アクセスマップお問い合わせ
バイオカフェレポート「食品表示、見ていますか」

 2010年10月8日(金)、茅場町サン茶房で、バイオカフェを開きました。お話は消費生活コンサルタント森田満樹さんによる「食品の表示、見ていますか」でした。初めに齋藤光義さんオリジナル曲のチェロの演奏があり、作曲したときの心情などが語られました。

齋藤光義さんの演奏 森田満樹さんのお話

お話の主な内容

はじめに
 食品表示に関する話は、法制度から話すととても複雑で難しい。消費者のみなさんにお話しするときに、法制度について細かいことまでご存じの方と、そうでないが関心のある方など様々で、説明の仕方には苦労している。今日はどのようにお伝えしようかと思い、皆さんの手元の配布資料には法制度の概要をまとめてきたが、カフェ方式なので学習会というよりは意見交換のような形がいいかなとも思い、異なる観点から紙芝居を作ってきた。現在の制度のあらましとともに、消費者庁ができて食品表示はどう変るのだろうか。2年暮らしたタイの食品表示のお話なども含めて、わかりやすい表示とは何だろうか。私たちが知りたい食品情報は、表示できちんと伝わっているのか。そんなことをお話してみたい。

食品表示の法律
 買い物するときに最初にどの表示をご覧になりますか?様々なアンケートでは、最初に見るのが賞味期限などの期限表示、次に原材料、食品添加物と答える方が多い。いろいろと目移りするだろうが、まずは裏に書いてある一括表示をご覧いただきたい。表面の目立つところに大きく書いてあるキャッチコピーに目が行きがちだが、ここではなくて裏面、ここに法律で定められている表示内容が記載されている。一つ、表示例をみてみよう。一括表示の中に、名称、原材料名と続き、この原材料は多いもの順、原材料の欄の中に続いて食品添加物、アレルギー表示が記載される。続いて内容量、賞味期限、保存方法、販売者と続きここまでが一括表示となる。欄外には栄養成分表示、日付表示、その他の情報が記載されている。
 これら表示に関わる法律は、①選ぶときの目安、たとえば原材料や原産地表示などでこれは「JAS法」、②安全や衛生に関すること、アレルギー表示などは「食品衛生法」、③栄養成分や健康に関する表示は「健康増進法」、④優良誤認に関わるようなことは「景品表示法」、他にも「計量法」等があって複雑に絡み合っている。一つの表示についても法律が入り組んでいて、賞味期限や保存方法、遺伝子組み換え食品に関する表示は①と②の両方にまたがっていたりする。
 所轄官庁もあまりにバラバラなので、2009年、消費者庁が発足して、食品表示に関する法律が全て消費者庁に移管された。これまではそれぞれ個別の表示項目について、異なる省庁が法令を定め運用されていたものが、一元的に管理されるようになった。ただし、移管されても法律はいろいろあるので、現在、これを一本化する方向で検討が進められている。確かに新しい「食品表示法」ができたら、それは画期的なことだし、消費者にとっても使い勝手の良いものになるのであれば望ましいことである。その一方で、表示項目によって目的や重み、正確性が異なる場合、果たして一元的に管理できるのだろうか、複雑な加工食品の情報が適正に伝えられるのか。今後の慎重な検討が望まれるところである。

タイで経験したこと、考えたこと
 3年前からタイで暮らすことになって昨年帰国したが、この間、食品安全の認識や表示の観点が国によってずいぶん異なることに驚いた。その体験をお話したい。タイでの食品表示なんて参考にならないわ、と思われるかもしれないが、義務付けられている表示項目に大差はなく、さらに面白いことに加工食品の主原材料については含有表示(%)があった。たとえば、タイのスーパーで販売されている日本の食品についても、タイのルールで上からシールが張られて、原材料のところでタイ語でパーセント表示が記載されている。たとえばソースは糖分が一番多くて、次に野菜と書かれていて、含有量の比をみるとそんなもんだということがよくわかる。「ちくわ」も魚のすり身の含有量が書かれていて、興味深かった。タイのペットボトルの緑茶は甘いのだけれど、こちらも糖の含有量が書いてある。また、タイでも最近は食生活が豊かになって小児肥満が問題になっており、スナック菓子について栄養成分表示は義務付けられるようになった。その点は日本よりも厳しいと思った。
 それから期限表示だが、タイでは、日本と同じ賞味期限か、製造年月日表示のどちらかとなっている。タイには賞味期限と消費期限を明確に分ける用語が無かった。ちなみに日本の賞味期限はおいしく食べられる表示で、実際はこの期間の1.5〜2倍くらいまでは食べても大丈夫で、消費期限はこの日付を過ぎて食べてはいけません、という表示である。日本では、十数年前までは製造年月日が義務付けられていたが、国際ルールにあわせて賞味期限に一本化されたという経緯がある。製造年月日をやめたのは、それを意味する日付が解凍した日、包装した日など必ずしも製造した日ではないこと、また国際的にみても期限表示だったことが理由である。だから製造年月日なんて海外では無いのかと思っていたのだが、タイは製造年月日か期限表示かを選べ、製造年月日表示が結構多いのがちょっとした驚きであった。

