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バイオカフェレポート「農商工連携としての植物工場」

 2009年4月10日(金)、茅場町サン茶房で、バイオカフェを開きました。今回はちょうど100回めのバイオカフェでしたので、紅白饅頭をお配りして、参加者、関係者の皆様に感謝申し上げました。お話は、嶋村茂治さん(株式会社みらい)による「農商工連携としての植物工場」。初めに、南條由起さんが「春と愛」をテーマにし、バイオリンを演奏しました。
参考サイト http://www.2004-mirai.co.jp/

南條さんの演奏 嶋村さんのお話
100記念の紅白饅頭 会場風景

お話の概要

製造業が厳しい状況で、食品加工分野も産業として捉える動きが出てきている。食品は地産地消が望ましいこと等から、植物工場のワーキンググループが経済産業省と農林水産省の間にできるなど、植物工場が注目され、嬉しく思っている。

植物工場の種類
植物工場には次のような種類がある。
① 自然光利用型: ハウスの中で自然光を利用して行う。ロボットを使うと作業効率があがる
② 人工光併用型: ハウスで、自然光と人工光を利用して行う。
③ 人工光利用型: 密閉空間で太陽光を利用せずに行う。これが注目されている。私は園芸出身なので、①と②もできるが、③に特化している
ハード部分である植物工場の設備を工夫しても、植物はファジーだから小さい変動要因ですぐに変化してしまう。そこで、苗つくり、肥料の組成などを植物ごとに最適化させるソフト面での工夫に、私は注目した。農業のソフトをつめてきたのは農家だけで、研究者は関わってきておらず、この分野での科学的知見の蓄積が少なかった。

開発の背景
自給率はカロリーベースで4割を切り、耕作放棄地が増え、野菜輸入が増え日本の競争力が落ちている。根底には後継者問題(農家の収益は低く安定しない)が大きい。
植物工場は企業型経営に向いていて、注目されている。一方、海外からの輸入品に安全性の問題を感じている市民が多く、植物工場で国産を増やせれば喜ばれるはず。
消費者にはカロリーを気にする層と野菜を気にする層があり、この2層は重なっている。
メタボ防止のために野菜を多く取ろうとする人が増え、野菜市場は拡大中で縮小はしないだろう。例えば、野菜ジュースがよく売れ、厚生労働省も野菜摂取を推奨。
一方、従来の「野菜を買って下さい」だけでは、対応しきれなくなってきている。

「グリーンルーム」のはじまり
20坪の部屋の中で毎日300個のレタスがとれるシステムを開発した。これは国内で最も収量が高い仕組み。250坪ならば4500株できる。
肥料や二酸化炭素濃度はコンピューター制御し、二酸化炭素は買っている状況。
衛生面では、作業者は温水シャワーで体と髪を洗って中に入るほど気を使う。例えば、ハダニの雌が1匹入ると、生んだ雄と交尾して無限増殖してしまい大被害になる。

グリーンハウスの特徴

  • ハウス栽培では、夏冬の外気の差があったが、温度の差を完全になくせる。
  • 野菜の仕入れ原価は読めないが、安定生産することで、マイナスを吸収できる。
  • 空きスペースを利用できる。
  • 外食産業では野菜の味が一定であることも大事。この方法だと味もキープできる。
  • 農薬を使わず、雨の影響を受けない。
  • 狭い場所で労働効率を高くできる。
  • 洗浄工程の軽減(野菜を洗うための水や洗剤の量を減らせる)
  • 均一な品質(どの葉も同じように厚くできる)
  • 肥料と環境のコントロール(植物生理学を勉強しソフト面を改良し、光が少なく狭い場所で青々と生育するようにできた。高いランニングコストも回転率を高めて吸収できた)で品質の向上と維持

コスト削減の努力
  • 照明器具や機材は市販品の中で一番パフォーマンスがいいものを選びコスト減を図る。
  • 装置の組み立ても自社で行う。

農商工の壁をこえて
グリーンハウスでは、効率よく安定生産ができる。農業の工業化に成功!
次に農業に商業の枠組みを取り入れようと考えた。農業はサービス業と捉え、空き店舗を植物工場に改築しショップで作りながら販売。店頭でお客さんのニーズを聞いて、作物を選び、栽培・販売を行う(製造小売業の手法を採用)。初めはレタスなど3種類だったが、今はお客さんの要望でバジル、水菜など20種類を生産。
一般に野菜のトレーサビリティは難しいが、植物工場ならばトレーサビリティも可能。
外食では、レタスの5割以上が捨てられ、廃棄物代金もかかっていたが、廃棄する部分を小さくし、芯は小さく、葉が育つようにして廃棄量が減った。
  • 害虫のクレームは外食店にとって大きいダメージだが、植物工場だと害虫はいないので、ついていたというクレームの心配はない。
  • 植物工場の野菜のカリウム、マグネシウムなどは通常野菜の2倍から3倍と高栄養。

グリーンルームを採用している企業など
A社: 創業356年の紙卸業。府中市で11種類の野菜栽培(レタス、ロメイン、ハーブ等) 
B社: 創業27年の外食チェーン。山梨市で水菜を中心に栽培
上記の2社で、植物工場の野菜と通常の仕入れ野菜で値段は同じ。安全で好評。
南極昭和基地: 1日にレタス2株を生産できるように衛星回線を使ってデータ管理を行い、遠隔で支援。初めは心配だったが、順調にできている。

