アクセスマップお問い合わせ
「食の安全を考える〜浅漬けによる食中毒問題の教訓」

 2012年10月17日、ACU会議室(北海道 札幌)において「食の安全を考える〜浅漬けによる食中毒問題の教訓」が食の安全安心財団主催で行われました。企業、行政、一般市民など200名が参加し、異なる立場からわかったことを確認し、食中毒対策について話し合いました。

開会         食の安全安心財団理事長 唐木英明氏

 戦後の混乱期には年間、数百人が食中毒死があったが、2009年、2010年死者はゼロ。2011年にユッケ・生肉で11人、今年は浅漬けで8人の死亡者が発生した。食中毒は届けられたものしか把握されていないので、これは氷山の一角で、実際の食中毒患者数は500万人と厚生労働省研究班は推測している。 日本の農業では人糞を使っていたために、寄生虫の問題があり生野菜を食べることはなかったが、1960年代から、食肉消費の増加とともに生野菜を食べるようになった。このような流れの中で、野菜や肉を生でたべるときには注意が必要だということが忘れられてしまったことが、最近の食中毒の背景にあると思う。今日はそのことを皆さんと考えたい。

「食中毒問題への農林水産省の取組み」
       農林水産省食糧産業局食品製造卸売課長 長井俊彦氏

 厚生労働省の立ち入り検査の結果、指導が必要なところが7割くらいという残念な状況。全日本漬物共同組合連合会(1100業者)の指導をし、衛生管理マニュアル(従業員教育、HACCP、平成13年策定)が遵守されていなかったが、8月にこれを徹底することとし、取り組んでいる。 漬物業者は1600あり、6次産業化、惣菜調理(バックヤード)を含めると数はもっと多い。組合に入っていない事業者を含めて、地方農政局、北海道農政事務所と衛生管理マニュアル周知に取り組み、漬物製造業者の衛生管理レベルアップをめざしている。


「浅漬けによる食中毒の原因と経過」
          札幌保健所食の安全推進課食品監視担当課長 片岡郁夫氏

はじめに
食中毒の種類には微生物、化学性、自然毒があるが、今回の浅漬けは感染型の病原性大腸菌O157が原因だった。細菌性は食中毒の半分を占めている。
腸管出血性大腸菌(O157、O026などでベロ毒素を産生)はユッケなどの生肉由来が多いが、今回は浅漬けが原因だった。嘔吐、下痢から重症化して死亡例もある。75度以上の加熱で感染性はなくなる。今回はベロ毒素VT1型、VT2型の両方だった。

発生経過
8月7日 保健所に届出 高齢者施設の入所者7名に下痢と血便 苫小牧保健所にもあった
8月8日 高齢者施設の給食業者が同じ症状
 症状と原因(食中毒か感染症か)の調査を開始。共通食として「白菜きりづけ」が浮かび上がった。8月9日夕方、製造施設への立ち入り検査を実施。
8月11日 O157の調査をしていることを広報した。
8月13日 検食、患者と食品従事者の便(2名)からO157が検出された。
8月14日 O157の分子疫学調査結果が一致した。
営業禁止、流通先への通知、市販されている製品の回収を行なった。8月2〜4日に製造された食品が原因と判明し、そのことを広報した。
北海道の10保健所管内、東京、山形などで被害が発生。それらは道内で食べた人だった。
10月17日現在 発症者は169名、死亡者は8名。
15施設で製造していた。調査により、3施設で塩素殺菌がされていなかったことがわかった。道庁で説明会を実施、道内の情報共有を行っている。衛生部門や製造部門ともに対策会議を開き、安全確保と消費拡大を図っている。厚生労働省が全国の製造業者の立ち入り検査結果報告が命ぜられた。
9月7〜8日 再現試験を実施し、原因究明をした。
10月1日 厚生労働省薬事食品衛生審議会 食中毒・食品企画部会で北海道の保健所から、事件の報告を行った。

原因究明
製造は、副材の野菜の水洗、殺菌、スライスする。白菜は次亜塩素酸ナトリウムで殺菌し、漬け込み、出荷する。殺菌の有効性、塩素濃度についての試験を行なった。従事者汚染、全材料の汚染の遡り(流通過程を含めて)調査を実施した。その結果、次亜塩素酸ナトリウムの濃度が目分量で濃度測定がされていなかったが、殺菌効果は100分の1〜1000分の1に菌数は減少していた。しかし、同じ殺菌槽を10回くらい使うと殺菌力が落ちる。白菜の鬼葉(外側の葉)から大腸菌が検出された。
再現試験では原材料、製品からは不検出だったが、ホース、まな板の汚染度が高かった

調査の結果
汚染区域と非汚染区域の区別なく、各行程で汚染の可能性あった。
次亜塩素酸ナトリウムの濃度管理が不十分だった。
樽の洗浄に次亜塩素酸ナトリウムが使われていなかった。
器具の用途分けがされていなかった。
床のホースを拾って樽を洗うなど従業員の意識が低かった
「付けない、増やさない、やっつける」の食中毒対策三原則に従い、加工、流通で適切に殺菌されないと、調理・消費されるまでに菌数が増加する。
漬物には漬け込み後に熟成させて保存性を高めたものと、一夜漬けのように保存性の乏しいものがある。
10月の改正で、低温管理、次亜塩素酸ナトリウムによる殺菌・十分な水洗の義務付け

