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COMPACTに関する説明会レポート

2009年6月3日(水)、三会堂ビル2階会議室で、(財)バイオインダストリー協会(JAB)、バイテク情報普及会(CBIJ)、(社)農林水産先端技術産業振興センター(STAFF)の共催でCOMPACT(契約補償連盟:バイオセーフティに関するカルタヘナ議定書における「責任と救済」の対応)に関する説明会が開催されました。

COMPACT 創設に関する経緯について      バイテク情報普及会 福富文武氏

生物多様性に関する条約は3つの目的「①生物多様性の保全、②生物の資源の持続可能な利用、③遺伝資源利用から生じる利益の構成・衡平な配分」からなる。2009年4月現在190カ国とECが加盟している。
2003年には、遺伝子組換え作物(Living Modified Organism:LMO)などの輸出入時に輸出国側が輸出先の国に情報を提供、事前同意を得ることなどを義務づけた国際協定「カルタヘナ議定書(Biosafty Protocol)」が発効した。2009年4月現在締約国は152ヶ国及びECである。
その27条では「責任と救済」について規定しており、LMOが国境を超えて移動することによって生ずる損害について、その責任のあり方、救済の方法について、国際的なルールやその手続きを定めることとしている。カルタヘナ議定書代27条についてのその課題と論点は、①法的性質(法的拘束力を持たせるかそれともガイドラインにするか)、②損害とは何か明確にすること、③行政の対応をどのようにするか、④責任を取るべき事業者の定義の明確化(開発者、輸出入者、取扱者)、⑤民事責任(過失責任か厳格責任か)、⑥(一次的な補償で十分に救済されなかった場合の)補完的な補償制度のあり方などがある。
 当初、「責任と救済」に関する議論はWG(ワーキング・グループ)等で行われた。損害の定義や責任の所在を明確にする議論が不十分な段階で、途上国から補償基金の創設が強く要請されたが、日本等は反対して合意に至らず、交渉の過程で取り下げられた。  
 一方、国際穀物産業界のイニシアチブで、補完的な補償制度 COMPACT が提案された。 COMPACT の提案によって、「責任と救済」の議論の進展に寄与した。 
現在120ページからなる「COMPACT原案」ができている。


『 COMPACT バイオセーフティ議定書の観点から(自主的契約に基づく補償機構)』
           COMPACT常任理事 J.Thomas Carrato氏

1. COMPACT について
①基本概念
COMPACT とは、合意・協定という意味。 COMPACT は自主的で拘束力のある契約に基づいている。現行の損害賠償制度に欠けている部分を埋める、即ち、補完するもの。
技術提供者は自らのLMOに責任を負うが、輸出入業者など開発業者以外の者が責任を負うこともありうる。 COMPACT の非メンバーに対しては、いかなる法的影響力を及ぼさない。
②「責任と救済」(カルタヘナ議定書 27条)
2004年に「責任と救済」のための特別作業部会が立ち上がった。2008年のカルタヘナ議定書 第4回締約国会議(MOP-4:ボン会議)で、拘束力のある制度作りに向けて作業すること妥協・合意した。
民事責任に関する規定による行政アプローチ、及び法的拘束力のないガイドラインについて重点的に協議された。議長は、オランダとコロンビアの2名の法律家が勤めている。共同議長は「全てが合意に至るまでは、いずれにも合意しないものとする」としている。
私自身は、拘束力のある責任制度については未到達だが、達成できると考えている。産業界からの提案COMPACTは今も有効な提案と認められて交渉が続いている。憂慮すべき状況として、誤解・混乱が発生しているので、あらゆる機会に説明している。
③COMPACT誕生の経緯
バイオテクノロジーの発展に対するリスクには、賠償責任が重複し、一貫性がなく、予測不可能な制度が生まれてくるリスクがある。また、科学ではなく、他の要素(例えば政治的かけひきなど)に基づくリスクもある。根拠がないのに広範囲な厳格な賠償責任を問われたり、損害を生じさせた事業者だけでなく、関わった公的機関、研究者などにも賠償責任が関係してくる可能性がある。
強制的補償基金を設ける仕組みができると、中小企業や研究者が研究開発に関わりにくくなったり、責任と救済に関する複雑な規則ができると、国境間の移動がしにくくなった、産業を妨げることもあるかもしれない。
④COMPACTとは
当初、BASF、Bayer CropScience、Dow Agroscience、DupPont、Monsnto及びSyngentaの6社が加盟し発足。今後、産業界、公的機関及び非営利団体の参加を広く求める。
対象:メンバーの開発したLMOが生物多様性に損害を起した場合、国が COMPACT のメンバーから救済を請求できるようにするための自主的な法的拘束力のある制度。
方法:協定による公平、簡単かつ効率的な制度を構築する。明確な独立型の保険のような仕組みで、国連加盟国は請求でき、請求の迅速な解決が可能になる。
異議申し立ては全て国連の常設仲裁裁判所で審判される。判断の前提は中立・独立した専門家の意見と科学的根拠である。
設立の理由:
・生物多様性保全への責任があるから。メンバーは、自社のLMOが環境に悪影響を及ぼさないという自信を持ってLMOを市販する前に厳格なリスク管理ができている。
・企業責任として迅速な補償ができることとそれができる財政能力がある。
・補償制度が整っている COMPACT 制度は国際交渉でよい影響を与えると考えている。