タイにおける食品安全と食品表示
 ところで、タイの食品表示はタイFDA(オーヨー)で一本化されていて、ここにあるように製造者番号(オーヨーマーク)がついている。日本はこれから法律の一元化が検討されるが、タイは既に一本化していることになる(というよりも最初から分かれていないだけなのだが…)。タイは一年中暑いが、その中で暑さが厳しくてさらに食中毒が多い時期がある。その時期にはタイFDAや保健所がテレビなどの広報番組で、食中毒に関する注意事故として、市場で買うときはタイFDAマークを見て選ぶようにと指導している。日本人が住むような地域のスーパーマーケットの商品にはFDAマークの商品ばかりだが、ちょっと外れて市場にいくと何の表示をされていない商品が並んでいる。
 日本もタイも、個人商店で作っているお菓子、惣菜に表示義務がないのは同じ。個人商店をどのように選ぶかと言うと、面白いことに国が定めたお店のフードセーフティマークなどもある。タイには市場などで売られているものには本当に安いものがあって、どこからきたのか、どんなものが原料か、わけがわからないようなものがある。ここが日本と違うところ。日本では市販されているものは、全て食品衛生法で安全性が担保されていて、このお店のものは危険、というようなことはない。
 しかしタイの市場では、保存料を、使用基準を大幅に超えて大量に使っている魚団子があったり、残留農薬に高濃度に汚染されている青果物があったりする。実際にこうした汚染食品の食中毒事例もある。こうした食品中に残っている可能性のある農薬を分解するため、酸化力の比較的強い過マンガン酸カリウムの液体を水に薄めて青果物を洗うことが、保健所によって推奨されていたりする。このように毒消しのように水に加えて野菜を洗う剤が市販され、普通に販売されている食品は安全ではないことを保健所が広報しなくてはならない国なのである。その一方、富豪のための高級品も揃っている。タイのお金持ちはとても裕福で、格差は日本のそれとは比べ物にならないほど大きい。
さて、フードセーフティに関するマークに話を移すと、農薬ルールを守って栽培したことを示すマーク、オーガニックのマーク、FDAで定期的にモニタリングを受けていることを示すマークなんかもあって、市販の青果物にシールが貼られている。

タイにおける食品の事故
 タイでは、食品添加物の量を間違えて使用して食中毒が出たケース、腐った缶詰を政治家がわいろをもらって学校給食に売りつけたケースなど、日本では考えられないような事件がある。日本では食品による健康危害はめったにないが、タイでは実際の危害が起こっている。その中でも特に多いのは食中毒である。タイには食中毒統計は存在しないが、コレラによる死者数は公表されており、毎年数百人の死者が出ている。
 タイの人はお腹が丈夫で食中毒にならないという人もいるが、そんなことはない。食中毒はしょっちゅうで、タイ人からお腹をこわすから行ってはいけない屋台などを教えてもらったりしている。それからこんなに食のリスクが高いのだから、タイではどうして、消費者団体がもっと盛んに活動しないのかとタイ人に尋ねたことがある。タイで消費者団体の代表と呼ばれる方はいるそうだが、タイの行政機関の中にあるそうで、日本のように純粋な市民運動家はいない。背景には政情不安もある。タイから帰国して、食中毒のリスク、感染症のリスクや政情不安から解放されて、インフラが整備された平坦な道を歩くと、日本は本当に安全、安心な国だと思う。日本のように食品安全のレベルの高い国で、残留農薬や食品添加物の安全性について話をしていると、時々申し訳ないような何とも不思議な感覚に陥ってしまう。

