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神奈川県立 生命の星・地球博物館バス見学会

 2013年10月5日、公益財団法人日本科学協会に協賛いただき、標記見学会を開きました。 台風の合間を縫って、幼稚園児からシニアまで30名のにぎやかなバスの旅となりました。 初めに見学のガイダンスをうかがい、見晴らしのよいレストラン「フォーレ」で食事。 館内見学だけでなく折原 貴道学芸員の「微生物」のお話、ミュージアムシアター鑑賞ともりだくさんな一日でした。

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車中で自己紹介をして 神奈川県立 生命の星・地球博物館に到着

館内見学

 地球の成り立ちに始まり、ダイナミックな鉱石標本、美しい動植物の標本、そして恐竜を堪能しました。工夫されたレイアウトに、思わず笑わされてしまったり、首をかしげて見入ったり


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人の何倍もある柱状節理 砂漠のバラといわれる珍しい鉱物標本
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みんな大好き、恐竜 人面模様の甲虫
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天井を貫くような大きな木 舞飛ぶような昆虫の標本

講演「菌類の多様性と形の不思議」
          神奈川県立 生命の星・地球博物館 学芸員 折原 貴道さん

はじめに
本館には21名の学芸員が植物、動物というようにいろいろな分野の標本収集や研究を担当している。私の担当は目に見えずひっそりとくらす菌類。その中のトリュフ型(土中できのこをつくる)きのこが担当。正式には「シクエストエート」といわれるキノコの系統分類、進化、生物地理(分布)についてDNAで分類を調べている。私のキノコ歴は4歳から26年。昔は図鑑を見て楽しんでいたが、今ではくまでで山の中でキノコを採集したりしている。
 
菌類とはどんな生物
生物は原核(バクテリアなど、細胞に核がない)と真核(核がある)に分かれるが、菌類(Fungi)は真核生物のグループ。
菌類には3つの特徴がある。
1本の菌糸細胞から成る。
体外吸収によって養分を取り入れる。ちなみに動物は食物摂取、植物は光合成で栄養を得ている。菌類は光合成ができず、口がないので、体表から細胞の外に酵素を出して、餌を分解し、体表細胞から栄養を吸収する。だから菌類の出す酵素でダイズのタンパク質を分解してうまみのあるアミノ酸ができたりする。
胞子で繁殖する。植物は種で増える。ヒトは染色体を両親からもらうので2組(2n)ある。植物の種子も2n。胞子の染色体はn。胞子から菌糸が出てくる。キノコのあらゆる構造が菌糸からできている。
原核生物には、細菌、古細菌がある。細胞が小さく、DNAが核膜に包まれていない簡単な構造の細胞。真核生物はDNAが核膜につつまれ、ミトコンドリアなどの高級な細胞器官がある。細胞のサイズは、原核より1桁大きい。

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折原貴道先生のお話 講演会場

キノコとカビ
菌類はキノコとカビに分けられる。
カビでおなじみなのはミカンに生えるアオカビ。ペニシリウムというカビのグループで、ペニシリン発見のきっかけになった。ブルーチーズに使われるのもアオカビ。
キノコはバラエティの富んだ、様々な形をしている。
キノコとカビの違いは人間の都合で分類されており、その違いは胞子をつくる器官である子実体が肉眼で見えるかどうか。この分類の基準は科学的とは言い難い。
例えば、ポルチーニは15cmもあるキノコ。アオカビは不定形のものが、もやもやしていて、子実体がないこともある。いきなり胞子が飛ぶ。
菌類は動物のように移動できないので、菌糸をのばして自分の体の面積を広げ、足の代わりに菌糸を使う。
変形菌(粘菌)はある時期、アメーバのようになって餌を探して移動し、養分が十分になると変形体(子実体)をつくる。粘菌は菌類とは違うグループだと解明されたばかり。
 
菌類はあらゆる環境に生息する
・ツボカビ(水中)
・グロムス属菌(土中。植物と養分のやりとりをして共生)
・ミズタマカビ(動物のふんから生える。胞子の球を発射して、胞子のついた草を食べた動物のフンの中に入って移動する)
・ベニタケ属の地下生菌(都心の公園にも生える。1cmくらいあるが、名前がついていない。風で胞子を飛ばせないが、いい香りを出して動物(昆虫、リス、アリ)に食べてもらって、胞子を遠くに運んでもらう)
 
