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バイオカフェレポート「食品から検出される放射能〜福島第一原子力発電所事故より」

 2011年4月8日(金)、茅場町サン茶房にて、桜満開の中、第72回バイオカフェを開きました。お話は原子力研究開発機構 小林泰彦さんによる「食品から検出される放射能〜福島第一原子力発電所事故より」でした。初めに、池澤卓郎さんによるバイオリン演奏がありました。
 基本的な「放射線と放射能の違い」に始まり、環境放射能があること、医療では上手に利用されていることなど、知らなかったことを多くうかがいました。これからは、事故をめぐる報道を見たとき、恐れるだけでなく学んでいこうと思いました。

池澤さんの演奏「ふるさと」 小林さんのお話

お話の主な内容

 私の専門は放射線生物学なので、福島原子力発電所の事故については、新聞やインターネット情報程度しか知りません。けれど、放射線、放射能を解説するいろいろな資料が作られているので、それらを使ってお話しし、皆の不安の整理に役立てたら嬉しく思います。

放射能と放射線
 放射能と放射線について、最低限知っておくべきことを巧みに説明したポスターが長神風二さん(東北大学)らによって作られました。避難所の体育館の壁に貼れるような内容で、あまりの分かり易さに衝撃を受けました。これを使って説明します。
「放射線」は電波のように目に見えない光で、人の細胞を傷つける可能性がある。モノや壁で、ある程度、遮ることができる。遠いと弱くなる。
「放射能」は放射線を出す力で、力のもとは、モノ。やはり目に見えない。
「放射性物質」(放射能をもつモノ)は、靴や衣服に付いて運ばれることがある。ときに、風で舞い上がり、雨で地面に落ちる。放射線を出す力は、時間が経つと減る。病原菌じゃないので、感染したりしない。(←この、感染しないということが、非常に重要です)
 気をつけることは、①「放射線をできるだけ浴びない」放射線が出ているところ(放射線源)から離れる、近くの人は家の中にいる。②「放射性物質を食べない、運ばない、持ち込まない」例えば、よごれた手をなめない、水たまりに入らない、雨に濡れない、家に入る前に服をはらう、など。

野菜の持つ天然放射能
 先のポスターの注意事項に「放射性物質を食べない」とあったが、実は、自然界にはもともと天然の放射性物質がある。たとえば、ミネラルの一種である天然のカリウムは、重さがわずかに異なる3種類の同位体:カリウム39、カリウム40、カリウム41の混合物で、そのうちカリウム40は放射能を持ち、放射線を出す。このカリウム40は、地球、いや太陽系が出来る前から存在している物質で、野菜や肉などの食べ物の成分のカリウムにも当然、天然の放射性カリウム40が含まれる。輪切りにした野菜の切り口を特殊な写真フィルムに密着させて感光させると、(写真のように)野菜から出た放射線で野菜の形が写る。レンコンの穴や、カボチャの皮と実の境目まで、くっきりと。あらゆる食べ物を通して私たちの体の中にはいつも一定の量の放射性カリウムが存在している訳で、ヒトの体には、約4000ベクレル(Bq)のカリウム40が含まれる。つまり、私たちの体の中で1秒間に4000個ずつのカリウム40原子が崩壊して放射線を放ち、カルシウム40またはアルゴン40に変化している。放射能の濃度でいえば、人体中のカリウム40の濃度は、約60 Bq/kgとなる。
 このほか、岩石や海水中にどこでも微量に含まれるウラン238や、大気圏の上層部で宇宙線の作用で絶えず新しく作られる炭素14などの天然の放射性物質が、水や食べ物を通していつも一定の量だけ私たちの体の中に存在している。
 これらの、私たちの体自身から出る放射線を自分自身で浴びることはどうやっても避けられないし、逆に言えば、その程度の放射線を浴びても全く問題ないということ。むしろ、現状よりも少ないと健康に悪いかもしれない。実験で確かめるのは容易でないが…

