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  • サイエンストーク「様々な方法で創り出される世界に一つだけの花」(名古屋)

     2015年10月21日、三井住友銀行 SMBCパーク 栄(名古屋市中区)で、あいちサイエンスフェスティバル2015でバイオカフェin名古屋を開きました。お話は、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構花き研究所主任研究員 佐々木克友さんによる「様々な方法で創り出される世界に一つだけの花」でした。
    はじめに、花や作物の品種改良(育種)に関するクイズをしました。参加者全員が、農作物は野生種から改良されたものであると回答しました。


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    佐々木克友さんのお話
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    会場からの発言

    主なお話

    はじめに
    野菜、果物、花、穀物の新しい品種はどうやってつくられているのか、5つの手法を紹介する。
    突然変異育種では、放射線や化学物質などで突然変異をおこし、できた何万種からよいものを選び出す。これに対して、遺伝子組換え技術は種の壁を超えて(普通では交雑しないもの)、よい形質を取り入れることができる。
    どんな方法で作った「新しい品種」も遺伝子が変化することで出来ている。DNAはA、T、G、Cの配列でできているが、その大部分は無意味な配列。DNAの一部が遺伝子配列であり、これがRNAに転写され、タンパク質がつくられて機能する。
    「育種」とは、生物のもつ遺伝的形質を利用し、改良して有益な品種を育成すること。その方法はいろいろあるが、結果的には遺伝子が変化する。
     
    1. 交配育種
    ふたつの優良系統を掛け合わせる。
    もし、品種改良したい植物が自家受粉するなら、必要に応じて開花前にがくを開いて花粉を不活化し、交配作業を行う。
    花き研究所では、交配育種で、長持ちする切り花(カーネーション)「ミラクルルージュ」「ミラクルシンフォニー」をつくった。18日たっても枯れない。老化ホルモン(バナナやリンゴを熟す気体として知られるエチレン)ができないようにした。
    「花恋(かれん)ルージュ」は、長持ちし、病気に強い。可憐と「枯れん(枯れない)」をかけている。この開発には15年かかった。たくさん、きれいな花を掛け合わせて、病気に強い花を作った。このように交配育種は時間がかかる。
     
    (2)DNAマーカー育種
    ヒトには23セット、カーネーションには15セット、シロイヌナズナには5セット、イネには12セットの染色体がある。
    病気に強い品種が共通に持つ遺伝子領域(マーカー)がわかると、花が咲くのを待たなくてもマーカー遺伝子を確認しながら、掛け合わせを行うことができる。
     
    (3)突然変異育種
    変異剤を使う方法と放射線を使う方法などがある。放射線はX線、γ線、重イオンビームを使う。放射線育種ができる施設は日本に4か所あるが、私たちは埼玉県の理化学研究所の施設を利用している。
    重イオンビームでDNAの二重鎖を切る。サイネリア、サントリーのトレニア、ナデシコ、四季咲きの桜、さいたま酵母(酒をつくる)などの新品種開発に利用された。
    特徴は変異率が高いことで、新規変異体が効率よく作れる。重イオンビームをキクにあてると、葉に斑が入ったり、花弁がスプーン化したり、花弁が増えるなどの変化が見られた。
    重イオンビームをキクにあてて2500株程度を鉢上げしたところ、10株程度に目で見えるような変異が起こった。重イオンビームで変異が起こりやすい植物とそうでないものがあるようだ。遺伝子がこわれても、こわれた遺伝子に似た配列をもった他の遺伝子が機能を補うことから変異が見つけにくい。
     
    (4)遺伝子組換え育種
    アグロバクテリウム法では、微生物が遺伝子を注入する性質を利用している。葉の切片を組換え遺伝子を持ったアグロバクテリウムの溶液に漬けて、できた苗を育てる。培養室で苗を育て、土に馴らしたあとで温室に出す。
    青いカーネーションは6種類が実用化されている。カーネーションやバラには青い色素がないが、デルフィニジンをつくる遺伝子を入れた。日本で社会的に受容されている遺伝子組換え植物は花だけ。
    キクに重イオンビームをあてたが、変化する効率が低かった。効率よく新しい花の形質をつくるために、イオンビームと遺伝子組換え技術を組合せる研究を進めた。この組合せの研究には、トレニアを用いた。
    トレニアは5か月で開花するので、一世代が短く、花の研究に使いやすい。
    遺伝子組換え技術で、アントシアニン色素を合成する遺伝子の発現を低下させた。この方法で作製された組換えトレニアに重ビームイオンをあてることで、花びらの数、色、花の形に変化が起きた。効率よく新しい形質がつくられたため、289種類のトレニアができた。それらを利用して樹脂封入した標本キットをつくって、遺伝子組換え技術の教材として貸し出している。
    花を観察すると、モデル植物でみられなかった遺伝子の機能もみえてくることがある。
    多弁咲きシクラメンは遺伝子の機能を抑えるように遺伝子組換え技術を用い、花弁が5枚から50枚にもなった。
    江戸時代には、変化朝顔がつくられ、花が開かない種類、黄色の花、花びらが細長くなった朝顔などが文献に残っている。遺伝子組換え技術を使い、江戸時代の様々な朝顔を再現できた。
    食べ物だと気にする方があるが、遺伝子を組み換えた除草剤耐性ダイズを食べても、大豆のたんぱくと一緒に組み換えてできたタンパク質も消化される。食品安全性と環境影響評価をクリアしているし、飼料として食べた家畜の肉も人は食べて消化分解する。
     