まとめ
生産者にとっては、
  • 農薬を使わないので土壌への負荷が少ない
  • 水資源の節約:水を効率よく使いまわせる
  • 作業が楽:いろいろな人、いろいろな業種が参入できる
  • 3K(きつい、汚い、危険)から3C(Clean、Clear、Cool)へ
  • 作物転換が簡単で、後継者も安心して取り組める
  • 安定収入(サラリーマン農業ができる)
都市型農業(サービス業の形の農業を実現できた)、フードマイレージゼロ(商店街の真ん中で栽培すれば輸送は不要)、新しい農業空間の創出(新しい栽培品目を増やしたり、ホテルの屋上で栽培したり)。
植物工場という新しい生産の仕方を生み出すのは「私の使命」だと思っている。




話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • どうして葉ものの芯を小さく、葉を大きくできたのか→品種改良。芯は指1本分の大きさで大きな葉がつく。畑では土の水から間接的に栄養をとるので、太い芯で吸い上げなければならない。植物工場では細い芯でも効率よく栄養を吸い上げる。
    • 野菜工場でできる野菜の種類。野菜工場にあわない種類は→太陽光線を使うトマト、イチゴなどと土で育つ根菜類、ごぼう、白ネギはあわない。経験では、二十日大根が限界。ハクサイやキャベツなどの重量モノも外の栽培がいい。ゴボウは出来るが、コストがあわない。
    • 水耕栽培のゴボウは香りがよいので、コストがあえば伸びるかもしれない→誰かが突破口を開けば、研究者も増え、伸びるだろう。
    • 窒素、リン、カリウムは成長期に合わせて与え方を工夫しているのですね→作物、時期で成分の比率を変える。植物の栄養もアミノ酸の桶理論と同じで有効な効き方がある。全ステージでの組成を分けて考えてから分類しなおす。
    • 家庭の主婦が買いやすくなるにはどうしたらいいか→百貨店からいいものとして売り始めると家庭の主婦に届くようになるかもしれないが、これでは市場に限界がある。業務用で使い、抵抗感がなくなった後に、主婦向けにするといいと思う。そして安くなるようにしたい。
    • スーパーマーケットでは買えないのか→一部は出ている。
    • 普通の人でも参入できるか→植物工場は装置を売って終わりでなく、データ管理をして研修をして、私たちと一体になってやっていけば必ず栽培できるようになる。
    • 働く時間はどのくらいか→1日8時間
    • グリーンハウスは暖かいのか→その作物がよく育つ温度にする。温度は低め。
    • 光源は→蛍光灯。育成ランプを試したがコスト割れした。蛍光灯の入れ替え、イニシャルコスト、ラニングコストを全部、トータルで考える。市販品で最も栽培に適したものを選び、肥料バランスなどで環境整備した。路地栽培と遜色がないか野菜を栽培している人にみてもらった。LEDの使用はコストだけの問題。蛍光灯より1円でも高かったら使えない。LEDは直流なので、交流からの制御を含めて開発してきている。蛍光灯との逆転は近いと思う。
    • イスラエルは植物工場が進んでいるそうだが→イスラエルは水がなく、政治的にも難しい環境だが、潅水システムは世界で一番優れており、野菜は高品質。中東の国で私たちのグリーンハウスに興味を持っているところがいくつかある。
    • 肥料は→肥料取締法で認められているものを使用。肥料はバランスで吸収度が変わる。露地栽培の肥料バランスは1970年代の研究で得られた値が今も使われていて、余り進んでいない。私は自分で研究・開発した
    • コストの内訳は→設備費、エネルギー、人件費が1対1対1。例えばロボット化して人件費が下がっても設備費とエネルギーは増える。そもそも産業ロボットは産業が成立しないことには始まらない。
    • コストをかけていいものを作るか、安くてよく売れるものを作るか→きれいで安全だが少し高いもの。薬効成分の付加が今後の方向性だと思う。一方、高いものはシェアに限界がある。薬効を持つ遺伝子組換え作物を植物工場で作れば交雑の心配はない。
    • 食薬区分の法規制が難しい→植物工場のものを特産品扱いしてほしいという声があるが、植物工場の業界ができていない。ツムラなどは生薬を植物工場で作り始めた。
    • 「植物工場3倍増」というニュースを見た。補助金がないとだめだろうか→さきほど紹介したふたつのうち1社は補助金なしでやっている。コスト、設備費が高すぎる。農林水産省では事業性があるものを補助するようだ。
    • 建築基準緩和など助成内容はお金だけでないと思うが→生産者、中間業者、末端でグループを構成できたらグループに補助金をつけるそうだ。建築基準法は自治体ごとに異なっていて、これも植物工場建設の足かせになる。4月6日に植物工場フォーラムがあり400名くらいが参加した。そこでは植物工場建設の場所の制限に明確なものはないが、自治体に預けるといわれていた。自治体が商業系とみなすか、農地転用と認めるのか。建築基準法の見直しまでは言及されていない。騒音などの地域への負荷はないが、植物工場の位置づけがまだ決まっていない。3年で100箇所建設が目標だそうだ。植物工場のレタスは全レタスの0.6%しかない。就農者の平均年齢は65歳。農林水産省にとっては現在の農家を守るのが第一。
    • 植物工場の空気の管理は→クリーンルームと同程度。クラス1万〜10万のヘパフィルタか殺菌フイルターを利用。水蒸気と酸素で植物工場内は陽圧になるので、開閉時、自然に酸素は外に出る
    • 栽培技術は商店街でもできるのか→研修して、スーパーバイザーを送り込み数種類なら誰でも作れるようになる。1日8時間労働。何人・何株をめやすにして工場のような管理ができる
    • 二酸化炭素削減について→通常農業は肥料まいても耕作しても二酸化炭素が出る、フードマイレージ削減、冷やしながら運送するエネルギーの削減で二酸化炭素は減るはず。自家発電、LED使用でも相対的に下げられる。