消費者委員会の議題
 話が脱線したが、日本の食品表示の話に戻る。日本ではここ数年、偽装表示が相次ぎ、食の信頼が損なわれている。偽装表示の中でも原料原産地表示の違反が特に多い。また故意ではないが、産地表示や期限表示などのうっかりミスも多かったが、消費者志向の高まりを受けて、これまでは指導の対象だけで公表までされなかったものが、今後は公表されていくことになりそうだ。これからは、表示の間違いをどんどん公表して、自主回収も増えることになると、消費者の食の信頼がさらに失わることにもなりかねない。食品安全とは全く次元が異なる話なので、そこは分けて考えるようにしてもらいたいと思う。 
 それから消費者委員会の話題だが、先日行われた消費者委員会の食品表示部会では、ある防黴剤(ぼうばいざい)を追加することになったとき、輸入食品の反対を唱える議員から、今回新たに追加される防黴剤使用にはドクロマークをつけろという意見が出た。収穫後に使う農薬(ポストハーベスト)は日本では食品添加物の扱いになるが、既に食品安全委員会ではその安全性について評価され、厚生労働省で使用基準が定められている。使用基準は当然のことながらADI(一日摂取許容量)から他の作物の基準も含めて定められるものであり、安全性についての議論は終わっている。食品表示を決める場で、安全性を議論したり、差し戻したりしようとする動きについては、疑問を感じる。残留農薬基準値に意見があるときは、食品安全委員会、厚生労働省の審議の過程でパブリックコメント等の意見を出す場面がある。食のリスク評価は食品安全委員会の仕事で、食品安全のルールと表示のルールを議論する場を分けて進めようとしてきたのに、消費者委員会が消費者志向を根拠にその議論をする。消費者志向とは何だろうか。 

無添加表示や誤解を生む表示
 また最近の食品表示の話題として、添加物の表示では、無添加表示が問題になっている。消費者庁が先日、ある食品事業者に対して、香料を使っていたのにもかかわらず「無添加」と表示して杏仁豆腐を販売していたとして、指示・公表を行った。「無」や「ゼロ」表示が目立つようになってきたが、真正性が問われてくるようになった。
 ここに持ってきたが、無添加の味噌、おしゃぶり昆布(保存料無使用)、レトルトカレー(保存料無使用)を見て私はおかしいと思う。そもそも味噌は塩分で保存が利くように作られた食品であるし、しゃぶり昆布は乾燥で保存できるようにしたもの。レトルトは長期間保存するために殺菌方法が精査された保存手法だ。こういうものに不使用を書くのはおかしくないか。「不使用」とか何も表示していないものは、まるで保存料が用いられているような書きぶりだ。もやし(無漂白)をみれば、普通のもやしは漂白しているのかと思ってしまうのと同じことだ。保存料と合成着色料使っていないお弁当というが、グリシン酸、pH調整剤は使っている。特定の剤だけの不使用を声高にいうのはおかしい。 

これからの食品表示の検討課題
 これから消費者庁・消費者委員会で表示の検討が行われるのが健康食品、遺伝子組換え食品、原料原産地表示、栄養成分表示、トランス脂肪酸表示、期限表示等である。民主党のマニフェストでは原料原産地表示の拡大が掲げられているので、この課題については特に積極的に議論が行われている。項目を増やそうとしているが、既に多くの食品群が義務付表示となっており、現在検討されている項目が昆布巻き、黒糖及びその加工品が対象になっている。この二つは、特産品として国産を差別化したいとする産地の思惑も見え隠れする。そういう政治的な背景を抱えているものからとにかく義務付けしようとうする方向について、先日の食品表示部会では疑義が唱えられた。
 また、懸案事項である遺伝子組換え食品の表示についてもこれから議論が行われる。日本に輸入されるトウモロコシの8割、ダイズの9割が組換え品であると推測されるが、その多くが飼料として消費され、油のような非対象品目に用いられているため、実際には組換えの表示はなかなか見かけない。表示のルールが2000年に決まり、使用、不分別が義務表示となったが、食用油やマヨネーズのほとんどが不分別に該当するにもかかわらず、最終製品で証拠になるDNAやたんぱく質が残っていないものは表示対象外である。
 選ぶための表示なのに、対象外のため、表示されないので消費者は選べない。だれのための表示制度だろうか。その一方で、遺伝子組換えでない、無漂白、無添加などの表示がはびこるため、消費者の食品安全の認識をミスリードしてしまう。「○○でない」とわざわざ書かれているから危ない!と、消費者が思考停止にならないようにしてほしいと思う。


