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医食同源バイオカフェ「チョコレートの科学」

 2013年12月8日、神奈川工科大学ITエクステンションセンターで第5回医食同源バイオカフェを開きました。お話は元明治製菓スーパーバイザー 梶睦さんによる「チョコレートの科学」でした。
栄養生命科学科教授 松本邦男先生より、かつて企業時代に化学合成でつくっていた抗生物質を初めて微生物の力でつくることに成功し、神奈川工科大学にいらしてからはヒスタミンオキシダーゼという酵素の立体構造の予測を行ったお話をうかがいました。そして、2013年PISAで日本が過去、最高点をとったこと、神奈川工科大学の学生本位主義、国民の生涯学習(critical thinking からactive citizenへ)について、未来に向かうお話がありました。

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松本邦男先生 お話をする梶睦さんと実験準備をする向井幸子さん

主な内容

チョコレートの歴史
中部アメリカで紀元前1000年から飲料として使用され、2000年前の遺跡にも残っている。
16世紀、アステカ帝国(モクテスマ王がチョコレート愛好家だった)がスペインに滅ぼされ、チョコレートは欧州に広まる。18世紀の絵画「ココアを運ぶ女性」には、苦くて粘度の高い飲むチョコレートと水を運ぶ姿が描かれている。固形チョコレートの歴史は150年しかない。
日本人では400年前に支倉常長がメキシコを経てスペインに渡るときにチョコレートを味わったのが初めてと考えられる。帰国すると日本はキリスト教禁教時代で、訪欧の記録を焼却した。そのころスペインに残った日本人の子孫は、○○ハポンという名前になって暮らしている。
1797年 長崎遊女のもらい品目録にチョコラートという記述がある。
1899年 森永製菓の創始者 森永太一郎が日本初の板チョコの生産を始める。その後、明治製菓も板チョコ作りを始めた。
 
チョコレートの原料
カカオの木は6-10メートルになり、カカオポッドという実がなる。ポッドの長さは20センチくらい。木に登って切り落とし、小刀で切り割るとカカオの豆がパルプに包まれてでてくる。ひとつのポッドに20-30個の豆が入っている。
カカオ豆をバナナの葉にくるんで発酵させるとパルプが溶ける。その後、天日干しして乾燥させる。それが麻袋に入って神戸や横浜に届く。
カカオ豆ができる地域は赤道の南北20度以内に限定されている。コートジボアール、ガーナ、インドネシア、ブラジルなど。しかし、この地域の人はチョコレートをほとんど食べない
コートジボアールとガーナの生産で世界の半分を占めている。日本はガーナからの輸入が多い。インドネシアの豆は酸味があり、日本人好みでない。
日本人は平均して1年に1キロぐらい食べる。
 
原料からごみなどをのぞき、皮をはいで、焙炒して砕くと脂が50%以上あり、どろどろのカカオマスになる。これをしぼって粉末化するとココアになる。
カカオマスにさらにカカオバターを加え、20-25ミクロンに微細化する。練って、調温して、チョコレートのカカオバター(油)の結晶をつくる。


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カカオ豆 活発な会場からの発言

実験1 融解実験

マーガリン、固形バター、ミルクチョコレートを40度の恒温槽に入れて観察した。
カカオバターは25度までは固形だが、25度からすっととける。融点は35度だが、カカオバターはすとんと溶けるようになるのが特徴。これに対して、バターはゆっくりとけ、マーガリンはとけて水と油に分かれた。

実験2 官能試験

「緑色の袋のチョコレートを食べてください」
苦味がある。ミルクチョコレートのカカオは40%。
「金色の袋のチョコレートを食べてください」
苦味がより強い。カカオは86%で約2倍入っている。苦いチョコレートはお酒にあう。
ホワイトチョコレートにはカカオバターは含まれるがカカオマスはないので、カカオポリフェノールの効果はない。
明治では95%のチョコレートも売っている。カカオが多いと健康効果は期待できる

チョコレートの栄養成分は
カロリーが高いので、山で遭難したときのカロリー源になったというニュースがある。さらに、チョコレートの含水量は1%未満でカビも生えない。夏を超えたチョコレートが白くなるのは油の結晶が壊れたもので、カビではない。こうなると品質に問題はないが、まろやかさが失われる。
食物繊維が多いのもチョコレートの特徴で、バナナの5倍もあるが、チョコレートの脂の結晶のため、食物繊維をざらっと感じることはない。
パルミチン酸の両側にステアリン酸とオレイン酸がある結晶の形をしている。この単純構造が、25度でさっととける特色を生み出している。
 
