アクセスマップお問い合わせ
第4回コンシューマーズカフェ「農薬、放射性物質の基準はどのように決められるか?」

 2011年9月13日(火)、第4回コンシューマーズカフェ「農薬、放射性物質の基準はどのように決められるか?」が、くすりの適正使用協議会会議室でひらかれました。おふたりの講師の講演の後、グループディスカッションを行いました。食品企業、教員、栄養士、学生など、多様な30名が集まりました。

会場風景 講師(向かって左は太田氏、右は鈴木氏)

「農薬・放射能への不安」     コープネット事業連合会 太田憲治氏

はじめに
消費者の受け止め方について理解することが第一歩で、①同じ価値観(親近感)、②専門能力、③誠実さの3点を大事にしている。
「農薬・添加物はとりたくない」という声があるが、化学物質の定義の理解が必要。食品は化学物質の混合物。あらゆる物質は化学物質だとご理解いただく必要がある。
「天然だから安全」ではなく、量の問題と考えるように促す。天然にも有害物質がある。例えば、ジャガイモのソラニン、豆のプロテアーゼインヒビター。
「量の関係」では、どんなものでも過剰摂取は危険という事例で、水中毒の話はインパクトが強い。

農薬はどうして使うのか
除草剤による作業の効率化。害虫防除をしないときの減収率。桃などは農薬なしでは収穫できない。現在、農薬は普通物としての登録が82%(2007年)で、分解性が高く残留しないものがほとんど。
「農薬が残留している作物は食べたくない」というが、使用基準を守れば残留しない又は残留基準をクリアしている。現在の農薬は分解性が高い。
ADIは子どもの体重の場合を計算して示すとわかりやすい。
作物毎に残留状況が違う。何か一項目の農薬でも検出した場合の検出率(検出した検体数/総検査検体数)は約4割。逆に言うと6割は通常栽培(農薬を使用しても)でも農薬はいっさい検出していない。検出率が低いのは、きのこ、イモ科、セリ科(人参、セロリ等)、ユリ科(玉葱、にんにく等)など。農薬が検出されたものでも、残留基準の10分の1未満が9割以上。この結果は大阪府公衆衛生研究所報告と一致していた(475品種500項目を調査)。

放射能はどんなに低レベルでも嫌
放射能ゼロはない。「検出せず」は定量限界以下なだけで、ゼロではない。
子どもへのリスクが配慮されて基準値は決められている。
閾値がないものはガンになるからだめというが、DNA修復能力を私たちは持っているし、閾値がない物は日常の食べ物の中に一杯ある(カビ毒、アクリルアミドなど)。正しく怖がって下さいとお願いしている。

寄せられた放射能に関する要望や意見
「産地を教えてほしい」「九州産がいい」「原料の収穫時期を教えて」という声がある。去年収穫した福島産トマトジュースは売れた。
「工場の住所を教えて。水や空気などの環境が心配」というのもある。その結果、関東の牛乳が嫌われ、北海道牛乳の利用が急増した。
食品には天然の放射性物質のカリウム40が含まれている。体の中に取り込んでも代謝などで体外に排出される(生物学的半減期)。シーベルトに換算する時に、内部被ばくした際の総被曝線量が計算されている。放射線防護の線量の考え方では、平常時、事故発生時では異なっている。発ガン相対リスクでは、リスクのトレードオフ(別の発がん要因が高まることがないかどうか)に留意する必要がある。
 北海道牛乳に切り替えたのは、20-30代の人中心。それより上の年代では産地応援を支持してくれる方も多い。

質疑応答
○経口投与ダイオキシンについて→人間は受容体の感度が極端に低いので関係ない。
○農薬は毒で危険というが、普通物が多いと効くとどう反応するか→昔の有機塩素系などの農薬(毒性が高く、分解しない)は禁止されていることを説明する。ある程度毒性が高くても量でコントロールできる(使用基準を守る)ことを伝え、食べ物を通じた農薬の事故はないことも伝える。


