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「ブレンダーのつぶやき5~世界の五大ウィスキーを飲む」開かれる

 2015年1月31日、三鷹ネットワーク大学で、バイオカフェ「ブレンダーのつぶやき5〜世界の五大ウィスキーを飲む」が開かれました。スピーカーはサントリービジネスエキスパート(株)技術顧問 冨岡伸一さんです。このシリーズは、今年で5回目のバイオカフェで、参加者募集半日で予約がいっぱいになる人気です。

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冨岡伸一さんのお話 登場したお酒、全員集合!

お話のおもな内容

はじめに
ジムビームというバーボンウィスキーで有名なビームグループを買収したことで、世界の五大ウィスキーブランドの全てを持っているのは世界でサントリーだけになった。これを記念して、今回は五大ウィスキーをテーマにし、6種類のウィスキー製品と響(ひびき)用の原酒をもってきました。
今は朝の連続ドラマ「マッサン」で日本のウィスキーの歴史が話題になっている。日本のウイスキーが、今のように世界でも評価されるレベルになったのは、明治生まれの3人の先見性と情熱であったと言える。まずは摂津酒造の阿部喜兵衛、次にニッカ創業者の竹鶴政孝、そして寿屋洋酒店(後のサントリー)創業者の鳥井信治郎であり、この3人が居なければ、日本の本格ウイスキーは生まれなかった。
阿部喜兵衛は、摂津酒造社員であった竹鶴政孝を本場のウイスキー造りを学ばせるためにスコットランドに派遣し、鳥井信治郎は、竹鶴政孝を工場長として日本初のウイスキー蒸溜所・山崎蒸溜所を造った。竹鶴政孝は、その後、独立して北海道に大日本果汁株式会社(後のニッカウヰスキー)を設立。アップルジュースの製造を皮切りにウイスキー・アップルブランデーの製造を始めた。サントリーとニッカは、日本の2大ウイスキー会社として歩んでいった。
 
お酒のできる原理
「食べておいしい果物からよい酒を造ることは難しい」。たとえば、カルヴァドスは苦くて、酸っぱくて、渋いリンゴでつくる。ワインにするブドウは、生で食べてもおいしくない。
醸造酒と蒸溜酒の関係を概念的に捉えると、ホップ抜きビールを蒸留するとウィスキー、ワインやシードルの亜硫酸を抜きにして蒸溜するとブランデーあるいはカルヴァドス。清酒を蒸溜すると米焼酎。黄酒を蒸溜すると白酒と言える。
他の切り口でお酒の分類を考えると、お酒には、農業的な酒と工業的な酒がある。
出来栄えの品質を自然にゆだねる部分が大きい農業的な酒とは、清酒、ワイン、乙類の焼酎。設備・技術により同じ品質を大量に造る工業的な酒とは、ビール、ウォッカ。
また「造られる酒」と「造る酒」がある。「造られる酒」は、ウィスキー、ブランデー、ワイン。条件次第でどんな原酒ができるかわからないので、ワインの場合は年毎(クロップ毎)に品質が違うことが許容される。ウイスキー・ブランデーの場合は、出来上がった様々の原酒の品質を評価して、最終製品の品質を造り上げるためにブレンドを行なう。今日、蒸溜した原酒は将来どんな品質になるかは分からない。従ってブレンダーは、先輩の造った原酒品質の結果を評価してブレンドする。
これに対して、「造る酒」は、飲料製品などと同じように最終製品の品質を決めて一定の品質を大量に造り上げることができるお酒で、ビール、スピリッツなどがこれにあたる。
 
世界の五大ウィスキー
アイリッシュウィスキー、スコッチウィスキー、ジャパニーズウィスキー、アメリカンウィスキー、カナディアンウィスキーの5つ。
五大ウィスキーには入っていないが、世界で一番、量を製造しているのはインド。世界の製造量ベスト20の銘柄のうち13がインド産。

(1) ジャパニーズウィスキー  
モルトウィスキーとグレインウィスキーがある。
モルトウィスキーは、麦芽100% 単式蒸留。それを2回行う。
グレインウィスキーは、穀類からつくって連続蒸留。
ブレンディッドウィスキーは世界で最も多い。ティーチャーズ、シーバースリーガル、バランタイン、ジョニ黒、ジョニ赤、響など。
日本のシングルモルトウィスキー製品は、山崎、白州、余市など。山崎は女性的(シェリー樽を使う)で、白州は男性的だからハイボールがあう。

(2)スコッチウィスキー
【定義】 スコットランドで蒸留・貯蔵まですること。ビン詰はスコットランド以外で行っていい。
ブレンディッドウィスキー 例)バランタイン 樽からのバニラ香がある
シングルモルトウイスキー 例)マッカラン シングルモルトのロールスロイスといわれている。

