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メディアとの情報交換会「ユッケ問題から考える食中毒―食育の重要性」

 2011年6月20日(月)、食の信頼向上をめざす会主催 メディアとの情報交換界がベルサール八重洲にて開かれました。ユッケが原因で発生した食中毒を中心に、肉の生食、食中毒、食育について、専門家が講演しました。


「食中毒の現状と対策について」厚生労働省医薬食品安全部監視安全課課長     加地祥文氏

「食品衛生」とは、WHOの定義によると「栽培飼育、生産、製造から最終的に人に消費されるまでのすべての段階において、安全で、栄養価に富む、良質の食品を確保するために必要なあらゆる手段」を意味する。
「食品にゼロリスクはない」と食品安全委員会設立時から力をいれて伝えてきたが、放射線暫定規定値の議論などがきっかけに人々の不安はまた振り出しに戻ったようだ。ゼロリスクはありえないことは繰り返して伝えるべきである。食物は本性から安全でない。なぜなら、人に食べられたい動植物はなく、防衛機能から毒をつくって反撃をするからである。

食の安全性の特質
食物の非代替性:食物に代替性はないが、代替食品はある(牛がだめでも豚がある)
食品の摂取量依存性:パラケルススの教えのとおり、毒の作用には量が関係する
食品の対象期間依存性:個体影響と次世代影響
食品毒性の耐性:致死、後遺症の残るものもあるが、復帰可能な場合は寛容で回復すれば元に戻る。
すべての食品は栽培化、家畜化、品種改良で作られた。例えば家畜(大型化、馴化)、ジャガイモ(毒性を減らす)、調理で解毒化(水にさらすキャッサバ)、養殖で無毒化(フグ)。このように、食品は調理、加工、生産、流通の中で喫食時までに安全になっている。例えば、と畜場から出てきた生食用肉の表面にウイルスや菌がいるが、調理で菌のレベルがを低くして食べられるようになる。

食中毒とは
食べて毒に中(あた)るのが「食中毒」。教科書によると、飲食物やその器具容器包装を介して人体に入ったある種の病原微生物や有害物質によって起る急性の胃腸炎症などで、原因は食品だけではない。欧米でも食品に起因する病気・感染症・毒素などの用語が使われる。
監督・管理にあたるのは、8,000名の公務員獣医師。そのうち4,700名が公衆衛生関係で働いている(市町村が多い)。家畜衛生に関わる公務員獣医師は3,300名。保健所の食品安全監視員は、自治体に入ってから任命され、7,000名いる。
法的な説明では、食品衛生法58条に、食品や添加物などで中毒になった人をいきなり「食中毒患者」と書いている。医師は食中毒と診断した場合、保健所に届けなければならず、それが食中毒として把握される。食品衛生法第4条で、飲食に起因する衛生上の危害と範疇に入れているので、実際には、いわゆる食中毒が見つかりにくくなる。

食中毒の位置づけ
「えびす」で起こった食中毒のように、一人事例からは判断が難しい。
コンニャクゼリーなどの喉つまりの窒息死(4,000名)もO157(3,000名)も、食中毒として報告される。伝染病予防法、寄生虫予防法の対象になる疾病の死亡者は食中毒と扱われない。
昭和57年以前、コレラ、赤痢などの消化器系伝染病、寄生虫病は、食中毒に含まれなかった。その後、さば(ヒスタミン中毒)、乳児ボツリヌス症も対象になった。
1996年 腸管出血性大腸菌感染症が伝染病に指定され、1997年小型球形ウイルスによる食中毒が統計項目に追加された。
1999年 旧伝染病予防法が、感染症予防法となり、コレラ、赤痢、チフス、パラチフスが追加された。2001年には、アレルギーも加わった。

食中毒の発生
食中毒患者が見つかると、医者は保健所に通報、保健所職員が調査し、原因が特定されると、対策が知らされる。具体的には、医者の通報が2件以上になると、保健所は動き出す。
届けられた食中毒事件は平成10年からどんどん減って、平成21年、死亡者ゼロ。
原因の9割は細菌とウイルス。中でも事件数、患者数をみると、カンピロバクター、ノロウイルスが多い。季節でみると、ウイルスは冬場、細菌は夏場が多い。
腸管出血性大腸菌、カンピロバクターの食中毒は加熱不足が原因で起っていることが多い。

