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TTCバイオカフェレポート「グリーンイノベーション」

 2010年9月17日(金)、TTCバイオカフェを開きました。お話は(独)農業生物資源研究所遺伝子組換え研究推進室長 田部井豊さんによる「グリーンイノベーション〜食と農への貢献を目指すバイオテクノロジー」でした。
初めに渡邊真位さんによるアイリッシュハープの演奏と歌「秋風にのせて」というライブが行われました。おなじみの「紅葉」を会場の人たちも一緒に口ずさみました。

アイリッシュハープを演奏する渡邉さん 田部井先生のお話


お話の主な内容

1.バイオテクノロジーとは
生命工学または生物工学と翻訳される。古くは、発酵工学。家畜や作物の品種改良、バイオリアクターによる発酵製品原料の製造、遺伝子工学・細胞融合・核移植など、遺伝子や細胞単位で扱えるようになり、医薬品の製造、ES細胞やiPS細胞を用いた再生医療へと発展してきた。
野生植物がそのまま作物になっているものはゼロ。作物はすべて栽培植物に変化してきている。例えば、トマトの原種は小さくて毒があり食べられないことがわかる。

2.農耕の歴史
500万年前、人類が誕生し、食料が確保できて定住したのが2万年前。
イネ、トウモロコシ、ムギ、は1万年前から4000年前くらいの間に栽培種が作られた。
その後の研究などの歴史は、
1953年 ワトソンとクリックがDNAの二重らせん構造を発見
1994年 世界で最初の遺伝子組換え農作物の商業利用 遺伝子組換えトマトの販売
1996年 組換え作物の大規模栽培始まる
1890年から100年でコメの収穫量は2倍になり、10アールで250キロくらいから500キロに。

3.品種改良
品種改良とは複数の作物の「いいところ取り」をすること。品種改良は目標設定(耐病性をつけよう)→目的の形質を探索(つくばジーンバンクには23万点)→変異の拡大(放射線、胚培養、組換え、ガンマフィールドで黒斑病に強いゴールド二十世紀梨を作った、細胞融合で作られたオレタチなど)→ 作物の作出
新品種を作るには、トマトなどで10-12年、果樹やお茶で25-30年もかかる。

マーカー育種
ほしい形質を持っている遺伝子配列がどの染色体のどこにあるかがわかると、実際に最終植物体を作らなくても、ほしい形質のそばの遺伝子の形質を目印にして、ほしい形質が得られたかどうかを早い段階で知ることができる。
低アミロース遺伝子を持っている米はおいしいというが、ミルキープリンセスとミルキークイーンはこの遺伝子を持っている。DNAマーカーでおいしそうなイネの目星がつけば、1000種類のイネを栽培してみなくても、20-30種類を栽培して調べればよい。

遺伝子組換え技術
ほしい形質を付加するときには、ひとつの遺伝子を入れると、それが出来るわけではない。寒さに強いなどストレス耐性に関連する遺伝子は複数あって協調的に働くので、ひとつ入れてもストレス耐性にするのは難しいことが多い。
遺伝子導入法には以下の方法がある。
○アグロバクテリウム法:土壌微生物(アグロバクテリア)は、自分の遺伝子(植物の細胞を増やす、自分の食料を作らせる)を植物に入れて、自分の食料を作らせる。
組換えイネの作り方は、玄米から作ったカルスにアグロバクテリウムをまぶして数日25℃で培養、組換えは数万細胞に一個くらいの割合で起こっているようで、イネでは最短で45日で組換えイネの幼植物ができる。タバコも簡単。
 世界で作られている多くの遺伝子組換え植物はアグロバクテリウム法で作られていると思う。
○パーティクルガン法(ボンバードメント法):初めは火薬で金粒子を打ち込んでいが、今は高圧ガスで打ち込む。

環境と食料、飼料としての安全性評価は3つの法律にもとで行われている。
遺伝子組換え技術は、交配でできないときに用いられる。

海外の遺伝子組換え作物の栽培
2009年の世界の栽培面積は、日本の国土の3.5倍の13,400万ヘクタール。アメリカ、アルゼンチン、ブラジル、インド、カナダ、中国が中心で南北アメリカ、中国インドオーストラリア 南アとブリキナファソ スペインが栽培している。

