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2010年度市民参加型イベント開かれる

 2010年7月24日(土)、(独)農業生物資源研究所において、市民参加による除草体験、実験教室が行われました。当日は、午前中が除草作業や農薬散布の見学、午後はDNA抽出実験、話し合いなど、盛りだくさんのプログラムでした。参加者は中学生、高校生、大学生、主婦、教員、会社員、メディアなど24名でした。 始めに遺伝子組換え研究推進室長田部井豊氏から、「研究者は世界の飢餓などを解決する選択肢のひとつとして遺伝子組換え作物の研究を行っているが、日本では市民に受け入れられにくいことから、今日は雑草、ダイズ栽培、遺伝子組換え作物について、学習・話し合いをしていただきたい。特にみなさんからの意見や感想を期待している」というお話がありました。

一日の流れの説明を聞く 麦わら帽子、長靴、軍手、準備完了!


ほ場での作業

バスタとラウンドアップという除草剤は、非選択性の除草剤で緑の葉を持つ植物はすべて枯らします。畑には、ラウンドアップ耐性のダイズと非組換えのダイズが植えてありました。私たちは、サチユタカという非組換えダイズの畑で、今年は猛暑のため、5平米に2名で20分と時間を短縮した除草作業を行いました。

除草前、どれがダイズかわからない 除草後、土の色が見えました
除草作業中 除草作業中
非選択性除草剤をかけると、ある除草剤だけに耐性を
持つ組換え ダイズは枯れてしまいました
ズイに害虫が入って食い荒らした非組換えトウモロコシ


情報提供 1.ジーンバンクのDVD視聴

 農林水産省は家畜、作物の遺伝資源の収集・保存を行っています。筑波にはジーンバンクという種子を保存している施設があり、家畜の精子、蚕の卵も冷凍して保存しています。


情報提供2.「DNAの働き」      作物研究所 大島正弘氏

 DNAは4種類の塩基の鎖が二重らせん構造をしていて、子孫にわたす遺伝情報を含んでいます。オワンクラゲの蛍光を発するたんぱく質をいろいろな生物の体内で作るように遺伝子を操作すると、光るカイコ、光るタバコを作れます。植物ではアグロバクテリウムという土壌微生物を用いた遺伝子組換え技術が広く用いられています。遺伝子組換え食品では、遺伝子組換え技術で、目的以外が合成されていないか厳しく審査します。 実験と観察
遺伝子組換え生物の観察
 居室をカルタヘナ法に準じたP1P施設とし(出入り口開放禁止、飲食禁止、部屋の出入り口に「P1P」を示す掲示をする)、遺伝子組換え技術で作った光る大腸菌とタバコを持ち込み、みんなで観察しました。
遺伝子組換えカイコが作る繭は、自然光でも淡いピンク色ですが、紫外線を当てると鮮やかなオレンジ色になるなど、光の効果で異なる色を楽しめます。生糸をつくるには繭が大きくてほぐれやすくなるように、糸と糊の部分の成分に工夫が必要になります。

ブロッコリーのDNA抽出
 ブロッコリーを乳鉢ですりつぶして、DNA抽出液を使って、細胞膜などを融解しました。エタノールを加えて析出するDNAを目視観察しました。

ブロッコリーからのDNA抽出 自然光でピンクのまゆが、紫外線を当てるとオレンジ色に
自然光だと大腸菌で描いた星が二つ見えたのに 紫外線だと星がひとつに。ひとつだけが組換え大腸菌で描かれ
ていたから

雑草について

畑の雑草を抜いてきて調べたところ、今年は暑さのせいか、雑草の種類が少なく、スベリヒユ、メヒシバ、ザクロソウ、シロザなどが多くありました。遺伝子組換えダイズと非遺伝子組換えダイズの葉の断片を、チューブの中でつぶし蒸留水を加えた液に遺伝子検出キットを浸すと、遺伝子組換えダイズだと2本、従来のダイズでは1本のバンドが出ます。この方法で短時間に遺伝子組換え作物であるかないかを調べられます。


畑から持ち帰った雑草 非組換えと組換えダイズの葉で組換えかどうかをテスト
(2本バンドがある方が組換え)

情報提供3.「遺伝子組換え農作物について」     遺伝子組換え研究推進室 土門英司氏

 「私たちは1万年くらい前から、交配してはよい品種を選ぶことを繰り返して、よい作物を得てきた。遺伝子組換え技術はこのような品種改良の歴史の中でひとつの手法として開発され、広く利用されている。遺伝子組換え農作物の世界の耕作面積は13,400万ヘクタールで日本の面積の3.5倍。5万ヘクタール以上栽培している国は15カ国。たとえば、日本に輸入される大豆の91%が遺伝子組換えと推測される。
遺伝子組換え農作物の安全性評価は生物多様性の観点から、食品の観点から安全性審査を行っている。これらは法律に基づいている。遺伝子組換え生物の使用は、第二種使用(実験室・畜舎の中など外にでないケース)と第一種使用(野外栽培など、外に出して使用するケース)に分けて管理されている。
新しい組換えダイズは、社会的受容については購買行動とアンケート結果は一致せず、気にせずに購入している消費者もいるという報告がある」