放射線はどうして発せられるのか
 ここからは、Ben Monreal先生(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)を日本の研究者が和訳したスライドを使います。
 19世紀までの化学の集大成は、この元素周期表。物質を構成する基本単位である元素を、原子の重さが軽い順に並べると、性質が似通ったものが周期的に現れることに気がついた。周期表の縦の列では、原子の一番外側にある電子の数が等しい。そして、左端の列:第1属元素のナトリウム、カリウム、セシウムなどは化学的性質がよく似ていてアルカリ金属元素と呼ばれ、右から2番目の列:第17族元素のフッ素や塩素、臭素、ヨウ素などはハロゲン元素と呼ばれ、いちばん右の第18族元素はヘリウム、ネオン、アルゴンなど化学的に不活性な希ガス元素。それぞれの元素の化学的な性質や化学反応は、原子の最も外側の電子の数で規定されることが一目瞭然に示された。
 これで、錬金術から始まる元素と原子すなわち物質の根源の探求の旅はいよいよゴールに…と思ったら大間違いだった。新しい扉を開いたのは、1895年のX線の発見につづく、ウランから出る放射線(アルファ線、ベータ線、ガンマ線)の発見。キュリー夫人は、ウラン原子が連続的に放射線を出す能力を「放射能」と名付けた。その放射線は、たいへん強いエネルギーを持ち、しかもウラン原子からの放出はいつまでも続いて弱まらない。(もし辛抱強く測定を続ければ、45億年後には最初の半分の強さになることが分かったであろう)
 周期表の背後には、まだ何か大きな秘密が隠されている! その後、各元素は実は1種類ではなく、重さがわずかに異なる複数の同位元素(アイソトープ)が存在することが分かってきた。どの元素であるかは原子核の中の陽子の数で決まり、同位元素のそれぞれの違いは原子核の中の中性子の数の違いである。陽子と中性子の数で決まる原子核の種類のことを核種と呼ぶ。宇宙に存在する(既知の、および理論上の)全ての核種を、陽子数と中性子数を軸にとって配置したのが、この核図表!(とても横に長い紙の帯)
 宇宙が誕生した時、水素しか存在しなかった。その後、星の内部での核融合反応や超新星爆発など様々なプロセスを経てこれらの多種多様な核種が生成され、放射線を介したエネルギーのやり取りで絶えず別の核種に変化しながら、今もこうして宇宙の天体や人体を形作っている。宇宙、そして自然界は、物質と放射線とのダイナミックな相互作用で成り立っていると分かったのが20世紀の物理学。

単位
 ベクレル(Bq):放射能(放射線を出す力)の強さ、活力を表す単位。1ベクレルは1秒に1回放射線を出す力。旧単位はキュリー(Ci)。1 Ciは、ラジウム1グラム当たりの放射能と定義された。1 Ci=3.7×1010 Bq(370億ベクレル)
 グレイ(Gy):放射線を浴びたときに物体が吸収したエネルギー量を表す。吸収線量。1kgの物体が1ジュール(J)のエネルギーを吸収したときが1グレイ(Gy)。間違いやすいこと:放射線が物体を完全に透過すると、エネルギー授受はなく、放射線の作用もない。
 シーベルト(Sv):人体への影響度を表す単位。実効線量。ガンマ線やベータ線の場合、1Gy=1Svと考えて良い。様々な放射線を様々な異なる状況で浴びた場合の人体への影響(主として発がん確率の増加)を見積もるための、放射線防護上の目安。本来は比べられないものまで無理に数値化して比較や積算をするもので、物理的な概念ではないから私は好きではないが、お金で計れないはずのモノや命の価値を結局はお金に換算しないと補償ができないようなものか。

