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バイオカフェレポート「ゴーヤの大敵〜ゴーヤを狙う国際手配されている大害虫との戦い」

2011年6月10日(金)、茅場町サン茶房にて、バイオカフェを開きました。お話は、(独)農業・食品産業技術総合研究機構 生物系特定産業技術研究支援センター研究リーダー 川崎建次郎さんによる「ゴーヤの大敵〜ゴーヤを狙う国際手配されている大害虫との戦い」でした。初めに、モーリン齋藤篠さんによるクラリネット演奏がありました。

モーリン齋藤篠さんのクラリネット演奏 川崎建次郎さんのお話

お話の主な内容

はじめに
沖縄県でウリミバエの根絶事業に関わってきた。害をする虫が害虫。昆虫が害虫という名がほしくてなったのでなく、人間が植えた作物を食べたり、人に不都合を起こすと害虫ということなる。作物を作っている場所は、虫には食べるものがあって天国だが、それが害虫になる。害虫には、農業害虫の他にハエ、カなどの衛生害虫がある。カブトムシは害虫でないが、幼虫が芋の根を食べるコガネムシやガの仲間のヨトウムシは害虫。ミバエはキュウリやゴーヤの実を食べてしまい、熱帯にすみ種類が多い。

ウリミバエ
ウリミバエは東南アジアにすむ害虫。タイトルの「国際手配されている大害虫」というのは、外国でも大きな被害が出ているということ。東南アジアから果実を持ち帰ると没収されるが、これはミバエが入国しないようにしているため。
日本では「特殊病害虫」に指定されている。その意味は、その害虫が食べる植物を虫がいない場所に持ち込んではいけないということ。ミカンコミバエもこのグループに入る。沖縄にはウリミバエやミカンコミバエがいたので、これらが付く可能性があるキュウリを沖縄から本土に売ることができなかった。沖縄ではマンゴー、パパイヤなどの熱帯果実や、冬にナス、キュウリができて、本土に売ったり観光のお土産にしたりできら有利なのに、それができなかったので、ミバエ防除が始まった

害虫の防除
沖縄にいるモンシロチョウは本土から来た害虫。ミバエは南方から入った。沖縄には南北からいろいろな害虫が入って住んでいる。その中でもミバエ類は害虫の代表。
害虫の防除の方法はいろいろある。今は多様な技術を組み合わせた総合防除が進められている。
①農薬
利用は第二次世界大戦以降。江戸時代は鳴り物で虫を追い出す「虫追い」という神事のような方法や、除虫菊の利用、鯨の油をまいた水田に虫を叩き落すなどしていた。しかし、広い範囲の効果的防除はできなかった。
戦後、DDT、BHC、パラチオンなど強力な殺虫剤が使われるようになった。効果は大きかったが、他の生物にも影響が出た。今は、ヒトに影響のない農薬がたくさん開発されている。さらに環境にやさしい農薬が多く誕生した。
②天敵昆虫 
テントウムシがアブラムシを食べるような関係。天敵の虫を育てて売っている企業もある。
③フェロモン 
昆虫のメスが放出してオスを引き寄せる物質。フェロモンを畑にまいて、全体に漂わせる交信かく乱法では、オスはメスがどこにいるのかわからなくなってしまい交尾できなくなる。
④遺伝的防除法
不妊虫放飼法もこのひとつ。植物の自花不和合性に似ていて、卵がを産んでも孵らなくなる。突然変異の研究が進み、放射線をあてて不妊化した害虫を放して防除する方法を米国農務省のニップリングが発明。家畜の傷口を蛆虫が食べてしまうラセンウジバエで応用され成功した。他の害虫への応用として、沖縄のミバエで試みることになった。

ウリミバエの防除
ミカンコミバエには強力な誘引剤があり、それを置くだけで根絶に成功したが、ウリミバエは誘引剤だけでは根絶できなかった。
ニガウリにウリミバエのメスが卵を産むと、中身から食べられて、実が黄色くなって落ちる。
ウリミバエは1919年、石垣島で見つかりだんだんに北上。1974年、奄美大島。寒い温度では生きられないだろうが、九州南端なら生息できるかもしれない。
放射線を当てたオスやメスと交尾すると、卵は孵らない。昆虫は放射線に強いので、70グレイで照射し、この雄が正常な雌と交尾しても孵化する卵を産まないようにしっかり不妊化する。ハエは昆虫の中でも放射線に強い。照射しすぎると、飛べなくなったり、野生のオスとの競争に負けてしまうことがあり、これでは防除にならない。1匹の野生のオスとの競争に勝つには大体2匹の照射されたオスが必要。
競争力、寿命を計算し、根絶に野生のハエの10倍の数の不妊ハエが必要であることがわかった。まず、どのくらいの数のウリミバエが野外にいるのか、密度を推定した。