安全安心の取組み
次のような取り組みを行い、衛生管理の出来ている業者を応援し、営業を伸ばしていきたい。
・平成16年 札幌市食品衛生管理認定制度「しょくまるくん」
・平成23年 食の安全・安心推進ビジョン
・平成21年 さっぽろ食の安全・安心推進協定 業者と市長で協定締結


「食中毒はなぜ起きるのか」          岩手大学名誉教授 品川 邦汎氏

予想されたリスク
 浅漬けのリスクは過去の事件発生から予想されていた。野菜自体に大腸菌は保有してないが、動物や人を介して、特に牛などの糞便中の腸管出血性大腸菌が汚染したのだろう。牛は本菌を保有していることから、牛レバーやユッケを禁止することになった。食にゼロリスクはありえない。食中毒を起こさないようにするため、食の安全確保には、原料(動物、野菜など)生産から食卓までバトンリレーで行なわれており、関係者全員で注意することが重要である。

腸管出血性大腸菌
 消費者の4つの基本的な権利(安全、知らされる、選択する、意見を反映させる権利)が、1962年ケネディ大統領の消費者保護に関する特別教書に述べられており、権利には義務がある。日本には、食品安全基本法があり、国民の健康保護、食品供給の各行程で安全性を確保し、健康被害を未然に防がなくてはならないとしている。国、地方自治体、業者に責任があり、消費者は責任でなく役割がある。

食中毒の見える化
 食中毒患者が発生すると、医療機関から保健所、地方自治体、厚生労働大臣に報告の義務がある。原因物質としてはカンピロガクターとノロウイルスによるものが最も多い。
腸管出血性大腸菌感染者は、症状を呈していないが本菌保有者役3500〜4500人/年、5発症者は約1600〜3000人/年で、これに対し食中毒患者は数百人。腸管出血性大腸菌は食物や水を介して経口感染し、重症化して死亡することがある。

大きな誤解 
 飲食店等で提供された食品については、今の消費者は安全だと思っている。焼肉屋ではホルモンが他の食肉・内臓肉と一緒の皿に乗って提供され、トングの使用を徹底することが重要。
O157は腸管出血性大腸菌の型を示すもで、「O」や「H」は抗原の型で、大腸菌の血清型の分類。世界でO157による感染者が最も多い。発症のための最少菌量は11〜50個/ヒト。
潜伏期間は平均3〜5日間。今回の事件では、白菜の中に汚染したものがあって、洗浄等で水につけ、それにより全体に菌が広がったのではと考えられる。
高齢者に多く死者が出た。高齢者、子供、免疫が低くなっている人は、発症しやすい。1999年〜2008年では高齢者、子供の死者が多く、ユッケの衛生基準作成では死者をゼロにすることも目標に設定された。

大腸菌はどこにいるのか
 牛のO157は、季節により異なるが10%程度の牛が保菌している。と畜した家畜は獣医師が一頭づつ調査しているが、ウシなどの堆肥では発酵が不十分(発酵熱で菌が死んでない)の場合、有機栽培の野菜などに使用され汚染される。また、肉の表面に菌が汚染されるが、食肉製品のハンバーグ、結着肉などでは中心部まで菌が汚染する。牛ユッケ、レバーは厳しく規制されたが、焼肉などの焼き方なども気をつけなければならない。
牛の腸管、唾液には保菌されており、ふれあい牧場での感染にも注意が必要。
汚染経路を絶つには、生産から消費まで食品に菌を汚染させない、増やさないようにすること。
原材料の受け入れ時に清潔な材料を受け入れ、製造・加工する。
おいしさの手順書でなく、衛生管理の手順書を作って守る。
流通では低温管理してしっかり届ける。
家庭でも、3原則を守る。
・つけない(スーパーなどでは肉を最後に買い、肉汁が他の食材に付かないようにする。その他、肉汁が野菜につかないようにする 冷蔵庫の中は清潔にする まな板を代える 食器の消毒 手洗いを十分にする、など)
・増やさない(冷蔵、凍結など低温管理を十分にする)
・やっつける(加熱などして、菌を殺す)食肉などを生食する場合、十分をつける。
安全で衛生的な食品を生産するためには、農場から食卓まで一貫して衛生管理を行うことが重要。

