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公開討論会「食の信頼向上をめざして〜食品安全委員会、消費者委員会のこれから」

2009年10月6日(火)、日本学術会議講堂において、設立1年を迎えた食の信頼向上をめざす会と学術会議獣医学分科会・食の安全分科会の共催により標記討論会が開かれ、研究者、企業関係者、市民、学生など約200名が参加しました。


「食品安全委員会の今後の役割」      食品安全委員会 委員長 小泉直子氏

はじめに
国際化、流通の広域化、新たな危害要因の出現(O157など)、遺伝子組換え技術などの新規技術の開発、分析技術の向上により危険とはいえない微量物質も検出できるなどの食を取り巻く状況が変化している。食品安全委員会では、国際的な流れと同じように、「食品にはリスクがあることを前提にしてリスク評価し、管理する(リスク分析の手法)方法」を奨励している。

食品安全委員会スタート
欧米でも食のリスクの評価機関が次々に設立された。日本の食品安全委員会はリスク評価をする機関として2003年設立。科学的、客観的、中立公正にリスク評価を行う。その結果に基づいて厚生労働省や農林水産省がリスク管理のための基準策定を行う。ハザードに関する意見交換(リスクコミュニケーション)は両省と一緒に行っている。
食品安全委員会の役割は①リスク評価、②緊急時対応、③リスクコミュニケーションの3つ。リスク管理機関からリスク評価の要請があると、専門調査会に審議を依頼し、審議結果に対する国民からパブリックコメントを求め、審議・評議をまとめて、リスク管理機関に周通知する。2009年9月16日現在、1175件の審議のうち、821件の評価が終了している。
委員会は7名(常勤4名、非常勤3名)で構成され、14の専門調査会(企画、リスクコミュニケーションには一般公募委員も含まれる)には206名の専門委員がおり、事務局スタッフ約100名がこれに加わる。

食品中の有害要因
食品中有害要因の健康影響評価とは、「食品の安全性を脅かす危害要因について、健康影響を生じる確率とその影響の程度を科学的根拠に基づいて中立公正に評価」すること。
ハザードとは、健康に悪影響をもたらす可能性のある食品中の物質または食品の状態。
リスクとは、ハザードの有害作用が起きる確率とその程度。
リスク分析とは、リスクをいかに避け、最小化するかを検討・実施する全体の考え方。
どんな物質も量を多くとれば体に悪影響を与える。昔から薬や毒のことわざが多いのも、毒も薬も使い方次第であるためだと思う。
例)ニトログリセリンは爆薬だが、狭心症治療薬でもある。
地球上に存在するもののほとんどはヒトの体内にも存在するから、「在るから有害」なのではではない。

危険物質の摂取量と人体影響の関係
一般に食品中の有害物質のリスク評価は、動物試験で無毒性量を決め、その無毒性量の100分の1をヒトが一生涯食べ続けても健康に悪影響を与えない量、すなわち一日摂取許容量(ADI)と決めている。
口から入った物は、腸管を素通りして排泄されるものと、腸管から吸収されて肝臓で代謝・分解・合成されるものがある。大事なのは体内に入ってきた物質の量と標的となる臓器の関係。例えば、メチル水銀は耐容摂取量以下ならば、一生涯健康への悪影響は起こらない。しかし、水俣病患者では1mg/日以上という大量のメチル水銀を摂取し続けたため、中枢神経障害が起こった。ごく微量のハザードは、毎日取り続けたからといって健康障害を起こさないレベルで一定となるので、どんどん蓄積されて健康被害を生じるということはない。

リスクコミュニケーション
専門家はより正確に、コミュニケーターは迅速にかつ分かりやすく、情報が伝えられると消費者は参加しやすくなる。
日本では、報道によって相談件数が増える現象を見ても、消費者はメディア情報に振り回されていることがわかる。つまりメディアの影響力は大きい。
評価や認知にはバイアス(外的、内的)がかかる特徴があることも、認識していなくてはならない。
外的バイアス:情報の多少、メディア情報、文献情報、オピニオンリーダーや他者の影響
内的バイアス:性格、経験、知識量、考え方、判断力、意識
食品安全委員会としては、リスクコミュニケーター養成、マスコミとの懇談会、サイエンスカフェ、e-マガジン、食の安全ダイヤル、機関誌発行、プレスリリースなどを行っている。
質問 オピニオンリーダーの影響というときに行政は入るか→メディアやテレビに出る人間をイメージしている。行政を入れたほうがいいかもしれませんね。


「消費者委員会の発足の経緯とその役割」     消費者委員会委員長 松本恒雄氏

消費者行政一元化〜消費者委員会発足までの経緯
福田元首相は2007年から消費者保護のための行政機能の強化に取り組むとし、2008年1月「生活者・消費者が主役となる社会を」と施政方針演説で述べた。
冷凍ギョーザ事件の対応が縦割りだったことへの反省から消費者行政推進会議が設置され、6月に「消費者行政推進基本計画」が閣議決定された。
消費者行政の三本柱は次の3つの一元化。
政策立案と規制の一元化 消費者の視点から政策全般を監視する「消費者庁」設置。調整権限・勧告権の付与。表示・取引・安全に関する法律の所管・共管や既存の法律の隙間事案に独自の権限を与える。
情報の一元化 消費者センター、保健所などから届く全ての情報を一元的に扱い、対応。
相談窓口の一元化 全国の消費生活センターと国民生活センターをひとつにし、誰もがアクセスしやすい代表窓口として365日24時間対応する。
法律の整備・調整を行い、最終的には、2009年10月1日消費者庁と消費者委員会が発足。