腸管出血性大腸菌食中毒
ガイドラインは罰則がないので、生食と食中毒がなくならなかったという人がいる。それでいいのだろうか。
平成8年、と畜場の衛生管理基準が改正になった。汚染防止のための衛生作業手順書(SSOP)ができた。平成9年、と畜場の構造設備基準が改定になり、設備が整備された。
平成13年、表示基準が改正になった。食中毒を出したら、懲役2年 罰金200万以下の罰則がある。生食用の肉から O157、O111、サルモネラが出たら、食品衛生法第6条違反で3年以下の懲役または300万円以下の罰金となる。
輸入食品は上記の罰則が輸入時にかかる。過熱加工用に用途変更すると、6条3号違反にはならなくなる。一度加熱用にしたものが生食に使われないように、缶詰、佃煮の工場に送るという誓約書をとる。
出血性大腸菌の届出は3,000から4,000件/年。検便でみつかるが無症状のケースも1,500件ある。O157食中毒で届けられた人は300名くらいだが、ひとり事例が多く、散発事例は追跡しにくい。
最近は、ある飲食店チェーンの原因ロットを調べ、菌の遺伝子を探すことで、広域散発事例も解明できるようになってきた。えびすの事件も感染事例から食中毒に切り替え調査している。毒素を産生しないO157は、感染症としてあがってきたが、検便ではひっかからなかった。集めた菌株の遺伝子とつき合せをしてつきとめた。
食中毒の実態を把握するのは難しく、本当の被害はもっとあるだろう。


「腸管出血性大腸菌 O-104型」国際獣疫事務局(OIE)      名誉顧問 小澤義博氏

2011年5月初めから、ドイツのハンブルグ近郊で急速に広がりだしたO-104型大腸菌は、EU加盟12か国のほかアメリカやカナダにも広がり、世界の注目をあびた。O-104は毒性が極めて強く、発熱、腹痛、吐き気などを伴う出血性下痢症(STEC)の患者に加え、溶血性尿毒症症候群(HUS)を伴う患者が異常に多く報告されている。また、これらの多くはドイツの患者や汚染物と何らかの関連を有することも分かっている。
この菌の感染源は、最初はスペインから輸入されたキュウリが疑われたが、分離された菌は別の菌であることが分かった。その後の疫学調査では、野菜サラダに加えられたモヤシが感染源であると断定し、生野菜、特に豆や種からつくるモヤシやスプラウト(発芽野菜)を控えるよう勧告した。最近では水耕栽培の水や種子の汚染も疑われている。
大腸菌O-104の特徴は、①強毒性、②抗生物質(ストレプトマイシン、ペニシリン系)に耐性、③成人特に女性に多発する等である。なお、O-104大腸菌は2004年に韓国で発生したことがあり女性一人が死亡している。診断は、遺伝子レベルで行う。疫学調査を行うときには、ドイツに滞在したことがあるか、ドイツからの輸入食品を食べたか、感染者やその持ち物との接触の有無等が指標になっている。
2011年6月13日現在、ドイツにおける感染者数は3,235人(内死者35人)、世界の患者数は3,343人(内死者は36人)でドイツと何らかの関連があった人が多く発症している。ドイツにおける発生のピークは5月20日頃で、5月末にはドイツにおける流行は終息したと発表している(後から増えてきた数字は、報告の遅れによる)。感染者の構成では女性が約2/3を占め、子どもが少ないのが特徴である。(しかし、この感染者構成の特徴は、女性のほうが生野菜をよく食し、レストランでサラダを食べ、子どもは比較的食べないためということも考えられる)。


「食肉の処理および日本の食文化について」
          スターゼンインターナショナル株式会社 代表取締役社長 多賀谷保治氏

O-157などの腸管出血性大腸菌は肉の表面にある。ユッケは細切り肉を和え、ハンバークは中に混ぜ込むので菌が増えやすい。ローストビーフやタタキは表面をあぶっているので、中が生でも大丈夫なのに、大暴落している。ユッケなどと一緒に考えないでほしい。

生食用食肉の安全確保について
と畜場から出てきた肉にトリミング(よく切れる出刃で表面を薄くけずる)を施す。包丁を毎日研ぐのもトリミング技術に含まれるぐらい高度な技術。
下手な人がトリミングすると、薄く削れないため、歩留まりはあがり、コストが下がる。280円のユッケというのは、考えられない低価格である。プロがトリミングすると、人件費も高くなるはずである。私なら余りに安すぎる生食用肉は危ないと思う。
腸管出血性大腸菌は動物の腸管内に生息する。と畜するときに、①食道口と肛門から菌が出ないようにする、②腸管を傷つけないようにする、③皮を枝肉に触れさせない、④枝肉を流水で洗浄する、⑤使ったナイフを洗浄する。
このように、菌が付着しないように注意しているが、100%大丈夫とはいえない。
と畜場で気をつけても、骨をとって、解体、分割する間(場所も変わるから)には、菌がつく可能性はある。
アメリカは、と畜場にパッカーという食肉加工問屋が入っている。O-157が出ると、パッカーはリコールされ、回収させられるから、O-157が出ないように、とても努力をしている。生食はするが、ハンバーグの生焼け以外でO-157食中毒は発生していない。
米国では、枝肉に、蒸気、有機酸、高温シャワーの3種類のシャワーをかける。 
12万頭を1日に扱うと畜場が、アメリカは10箇所以上ある。高価な設備もペイできる。
日本では一日350頭前後だから、そこまで大規模な施設では、ペイできない。日本には、パッカーがいないので、と畜場を出た肉は、食肉加工、卸問屋の段階で外気に触れる。
米国のハンバーグパテは照射線殺菌をしている。フランス、オランダも肉の殺菌に放射線を使っている。放射線の殺菌は宇宙食にも使われている。日本人は放射線に敏感だから、法律で使えないが、放射線殺菌をした牛肉の生食始めたら日本人は食べるだろうか。