放射線による障害
 急性障害(確定的影響)は、一時的な脱毛、貧血など、組織や器官を構成する細胞がダメージを受けたことによる障害。ある量の放射線以下だと影響が出ない(しきい値がある)。臓器や人の感受性の違いによってしきい値の大きさは異なる。ある量の放射線を一気に浴びたとき、敏感な人が「放射線宿酔(吐き気など)」を感じる線量の、その約10倍を一気に浴びると半数の人が死亡する。そう知って、なんて際どい、危ない!と思いますか? お酒を飲んだとき、エチルアルコールの血中濃度が0.05%でほろ酔い(気分の高揚)、その2倍の0.1%で酩酊(千鳥足)、さらに2倍の0.2%で泥酔(ろれつが回らない、立てない)、さらに2倍(ほろ酔いの8倍)の0.4%で昏睡(1〜2時間で半数が死亡)。こんな際どい綱渡りで自分の命を危険にさらしながらアルコール飲料を楽しむ文化を我々は培ってきました。これは余談。
 一方、白血病を含む発がんの増加(確率的影響)は、被爆者などの追跡調査では、約200 mSv(ミリ・シーベルト)以上で統計的に有意に増加が見られるが、100 mSv以下では、その他の原因による発がんの頻度の大きさと、そのバラツキの背後に隠れて統計的にも検出できない。科学的には、検出できないからゼロ、とはいえないが、いくら大規模に調べても、数字としては出て来ない。
 日本人の3人に1人ががんで死ぬといわれ、治療して治るケースも数に入れると、誰でも一生の間に2人に1人はがんになる。放射線を余分に受けたことでがんになる確率がわずかに増加したとしても、放射線と関係なくがんになる確率の方がずっと大きいために、その変動や、放射線以外の環境要因や生活習慣の違い、個人差などの中に隠れてしまう。同程度の線量を、長い年月にゆっくり浴びた場合の影響は、さらに小さいと考えられる。
 そこで、念のために、100 mSv以下の低い線量でも「線量に比例して、少なければすくないなりの確率で発がんが増える」すなわち「放射線はどんなに微量でもそれなりにわずかに有害」と、用心深く仮定し、公衆や作業者の放射線防護の目安を決めている。
 ただ、世界各地の自然放射線のレベルが高い地域に住む人の中で、とくに発がんが多いという事実は無い。たとえば、ガラパリ(ブラジル)は15μシーベルト/時(130 mSv/年)、ラムサール(イラン)ではラジウム226を含む水が湧いていて屋外で最高73μシーベルト/時、屋内でも28μシーベルト/時(250 mSv/年)、ケララ(インド)では、8.7~34ミリシーベルト/時(76〜300 mSv/年)。これらの地域でも特にがんは多くなく、普通に暮らしている。

放射線同位元素を用いる医療 
 核医学検査では、甲状腺機能の検査で、放射性のヨウ素131を、一度に370万ベクレルも静脈注射することがある。これによる甲状腺の被ばく線量は2.9シーベルトと推定されるが、大人の場合、特に問題はない。他の臓器への影響もなく、安心して使える。
 甲状腺がんの治療では、ヨウ素が甲状腺あるいは他の臓器に転移した甲状腺がん細胞に集まる性質を利用し、ヨウ素131が出す到達距離が短い放射線(ベータ線)で甲状腺がん細胞だけを照射して殺す目的で、37億ベクレル、あるいはその何倍ものヨウ素131を投与することがある。投与量の合計が37ギガベクレル(370億ベクレル)を超えると、骨髄の造血器官の被ばく線量が3〜4シーベルトに達し、治療後10年以内に急性骨髄性白血病を0.5%の頻度で発症する可能性があるそうだが、この白血病の死亡リスクは、治療せず甲状腺がんが再発した場合のがん死のリスクの1/4〜1/40であり、治療した方が良いことになる。

環境放射線
 通常の大気中の放射線量は、地面からのガンマ線と、宇宙からの宇宙線を合計したものになる。ある測定例では、海上の舟の上では海底からのガンマ線が海水で遮られるため0.03マイクロシーベルト毎時(μSv毎時)、木造住宅では地面からと宇宙からが半々ずつで計0.06μSv毎時、鉄筋コンクリートの建物や街路では壁や石畳の鉱物に含まれるウランなどからのガンマ線の寄与が大きく0.1〜0.12μSv毎時。国際線の航空機に乗ると、高高度かつ高緯度地方ほど宇宙線が増え、2〜5μSv毎時(例えば成田・ニューヨーク往復で、〜200μSvなど)、国際宇宙ステーション(ISS)では、さらに10倍以上に増加し数十μSv毎時(1日で1ミリシーベルト)になるが、長期滞在した宇宙飛行士の健康に影響は無かった。
 関東と関西など地質の違いでも地面からの放射線量が異なり、岐阜県、滋賀県など関西の方が高い。
 今回の原発周辺(福島県)の測定値では、水素爆発のときなどに最も高い地点で宇宙ステーション並みに上がり、その後は次第に減少し、現在は最も高いところでも国際線航空機のレベル。