「基準値の決め方」     日本獣医生命科学大学 名誉教授 鈴木勝士氏

はじめに
化学物質と放射能は同じ考え方で対処できることを伝えたい。
「放射能は理解できない、見えない、ガンになるから怖い」という声が多い。残留農薬、微生物、毒素など、見えないものを人は怖がる。
生協の人たちの膨大な署名が集まり、農薬のポジティブリスト制ができた。基準超過はないし、ミスや犯罪以外で農薬の事故はない。ポジティブリストがなくても十分安全だった。
ADI(一日許容摂取量)もないまま残留基準を決めていたものがあったので、ポジティブリスト作成において、検討し直す大仕事となった。
食品安全委員会で290剤のリストを作った。科学的客観的過程を科学者は扱うが、政府はできるはずのない心理的感情的過程ばかりを扱う。「不安の中で暮らさなければならない」ことを教えるべき。リスクゼロを求めると、偏食で栄養失調になる恐れがある。
ALARAの原則(合理的に達成可能な限り低く(as low as reasonable achievable))の考え方が大事。安心は科学で達成できない。どのくらいの不安で妥協して安心するか、不安を受容しないと現世は生きられない。臓器の寿命から考えて人の生物学的天寿は120歳。日本の長寿は、朝鮮戦争特需の時期に10年急伸し、さらに公衆衛生・医学の進歩から新生児の死亡が減って実現した。食事が良くなって寿命が延びた。今までやってきた農薬の管理が安全にできていたから、長寿が実現した。

現実的な問題
農薬、放射能、医薬品のどれが原因でも、蛋白質、核酸、糖質、脂質に変化をもたらすとみると生物への影響は同じ。放射線が物理的に細胞内の器官を壊すところは化学物質と異なる。
ポイントは物質対物質のハザードを考えること。不可逆的ハザードが死とすると、可逆的ハザードは臓器不全、臓器機能不全、臓器機能障害。
細胞は増殖と細胞死のバランスがとられる中で生きており、これがくずれると病気になる。
病原性微生物、放射能、化学物質による影響で生じるハザードは、基本的に化学物質に起因するハザードに一元化できる。障害が起る閾値がある。
閾値が見つかれば、それ以下ならば大丈夫ということになる。ヘルシンキ宣言で、人への適用の前に十分な動物実験が必要になった。動物実験成績をよく配慮した上で臨床試験をするが、人にあてはめて考える際には、安全係数を使うことになった。
閾値がない発癌物質は農薬の場合には登録できないことになっている。基準は閾値から算出されるから。その意味では、放射能は対象外と考えるべきではないか。
コントロールできないものは、検出されなくなるまで減らないと安全とはいえない。それでは、基準が決められないものやグレーゾーンをどうするのか。

化学物質の分類と暴露規制
政治的判断が入ってくることもある。
医薬品はヒトでの臨床試験ができる。食品添加物には食品として長い使用経験がある(疫学的根拠あり)(安全だというと「本当に試験したのか」といわれることもあるが)。
残留農薬は、非意図的、非選択的、低濃度、長期暴露なので、あらゆるリスクの可能性を網羅したアセスのスキームを用いる。農薬は生産の時には必要だが、収穫時以降は不要。
放射性物質の暴露の条件は、自然放射能、人工的放射能ともに、非意図的、低線量、長期的暴露というところが農薬と似ている。閾値がないといっても、現実的対応が必要。
放射線には、①確定的影響(高線量短期直接的被曝、原子爆弾など)と②確率的影響(自然放射能で発ガン率が0.5%上昇するのはこちらになる)