日本人の食生活の特徴
日本には生食する献立が多い。例えば、刺身、生野菜、肉(馬刺し)。
魚介類には、ノロウイルス、腸炎ビブリオがいる。生牡蠣や刺身生食のリスクは身についているから、体調不良時は食べなかったり、子どもには与えなかったりする。
生野菜には、腸管出血性大腸菌などいる。肉には、腸管出血性大腸菌、カンピロバクターがいる。
日本人は「SEAFOOD EATER(魚介類を食べる)」なので、魚介類には慣れている。日本でハンバーグから軟骨や獣毛が出ると大苦情だが、米国なら平気。逆に日本で魚フライから小骨が出ても日本人は平気、米国なら裁判になるのではないかと思う。
豊かな日本食文化の中で、フグ毒の調理、しめ鯖(酢でしめる)、生牡蠣(鮮度が落ちたら加熱)の食べ方を私たちは知っている。肉については歴史が浅く、知識が欠如しているのではないか。一方、肉を生食したい人の権利もある。生食したければ、生食提供者の責任、生食を食べる者の責任の認識が重要。教育も大事だと思う。



「牛肉生食による食中毒 食育の振り返り」          生活共同組合コープこうべ参与 伊藤潤子氏

牛肉生食による事故で子どもが亡くなり、痛ましいことでした。
この食中毒による事故の直後、女子大の1年生(200名)に尋ねると、焼肉店に行ったことのある学生は8割、そのうちユッケを食べたことがあった人は8割、全体の65%の学生にユッケを食べた経験があった。この学生たちは年齢から推測すると、40歳後半の親の子どもであり、また家族との食経験であるものと推測されるため、生食の底辺は広がっていくと考えられる。加えて、彼女たちは、食育を経験した初めての世代だ。食育が役立てなかったことが残念だ。新鮮なものを食べて、手を洗っていれば大丈夫だと思っていたのではないかと思う。
2005年に議員立法で、食育基本法が制定された。食育基本法が制定された背景には、生活習慣病の増加、家庭力の低下がある。食育が始まって5年経つが、食育の中で、食中毒には触れられていない。私自身も、触れてこなかったと反省している。
2001年にBSE問題、食品偽装問題が起こり、2003年に食品安全基本法成立し、一定の食の安全は確保された。次に消費者団体が行うべきことは、本来は食育であったのに、不安の領域へと逃げ込んでしまったように思う。
食育基本法の制定に伴い、同法に基づく条例が各自治体で制定され、食育のオンパレードとなった。食育基本法の内容は、①感謝の念、②伝統ある優れた食文化、③農山漁村の活性化、④食料自給率の向上を明文化している。しかし、自分の健康のために食を選び取る力をつけるという本来の目的がぼやけてしまっている。
実際に食育として行われていることは、農作業体験、お料理教室、食文化・伝統の継承、食事のマナーや感謝の気持ち、地産地消、食品添加物を避けるなどである。悪いことではないが、本来の目的が忘れ去られている感がある。
食中毒が起きてしまった「今」を再スタートの時にし、「国民ひとりひとりが食を選び取る力をつけること」を最優先課題と再確認して、優先順位をつけて取り組む必要がある。
①リスク回避は必須要素であり、次のようなことに必ず触れていくようにしたい。
・食中毒(生食のリスク)・餅(のどにつまらせる)への注意
・ハイリスク世代(高齢者、こども)への配慮
②現代の暮らしの実態に立脚したものである必要がある。例えば、外食、中食が多い食生活である。それを疑問視して手作りがベストと教えるだけでなく、現状を受容して、よりベストな提案をしていくことだ。


話し合い 

唐木代表より、「厚生労働省は生食用肉は出していなかったという意味を解説してほしい」という代表質問があった後、全体話し合いが行われました。代表質問に対しては加地課長より次のような回答がありました。

「平成9年、と畜場のガイドライン(12年3月31日まで経過期間)によると、改善事項(菌が肉に付着しないようにする措置)により生食用に加工することは可能な状態になっている。しかし、と畜場からきれいな肉を出してもアメリカのパッカーとの違いがあり、日本では次の加工過程で腸にいる菌がつくかもしれない。それで生食用としては出さない。
馬刺し用はと畜場で馬刺し用として出す。レバ刺しは沸騰したお湯で殺菌してと畜場からレバ刺し用で出す。カンピロバクターは逆流(内部から出てくる)するので、表面を殺菌しても防げず、生食用は出さない。馬の枝肉と肝臓だけが生食用で出される」

全体話し合いでは、生ハムのように、事業者が製造・無菌包装し、自己責任で販売している例が紹介されました。一方、保健所の通達が飲食店、特に協会に入っていない店舗に届いていないという声がありましたが、監督を厳しくしても限界があり、生食したい人の権利を守るためにも、食品事業者は責任ある経営をすべきだという発言が多くありました。