低線量の影響
(財)環境技術研究所(青森県六ヶ所村)では、4000匹のマウスを用いて、低線量の放射線が動物の寿命に与える影響を調べた。3段階の線量率:0.05 mSv/日(約2μSv毎時)、1.1 mSv/日(約45μSv毎時)、21 mSv/日(約875μSv毎時)で、積算線量がそれぞれ20、400、8000 mSvに達するまで、約400日間照射を継続した。その結果、最も高線量の、かならず影響が出るはずというポジティブコントロールとして設定された21 mSv/日の群では、雄マウスと雌マウスの両方で、統計的に有意な寿命短縮が観察された。中間の線量の1.1 mSv/日の群では、雌マウスにだけ、統計的に有意な寿命短縮が観察された。最も低い線量の、0.05 mSv/日の群では、雌雄どちらのマウスにも、寿命短縮も、寿命の延長も、見出せなかった。さて、この結果を、そもそも寿命が異なるヒトに、どう当てはめるのが妥当か? まだまだ議論がつきないところ。
「1シーベルトの被ばくで生涯のガンの確率が5%増える。これは、運転中の携帯メールをかけるくらいのリスクで、避けるべき」とBen Monreal先生(カリフォルニア大学サンタバーバラ校)は言われている。
 数ミリシーベルト(mSv)の被ばく自体は全く心配することはない。しかし、数ミリシーベルト毎時(mSv/h)の被ばくを長時間蓄積するのは良くない。
 放射線を使う作業者は、身につけた個人線量計で計ったシーベルトを足し算して、「1年間に50ミリシーベルト以内」などの防護基準を超えないように安全管理されている。
 原爆被爆者の、その後の発がんの状況を基にして放射線発がんリスクの研究がされているが、原爆はそもそも巨大な爆弾だったということを忘れがち。爆心地の近くにいて、その瞬間に、生死に関わるような高線量を受けた人は、放射線の影響が現れる前に、表にいて熱線の直射を受けて黒こげになるか、爆風で倒壊し燃え上がった家屋の下敷きになって亡くなった。被爆者の発がんデータは、市街の中心以外にいて、比較的低線量の放射線を受けた人たちの追跡調査の結果である。その生存者たちが、被ばくの瞬間どこにいたか?爆心地からの距離だけでなく、どんな場所にいたのか、家の中ならどこにいたのか、屋根や壁の材質、窓の位置、隣の家屋の高さや厚さ、等などの遮蔽の条件によって実際の被ばく線量は大きく異なり、各個人の線量の推定値には誤差が避けられない。
 そもそも、放射線が引き起こすがんのメカニズムもよくわかっていない。
 一瞬で高線量を浴びた時と、長時間に低線量を浴びた場合、低線量のときは回復して影響がキャンセルされることもある。
 原爆では、数マイクロ秒というごく短い時間で被ばくし、200ミリシーベルト浴びたグループのがん死亡率が1.08倍になっていることから、一瞬で200ミリシーベルトを浴びると、がん死のリスクが増えると言える。一方、中国の高自然放射線地区で暮らし、60年間にわたって合計330ミリシーベルト被ばくした住民や、職業被ばくとして20年間にわたって計100ミリシーベルト被ばくした英国の放射線科医、約10年間に20ミリシーベルトを被ばくした欧州の定期航空パイロットのがん死亡率は、同じ条件で放射線を受けなかったグループの0.68〜0.75倍と低かったというデータもある。つまり、通常の自然放射線よりも多い放射線を長期間にわたってゆっくり浴びた場合は、却ってがん死亡率を低下させる、ホルミシス効果があるという解釈もできる。
 国内外のラドン温泉は、数千から十数万ベクレル/リットルのラドンを含有する。約1万ベクレル/リットルを含有する鳥取県三朝(みささ)温泉の地域住民の疫学調査が過去3回行われ、同じような環境であるが放射能含有温泉ではない温泉の地域住民の発がん率と比べられたが、統計的にはっきりした差は出なかった。つまり、アルファ線とガンマ線を出すラドンの内部被ばくによる放射線発がんの増加は観察されず、逆にホルミシス効果による発がんの減少も証明されなかった。

