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「新しい遺伝子組換え技術をめぐるリスクコミュニケーション」開かれる

 2013年2月17日、筑波大学東京キャンパスにて、NPO法人くらしとバイオプラザ21は、筑波大学形質転換植物デザイン研究拠点共同研究として、日本サイエンスコミュニケーション協会(JASC)と共催してリスクコミュニケーション研修会を開きました。
冒頭、専務理事真山武志より、今までに開催された研修会の内容と本研修会の意義について説明がありました。 標記鯛劣るのお話が鎌田博さんからありました。

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鎌田先生のお話

講義1「新しい遺伝子組換え技術をめぐるリスクコミュニケーション」
          筑波大学遺伝子実験センター長 鎌田 博 氏

1.はじめに
1975年に遺伝子組換え技術ができて、日本では安全性を確保しながら研究を進めるという規制のもとで進められてきた。研究、野外試験、食品、飼料、飼料を食べた家畜の肉の安全性等が調べられている。環境影響はカルタヘナ法、食品は食品衛生法、アルコールはアルコール事業法、表示は消費者庁など複数の省庁が所管している。さらに未承認LMOの輸入時の検査も行われており(輸入食品検疫・検査センター)、表示が正しいかどうかを検査するしくみの国際標準化も進行中である。
 
2.NBTとは
New Plant Breeding Techniquesの略。2011年、EUが世界中の関連情報・特許等を調べて報告書を公開した。2011年9月、セビリアで国際会議があった。
掲げられた8種類の技術は、専門家にも理解が難しい。今ある法体系の中で解釈できるのだろうか。
○検討のモデル
りんごの最大の被害は土壌病害だから、土壌病害に強い遺伝子組換えリンゴをつくり、そこにおいしい「ふじ」を接ぎ木したら、植物体の一部にでも組換えた部分がある植物(キメラ個体)は遺伝子組換え作物の扱いになる。できたりんごは組換え食品か? りんごの実には、外来DNAはないが、台木から穂木にRNAとたんぱくの一部は移る可能性がある。この次の代のリンゴはどうか?
科学者、消費者はどう考えるのか。技術開発担当者と食品安全性の研究者の意見交換も行われておらず、全体の議論にはなっていない。
○ALSVベクター:植物に固有のRNA型ウイルスがあり、外からは有無はわからない。種子をまいて葉が出た時にこのウイルス(花を咲かせる外来遺伝子を入れている)をつけると2か月で花がさき、半年で実がなる。ウイルスを接種して半年で実がついた木は組換え体だが、次の世代にこのウイルスのDNAは移行しないから、次世代は非組換え体?
りんごは種子まきから花が咲くまで10年かかり、その品種改良は50-100年かかる。ALSVベクターを使えたら、半年で次世代りんごの味が調べられるようになる。
○人工ヌクレアーゼ:特定の配列を認識してDNA配列を切断する酵素。切断の後にDNAを元に戻すが、時々、切れた周辺の遺伝子配列が失われたり(欠失変異)、新しい遺伝子配列を入れたり(挿入変異)できるようになった。後から、起こったDNA配列の変化を徹底的に調べ、確認する。このようなほんの少しの欠失、挿入は突然変異と区別がつかない。
外来遺伝子を伴わない変異を遺伝子組換えというのか。欠失変異にも規制をかけると、突然変異による欠失も規制対象になるのか。
動物ではこの技術が早くからどんどん進んでいた。植物はDNAを入れてタンパク質を作らせているが、動物ではいきなりタンパク質を入れ、規制対象外にすることもできる。
外来遺伝子を入れたら、外来塩基配列の断片が入ってしまうことはある。交配でも断片が残ることがある。断片の有無が確認できないと規制から外すのは難しい。
○リバースブリーディング:果樹の品種改良を交配で行うと何十年もかかるが、早く花をつけるDNAを使うと半年で実がつく。途中で組換え技術を使うが、最終製品には途中で使った組換え技術の痕跡が残らない。
雑種強勢を示すF1種子(このF1種子の次の世代の種子をとると、優れた形質が失われる)をつくるときには、一部でリバースブリーディングの技術が使われている。雄性不稔という。
 