消費者庁の役割
消費者庁には担当大臣が置かれ、法律執行をする4課(消費者安全課、取引・物価対策課、表示対策課、食品表示課)と、司令塔となる3課(政策調整課、企画課、消費者行政課)から成る。食品については食品表示課で、消費者の安全は消費者安全課で扱う。
消費者庁には表示を主な切り口として、取引関係で8つ、業法関係で4、安全関係で5つ、その他で7つの法律の他に、新しく、消費者安全法と米トレーサビリティ法の二つが移管・共管されることになった。

健康食品に関係する法律を例にすると
次のような法律の表示の分野は消費者庁が担当し、その他の領域は今まで担当してきた省庁と連携してあたることになる。食品衛生法(厚生労働省と協議)、健康増進法(特定用途食品の表示の許可など)、JAS法(農林水産省やその地方局が協力)、景品表示法(経済産業省より消費者庁に移管、執行は公正取引委員会が行う)、特定商取引法(経済省から移管されたが、執行は地方経済産業局が行う)、隙間事案(担当省庁がない)は消費者庁が独自に所管する。
こうして、食品安全行政は次のように4元化された。
・リスク評価:食品安全委員会
・リスク管理:農林水産省、厚生労働省、消費者庁、

消費者委員会の設立の経緯
自民党消費者問題調査会のとりまとめによると、消費者Gメンが働くはずだった。
消費者設置法案(政府案):消費者庁に消費者政策委員会を設置し、重要事項を監視し、内閣総理大臣や関係大臣などに意見申述などを行う。15人の非常勤委員(任期2年)。
消費者権利院法案(民主党):消費者権利院を設置し、行政機関への資料提出・調査要求権や処分などの勧告権を持つ。権利官1、権利館補1、審議委員3は常勤で国会同意人事(任期は審議委員は3年、他は6年)
上記の2案に対して、与野党合意による政府案修正ができ、「消費者庁及び消費者委員会設置法」のもと、外部から消費者行政を監督・助言ができる消費者委員会を消費者庁から独立させることになった。関係行政機関への資料提出要求ができたり、消費者被害の発生・拡大防止を内閣府総理大臣へ韓国できるようになった。
消費者委員会は、消費者2、事業者2、学者3、弁護士1、メディア1の非常勤委員10名で構成され(任期2年)、次のふたつの機能を持つ。
審議会機能 関係大臣などからの諮問に応じて審議する
監視機能 消費者長と関係省庁の消費者行政全般を監視する。重要事項を調査・審議して内閣総理大臣などに建議する。消費者安全法に従い、内閣総理大臣に勧告する。 
審議体制:法律上審議の必要な事項を専門調査会方式で、調査審議、建議する予定。  
消費者庁と消費者委員会の関係:消費者委員会は消費者庁を監視・支援し、食品安全委員会(リスク評価)とは分離する。

国会修正における附則の追加
・消費者委員会の2年以内の常勤化を図る
・消費者庁・消費者委員会・国民生活センターの体制整備
・3年以内に消費者関連法律に消費者庁の関与のあり方、消費者団体への支援のあり方、多数の消費者に被害を生じた不当収益剥奪や消費者救済のための制度を見直したり検討したりする。など

民主党マニュフェスト
・消費者の権利を守り、安全を確保する。そのために法律や体制を整える
・安全・安新確保 食品トレーサビリティシステム確立や原産地表示実施、BSE全頭検査への支援復活、食品安全庁設置などによる。

特定保健用食品の審査と表示の許可
消費者庁の持つ唯一の許認可。食品安全委員会が安全性に関わる事項について意見を述べて、消費者委員会が意見を述べて許可する。

エコナ問題
DAG(ジアシルグリセロール)を含む食品の扱いについて検討されているところ。
こういう問題は、個々の製品で検討すべきで、特定保健用食品の制度全体の再検討のよい機会かもしれない。
質問 食品に限っていえば表示、トクホ、を扱うのですね→ただし情報は食品に限らずすべて取り扱う。



「食の信頼向上を目指す会 この1年間の活動」      同会 幹事 日和佐信子

食品偽装事件が起こったとき、「何を食べていいかわからない」とインタビューに答える市民の映像があったが、実際に日本の食の安全はそんなに脅かされてはいない。食の関係者と消費者の間に健全な関係ができていないから、こういうことばが出てくるのではないか。食の信頼向上をめざす会では、各種の情報を発信し、不適切な情報を改め、理解しやすい形で情報発信をして食の信頼を取り戻すために活動をしてきた。残留農薬、メラミン、BSE全頭検査、BSEサーベイランス、飼料添加物ラクトパミンなどを題材として扱ってきた。
この他に、全国の知事に全頭検査継続に関するアンケートも行った。そして、消費者への全頭検査の意味を説明せずに、消費者の要求を根拠に理由に全頭検査を継続している自治体が多いこともわかった。特定危険部位の中の脳だけしか検査していないのに、全頭の「全」は安全なイメージを与え、全頭検査=安全のイメージが一人歩きしている。サーベイランスの意味が理解されていない。
食品安全委員会には、もっと見える形で情報発信をしていただきたい。
消費者庁には、今まで大丈夫だった食品に新しい疑いが見つかったときの対応について議論していただきたい。規制とADI(残留農薬違反は法律違反だから回収しなくてはならないが、ADIより基準はずっと低く定められている)の関係において、基準を超えてもADIを超えないケースの検討をお願いしたいと思っている。


それぞれの講演の後、講師全員と会場を交えた話し合いが行われました。報道されているエコナ回収も話題になり、研究者、食品安全委員会などそれぞれの立場から、現状の説明と意見が述べられました。
そして、食品のリスクに過敏にあったり、不安を声高に言い合ったりするよりも、どんな安全評価がされているか、そのためにどんな仕組みができているかこそがもっと周知されるべきとする考え方に、多くの人が共感を持ちました。