用量・反応曲線
ハザードが見つからないと 用量・反応曲線はかけない。
無毒性量(NOAEL:ハザードが全く起きない最大値)を決める。ハザードからNOAELまでの値は、すべて動物実験で決める。一日摂取許容量(ADI:一生摂取し続けても安全な場合の一日の摂取量の目安)はNOAELをもとに算出。ADIをこえてもそんなに大きな問題はないし、基準超えは毎日は続かない。これを「直ちに危険はない」と表現している。基準は管理上の目安でしかない。
国民栄養調査をもとにした値に残留レベルをかけて、摂取源ごとに基準値を決める。登録していない作物は一律基準(0.01ppm)を採用したが、2倍量の0.02ppmのシジミが見つかり大騒ぎになった。数値の一人歩きの悪い例。一律基準は安全基準ではない。日本では行政も科学者もこのような認識が世界的合意から見ると遅れている。
農薬は閾値より低ければ、何の影響もないし、基準値はNOEALより低く決められているから、基準値を数倍の桁で超えても何もない。

当該物質のハザードからみた安全基準
食品衛生法では基準を超えたら、保管、移動、流通、食用としての使用を禁止しており、非食用とするか廃棄する。放射能の場合、保管している間にレベルが落ちることがわかっているのに、捨てるしかない。放射能の問題を食品衛生法で考えたのが間違い。
毒性メカニズムは、因果関係を証明し、疫学研究と同じ方法で相関をみるべき。遺伝子レベルの相関はまだできていないので、混乱を避けるために確率で考える。
個体レベルで調べるのがいいが、発ガン性試験は時間がかかるので、試験管の中(インビトロ)で、生物の器官や細胞レベルで調べる。閾値がないというデータが出ることもある。しかし、インビトロで発ガン性が疑われたとしても、個体でそれが真とは限らない。
神経細胞に薬剤などを作用させて、活動電流が出たところを閾値とする。酵素があると反応が早まる。非酵素の系でも反応が進む限界を閾値と考えるとよい。
用量を増すと反応が出て、用量を減らしたら閾値ゼロという結果がインビトロで出ることがある。個体レベルだと100万匹に1匹に発ガン、母数を増やして1000万匹で10匹の実験に意味があるのだろか。閾値がないときの反応曲線は、インビトロで閾値ゼロだったのではなく、実測値をもとにゼロを通るように反応曲線をひくことになる。自然発生のガンが50%、これに放射線の確率が加わると100mSv/年の被曝で0.5%高くなる。
農薬の場合、残留レベルでは中毒は出ていない。中毒がでたのは、自殺と事故。基準値を超えても実際には問題はない。
どのくらいのリスクなら我慢できるのかという問題も考えなければならない。個人の責任と個人の選択と理解。例えば、全頭検査でBSEのリスクは変化するのか。
合理的な方法を考えなければならない。放射線は簡単に測定できる。許容できる量を皆で決められるといい。とにかく、ヒステリーにならないようにしましょう。


話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 食品安全委員会は生涯で100ミリシーベルトと発表したが、この値の意味は→低線量の影響の累積にどんな意味があるのか。低線量はDNAを切断するが頻度は低く、ほとんどは修復される。低線量影響を累積して考えるのは無意味だと思う。私は、100ミリシーベルトを1回で超えるカテーテル検査を受けた。内部被曝は1ミリシーベルト以下だが、100ミリシーベルトが直ちに逃げ出すレベルとは考えられない。
    • 食品安全委員会の議論について→放射線源を扱った経験のない人が委員をやっている。100ミリシーベルトは安全なのに、親委員会で低レベルに決めてしまった。国民が監視し、意見表明をすべき。
    • ヒステリーをあおる自称研究者のような人がいるが→ご自身で実験したことがない学者なのだろう。データに基づいて判断する自信がなく、安心に偏った判断をしていると思う。
    • 閾値がないとはどういうことか→遺伝毒性があるとわかっているから、「閾値がない」という学説があるので、実測値とゼロを結ぶようになってしまった。自然発ガンを放射線の影響は0.5%誘発が押し上げるという説があるが、数1000のオーダーのサンプルがあっても疫学的に放射線の影響とはいえない。
    • 「直ちに影響があるとはいえない」の意味は→基準値は目安で、閾値の100分の1が基準値。基準をこえても閾値以下。動物実験の閾値とヒトの閾値が一致はしていないだろうということで安全係数100をかけている。農薬ならば、有機リンの基準を超えても何の影響もない。基準の決め方を教えないで、「基準をこえても直ちに影響がない」という説明は不親切。
    • ニュースで、基準値の決め方の説明はない。唐木先生のお話を聞いたことがある。