2. COMPACT の組織構成
(1)執行委員会:メンバーの代表者からなる
(2)専門技術委員会:生物多様性の専門家による審査と評価をする
(3)諮問委員会:あらゆる利害関係者とメンバー代表による。メンバー管理、償還のための財政能力、仲裁者に関する助言を扱う。
日本政府にも参加を呼びかける。
(4)常設仲裁裁判所の活用:中立独立した専門家による仲裁機能、事実関係の調査を行う。

3.請求の仕方
(1)国連加盟国であればどの国も請求できるが、個人、事業者はできない。
COMPACT で請求しないときは、国内法などによる救済をすることが考えられる。
(2)請求を提起する国は以下の同意をすること。
 ① COMPACT 条項に基づく拘束力ある仲裁、② 請求のためには入手可能な証拠を提出すること、③同一事例に対する重複賠償からの保護規定、④機密保持
(3)国からの請求後
専門委員会は、外部専門コンサルタントに相談したり、事実調査を委託したりしながら、請求の完全性についてのみ適時に審査する。調停は90日間内で請求和解を目指し、まとまらないときには常設仲裁裁判所に審判を行う。審判に当たっては、中立専門家の支援の下、事実関係を調査する。その後、拘束力のある仲裁としての最終判断を下す。

4.賠償責任の判定項目
(1)生物多様性への損害の実証:動植物種や保護区域や公衆衛生に損害を及ぼした場合で、人体への傷害、財産など従来法の損害は対象外である。損害の測定・評価として、判定には、ベースライン(損害が生じる前の状態)と比較をすること、評価に関しては顕著で有害な変化であること。
(2)LMOとの因果関係が成立すること:特定のLMOの放出が、損害の直接的・事実的因果関係である。 
(3)メンバーが開発・販売したLMOとの因果関係があること:メンバーが開発し、販売したLMOが環境中に放出されて損害を起した場合に当てはまる。メンバーと非メンバーが損害を起したときは、メンバーが起した損害に対して相応の補償をする。

5.金額の制限
救済と修復が賠償よりも優先する。
(1)単一事例:救済または修復は、3,000万SDR(=特別引き出し権50万米ドル)。
賠償は、1,500万SDR(コンパクトでは救済と修復を優先、賠償金額は低く設定)
(2)同一LMOによる複数の事例:救済または修復は1億5,000万SDR。
賠償は7,500万SDR 

6.その他
抗弁権:第三者による誤用、不可抗力、国に評価・認可されたリスクであったと抗弁できる。国が課す強制措置の遵守してきたこと、明示的に認可されたリスクには抗弁できる。
補償:①救済または修復が最優先。賠償は必要な場合のみとする、②責任を負うメンバーが、適時に補償を行う場合、他のメンバー及び非メンバーには補償の義務はない。
執行:規定に従わないメンバーに対して、特定履行措置を提起しなければならない。
国は民事裁判により裁定額を求めることができる。
5) COMPACT のこれまでの評価とこれから
COMPACT については、カルタヘナ・ボン会合で公式に報告、高く評価された。メキシコシティ会議では27条の補完するものとして公式に認められた。ECも強く支持している。共同議長からは、前例のない業界の手本であると評価された。
また、シンガポールでの関係国、グリーンピースなどの非政府機関とも交渉を進めている。6月末、コスタリカに15カ国の南米の国が集まり、ここでも COMPACT の説明をすることとなっている。
これからは、①常任理事の任命、執行委員会と専門委員会の設置、②説明会の機会に寄せられた意見をもとに手直しを行っている、③締約国、非締約国での会合を実施している、④2010年2月または3月にクアラルンプールで次回の共同議長フレンズ会合、2010年10月に名古屋で開催される締約国会議COP10MOP5期間中に最終決定を目指す予定。