防除の開始
初めに抑圧防除で数を減らしておくことになった。誘引剤またはたんぱく質加水分解物溶液にハエを寄せ、舐めさせて、含まれる殺虫剤で数を減らす。
何匹のハエを作ればいいかはわかったが、予算の関係でほしいだけ虫をつくることはできない。沖縄本島を1度に根絶するには足りなそうだ。久米島 宮古群島、八重山郡島、沖縄本島を地域分けをして根絶に取り組んだ。沖縄本島の北はヤンバル(山で森林)で、山の中にはハエがほとんどいない。
ウリミバエの工場は3階立てだが、天井が高く6階建ての大きさ。1階は幼虫(ウジ)を生産し、2階で蛹にする。3階は成虫から卵を取るようになっていて、外にウリミバエが逃げないように厳重な措置を施してある。
大量飼育には虫を飼い馴らさないといけないが、過ぎると野外で暮らせなくなる。例えば、野外のウリミバエは夕方、交尾するが、人工飼育はそうならないなど。成虫を飼う部屋の明るさを自然に近くするなどの工夫をした。
まず、小さな穴をあけたプラスチクの筒にカボチャのジュースを入れ、卵をたくさん産ませ、筒の卵を洗い流して集める。成虫になっても飛べないハエは使えないので、歩いて出ることができない容器に入れて、飛んで出られた虫の割合を調べて品質管理をした。1週間に1億匹の虫を作り出した。
野外では果実を食べるが、工場ではふすまに砂糖などを水とまぜてバットに入れて餌として与えた。ものすごく大量の虫を飼うので人手では手が回らないので、自動的に飼育室に移動するラックで虫を飼う。まるで、「ミバエ工場」という様相。
幼虫はバットの餌で育ち、蛹になるために培地から飛び出してくる。結果的に、ハエは飼いやすい虫だったと思う。幼虫は自分の力で這い出し、飛び出してくるので、集めやすい。
幼虫は1週間くらいで、俵型の蛹になる。3日目にふるいにかけると飛べなくなることもわかった。
また、ハエは病気に強い。蚕は消毒しても病気の心配が絶えない。病気に強いのも、ハエが飼いやすかった理由のひとつ。
蛹を籠に入れて、コバルト60(γ線を出す)の周りをぐるぐる移動させて照射。
一方、島中にトラップをつけて、野外で虫をとる。不妊虫のさなぎは蛍光色素と小型のコンクリートミキサーに入れてまわし、色をつける。トラップで捕まえたムシを見て頭が光れば照射虫。
成虫の放し方も、はじめは蛹を入れたバケツを提げておいたり、手でまいた。数が多くなると、冷蔵コンテナで虫を冷やし、冷えて寝ている虫を入れて自動的に虫を落とす装置をヘリコプターのの両側に付けて空からまいた。

ウリミバエの根絶とその後
根絶の確認は、オスの誘引剤をおいて2週間に1度、モニターを続けて調べる。つかまえた中に野生の虫がどれだけいるかを肉眼や顕微鏡で確認。
トラップだけでは不十分だと考え、果実を集めて虫を調べた。不妊虫を放し続けると、不妊虫と交尾したメスは 卵を生めなくなり、1987年から島ごとに根絶され、1993年に根絶。その間に530億匹を放した。今の工場の能力は1億匹を作れる。90億円かかった。
今もウリミバエを飼い続けて、状況把握をしている。
那覇市では、今も虫を放し、侵入警戒防除を行っている。ウリミバエはほとんど入ってきていない。しかし、ミバエが入ってくる可能性は常にある。
台湾にはウリミバエがいるが、根絶は難しい。面積が広すぎる。沖縄で、根絶できた理由のひとつに面積が限られていることがあげられる。
米国農務省は、メキシコでチチュウカイミバエの根絶に成功しているが、侵入の最前線のグアテマラで虫を撒き続けている。
ミバエの事業では、作られる虫の品質管理をきちんとして、虫の状態をチェックし、どんな状態でどのくらいの数が必要かを把握する。こうして、沖縄では根絶できた。農薬は撒いた場所の虫だけが死ぬが、不妊虫は自分で相手を探す自動追尾装置つきの害虫防除装置といえる。


