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2014年総会記念講演会報告「食品表示法の概要〜法制化と今後のありかた」

 2014年5月15日、銀座フェニックスプラザで、くらしとバイオプラザ21総会記念講演会が行われました。お話は、くらしとバイオプラザ21理事(日本生活協同組合連合会 品質保証本部 安全政策推進部 部長)鬼武一夫氏による「食品表示法の概要」でした。鬼武理事は消費者委員会、食品安全委員会などの委員として活躍され、新しい食品表示法施行にむけて準備が進んでいる現状と私たちが考えなくてはならないことについてお話を頂きました。

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鬼武一夫氏 会場風景

お話の主な内容

1 はじめに
食品のリスクは科学的に割り切れるが、食品表示は個人で見方が違い、科学で割り切れない面が強い。科学的根拠に基づいて表示をしたいが、実際には表示は科学的根拠のない表示も多い。消費者にとってのわかりやすさが大事だが、営業担当者は少しでも多く売れる表示がしたいと思うだろう。日本だけでなく海外でも表示は難しい課題。ありのままを言うと、表示について夏までに決まるが、審議会も右往左往しているという現状。
 
2 食品表示とは
食品表示とは、消費者が情報を得るためのもので、正確でわかりやすくあるべき。2013年6月食品表示法が公布され、今は2年後の施行に向けて準備中。新法において、食品衛生法、JAS法、健康増進法の表示の部分が統合されたわけだが、3法の中の通知や表示の部分の統合は予想していたよりずっと複雑で、とても1年でできることではなかったと思う。
 
実際の食品表示
実際の表示をみると、一括表示(四角い枠の中)に食品衛生法(厚生労働省)とJAS法(農林水産省所管)、計量法(経済産業省所管)によって容量が書かれている。このほかに、容器リサイクル法による識別マーク、健康増進法(厚生労働省)による栄養表示がある。
このように一つの加工品をみても、5つの法律が関わって表示が行われている。
今回、新しい法律ができると、JAS法と食品衛生法の重複部分は整理され、健康増進法によって行われていた栄養表示は、任意から義務になる。
表示の目的は健康上の危害を回避することであるので、次のような働きを持つことになる。
 
食品表示の機能・役割
・安全に食べられるかどうかを合理的に判断するための情報(消費期限など)
・商品選択のための情報(遺伝子組換えかどうか)
・公正な自由競争の促進
・適切な栄養摂取をうながす栄養表示
表示に関わる食品衛生法やJAS法ができたのは1991年で、健康増進法により特定保健用食品表示制度が創設された。2000年ごろから表示への関心が高まり、2013年に新しい法律ができて、表示について整理された。
食品衛生法の目的は健康上の危害発生防止と公衆衛生の向上・増進によって消費者の保護に資すること。名称、消費・賞味期限、製造所・加工所の所在地、添加物、保存方法、アレルギー物質を含む食品かどうか、遺伝子組換え原料を使用したかどうかなどが、食品衛生法での表示の対象。
JAS法の目的は商品選択に資するための情報提供で、名称、原産地、内容量、賞味期限、保存方法、製造業者名、遺伝子組換えかどうかなどが対象になっている(ただし、生鮮食品は名称と原産地のみでよい)。
健康増進法の目的は栄養改善と国民保健の向上で、栄養表示がこの法律の対象。
 
食品表示への人々の関心
消費者に対して表示のどの項目をみるかをアンケート調査(平成22年、埼玉県が実施)したところ、価格と消費期限がトップ。本当は重要なはずの保存方法やアレルギーを見る人は2割以下だった。
文字を大きくしてわかりやすくしてほしいという声が多かった。用語が統一されていないこと、情報が多すぎることがわかりにくい原因があると考えられる。
 
新しい法律をつくる
2009年9月、消費者庁がスタートし、食品衛生法、JAS法、健康増進法を基に、表示基準をつくることになった。
2011年、食品表示一元化検討会が12回開かれ、「わかりやすい食品表示」の実現を目指して、表示の基本的な考え方が整理された。
目新しいことは、義務表示として栄養成分表示が増えたこと。中食(家庭外で調理したものを食べる)・外食用にアレルギー表示が重要という検討が行われた。
原料原産地と遺伝子組換えは別の事項として位置づけられた。関心は高いがまとまらなかったので、報告書では議事録をそのまま掲載することになった。
 
3 新しい食品表示法
2013年6月28日、表示法が国会を通過した。
総則、食品表示基準、不適正な表示への措置、差止請求と申し出、雑則、罰則という構成になっている。
目的は、健康増進、安全な食ということでこれまでと変わっていない。
新しい法律の中に「消費者の基本的権利」と適格化消費者団体によるウォッチが初めて加わり、差止ができるようになった。後者は企業には重い。法律が新しくなると、罰則が厳しくなることが多いが、今回も罰則はより厳しくなっている。
現在は表示法案の中身が検討されており、遺伝子組換えと添加物の議論はまだ。実際に新しい表示が始まるのは2020年、オリンピックの年。
私が意見陳述したアレルギー表示が新しく採用された。
 