情報提供4.「除草時間をもとにした試算」      遺伝子組換え研究推進室 笹川由紀氏

 「あるグループ(2人組)除草作業時間はふたりで23分でしたから、5平米で46分。
ここで日本のダイズ栽培の1,000m2(10アール)で平均160Kg収穫できたとしたら、5平米の畑から収穫できるダイズは0.8kgです。日本人が1年で食べるダイズは8.3Kgを得るには52m2の畑の世話をしなくてはならない。除草だけも477分間行わなくてはならない計算になります。かなりな大変な作業量だということがわかった。実際には害虫防除、病気の予防などいろいろな手間をかけなくてはならない」
参加者は20分の除草作業から試算し、ダイズの栽培が非常に大変だとわかりました。


情報提供5.「遺伝子組換え農作物の安全性評価」      遺伝子組換え研究推進室長 田部井豊氏

 「日本では遺伝子組換え農作物の安全性評価は、生物多様性への影響、食品としての安全性、飼料としての安全性の3つの観点から行う。根拠になる法律に基づいて、食品安全委員会、農林水産省で、専門家による審査が行われる」


話し合いと遺伝子組換えトウモロコシの試食

 A,B,C,Dの4つのグループに分かれて、参加の目的、期待したいこと、不安を感じる理由などについて話し合いました。話し合いの途中で、遺伝子組換えトウモロコシ、不分別表示をしたお菓子、組換え原料を使っていないお菓子やお茶がサービスされました。各グループの話し合いの主な内容は次のとおりです。

Aグループの発表
除草剤散布、暑いときの作業が印象的。組換え不使用の表示の影響が大きい。
豊かな食生活の中で食料確保の重要さを忘れている。自分の問題として考えることが大事。

Bグループの発表
実物を見たいと思って参加したので、実物が見られて満足。他に実物を観られる場所がない。印象に残っているのは、ある除草剤に耐性の作物に別の除草剤をかけて全滅したこと、組換えダイズの断片から検出キットで2つのバンドが認められ組換えだと実感したこと。表示制度が不十分で情報が足りない。今日の研究所の公開と情報提供が一番よかった。

Cグループの発表
遺伝子組換え植物をめぐるコミュニケーションも原子力くらい頑張ってほしい。インターネットを見ると遺伝子組換えに対する反対意見が多く影響されやすいのが現状だと思う。
遺伝子組換え技術への感じ方は科学の話よりもイデオロギーの印象が強い。

Dグループの発表
実物を見て触れることができて満足だった。遺伝子組換え技術はすばらしい技術なので、どんどん進めたらいいと思う。
 組換え技術に期待するものは、墓前の枯れない花の開発、生活害虫の不妊化、緑色のお酒の開発、蚊よけ衣服の開発。ここの研究所の人も全員が3〜10個の研究テーマを提案するくらい努力してほしい。

参加者からの質問 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • グリホサート耐性のほかに遺伝子組換え作物が開発されている農薬はあるのか→グルホシネートという農薬に耐性を持つ作物もある。
    • 中国の遺伝子組換えの実態はどうなっているのか→トマト、ポプラ、ワタの商業栽培が行われており、米も3-5年で実用化されそう。中国の予算は5000億円。ちなみに日本では40億円が削られそうな状況。
    • 学校で遺伝子組換え生物を見せるにはどうしたらいいか→学内にP1P施設をつくり、安全委員会を設置して認められれば可能。(ただし、教育目的での使用で、限られた条件であれば安全委員会は必要なし)
    • アレルギーの被害が遺伝子組換えで生じた例はあるか→ブラジルナッツの2S貯蔵たんぱく質の遺伝子を導入したが、このタンパク質がアレルゲン(アレルギーを起こすたんぱく質)であることが判明し、研究が中止になった例がある。
    • 遺伝子組換えへの風当たりの強さを変えるには→原子力などでも情報さえ与えれば認知度があがると思われていた時期があったが(欠如モデル)、情報が増えると不安が大きくなる場合もある。信頼のある情報提供と体験を踏まえて考えてもらえるコミュニケーションできるように本市民参加型展示圃場を始めた。
    • 遺伝子組換え樹木にはどんなものがあるのか→ポプラ、リンゴ、サトウキビなどがある。GMレモンはアメリカでもないようだ。
    • どんな作物でも組み換えかえられるということか→原理的には出来るはずだが、できにくいものもある。研究が必要。


     最後に田部井室長から、「日本の輸入穀物3152万トンの5割以上が組換えという事実や遺伝子組換え作物の問題は安全性だけでなく、経済、政治など複雑な要因が絡み合っていることを知ってもらいたい。ひとつひとつ考えて行かなくてはならない。」との話がありました。