注意すべき核種
ヨウ素131:物理的半減期が短い(8日)ので初期の活力が高い。チェルノブイリでは小児甲状腺がんが増加。大人では発がんの増加はなかった。
セシウム137:物理的半減期30年だが体内から速やかに排泄され、生物学的半減期は大人で約100日、子どもはもっと短い。
ストロンチウム90:物理的半減期30年。総量はセシウムより少ないが、骨に蓄積。
プルトニウム241:半減期は14年。骨に沈着する。チェルノブイリでは原子炉近くで影響が大きかった。ただし除染が容易。

環境放射線
 日本の上空の放射能塵の調査(航空自衛隊)や、東京・つくばで地上に塵や雨とともに舞い降りた放射性降下物(いわゆるフォールアウト)の観測値(気象研究所)をみると、1950年代〜1960年代、特に中国が地上(大気圏内)核実験を頻繁に実施した1960年代前半は、現在の1000倍から1万倍を超える放射性物質が日本に飛来し、地上に降下していたことが分かる。1980年に地上核実験が中止されてから徐々に減少し、1986年のチェルノブイリ原発事故の際に再び小さなピークが記録されたが、核実験頻発時に比べるとそのインパクトは小さく一時的で、すぐに再び減少に転じた。しかし、その後、1990年代に入ると放射能濃度の減少傾向は止まり、ほぼ一定の水準で推移している。これは、中国砂漠地帯の核実験場周辺の高濃度に汚染された地域の表土が、砂嵐で巻き上げられ、黄砂ともに日本に飛来し、繰り返し地上に降下しているためと考えられる。

まとめ

  • 大事故といわれるチェルノブイリを振り返ると、作業にあたった消防士ら134人に急性放射線障害の症状が見られ、3ヶ月以内に28人が死亡、その後20年間に19人が死亡。
  • 危険を知らされずに放射性ヨウ素で汚染されたミルクを飲んだ子どもたちの中から通常の10倍以上の頻度で小児甲状腺がんが発生、発見された患者数は約4000人以上。多くは手術で治り、20年間の死亡患者は9〜15名。
  • 白血病も含め、その他の病気の増加は確認されていない。
  • 本当に痛ましいのは精神的不安やストレスの影響で、被災地周辺だけでなくヨーロッパの広い地域で放射能への恐怖から不必要な人工妊娠中絶が多く行われたこともあげられる。