質疑応答
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • COMPACT の基金及びシステムについて→システム・制度を作ることが第1であり、基金については定めていない。補償の支払いは、規約に定める制限内で行う。今後、認可保険を考えていきたい。
    • カルタヘナで条約では研究段階も対象としているが、COMPACTの会員の範囲はあくまで産業界のことか、研究機関は入るのか→研究・開発機関も対象になることが十分考えられる。メンバーになれば、メリットはあると思う。
    • COMPACT の各国に支部のようなものができるのか、会費については→組織ではない。COMPACTは契約そのものである。規則の中での組織体系であり、メンバーは国際的な事業をしていれば、中小企業も含めどのようなメンバーも加入できる。ただし、条件がある。リスク管理とリスク評価ができ、支払い条件内が可能な能力があることなど。詳細は、諮問委員会で今後検討する。本部は、ワシントンDCに設ける。
    • COMPACT の立ち上げはCrop Lifeという組織によるが、事務局は、現在、私ひとり。今年度の予算は20万ドル、来年度は50万ドル(フルタイムの常任理事及び事務所維持の費用が増える)。この費用は会員が公平に負担する、メンバーが増えれば負担は小さくなる。運営費は低く抑える。本部は1か所のみで連絡事務所は置かない。
    • アメリカは今後生物多様性条約に批准するか→2010年には批准しないと思う。オバマ政権は、経済の立ち直りを最優先にしている。条約には現在192カ国が加盟、アメリカとイランは批准していない。
    • カルタヘナ議定書に基づく賠償請求とCOMPACTによる賠償請求の両方ができるのか→選択肢として、 COMPACT による請求、現行制度による請求があるが、別個のものとしていずれかで請求できる。ただ、国は同一の損害事象に対して COMPACT と国内の民事責任制度の両方に基づく重複裁判もしくは多重賠償のいずれかを求めることが、を COMPACT 会員は回避することができる規定がある。 COMPACT で賠償金を得た後に国の救済をうけたときには初めの賠償金を返却する。また、同じ事象でNGOが補償をうけて、それを国家から COMPACT でうけたときには COMPACT は返済する。
    • 補償額は COMPACT でないときは上限なしなのか→そうです。 
    • 先ほどの COMPACT 会員の要件について→能力の立証が原則であるが、明確な回答は持っていないので結論は言えないが、管理能力、技術能力、品質管理などは必要と考えている。審議・検討していく。
    • COMPACT の提案と「27条にある責任と救済」のギャップは広いのか、また、狭める働きかけを COMPACT は行うのか→交渉そのものであるがお互いのギャップ・隔たりはあるが、少なくなってきている。
    • COMPACT の目的について→「責任と救済」の対応に関して、合意による法的拘束力のある制度のひな形として提示することも目的の一つであった。明確で正確な定義を採用してもらうように、締約国に働きかけを続けていくつもり。 COMPACT での定義を広げるつもりはない。
    • カルタヘナ議定書にかかわる本会議で COMPACT について論議はできないのか→交渉を今までみてきたが、G77と言われる途上国から産業界としてはとても容認できない申し出、即ち、全ての損害へと対象を広げるような発言、厳格責任を求め、基金立ち上げも要求してきている。これらは、産業界の許容を超えた請求と判断した。厳格責任を求める「責任と救済」が立ち上がったら、産業活動は減速するという見方が出てきている。
    • アメリカがカルタヘナ議定書に批准しない理由は→バイオ関係者は賛成であるが、石油、鉱業、林業関係は反対、共和党の上院議員が強く反対している。そんな中で、モンサントは取引先がカルタヘナ締約国である場合が多いが、実際に国境を越えた商業活動をしている。実際には産業界レベルでは商業活動はできている。
    • COMPACT についての各国の反響→中国とブラジルからは、公的な機関はどのような方法で参加するのかといった質問が来ている。様々な反響があり、政府や産業界に説明していく予定である。

    COP(Conference of the Parties to the UN Framework Convention on Climate Change): 国連気候変化問題会議
    MOP(Meeting of the Parties): "京都議定書" 京都議定書の締約国会合