(3)アメリカンウィスキー
【定義】原料の51%以上がトウモロコシ。アルコール80%以下で蒸溜。チャーリングと言う内側を焦がしたホワイトオーク材の新樽を使用。62.55%以下で貯蔵。
原酒に水以外を加えない。
ジムビームはバーボンウィスキーのひとつ。もっと厳しくルールを守ると「ストレートバーボン」などがある。テネシーでつくると「テネシーウィスキー」となる。
アメリカンウィスキーを作っている場所のほとんどはケンタッキーに集まっている。
樽を焼いているので、材の分解によりバニラ香が付与。ジャパニーズウィスキーよりオイリー、こげくさい。 水を入れると、よりバニラっぽく甘味出てくる。
ジムビームは、大粒デントコーン・ライムストーンウォーター(石灰岩層を潜った磨かれた湧き水)を使って作る。
今日の懇親会用に持ってきたメーカーズマークは、コーン70%・冬小麦16%・大麦麦芽14%という独特の原料配合で、蒸気を逃がす加熱方法や蒸留方法も独自のもので、バーボン規定以上の熟成期間5年を行なうプレミアムな一味違うバーボンである。

(4)カナディアンウィスキー  
製造地は五大湖に集中している。
トウモロコシでつくったフレーバリングウィスキーとベースウィスキーをブレンド。

(5)アイリッシュウィスキー
スコッチウィスキー(ブレンデッドウィスキー)が広まるまではアイリッシュウィスキー(モルトウィスキー)はウィスキーの代表だった。
イギリス統治下にあったアイルランドはウイスキーにも厳しい税金を課せられたため、課税対象の麦芽比率を下げ未発芽大麦の比率を増やした為、スコッチと異なる風味となった。当初、2回蒸溜?4回蒸溜と多様な蒸溜法を用いたが、品質向上の研究の結果、3回蒸溜が特徴となった。また大量生産となった結果、小規模生産用のピート(泥炭)の使用は無くなった。


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香りと味を楽しむ これがひとり分の試飲セット

香り
モルトウィスキーは大麦を発芽させ、泥炭(ピート)を焼いた煙で乾燥させて発芽をとめる。これらの発芽麦芽はピートの香りがするのでピーティッドといい、ピーティッドはスモーキー。ピーティッドの代表の「ボウモア」は異臭があるというクレームがくることがある。そうでないのをノンピーティッドという。
ピーティッドウイスキーは、海藻の香り、正露丸の香り、これはフェノール系の香りで人間にとって本来危険な香りで大人の香りとも言える。大人の香りというのは、後天的に好きになるもので、aquired taste(最初は好きではないが、学んで好きになる香り)と言う。


白州、山崎は水がいいので選ばれた土地。日本は火成岩で軟水。ウイスキー造りには軟水が良い。例えば英国の地図を見ると、英国北部?北西部のスコットランドは軟水でウイスキー造りに愛称が良いが、英国南部?南東部のイングランドは硬水で紅茶に合う。

発酵
ビールや清涼飲料は、いろいろな菌が生えると困るので徹底的に殺菌を行い、サニテーションに力を入れる。このため、発酵タンクはステンレス製を用いて洗浄・殺菌が容易に出来る設備を使う。
これに対して、ウィスキー・ブランデー・ワインでは、アルコール発酵後の乳酸菌の増殖が必要である。サントリーウイスキーの製造には、木製の発酵槽を使用して乳酸菌の増殖を得ることにより、複雑な香りを造り出す。
ワインも酵母が死んだあと、乳酸菌でマロラクティック発酵がおこり、まろみが出てくる。
バーボンは新しい樽を使うなど、ウィスキーの種類によって樽の使い方が決まっている。ミズナラ樽はサントリー独自で作ったものであり日本特有。白檀のお香のような、シナモンのような香りがする。

蒸溜
単式蒸留は、ポットスティルと言う伝統的な蒸溜釜を使用し、サントリーモルトウイスキーの場合、2回蒸溜を行なう。
1回目の蒸溜を初留と言い、アルコール度数6?7%の発酵醪が蒸溜後に度数は18?21%になる初溜液を得る。2回目の蒸溜を再留と言い3つの蒸溜液に分ける。最初に出てくる部分を前溜(Head)と呼び別取りする。次に出てくる部分を本溜あるいは中溜(Hearts)と呼びアルコール度数70%前後のとても味わい・香りの良い本溜液が得られる。この真ん中のいいところだけを樽につめる。3つ目の部分を後留と呼び、アルコール回収の目的で別取りした前留液と同じタンクに入れる。この前溜液と後溜液を合わせたものを余留液といい、次回の再溜で初留に少し混ぜて張り込み液として再利用する。この3分割に溜液を分けることを「カット」という。
蒸溜釜の上部の細くなったところからコンデンサーと呼ばれる冷却器につながる部分をその形状からスワンネックと呼び、アルコール蒸気の通り道となる。蒸溜釜最上部から冷却に向けてのスワンネックの角度で味が変わる。上向きのスワンネックでは軽い酒質が得られ、下向きになるほど重い酒質が得られる。冷却器の中では間接的に水に冷やされ、蒸気が溜液となり透明なウイスキー原酒が得られる。この時点で色は付いていない。