「浅漬業界の現状と課題」
          北日本フード格式会社会長・北海道漬物類組合会長 酒井信男氏

 今回の浅漬けによるO157による集団食中毒で170名にも及ぶ発症者が出たことで、消費者、行政、関係者に対して業界を代表して心からお詫びする。未だ入院されている方には早期の回復を願い、残念なことにお亡くなりになられた8名の方には心からご冥福をお祈りする。(80・90・100歳)
4歳の孫を亡くした方の言葉を胸に刻み、2012年9月に組合員22社・賛助会員39社で北海道漬物類組合を結成した。目的として、二度と今回のような事故を再発させないために以下を制定した
1)漬物に携わる経営者及び全従業員の安全衛生に対する質的向上を目指す
2)漬物類の安全な製造体制の確立
3)漬物業界の社会的地位の向上
事故後は約20〜30%まで売上げが減少し、今でもその状況が続いている。
漬物市場は需要と供給のバランスが崩壊しているのに、未だに高度成長期の時代のままのやり方で大量生産から抜け切らず、売るが為の価格破壊が続いている。早期に適正な需要と供給のバランスを確立しなければ業界の総負けに繋がっていくだろう。
取引先は価値ある商品を適正価格で買いたいと希望しているのに、我々漬物屋は他社のモノマネで価値を落としている現状である。結局バイヤーは同じ物なら価格の安いものを買うのである。ここから脱皮しなければならない。
 私は、北海道漬物類組合会長として、組合を通じて経営者に食品衛生法、JAS法、漬物の衛生規範等を勉強し、食品衛生7Sという基本を徹底させることが、安全対策と考えている。 私も他事業者トップもこれらの事を実行していくことが今回の事件で被害にあわれた方への誠意であると思っている。

「顔の見える関係から信頼へ」
          北海道消費者協会・苫小牧消費者協会会長 橋本智子さん

 苫小牧はミートホープ事件があった。当時は行政の縦割りが問題だったが、今回は横の連絡が働き、縦割りをみなおす教訓は生きていると思う。
今回は、高齢者施設で起ったために早く発覚し、対策ができたのではないか。一般の流通で同じようなことが起ったときに、早期に原因究明ができるように横の連絡を円滑にしなくてはならない。
漬物の匂い、塩分低減の風潮で浅漬けが人気であるが、核家族化の中で自宅で作らず浅漬けを買うようになって、今回の事件になったのではないかと思う。
すぐに情報開示ができて、食べた人への注意喚起や回収ができた。
次亜塩素酸殺菌を知らなかった。次亜塩素酸の濃度が目分量だったとは驚きだった。今回は薄すぎたかもしれない。逆に濃すぎた時に十分に水洗されていないのではないかと不安になった。
ミートホープや漬物の製造工程に問題があり、製造工程のあり方を消費者も考えるべき。工場見学が好きでよく出向くが、そこで、安心を得ることが多い。農家のおかあさんたちの工場を見せてもらった時、入荷から出荷まで一方向にするという保健所の指導を受け、そのとおりにやっていた。
再現試験では「一方向」のルールが守られていなかったところもあるという。原因は究明できなかった。見学を受け入れるような会社は食品管理に自信があるのではないかと思う。工場見学は、情報共有で安心につながるのではないか。

「生鮮野菜の安全性確保の再徹底」
           JA北海道中央海農業振興部長 小南裕之氏

北海道産品が消費者の信頼を得るには、味、鮮度に加えて安全性確保が大事。GAPなど各段階でチェックするシステムを採用している。
今回の事故の被害は深刻なものと受け止めている。特定の事業者の衛生管理の不徹底に問題はあるが、生鮮野菜の安全性確保の再徹底をはかっている。
道農政部の安全確保10か条をJAを通じて生産者に周知している。
収穫前の手洗い、収穫物の容器を地面におかない、出荷専用車両を決める、きれいな水での収穫物の水洗
白菜産地もダメージを受けた。盆明けに価格は26円/Kgで平年の価格の6割。10月に入っても価格は低迷中。白菜応援セール、漬物フェスタを行って、消費回復を図っている

パネル討論

大きくふたつの問題が話し合われました。
次亜塩素酸による殺菌
野菜は殺菌不要という誤解に問題があるようだが、次亜塩素酸ナトリウムの殺菌なしには、事業者としては、浅漬けを扱うことはできない。消費者には次亜塩素酸殺菌に反対している人もいるが、大事なことは、次亜塩素酸は万能ではなく、よく水洗(菌を落とす)し、殺菌する工程をきちんと守るようにする。
札幌市 保健所は立ち入り検査をしたり、殺菌に関する情報提供を行っている。次亜塩素酸ナトリウムは食品添加物、水道水、乳幼児用製品でも使われているものだということも理解してもらいたい。

工場見学の受け入れは安心につながる
消費者は「工場見学を申し込んだときに受け入れてくれると、安全管理ができている事業所だと思う」という消費者の意見があった。これに対して、食品を扱う場所に一般市民を入れるわけにはいかないので、見学コースを設置していない所は見学をお断りすることもあるので理解してもらいたい。
そのような理由を、消費者、食品関連事業者、行政などの関係者が共有することが重要ではないか。

会場からは、まじめな漬物が多くある中で、ひとつの事件で漬物や農業に影響が及んだことは重大。スーパーにも買い付けの責任があるし、高齢者施設の食の仕入れ体制にも問題はあるが、まじめな事業者しっかり応援していきたいという発言が複数ありました。「業界団体の自主的取組みが大事!農場から食卓まで、すべての工程で食の安全は必死になって守らないと、食中毒は起ることを肝に銘じてほしい」という唐木代表から結びのことばがありました。