4 今現在の議論されていること
消費者委員会食品表示部会で議論した結果を共通認識とし、各調査会で具体的な議論が行われている。調査会とは、栄養表示に関する調査会、生鮮食品・業務用食品の表示に関する調査会、加工食品の表示に関する調査会の三つで、今年の夏にはパブリックコメントが実施される予定。
3法の表示関連の部分を一元化した法律ができた。たとえば、トクホの審議は消費者庁委員会で検討中だが、検討内容が複雑になり審査は長引いている。
現行の58項目の基準を1本に統合する。
個別品質基準では、名称の定義、原材料・内容量の記載方法、表示してはいけない事項が定められている。新法に含まれないが必要なものは個別の基準を存置することで対応する。
・栄養表示に関する調査会
栄養表示の対象成分はエネルギー、ナトリウム、脂質、炭水化物、タンパク質資の5種類で、誤差の許容範囲、栄養強調表示、表示方法などについて検討している。
・生鮮食品・業務用食品/加工食品の表示に関する調査会
加工食品と生鮮食品のJAS法の品質基準を引き継ぐ。
 
5 食品表示ついて思うこと
 見やすさ、わかりやすさが一番重要なのに、これらの検討は後回しにされたことは否定できない。表示は複雑なので、消費者庁ではQAを100問くらい用意している。
例えば、栄養表示ではナトリウムでなく、食塩相当に表示する方がわかりやすいとおもう。
また栄養表示は義務化されたあとはいえ、中小事業者には配慮するようになるだろう。
異種混合といって、パイナップル、ブドウなどをカットして盛り合わせると、単独だと生鮮食品で原産地表示が必要だが、盛り合わせなら不要。同じ事は刺身盛り合わせやバーベキューセット、炒め物用のカット野菜でもいえる。
まとめ
表示は正確な情報を与え、商品選択に役立ち、利用しやすいものであるべき。ユニバーサルデザインを盛り込むことや、トレーサビリティの確保も必要。そして、消費者には関心を持ってもらい、啓発活動も不可欠であると思う。
 
6 生協のとりくみ
アンケート調査より、消費者の意識の変化がわかる。
・かつおたくわんを洗ってからたべるのか、常温とは何度か、成分にエタノールと書いてあると食品に消毒薬が入っているのか、濃縮還元ジュースは水で薄めて飲むのかなど。
しかし、こういう質問にすべて答えられるように全部、表示しなければならないのか。
アメリカではフロントオブパッケージ(FOP)に見安い表示をする方向性に収束してきている。星マークが多いほうが栄養価が高いなどわかりやすくする工夫がFDAで検討される。
オーストラリアでは、食品表示のピラミッド構造が整理されていて、食品安全と消費者の選択は別に考えられている。日本でもこういう内容の階層化ができたらいいと思う。
皆さんも夏には、パブリックコメントを出してください!


話し合い 
  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • コーデックスでさんざん議論したが、知る権利を追求すると際限がなくなり、特定製品お排除が可能になる → 付帯決議の中に、「事業者への配慮」があるので、これでトラブルを回避できるといいと思っている。知る権利を法律に入れたのはよかったのかどうかの判断は難しいと思う。
    • 遺伝子組換えの混入率が、日本は5%、EUは0.9%だが、日本もEUなみになるのだろうか → これからの議論です。
    • 消費者の権利は消費者基本法に入れるべきで、今回、個別法に入った意味は何か → 消費者庁の説明を聞いたときには、私も驚いた。適格化消費団体による差止と消費者の知る権利は、あまり議論を経ずにポッと入ってしまった印象を受けた。
    • 栄養表示の中のコレステロール、トランス脂肪酸はどうなるのか → 今は示されていない。5項目(たんぱく質、炭水化物、脂質、ナトリウム、エネルギー)は決まっているが、脂質の中身は未定。アメリカの栄養基準のように、この量は一日摂取量の何%なのかという表示が私はいいと思っている。
    • 遺伝子組換えでないものにも「非組換え」と書かれたことがあったが、こういうミスリードが起こらないようにする方法はあるだろうか → 植物油にコレステロールゼロなどとわかりきったことを書くのも同じだと思う。遺伝子組換えは現行通りのようだが、組換えでないと強調することは違法ではない。
    • 情報がいっぱいあるとき、全部正しいかどうかはどこが判断するのか → 独立行政法人 農林水産消費安全技術センター(FAMIC)が担当する。


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    茶話会終了後。今年度の皆様に支えられて、進んでいきます!