遺伝子組換え作物を栽培すると
展示ほ場で、市民の方に見ていただいている。科学的には十分に安全性を確認しているが、納得が行かない人もいる。
ダイズを畑に蒔いて管理しないと雑草だらけになる。トウモロコシも殺虫剤を適切に撒かないと害虫が茎まで進入して食害すると折れて倒れてしまう状態を見ていただく。
 しかし、遺伝子組換えトウモロコシでは、殺虫剤を撒かなくても害虫の数は減り、除草剤耐性ダイズでは一度除草剤を撒くだけで雑草管理ができて除草は楽になる。そのため不耕起栽培(フコウキサイバイ)も可能になる。耕すことの一番の理由は雑草のすきこみ。米国などでは土壌流出で困っていた。不耕起栽培では、表面が硬いまま栽培するため土壌が失われない。除草剤耐性作物の登場で不耕起栽培が可能になった。

遺伝子組換え作物の種類
主要穀物以外では次のようなものがある。
①組換えパパイヤ
ハワイ島の一番の経済はパイナップル、次がパパイヤ
日本でも組換えパパイヤが来年の春あたりから輸入されるだろう。
②ゴールデンライス
ビタミンA不足の栄養障害は世界で2億5000万人、死亡は100-200万人と推定される。
第2世代のゴールデンライスはだいぶカロチンの蓄積ができるようになった。
バイオメーカーは特許放棄しているが、インフラ整備で実用化は難航している。
③花粉症緩和米
減感作療法という方法で症状を緩和する。メカニズムは漆職人が少しずつ漆をなめてかぶれなくなってから職人になるのと同じ。現在は医薬品として開発中。

日本の食料
日本の穀物輸入は3200万トン、その半分強が組換えだから1700万トン(ダイズ、ナタネ、トウモロコシ)と推定される。日本でのコメの生産は800万トン。
植物工場では、植物に物質生産をさせることができる。これから、植物バイオテクノロジーで食料不足、土地不足に貢献していきたいと思う。


会場風景 杉本校長 閉会のことば

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 耕さない理由がはじめてわかった→雑草防除と流出防止ができることが知られていない。
    • 組換え作物に除草剤耐性をまくと土壌汚染はどうなるの→生産者は除草剤、農薬を浴びたくないし使いたくない。お金もかかるし、労働力、燃料費も必要。組換えを使わないと土壌処理剤、選択性除草剤は使う。除草剤耐性作物なら、除草剤1回で済み、構造がアミノ酸に似ているものなので、分解性が高く土壌が汚染しない。
    • 組換えトマトはどうして広まらなかったのか利益が上がらなかったのか? →開発会社は広く使われる主要穀物から開発する。その他に中国でピーマン、インドで害虫抵抗性ナスの開発が進んでいる。 
    • おいしいかぼちゃの種をまいてもおいしいカボチャができない。組換え種子は特許で1年限りになっていると聞くが→F1品種のこどもではメンデルの分離の法則が起って、まずくなったり生育が悪くなったりする。毎年種子を買っても品質の良いものを出荷した方が農家は利益が出るため毎年管理されているF1品種を買う。非組換えも組換えも種苗法で育成者の権利が守られている。
    • 話が飛躍しすぎで、初めて読んだ人は全くついて行けないと思います。もし、特許のことやクロスライセンスのことまで書くならもう少し丁寧に背景から描いてください。
    • 日本はダイズの輸入が多くトウモロシが少ない。中国はダイズを多く輸入しトウモロコシを輸入していない→以前より日本のダイズの輸入が減ってきている。理由はわからない。
    • 日中でトウモロコシ、ダイズをとりあうことになるのか→中国の食文化が変わって肉食が進むと飼料作物の取り合いは起るだろう。高く買ってくれるところに売るのが原則。日本は遺伝子組換えの規制が最も厳しいので同じ値段ならうるさくない国に売ることもありえる。なお、スターリンクはアレルギーの懸念があって問題になったトウモロコシだが、あれから輸入国になる台湾、日本、韓国で安全性審査が通っていない作物は作らないと決めている。
    • 定年になって農業を始めた。放送大学で学んでいる。農水省は日本の農業保護が目的で、反対者をあおっているというような話を聞いた→農林水産省が反対をあおって組換えを阻止していることはないが、戦略を本質的に考えるのが足りないかもしれない。それは残念なこと。
    • 自給率41%を50%にするのにGMは貢献できるのか→北海道の大規模農場はGMで生産性をあげたい人はいる。私は耕作放棄地などで除草剤耐性ダイズを植えたら、少しは国内生産量向上に貢献すると思っている。
    • 農業の夢は太平洋を遺伝子組換え作物の農場にすること。海草に米や芋を作らせること。そのくらい大胆な発想が大事だと思う→塩水で育つ米はまだだ。ただ、「今はちょっと無理だよ」というものも20年後には実現するかもしれないので新しい挑戦は必要と思って研究していきたい。