3.私の考え
○日本の考え方
日本の規制の枠組み:日本では、遺伝子組換え微生物を用いて生産する食品添加物に関する安全性評価において、セルフクローニングに該当するか否かは、国が判断している。
日本では、遺伝子組換え技術を使ったものの安全性の判断はプロダクトベースで行っている。
○国際会議に参加して(おおまかなまとめ)
国ごとに規制やことばの定義が異なることがわかった。
プロダクトベース(最終製品で判断する考え方):米国、カナダ、オーストラリア、日本
プロセスベース(過程で用いた技術について判断する考え方):EU、アルゼンチン
新しい規制を策定:カナダ 
NBTを規制の対象外とした国もあるが、国際的ハーモナイゼーションが必要だというのが共通の考え方だと思う。アジアで最も遺伝子組換え作物開発が進んでいるのは中国で、その状況はわからない。中国はNBTの話し合いに参加していない。私は日本がアジアの科学技術の取りまとめ役であるべきと思っている。
○いろいろな情報
2012年3月 Natureに世界の研究者はNBT関連の論文をだした。日本からはなし。
米国は、ダウ社の人工ヌクレアーゼなどを規制の対象外と決め、APHISは担当者との往復書簡も公開している。
EUは、シスジェネシスは自然界の突然変異とどう違うかという科学的見解にどんどん公開している。行政判断などにはふれず、人工ヌクレアーゼは従来の規制でたりるはずという書き方をしており、政治的な印象を受ける。
表示から考えると、検知できないものを規制するのはおかしい。人工ヌクレアーゼによる欠失か、自然に起こったのか判断できるのだろうか。検出できないなら規制すべきでないと科学者は納得するだろうが、消費者はどうか。
日本ではNBTについて必要な情報を集め、議論する場がない。しかし、研究者はこれらの技術をどんどん使っている。戦略的に考える必要はある。
中国の内情はわからないが、中国からNBTを利用した食料が輸入されていたら、どうか。
RNAウイルスの特許がとられていても、勝手に使ったところでその証拠は残らない。製品になるまでに10年以上かかる。
○まとめ
カルタヘナ法ではモダンバイオテクノロジーを使ったものを規制する。セルフクローニングは対象外。異種遺伝子を入れたものが規制対象なら、タンパク質を直接いれて変化させるのは規制対象外になる。
最終産物での検知の可能性をどう考えるのか。表示には社会的合意が必要。
NBTを朝日新聞では、「残らぬ痕跡」(広島版)と書いたが、茨城版では「消える痕跡」と変化した。その後、日経では「痕跡残らぬ技術 日本政府反応鈍く」となった。「消える」は「消そうとしている」という偏見を生むのではないかと心配している。
 
4.ゲノム編集について社会はどう思うか
品種改良において、実際にはいろんな遺伝子を壊したりしたものが使われている。
植物に土壌中の微生物を塗ると「こぶ」ができることを利用して、遺伝子を組換えられる。自然界で起こることは規制しない前提だと、微生物を塗るのは規制の対象外となる。
F1種子をとる過程で一過的に遺伝子を組換えている例では、GMでないと判断された。
エピゲノム編集、意図的なゲノム編集、分離世代での外来遺伝子はすべて検出されない。これらは行われてきた。
議論の必要なものはたくさんある。
相同組換えを利用したゲノム改変。自然突然変異のウイルス接種(弱毒ウイルス)。
断片が入っていても、タンパク質ができないなら安全上問題はないと考えて良いか。酵素ができても活性がないなら問題はないと考えて良いか。
セルフクローニングとナチュラルオカレンスはカルタヘナ法の規制の対象外とされている。日本では未承認の食品添加物(セルフクローニングやナチュラルオカレンスとして外国で生産されたもの)が日本に輸入されて使われているのがわかり2年前食品安全委員会で問題になった。
私は全体をみて評価してほしいと考えている。
 