 
会場風景  

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 優良誤認は取り締まれるか→取り締まる法律はあるが、何をもって優良誤認とするのか解釈が難しいこともある。実際に優良誤認として取り締まりが行われているものは、健康食品などの極端な事例のものが多い。
    • 国産ダイズという表示に弱い→国産だからといって、安全性が高いということではない。輸入でも国産でも分析をすると残留農薬基準違反のものはほとんどなく、違反率もほぼ同じである。ただ、国産の農家を応援したいということで、選択するのであれば、それは表示が目安になると思う。
    • ネズミで人間用のADIを決めていることが信じられない。動物実験を人間に当てはめるのはおかしい→毒性学の基本は、ラットやマウスなどの動物実験によって得られたデータから、体重あたりの物質量で毒性を決めるという考え方。しかし、ある程度は振れもあるかもしれないので、そのことを考慮して、動物実験で得られた数値を人間に適用する際にはさらに厳しくするべきだと考え、安全係数をかける。農薬のADIでは1/100が通常使われ、これは動物種の違いを考慮して1/10。それに個々の体質を考慮して1/10を掛け合わせたもの。ADIを信用できない人は、農薬を使わない有機農産物を選ばれたらいいし、有機農家を応援することはいいと思う。しかし、科学をベースに安全が管理されていれば、農薬を用いて安定供給した農産物が選べる社会がいいと思う。有機ばかりだと高いし、日本の人口には足りないのではないか。
    • 羊羹にアミノ酸が入っていて呆れた。添加物の原料原産地を書いてほしい。添加物は国産を。→羊羹にアミノ酸というのは初めて聞いたが、それは表示をきちんとされているから知ることができたことになる。また添加物の用途名併記を充実してほしいという意見は聞くが、添加物の原料原産地表示は初めて聞いた。実際にどこまで表示するのか。表示欄が多くなってわかりにくくなるのではないか。ビタミンCの多くは中国から輸入しているが、輸入だからといって不純物が入っていたり安全性に問題があったりしたら、輸入検疫でひっかかって輸入はできない。
    • お金がない人はなんでも食べろといわれている気がする→確かに貧しい国はお金がないと、なんでも食べろとなって健康を害することがある。タイでは安いものも、高いものも選べるが、安全性に問題のあるものも販売されている。それに比べて、日本は販売されているものは値段にかかわらず安全だと思う。
    • アミノ酸が入っていないタラがそんなに大変でなくて買えるのがいいと思う。
    • (他の参加者から)アミノ酸が入っているタラがやすければ、値段を見て納得すればいいのではないか→私は食品化学を専攻してきたので、アミノ酸が入っていても天然も合成も化学物質として同じように考えているので、あまり気にならない。というか味の違いがよくわからない。でも気になる人のための表示制度だと思う。アミノ酸が入っているタラは、そのことを表示しなくてはならず、消費者はそれを見て選べるのがいいと思う
    • 羊羹にアミノ酸を入れるのもやりすぎだし、無添加の強調もやりすぎの状況だと思う。→甘みにステビアを使った梅干しを子どもはおいしいというが、主人は口内がぴりぴりするような感じがするという。私はよくわからない。人によって感じ方が違うのだと思う。問題があると考えたら、表示を参考にすればいいし、表示がおかしいと思えば表示の議論に参加できる仕組みがいいと思っている。
    • このごろ日本国内のお土産をもらうと、どれもそこそこにおいしい。みんながおいしく思う味が決まって、味覚も同じになっている。そこが問題だと思う→確かに、お土産でまずいと思うものは無くなったが、これは一つは食品加工技術が高まって、進歩しているという一面もあるのではないか。食品事業者として、まずいものを世の中に出したいという人はおらず、それを技術が下支えしているのではないだろうか。私の同級生は食品メーカーの研究所に勤めている人が多いが、皆、少しでもおいしいものを安定供給しようとして努力している。そうした努力で、まずいものが無くなっていくのなら、それはそれで良かったような気もするが。
    • アミノ酸を使っている羊羹が嫌だといえるのは、表示が有効だということではないか。価格も考えて選択していくしかない。
    • 無添加に惑わされないで、同じものを続けて買わないようにするのも、ひとつのリスク分散だと思う→一括表示を見て選んでください。
    • 表示には詳しく書いてほしいが、いっぱい書いてあると不安になることもある→表示も進化している。表示の情報提供については、HP(ホームページ)による情報公開や、お客様相談室の問い合わせなど、いろんな方法があると思う。どういうやり方が消費者にとって一番望ましいのか、消費者庁が発足していろんな消費者視点があることを反映していけたらいいと思う。