  • 長い長い核図表 会場は立ち見が出る満員

    話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 1キロで200ベクレルのヨウ素とセシウムがあったら、どっちの影響が大きいのか→ヨウ素の影響は専ら子どもの甲状腺がんのリスク、セシウムは子どもに限らず全身の各臓器の発がんリスクの増加なので、一概に比べられない。セシウムの半減期は物理的に30年だが、体内からの排泄が早く、成人では100日程度で半分になる。子どもはもっと早い。どのくらいの量のセシウムが体内に滞留するかで、各臓器が受ける放射線の量が決まる。受けた放射線の量と発がん確率の増加の関係は、原爆被爆者が一瞬で浴びた放射線量とこれまれの発がんデータを基に、線量に比例すると仮定して(安全側にたって)推定する。
    • 1ミリシーベルトが安全だというが、5ミリシーベルトだから安全という発表があると混乱する→被爆者のデータなどを元にすれば、どちらも十分に安全。あとは安心の問題。どちらも、なるべく低く抑えるにこしたことはないという努力目標的な数値。通常時は、うんと低い(厳しい)数値でも、原発の周辺でもいつも十分にクリアしていた。今回のような緊急時に、どこまでを「まあ安全」と看做すか、逆に言えば、例えば食品衛生法で有害と看做すのは何ベクレル/kg以上の場合かなどを予め決めておく準備がなかった。
    • 実験ではネズミにどうやって放射線を当てるのか→隔離された部屋で、セシウム137線源からある距離の場所にケージを置いて飼う。毎日、マウスの世話や観察のために人が中に入るときは照射を中断するので、24時間連続ではない。
    • グレイとシーベルトの換算は→セシウム137とヨウ素131では、1グレイ=1シーベルト。測定器はグレイで測る。放射線の測定器は、どんな種類の放射線を計るかで設計が異なるが、実用的に便利なように、グレイをシーベルトに換算した価が目盛になっている。
    • 外部被ばくと内部被ばくの影響の違いは→体の外から放射線が当たるか、体内に取り込まれた放射性物質からの放射線が当たるかの違い。どちらであろうと、細胞が受け取る放射線の量で影響が決まる。ただ、放射線が届く距離と透過力が、放射線の種類によって大きく異なる。アルファ線の場合は、紙1枚、皮膚の角質層でも遮られるので、外部被ばくはあり得ない。アルファ線を出す物質を食べたり吸い込んだりして体内、細胞内に取り込んでしまった場合の内部被ばくだけが問題となる。透過力が強いガンマ線の場合は、体の外からでも中からでも関係なく、発生源からの距離の二乗に逆比例して弱まる。ベータ線はその中間で、アルミ箔などで止まり、衣服でも遮られるため、ベータ線を出すモノが皮膚に直接触れなければ外部被ばくの影響はない。内部被ばくの場合は、甲状腺に取り込まれたヨウ素131のように、ミリメートル以下の狭い範囲にだけベータ線が届いて器官レベルに限定的に集中的にダメージを与える。
    • 数10年前の大気での濃度が高かったというが、今の状態はどうなのか?→ポンと出た時は高くなり風向きで移動。雨がふるとそこに落ちる。そこはスポット的に高くなる。20キロ圏内の野菜を捨てるなら自分は洗って食べたいと思う。実際には、強制的な出荷禁止は農家に補償をするための手順という意味もあるだろう。出荷禁止されていないものは十分に安全。風評被害に加担しないようにしたい
    • 私は70歳なので、過去に核実験の放射能を含んだ空気を吸ったり放射線を受けていると言うことか→はい。大陸から飛来した放射能の塵は日本全体に降り積もり、1950-1960年代は全国的に平等に汚染されていたはず。
    • 数10年前の環境放射能が高かったというデータを見せるべき→研究機関のHPや学術雑誌では公開されている。中国の毒入り冷凍ギョーザ事件以来、中国産は危険で国産は安全というような根拠のない消費者の思い込みが広まり双方がたいへん困った。今回は逆の風評被害でしっぺ返しされる図式。外国との交渉で持ち出すかどうかはさておき、こういう事実があったということは知っておいて良いのでは? 
    • 年代別のがんへの移行への調査はないのか→原爆被爆者の追跡観察では、そういう調査もされている。しかし、数10年前の核実験による放射能が日本人の発がんリスクに与えた影響よりは、その後の自動車の普及などによる大気汚染など環境中の様々な発がん性物質の増加による影響や、食べ物の変化の影響の方が大きいのではないかと思う。