カカオポリフェノールの働き
ポリフェノールには一万くらい種類がある。カカオからも10種類以上のポリフェノールが分離されている。
抗ガン作用:ネズミにタールを塗ると9割のネズミにがんができる。餌にカカオポリフェノール5mgを混ぜると、がんの発生率は5分の1になりがんも小さくなった。
免疫調節機能:ポリフェノールを取っている人はアトピーが緩和されたというデータがある。
抗ストレス:ネズミのストレス実験では、ポリフェノールの効果があることが報告されている
抗う蝕(虫歯)作用:甘いものを食べた子どもとチョコレートを食べた子供の虫歯を比べる実験が行われた。カカオポリフェノールには虫歯菌を抑える働きがあることがわかった。苦いココア、苦いチョコレートには効果が期待できる
ピロリ菌抑制:日本人にはピロリ菌のいる人が多い。胃潰瘍や胃がんの原因菌。チョコレートにピロリ菌を抑える働きがある。ネズミだけでなくヒトでも効果が認められた報告がある。食品中のポリフェノールはチョコレートがダントツに多い。
 
フレンチ・パラドクス
フランス人は、高脂肪食品を多く食べるのに、心臓病は少ない。一方、フランス人は赤ワインをよく飲む。ワインのせいで心臓の冠状動脈疾患がすくないのではないか。 これをフレンチ・パラドクスという。フラボノイド(ポリフェノールの一種)の摂取と心臓病のリスクを比べたところ、3分の1に減ったというオランダの疫学データ(被験者 8000人)がある。
動脈硬化とは、LDL(低比重コレステロール)をHDL(高比重コレステロール)が掃除して肝臓に運ぶ。LDLが酸化したものをマクロファージが食べるが、マクロファージの死骸が血管にたまり、血管が詰まって梗塞を起こしやすくなる。動脈硬化にポリフェノールは効果がある。
HDLを増やす薬ができたが、CETP(HDL とLDLをコントロールする働き)がない人の場合、HDLは増やせばいいのではなくて、バランスが必要であることがわかった。
総コレステロールは200以下 LDLは100以下、HDLは100以下がよい。LDLを酸化させないため、高脂肪食、暴飲暴食をさけ、ポリフェノールも利用してください。

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白石由希さんの5分間スピーチ 会場風景



5分間スピーチ「固定化酵素とセンサー応用」 神奈川工科大学大学院 白石由希さん

 体にはたくさんの酵素がある。体のすべての作用は酵素が関わっている。酵素をつかいやすく応用するための研究をしている。
酵素は水にとけているので、水にとけないもの(多孔質のガラス)に固定化すると長持ちして何度も使える。固定化すると分離しやすく扱いやすいので酵素の働きを検知して、働き方を調べられる。
アルツハイマー病に関係する酵素であるベータセクレターゼがアミロイド前駆体タンパク質を切ってしまうことが原因でアルツハイマー病になる。
ベータセクレターゼの働き具合を調べるセンサーをつくった。
ベータセクレターゼを固定化したので、いろんな阻害剤(ベータセレクターゼの活性化を防ぐ物質)を使ったときの基質の分解の仕方や阻害剤がどのくらいとどまったかを調べている。ベータセクレターゼを大腸菌を組み換えることで自分で安く作れるようにした。阻害剤をさがす研究をしています。


話し合い 
  • は参加者、→はスピーカーの発言

    • 老人会でチョコレートを配布している。チョコレートが血流にいいのか、ブラックチョコレートのほうが糖分は多いのか。また、ココアの飲み方は → ブラックチョコレートのほうがポリフェノールの苦みをおさえるので、砂糖が多い。ココアは就寝2時間前がいいと思う。
    • ポリフェノール5gとるには、チョコレートはどのくらいたべるのがいいのか → チョコレートのカロリーオーバーはよくない。板チョコ1枚で300カロリーあるので1日半分まで、ココアは1杯まで。
    • チョコレート効果は → 1日1粒くらい
    • テンパリング(調温)では何かを添加するのか→テンパリングとは、チョコレートの結晶化の温度管理のプロセス。ベータ結晶が安定している。温度が低いとアルファ結晶となり、口どけがいい。チョコレートはいろんな原料がまざって油の結晶が包んでいる構造になっていて、この構造をつくるのがテンパリング。
    • チョコレートとコーヒーが好きで第3回・第5回医食同源バイオカフェにに参加した。私は毎朝ブラックコーヒーを飲んで元気になる。バイオカフェに参加して勉強しようとされる皆さんはすごいなあと思いつつ、私は傍観者的に聞いております。難しすぎたところもあるが楽しかった。
    • 「チョコレート効果」はどこで入手できますか → 大きいスーパーマーケットで扱っている。
    • カカオとアーモンドは形が似ているが関係はあるのか → ない
    • 食物繊維はチョコレートのどこにあるのか → カカオマスに含まれる。ココアにも含まれている。