名前がついている菌類は10万種。1991年、推定された種数は150万種。DNAを使って環境中のいると考えられる菌類の種類は、2011年には、510万種と推定された。ということは、現在、名前がついているのは2%にすぎない。
未知種を現在のペースで記載し続けたら、4000年くらいかかると予想される。
菌類は昆虫に次いで多様性が豊かで、未知領域の多い生物。
今、私たちはこつこつと98%の未知の菌類を切り崩しているところ。
例えば、2011年、最も原始的な菌類であるクリプトマイコータ門の菌類が発見された。門というのは、動物界、植物界などの界より下位の分類。水中にいるものは実態がつかめないが、土の中や水の中の生物のDNAをまとめて調べる「メタゲノミクス」という手法を使って最も原始的な生物らしいものが池や下水処理場にいると予想できた。
 
キノコのさまざまな形 
・ハラタケ型 傘と柄があり襞に胞子ができる
・コウヤクタケ型 べったりはりつけたように幹につく 表面に胞子ができる
・腹菌型 袋の構造。ショックで幕がやぶけて胞子がとびだす
・サルノコシカケ型 かたくて木に扇のようにはえる
・棍棒型 細長い筒状
・サンゴ型 ホウキタケ
・チャワンダケ型 コップの形
他にもいろんな形がある。DNAで類縁関係が調べられる以前は、かさのあるなし、袋の形など肉眼でみた形で分類していたが、1990年以降、DNAから類縁関係を調べ、生物の進化の道筋が客観的にたどれるようになってきた。
 DNAを通じて見直すと、形による分類と異なるグループ分けになった。形が違っていてもDNAはとても近かったり、形が似ていてもDNAは離れていたり、進化の過程が見えてきた。今までは人間の勝手な思い込みで形による分類をしてきたが、ここに何億年の進化の歴史を経て、個性的な形にたどりついたことがわかる。そのくらい進化の道程は複雑で、わかってきたようで、わからなくなってきたようにも思える。
そして、新たな菌類分類体系構築が必要だということになり、2007年、菌類の大きな体系(AFTOL)ができた。その中にキノコをつくるものが23種類あり、それぞれに何千種類の菌類が包含されている。
DNAは遺伝情報を持った物質で、菌類もDNAやRNAではヒトと同じ。
 
分子系統解析
塩基が子孫に受け継がれるときにミスが起こる。変化が一定の頻度で起こると仮定すると、変化の程度から生物間の系統関係を算出することができるという考え方が分子系統解析。
具体的には、細胞をすりつぶしたり、ろ紙のようなものに細胞をはりつけ、DNAを取り出し、調べたいDNA断片を増やす。DNAがマイナス電気を帯びていることを利用して、電気泳動という方法で断片の大きさによってわける。分けたDNAのデータを調べてつなぎ合わせ、整列させていく。これをアライメントという。決まった計算方法に従って分子系統樹を作成する。こうしてDNAを調べることで、形態進化がわかってきた。
その結果、形によって分類していたときに同じグループだったものが、DNAでは異なったグループになった。
収斂進化というのは、形が似ているが、DNAの源が異なっている場合をいう。たとえば泳ぎやすい形に進化したイルカも、他の泳ぐ生物も進化の源は異なっているが、最終的に「よく泳げる形」に収斂してしまった。
逆の例として、ヒドナンギウム・カルネウムとキツネタケの1種は形が異なるがDNAは非常に似ている。調べると胞子の形は似ている。ここに共通点が残っていた。我々は子実体の形の違いしか気付いていなかっただけなのだろう。このことには、見方を変えようという示唆がある。
イグチ目という大きなグループがあり、その中にはありとあらゆる形のキノコが含まれている。目という大きなグループの中に様々な形があるのがきのこの特徴だが、これは長い進化の歴史が起こしたものである。キノコは収斂的に進化を重ねてきた、複雑で長い歴史を持っている。たとえば、風に胞子を運んでもらうキノコ、動物に食べてもらって広げてもらおうとするキノコでは形が似てくる。キノコの多様な形は、進化の長い歴史の結果だということができる。
 
まとめ
・菌類とバクテリアと違う
・菌類はあらゆる環境で生きている。
・菌類で名前がついているのは10万種で、全部で510万種あると推定されるうちのごく一部しか解明されていない。
・DNA情報を使うことで、非常に複雑な進化を経て、形の多様性が生まれてきたことがわかった。分類の体系の再編成を行っているところ。我々は認識を変えなければならない。


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