    • 発がん確率が5%増えるとは、人口10万人をかけたら5000人増となる→たとえば、100ミリシーベルトの被ばくで、発がん確率が仮に0.5%増えるとします。自分ががんになる確率が50%から50.5%に増えるとしても、他の病気で死ぬ確率はその分減るだろうし、もしそれが、その人ひとりにとってどうでもいいことであれば、人口が100万人だろうが1億人だろうが、全体にとってもどうでもいいこと。わずかなリスクに膨大な人数をかけ算して人を驚かすのは数字のトリックであり科学の誤用。
    • 菌じゃないので感染しないというが、患者を隔離するのは感染みたいだと感じた→体内の放射能がある程度に減るまで法律の定めで隔離される。それ以下に減っても、家族や他人へのエチケットとして、周囲の人に余計な被ばくを与えないように握手はダメ、添い寝は禁止など、患者が指示されることがある。しかし、そもそも患者の隔離は、家族や他人へのエチケットというより、医療従事者の被ばくをできるだけ減らすという観点で重要。
    • 避難者を検査・除染するのはなぜ→サーベイメータによる汚染検査は、周囲の他の避難者の安全のためや、医療従事者保護のためではなく、汚染している人を早く発見してその人の安全のために除染してあげるため。それとは別の話で、放射性物質で汚染された怪我人を無警戒に医療施設に運び込んで救急治療をした時、知らないうちに病院の中に放射能を持つ塵などが散り、靴の底についたりしてあちこちに運ばれて汚染が広がり、後始末が大変だったという事例がある。平時には、そのような「汚染」が、仮に健康には何の影響も与えないとしても、目に見えない放射能による管理を外れた汚染は許さない、自然の放射性物質以外の存在は許さない、と、神経質なくらいに汚染防止が徹底されている。
    • 牛乳が基準値より高くなって廃棄されている。水爆実験の頃の牛乳のデータはないのか →あればいいと思う。原乳中の放射性物質は牛が飲用水から摂取したものだろう。
    • ドイツでは汚染された牛乳をチーズにしたと聞いた→日本では搾乳したときの基準値があり、それによって、廃棄されている。放射性ヨウ素なら、チーズに加工している間に減衰して消えて無くなるのに。
    • ラドン温泉は体にいいが、核種によって悪影響になるのか→核種でなく放射線の当たり方の違い。空気中のラドンから出るガンマ線は体全体にまんべんなく当たり、肺や皮膚から体内に取り込まれて血中をめぐるラドンからのアルファ線はたまたまその前にある細胞にだけ当たる。
    • 海の汚染はどう考えるのか、過去にはなかったのか→沿海州でソ連の古い原子力潜水艦が老朽化して放置され日本海を汚染した例や、セラフィールド(イギリス)の核燃料再処理施設の放射性廃液が問題にされた例がある。海では莫大な量の海水で希釈されるため、陸上の汚染より影響は小さい。高濃度の汚染水の流出を避けるために、やむを得ず低濃度汚染水を海に流したのは、当然の判断。
    • アララ(合理的に達成できる範囲でできるだけ低くas low as reasonably achievable)とは→やればできるのに怠慢はだめ。低線量被ばくは線量がどれだけ小さくでもそれに比例して影響があると、用心深く仮定して、なるべく下げる努力している。しかし、リスクのトレードオフということをいつも忘れてはならない。
    • 福島の魚はアララで食べられないのか→福島産でないものを選ぶためにもっと危険なもの、たとえば食中毒のリスクが大きいものを選ぶとしたらおかしい。それに、基準値を多少超えた魚を食べることによる放射線被ばくのわずかな増加によるリスクより、過剰に心配する不安ストレスによる心身への悪影響がよっぽど大きいと思う。そもそも、基準値は、ここまでは安全でそれ以上は危険、という明瞭な線引きではない。基準値は、それを超えたら、食べても大丈夫か制限した方がよいかをまじめに検討してもいいかもしれないという合図のようなもの。ただし、たとえ安全だとしても汚染魚と言われると売れなくなるのは事実で、補償してもらえる人と補償してもらえない人をどこで分けるか、どこかで線を引かないといけないので、そのために出荷禁止の基準があるようなものか。
    • 魚は被ばくしないのか→魚が海水からの放射線を浴びたからそれがどうしたという問題は無い。魚や貝、海藻などの海産物に放射性物質が蓄積し、それを人間が食べた時の影響があるかどうかが問題。ヨウ素は半減期が短く、自然になくなる。セシウムは海水に溶けて希釈されるし、魚には蓄積しないので影響は一時的。ストロンチウムやプルトニウムは骨に蓄積する性質がある。プルトニウムは海水には不溶性なので海底に沈んでしまって影響は小さいのでは…?