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設立1周年記念講演会開催
「食品保健をめぐる世界の潮流」


宮城島先生
宮城島先生

 2003年5月27日に東京都立庭園美術館新館ホールにて、当NPO法人の1周年設立記念講演会として、京都大学医学部公衆衛生学の宮城島一明助教授による「食品保健をめぐる世界の潮流 〜リスクとどう向き合うか〜」を約80名の参加者を得て開催しました。


講演内容

 本テーマについて、以下の4つのキーワードについてわかりやすく説明していただきました。

1.  食品の安全
 安全と安心についていえば、たとえば、ポテトティップス中に高温の油で処理された昆虫の断片があったとき、科学的には安全であるが食品としては適していない。安全と食適性がともに満たされたとき食品衛生が達成されることになる。
 食品をめぐる事件や騒動が相次ぐ中で、食品保健行政の機構強化が叫ばれるようになり、今年(平成15年)7月から食品安全委員会が設置されることとなった。

2.  危険分析(Risk Analysis)
1)  健康被害の要因には、危害因子(hazard)と危険(risk)がある(図1)。危険分析は、「危険の評価(Risk Assessment)」、「危険の管理(Risk Management)」及び「危険関連情報の通知(Risk Communication)」をうまく機能させ、安全と安心とのずれをなくすのに貢献する。健康政策に関する実証性を重視する手段として、食品取引の国際化・複雑化への対応や貿易紛争を予防することにも寄与する。

図1.「危険」と「危害因子」の違い 図2.危険通知をめぐる諸問題
図1.「危険」と「危害因子」の違い 図2.危険通知をめぐる諸問題

2)  実際に危険分析するときには、評価結果や危険管理上の決定などについて記録に残すことにより、再現実験や第三者評価ができるようになる。
3)  危険を「皆無」にすることは不可能で、「受容できる範囲」に収めるのが危険分析の目標。
4)  用語の混乱(カタカナあり漢字ありで不統一)、ゼロリスク信仰の対処(すなわち、リスクが100%ないということはありえないことを認識すること)、情報選択の恣意性とマスメディアの役割等がある(図2)。

3.  国際調和
 食に関する国際機関としては、世界保健機関(WHO)、国連食糧農業機関(FAO)、経済協力開発機構(OECD)、国際獣疫事務局(Office International des Epizooties)及び世界貿易機関(WTO)がある。国際調和は、先進工業国のことだけでなく、発展途上国にことも考えなければいけない。

4.  コウデクス(国際食品規格委員会)
 英語名ではCodex Alimentarius Commissionといい、FAOとWHOの下に設置された政府間組織である。2003年5月現在では169国が加盟している。設立目的は、@消費者の健康保護とA公正な食品貿易の促進にある。
 この3月には、遺伝子組換え食品の危険分析に関する3本の規格案を国立感染研究所所長の吉倉先生が議長となり纏め上げられた。
 1995年以降の新たな役割としては、(1)WTOのSPS協定(衛生検疫措置協定)により、食品衛生基準の国際調和を進めるための物差しつくり、(2)WTOのTBT協定(貿易の技術的障害に関する協定)により、食品品質基準の国際調和を進めるための物差しつくり、(3)WTOパネルが貿易紛争を裁定する際の目安つくりがある。

5. 未来への課題
1)  危険分析の手法に関する問題として、(1)異なる分野(残留農薬、添加物、病原微生物など)を横断する普遍的な危険評価・危険管理原則を打ち立てられるか、(2)適切な健康保護水準を数値化できるか、(3)予警主義(Precautionary Principle)の取り扱いをどうするか、などがあげられる。予警主義とは、危害因子と危険の因果関係が科学的に証明されていなくても、放置すると重大あるいは取り返しのつかない被害がもたらされる可能性があるとき、暫定的に、費用対効果に最もすぐれると思われる措置をとること。「予警主義」の対極に立つ「科学主義」は、危害因子と危険の因果関係が科学的に証明されていることを前提に必要な処置をとる立場をいう。
2)  科学主義に依りつつ「疑わしきは罰せず」そのかわり「事後には厳罰で臨む」のがアメリカで、予警主義によって「疑わしきは罰する」のが欧州であり、コウデクスの場においても欧米の哲学的な違いがさまざまな論争の原因になっています。
3)  日本が挑戦すべき課題としては、(1)危険分析の強化のために行政組織の能力向上を進めること、(2)欧米対立の構図への対処方法も含め国際問題と国内問題をいかに同時的に対処するか。(3)JECFA、JMPR、 JEMRA、コウデクスなどで国際的な発言力を確保することである。

JECFA
(Joint FAO/WHO Expert Committee on Food Additives):
  食品添加物のFAO/WHO合同食品添加物専門家会議

JMPR(Joint FAO/WHO Meeting on Pesticide Residues):
  FAO/WHO合同残留農薬専門家会議

JEMRA
(Joint FAO/WHO Expert Meetings on Microbiological Risk Assessment):
  FAO/WHOによる微生物学的リスクアセスメント

主な質疑

質問1:  日本では行政に対する不信が強いが、日本特有であるか?
回答 :  アメリカ国民のFDAに対する信用と日本国民の厚生労働省に対する信用割合は、主観的に見てそれほど違いはないと思う。欧州も同じであろう。
 
質問2:  予警主義を導入するまでには、風評被害からの被害補償とか救済を考えるべきではないか?
回答 :  風評被害の対応については、予警主義自体を何処まで取り入れるかによる。予警主義を無原則に受け入れるのではなく、一定のルールの基で受け入れるということ。これは、欧州でもやっていることである。予警主義が一人歩きすると魔女狩り事態に進むこととなるので、これは注意しなければいけない。
予警主義自体に足かせをはめて限定的に取り入れるためには、国民世論を巻き込んだ議論が必要である。予警主義を発動して禁止したのちに無実とわかったものについては、与えられた被害を救済する仕組み、場合によっては立法化が必要かもしれない。救済法の可能性を含め、有事にとるべき手続が法的に確立すれば、厚生労働省も安心して早めに警報を鳴らすことができる。国家的な財源も必要かもしれないが。まずは、どこまでを行政がやれるのか、なすべきかを国民の前に明らかにすることである。

講演を聴いて

 食品保健を考えるとき、(1)危険分析でその3要素うまく機能させることの大切、(2)国際調和では各国間でバランスを取るのが難しいこと、(3)国際的な場で日本の発言力が確保することの重要性を確認できたとともに、(4)なんといっても、予警主義(Precautionary Principle)を科学主義と対比して説明していただいた点にあります。日本では、Precautionary Principleを予防原則と訳しているが、予防原則(Preventive principle)とは既にわかっているハザード(危害因子)に対する対策、たとえば、健康を損なうおそれがある化学物質について環境汚染を予め防止することに使います。予警主義を取り込む議論を進めることが大切であることを教えていただきました。
 講演後のケーキとお茶の交流会でも宮城島先生を囲んでいつまでも熱心な話し合いが続き、いろいろな方々が知り合い有意義な一時となりました。








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