    グループディスカッションの主な意見

      ○説明される立場からの意見
      ・みんなわからないと聞いて安心した
      ・白黒の答えを聞きたいのが心情だが、白黒を示せないこともわかる。たとえ話を工夫してほしい。
      ・消費者は不安の理由もいえないのだけれど、農薬、添加物の出すデータを見ると、消費者の知りたいこととのギャップを感じる。
      ・「検査をしている商品としていない商品を選べるようにした方が良い」という意見は疑問。「していない商品は危険」というイメージになってしまう。このような事象に対し、専門家が「おかしい、それは違う」というコメントを出す必要があると思うが専門家はしていない。
      ○説明してほしいところ
      ・ベクレルとシーベルトの違い
      ・単位は難しいが、説明はよくされるが、理解できているかというと困る
      ・超えたけど安全、あぶないという、安全側にたった判断というのはわかりにくい
      ・「検出せず」の記載の意味が読み取れない。適切な表現ではない。
      ○専門家の説明には立ち位置が違いを感じる
      ・天然にもある放射能があるから、昭和40-50年はもっとすごかったといわれても、今回の事故の放射能は自然ではないと思う。
      ・水空気は選べないが、X線検査や飛行機は選べる。
      ・ふたりに一人がガンというと、DNA修復能力があってもふたりに一人は効かないという印象を受ける
      ・放射線医学研究所の図で、自発的な選択と自然放射能のように避けられないものが一緒に描かれていて違和感を感じる。
      ○消費者に説明する立場からの意見
      ・(メーカー)正直になろうとすると断定していえない。保障できない
      ・白黒はっきりした答えがききたい
      ・ゼロはない、確率でしか話せないという、説明をするから離れてしまう
      ・リスクゼロなしはないことをいい続けるしかない
      ・人間は雑食で強い生物だと説明したらどうか
      ・DNAの修復能力以内だから安全だろうか。ふたりに一人がガンになる。 
      ・消費者相談窓口を担当している。以前は「行政が許可しているので大丈夫」という言い方をしていたが、今回の牛肉の問題がでてきてから消費者は政府を信用しなくなってしまった
      ・メーカーに電話してくる人は意識の高い人。行政を信用しないのは「ホットスポット」の情報が当初出てこなくて「後出し」の感じがしたからだと思う。
      ・「どうにかして」と言われても、日本人はどこにも逃げられない。それぞれがリスク・ベネフィットをかかえている。ヒステリックな人も1割くらいいるが、最後は自分で解決していかねばならないと思う。
      ○一般消費者の立場から
      ・メディア情報について何が分からないか、どのように考えるかを話し合うこと、情報を読み取る力を持つようになることが大切。考える市民が出てくるのは良いことである。
      ・娘がパニックになったとき、「アメリカのビキニ環礁での核実験により日本の上空には通常100-1000倍の放射線量があっという防衛庁の資料」を見せたら、おさまった。こういう情報を伝えてほしい。
      ・風評被害が出ていることから、いっそのこと原産地表示は要らないと思っている。説明や公表をしないでパニックや風評被害が起きたのは事実。丁寧な説明が必要だと思う。
      ・メディアに関して、危険をアピールする方が正しく、信憑性がありそうだと受け取られていると思う。操作されている感じがする。福島、茨城、東北を応援するという言葉には放射能が検出されても、という意味が含まれていると思う。共通認識として何時までも続くように思える。もどかしい感じがする。
      ・基準値以下の放射能が残留している野菜と通常の野菜があった場合どちらを買うかといえば通常の残留のないものを買う。安全と頭では理解できていても難しいのが現実。
      ・企業の製品で、「○○産です」の記載は良いが、「○○産ではありません」との記載は問題だ。