根絶記念のペンスタンド
(ウリミバエとミカンコミバエが樹脂で封入されている)
会場風景

話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • オス、メス、照射するのか→両方、照射し、完全不妊にする。
    • 交尾の回数は→ミバエは複数回交尾をする。多く放して効果をあげる。
    • 沖縄には基地があるが、その区域はどうしたのか→関係者の努力によって虫を撒く許可を得ることができた。
    • 熱帯の果物に害虫がついて入ってくる可能性はあるのか→果物は蒸気で消毒して輸入する。台湾はミバエがいるので、台湾のゴーヤは日本には輸入できない。一定の処理で効果があると日本が認めれば輸入できるようになる。このごろは沖縄だけでなく本州でもゴーヤは広く栽培されるようになった。台湾のウリミバエを根絶する話は実現しなかった。
    • 台湾でできなかったのは→面積が広すぎて十分な虫を作れないことがわかった。
    • 毎年防除は続けているのか→YES.飼っている蛹の5%程度を放射線をあてずに保存している。あてない虫はそのまま飼いつないでいく。
    • 飼い馴らされて夜型になったというが→沖縄の野生のミバエをつれてきて実験しようとしたら、根絶してしまって野生ミバエがいなかった。台湾のミバエで実験した。体内時計にも影響して交尾時刻がずれていることがわかった。
    • 台湾ではどうやって防除しているのか→薬剤、袋かけで防除。日本で根絶を実現された背景には、特殊害虫だと沖縄産のものを本土に移動できないということがあった。
    • 放射線照射に対して住民はどうだったか→被害が大きかったので、住民の期待はおおきかった。うまく根絶できて喜んでいる。イモゾウムシへの技術の利用が進められている。この害虫も特殊害虫のために、沖縄の生のムラサキイモを本土に移動できない。不妊虫をまいて根絶をすすめているが、まだできていない。
    • テントウムシを販売しているというが→天敵資材として販売されている。テントウムシはすぐ飛んでいなくなってしまうので、飛ばないテントウムシを作って販売している。
    • テントウムシは害虫か→羽に28個の黒点があり、ナスを食べるオオニジュウヤホシテントウは害虫。
    • 農薬以外の他の防除法は→虫が誘引される黄色いリボン状のハエ取り紙のようなものを温室に吊す方法は、総合的防除にも使われる。昆虫を役立てる方法で、セイヨウマルハナバチが花粉媒介で利用されていた。よく働くが、日本にもとからいた蜂を脅かす生態系を乱す特定外来生物に指定された。環境か、農業かという問題が生じる。
    • 天敵はどのくらい利用されているのか→高知県は天敵利用に積極的。農家で天敵を集めてきて放して利用することも行われている。
    • ウリミバエが北上している図があったが、侵入前は沖縄にはいなかったのか→1919年以前は記録がないというのが正しいと思う。
    • マラリアを媒介する蚊の不妊化はできないのか→遺伝子組換え技術が研究されている。遺伝子を組み換えて不妊化した系統ができれば、照射より安価。照射はし続けなければならない。ウリミバエ防除の時には、遺伝子操作技術はなかった。利用するかどうかは、遺伝子組換え技術のリスクとマラリアのリスクのバランスの問題だと思う。
    • ウリミバエのときに、地元住民に放射線アレルギーはなかったか→余りに被害が大きかったので、照射に対して意見はなかった。オスもメスも完全不妊化するので、その代ですべて死ぬのだと理解されたと思う。
    • 放射線照射でジャガイモの発芽抑制ができるか→ジャガイモに芽止めの理解活動として、東京でキャンペーンをしようとしたが、反対されてできなかった。
    • 放射線照射の時間は→70グレイで10分くらい。 


    最後に、3月まで農業生物資源研究所広報室長だった川崎さんから、新しい室長の小川さんと研究員の笹川さんが紹介されました。小川室長より「展示栽培ほ場では、今週火曜日種まきをしました トウモロコシを7月末に食べられます。遺伝子組換えダイズの除草剤効果もわかるようになります。ぜひ、目の前で見てもらい、遺伝子組換え作物について考えてください」というメッセージをいただきました。

    くらしとバイオプラザ21では2011年7月26日(火)、茅場町からバスで出発して、筑波の農場見学会を行います。
    参加申し込み https://www.life-bio.or.jp/topics/topics469.html