5.これからの課題
○外来遺伝子(断片を含む)の検証
意図的な改変の検証(記録が必須となる)
どのような、どの程度の改変を自然現象と同等とみなすか
○新しい情報収集システム構築が急務
○世界との協議・協調をどうするのか
○社会へはどう説明するのか
科学者間のコンセンサスがないと、社会は信用しない
技術ごとにその検証とコンセンサス形成が必要
○情報提供側が留意すべきこと
・人によって異なる説明をしてはいけない
・食品の安全性のリスクの考え方
・既存の食品にも一定のリスクがあること、突然変異への正しい理解が必要
情報を受け取る側は自然現象、リスクの知識、食品の安全性の判断根拠、科学的真実への理解を進める
・説明会でNBTの長所・短所を整理して説明してほしいと言われたが、これには手間暇がかかる。



質疑応答 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • カナダの法律とは?→除草剤耐性は自然界の突然変異でも生じうる。遺伝子組換えでも、自然界で突然変異でできても、除草剤耐性の農作物を育成したときには、規制をかける。ニュートレイト(新しい形質)という視点からの規制。行政官だけで法律をつくった国もあるが、研究者が関わった方が現実的な内容になる。
    • プロセスベースで評価したいのはなぜか→なぜNBTをEUが調査しはじめたか。オランダが花の開発でNBTの中の技術を使い、その一連をまとめて対象外にしたかったのではないかと推測。プロダクトベースでひとつひとつの花をみられたら大変なことになる。日本でもプロダクトベースできちんとしてほしいと思う。



    話し合い

    講義2「遺伝子組換え食品の社会的受容」(NPO法人くらしとバイオプラザ21 佐々義子)が行われた後、3つのグループで遺伝子組換え技術やNBTのこれからについて話し合いました。
     
    ○第1班
    現在の遺伝子組換え技術にかかわっている人は、いいものだから規制されすぎないようにと考えている。事実を伝えるのはいいが、適切な情報の出し方がいい。メディアを早期から巻き込んでいくのがいいのではないか。プロダクトベースがいい。
    NBTは文脈でとらえ方が変わってしまうと困るので、伝え方が難しい。メリットとデメリットの両方を必ず合わせて言わないといけないというのは、いかがなものか。単純にメリットとデメリットをいえないケースもある。
    問題が起きるとメディアにたたかれることを繰り返さないように、うまく伝えていきたい。
      
    ○第2班
    痕跡が残らない技術をどう伝えたらよいのか。組換えでないから安全だと安心感を持つ人もいるかもしれない。プロセスがわからないから、何の痕跡を消したのだろうなど、技術そのもの、後代への安全性などいろいろな不安があるだろう。そもそも遺伝子組換え技術の安全性審査が行われていることが知られていない。
    DNAはすべての生物に共通だから、遺伝子組換え技術が成立するのに。
    作物を耕作する難しさ、農業の意味、科学の意味を早くから伝える教育が必要。
     
    ○第3班
    遺伝子組換え技術のリスクは、食品として、環境に対して評価されている。NBTも同じように判断すべき。
    国民ひとりひとりの理解を待っていたら、中国や外国に遅れてしまう。日本が特許を買うだけの国になるのは残念。研究者でない人でもそう聞けば心配になる。
    アメリカのように市民の受容よりも国益を優先しているケースもあり、NBTをうまく使うべき。研究者間のコンセンサスも大事だが、ある程度研究者間のコンセンサスが得られたら、市民に発信し始めてもいいのではないか。組換えを含めてNBTのメリットを消費者にどう伝えていけばいいのかを考えていくのが大事。
     
    最後に、JASC高安礼士理事よりまとめのことばがありました。
    「JASCでは毎月の勉強会をしてきたが、サイエンスコミュニケーション全体をとらえることが多かった。今回は連携して、特定のテーマについて深堀りができてよかった」