貯蔵・熟成
ウィスキーは時を楽しむもの。貯蔵期間が長い。1年間で約3%が蒸発する。これを天使の分け前という。1万樽つくって、ウィスキーをつくるのに使ったり、蒸発したりして、17年後には200樽になる。この貯蔵・熟成の間に、樽材成分が抽出されて無色透明の蒸溜液が琥珀色の原酒となる。また多くの物理的・化学的な反応・抽出が徐々に起こり、複雑な味わい・香りを造り出す。
私はサントリーブランデーXOやVSOPを設計したが、先輩が作った原酒を使ってブレンドし、私が造った原酒は後輩ブレンダーが使うことになる。

ブレンダー
単体ではまずい原酒を使いこなせるかどうかがブレンダーの腕の一つ。ブレンダーには、品質を調べるだけの「検査型ブレンダー」、飲んだものを言い当てられる「評価型ブレンダー」、何万種のお酒の中から何を飲んでも同じ香味を再現ができる「創造型ブレンダー」がいる。検査型と評価型は訓練でなれるかもしれないが、創造型には天性が必要。
香りの表現はフレーバーホイールのように多様だが、ブレンダーはこれの5倍くらいの言葉をもっていて、同じお酒・香りを官能したときに、毎回同じ表現ができなければならない。。

楽しみ方
ふたをしてステアし、ヘッドスペースの香りを楽しんでください。飲み方には、ストレード、オンザロック、水割、ソーダ割などいろいろあるが、「トワイスアップ」をお勧めする。これはブレンダーが官能評価をするときの方法。ウイスキー・ブランデーに水を入れると香りや味が「開く」と言い、アルコール度数20度の時にもっとも華やかな香りを感じる。また氷を入れずに水も常温を使うことで香りの立ち方が際立つ。アルコール度数が40度なので、水を1:1に加えてステアして、香と味の違いを楽しんでください。
ブレンダーはアルコール度数20度にしたサンプルを昼食前の1時間強で200サンプル程度、官能評価をする。夕方も同様で、お腹がすいている時の方が感度が鋭くなるからである。ウイスキー、ブランデーのブレンダーは口に含むだけで飲まない。これに対して、ビール、ワインの評価では、口に含むだけではなく、飲み込む必要がある。味蕾が舌にあるのはご存知かと思うが、実は味蕾は喉にまであり、ノド越しを味わっている。ビールの開発者は週2回10:00?14:00くらいの間、連続官能と言って飲み続ける。美味しいビールだけでなく、太陽の下に2時間・4時間置いた瓶ビールがどれくらい劣化するかも飲み込んで評価する必要があり、ハードな業務である。
「ソニック」割りを紹介したい。ウィスキーやブランデーをソーダとトニックウォーターで割ることをそう呼んでいる。トニックウォーターが多いと甘くなり、ソーダが多いと辛口になる。
マリアージュ(結婚)とは、お酒のお相手。チョコレート、チーズなどいろいろ。 

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会場風景 マグダレナウゴロフスカさんの閉会のことば

話し合い 
  • は参加者、 ⇒ はスピーカーの発言

    • 女性ブレンダーはいますか→女性ブレンダーはいますが、匂いのある化粧品、香水がつけられません。アフター5はもちろんOKです。
    • 今までの仕事していてよかったと思う事は ⇒ ウィスキーとブランデーをつくったこと。 ⇒ 海外駐在して楽しかったのは、親日的なメキシコ
    • トウモロコシでつくるグレインウィスキーとバーボンの違いは ⇒ サントリーのグレインウィスキーはブレンディッドウイスキー用に連続蒸留機で蒸溜した原酒をホワイトオーク樽で貯蔵しライトな品質を造る。これに対しバーボンウイスキーは、内側を焦がした新樽を使うなど個性的な香味を造る。
    • サワーマッシュとは ⇒ 粉砕した原料(コーンなど)を糖化する際に混ぜる仕込み温水に、蒸溜残液(蒸溜した後に残るアルコールの殆どない残液)を20-30%程度加えてpHを下げる(酸性にする)こと。糖化条件がよくなり発酵で酵母の生育がよくなるなど、香味が良くなる効果が狙い。
    • またアルコール発酵に先立ち乳酸菌を生やして糖化液のpHを下げ、雑菌の繁殖を抑え酵母による発酵をスムーズに行なう方法もサワーマッシュと呼ぶ。
    • ウィスキーでは檜の樽は使わないのか ⇒ ヒノキはお風呂ではいい香りだが、ウィスキーにはあわないので使わない。