってみると、不分別表示の食品があふれるような状況のほうがよかったのではないか、とも思う。

消費者の気持ちと実際の行動
  • アンケートに現れた回答と消費者行動は異なるのはよくあること。GMはない状態でどうですかと聞きまわっている状態。添加物は嫌だけどないと困るよね
  • 国民の理解不足で進まないという言い方、そのせいにしてはいけない。
  • 誰でも人は自分の専門はわかるが、隣の分野になるとわからなくなってしまう。数時間のリスコミで理解はできない。情報への信頼は人への信頼に依存しており、農林水産省の食堂では組換え作物を毎日食べているというような活動が大事。
  • コンセンサス会議参加者を募集すると、2割が絶対反対、8割は不安な人。普通の人の声を聞くのは難しい。公聴会に来る人は何かをいいたい人だけ。
  • 日本人は冷静に判断しないので、風評被害に対応する方法がない。

日本の農家の状況
  • 農家はGMについて何も知らない。小規模の農家では日常の作業で手一杯で新技術を勉強する時間などない。政府が大丈夫といわなければ農家はわからないのが普通。
  • 売れるかどうか、作業軽減につながるかどうかが農家の選択につながるのだろう。
  • 日本のダイズの生産能力は低く、10aで250Kg、アメリカは500Kg収穫する技術がある。日本の技術では低く、除草剤耐性ダイズを使っても収量では効果が余り出ないだろう。雑草のせいではない。日本で除草剤耐性ダイズが500Kgとれても世界と競争できない。
  • Btコーンを日本で栽培して飼料にするより、輸入した方が安い
  • 多収米は窒素肥料を入れないと多くできない。肥料をいれないで済む遺伝子組換え作物なら日本でも有効だと思う。日本の現状ではGMのニーズがない。

これからの日本の農業
  • ダイズの休耕田を利用できないか。組換えスイートコーンなら殺虫剤を使わないですむ。
  • 組換えコーンで海外と競争できるだろうか。
  • 飼料米を植えると、転作奨励金などの助成がついて収入がよくなってしまい、単収をあげようという意欲が減退してしまう。10アールから1.5トンの米をとりたいが、転作奨励金などで1.5トン分の収入があると、300Kgの収量で満足してしまう。
  • 小さい土地で自給率をあげろといっても農水の予算内では何ができるのか。成功例の紹介だけでなく、中産階級に選ばれる技術が必要
  • これからの農業は農薬、肥料、育種の工夫から多収になることがキーだと思う。多収が生産者のモチベーションになれば、転作奨励金なしで、農家を継ぎたい者も出てくるだろう。そうすると、低地で多収になるので、山を開墾しないですみ、山の自然を守れるようになる
  • 最終的には、GMOに関心を持っている人もいるはず。生産者になろうとする学生を育てたい。実際には京大農学部に有機賛成という学生が来て考えさせられる。

日本の土壌のカドミウム
  • WHO FAOのカドミウム基準は0.04ppm、日本でも0.2ppm。WHOの規準を使うと、日本の4%が違反になり、0.1ppmになると2割がひっかかる 
  • 国際基準は下がりつつあるが、日本は下げるのに反対している、
  • イタイイタイ病は飲み水と米からカドミウムが体内に入って起こった。タンパク質と一緒に食べるとカドミウムはタンパク質を結合して体外に出てしまう。当時は米と漬物の貧栄養でタンパク質が不足していたのでイタイイタイ病が発生した。
  • カドミフリー米の研究はいいが、草にカドミを集めるのはどうか。
  • ファイトレメディエーションといって、汚染物質を植物で集める研究があり、農林水産省が予算をつけている。兵庫農試は植物でカドミウムを抜くのに30年かかるというデータを出した。新日鉄の溶鉱炉で稲を機械で刈り取って燃やしている。
  • 日本ではカドミウムフリーの遺伝子組換え米を作ったら、実際にカドミウムで困っている農家にニーズがあるのではないか。カドミウムを含まないコシヒカリの研究が農林水産省で7本走っている。
  • カドミウム吸収のメカニズムは、亜鉛とカドミウムが一緒に動いて白米に入ってしまう。カドミウム汚染は日本に広く広がっている。

世界の中の日本
  • 日本だけ遅れていくのはなぜ?日本は技術が高かったはずなのに。
  • 日本は組換えに反対しながら大量に輸入し、競合国を喜ばせているだけ。日本の遺伝子組換えの研究は論文で終わっている。実用化における科学レベルは日本は低く、後進国になっている。資源のない国という危機感がない
  • 農業予算が日本は小さい。狭い日本で農水省の予算だけでは世界と競争できない。韓国は農業に手厚い保護を始めた。競争力のない日本は農業問題の外交でつまずくだろう。
  • 輸出で稼いでも日本は輸入には渋い。ねじれ国会で迎合型政治。アメリカみたいに「チェンジ」が必要。

農業と環境
  • 有機、無農薬がいいというのは実際的でない話で、農林水産省も有機推進法を作るなど、そういう見方を後押ししているように見える。現実的な政策が必要。
  • LCA(総合的な評価)で考える農業が大事。
  • コシヒカリは肥料を入れるとおいしくなくなるので、肥料をまかなくなった。中国は10aに300Kg窒素を入れて沢山収穫したいと思うが、日本はおいしくある程度できればいいので10aに5-6Kgの窒素をまく。地球を窒素で考えると、今の窒素量でまかなえる世界人口は20億人。46億人分は窒素肥料が養っているといえる。リサイクルによる窒素の循環という選択肢も遺伝子組換えの他にある。稲の窒素を吸収能力の向上させる、ポリ乳酸でコートした肥料をじわじわ効かせる、など肥料に関する選択肢もある。
  • 儲かる、多収量が農家のモチベーションの軸にならなくてはいけない。肥料を入れて、多収量にするがいいのか。多収だと山は山に返せるし、農家の作業場所が小さくてすむ
  • 日本人は食べるものがなくならないと、問題に気がつかないではないか。

後継者の問題
  • 私の故郷の台湾の実家は農家。子供の時に手伝ったが農家の仕事は大変。専業農家は経済的に大変だから、若い人はお嫁にはいきたがらない。
  • 農業に国民がどれだけ関心を持つかが重要。事件があるときだけ騒いでも、自給率が4割でも困っていないから、農業に無関心でいられる。
  • 若いときに農業という選択肢あったら、どうだろう。若い人が楽しく儲かるようにしなくてはならないと思う。
  • 農業は楽しいが食べていかれないから、後継者がいなくなる
  • 千葉など、うまくいっている農家には後継者がいる。一方、農村の窮屈さからお嫁にいきたくないという女性も少なくない。
  • 若い夫婦が研修しながら就農に失敗した。採算がとれず、農地法で親が土地を持っていないと参入できない仕組みになっている。
  • 法人経営で、花の栽培で若い人が参入・成功の例もある。

その他
  • 皆に冷静に考えてほしいと思う。やはりメディアの取り上げ方に問題あり。
  • 風評被害は日本のall or nothingの教育のせいではないか。100点以外はゼロ同然という教育がよくない。世の中はゼロ、100%はないということを教えないといけない。二項対立で問題があると、食品をすぐ捨てしまうのも教育の影響だと思う。