    3つの技術のまとめ
    「交配育種」:掛け合わせをすると一度にいろんな種類がでてくる。交配育種では、掛け合わせる優れた2つの系統が必要。広い栽培面積が必要で年数がかかる。
    「突然変異」:一度にいろんな色や形がでてくるが、再現できない。植物を枯らしたとき、突然変異体の種子を採っていないとアウト。
    「遺伝子組換え技術」:再現できる。必要な遺伝情報が解明されていることが前提。
    目的によって、技術を組み合わせ、使い分けることで効率よく新しい品種を作れる。
     
    (5)組換え技術以外のバイオテクノロジー
    「胚培養」:種はできないが、種の前段階の胚まで育つことがある。その胚を利用して、新しい品種をつくる技術。例)ハクラン、ユリの新品種
    「細胞融合」:交配しても、種にも、その前段階の胚までいかないものに使う技術。
    例)オレタチ(カラタチは機能性成分多いが生で食べられない。オレンジはおいしい)平成23年、オレタチは品種化された。
    「ゲノム編集」:世界的に今後ひろく多く使われる可能性が高い手法。狙った遺伝子を壊したり置き換えたりする。ゲノム編集は特定の遺伝子を狙えるが、確実に狙ったものをつくるのが目的なので、新しいことを見つける研究としてのわくわく感がない。デメリットは、壊したい遺伝情報がわかっていなければならない。
    「クリスパー・キャス9(CRISPR/Cas9)」:バクテリアの免疫のシステムとして発見された仕組みを利用。細菌はファージによって病気にかかる。ファージから注入されたDNAを細菌が壊す仕組みを使って、植物の2本鎖DNAを切る。高等生物はDNAの修復効率がいいので、切られるとほとんどは元通りになるが、修復されるときに、一部にひとつ多く挿入されたり、欠失が起きて変異が入ることがある。アメリカや中国ではこの技術で新しい品種がつくられている。日本でも一生懸命に研究している。α線やX線、γ線では1本しか切れない。
     
    光る花
    光る生物にはそれぞれ光るための仕組みがある。ホタルでは、ルシフェラーゼ(酵素)とルシフェリン(基質)の反応で光が出される。クラゲのGFP(緑色蛍光タンパク質)は、受けた光のエネルギーを、違う色の光に変換する。
    トレニアには海洋プランクトンの黄緑色の蛍光タンパク質を入れた。平成26年度、上野のヒカリ展で展示した。ドライフラワーに樹脂封入して、蛍光を観察できるようにすることもできる。
    光る花では、蛍光タンパク質を含む花に青い光をあてると、黄緑色の蛍光がでてくる。観察のさいに、青い光をフィルターで遮断すると、光る花が見える。青い光を必要としないルシフェリンで光る植物があれば、街路灯にできるかもしれない。ルシフェリンを植物内で合成できる系があればいい。
     
    花の研究への期待
    遺伝子の機能を解析して、花だから観察できる所を利用して研究する。教育への貢献、産業への貢献、文化的な事業への貢献ができるだろう。


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    会場風景

    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 食糧の品種改良は食糧増産に必要だが、花に予算がつくのはなぜ→花の市場は大きい。仏花(キクの切り花)の市場規模は800億。花全体で4000億円ていど。花を作る農家の採算があっている。野菜農家でも、花も作ることで収入増になる。花の輸出は外貨をかせぐツールとして今後の展開が計画されている。
    • キクは日本だけではなく、欧州、北米、アジアでも利用されている。キク、バラ、カーネーションは世界の三大花き(かき)とも呼ばれていて、世界的に市場は大きい
    • キクは強い植物だが、強い丈夫な品種の花をつくってほしい。温室がないと栽培できないものが多い。
    • 重イオンビームの線源は→炭素、ネオン、アルゴンなどを利用。花によって核種、照射時間、強さは異なる。
    • 植物にもがんはあるのか→植物ではガンが問題にならないので、答えとして適切ではないかも知れないが、植物細胞では増殖を続ける現象はある。細胞が増殖してカルスといわれる塊になる。本来は4か月くらい培養を続けると、カルスから新しいシュート(小さい植物体)が出てくるが、それを過ぎると、培養変異がおこってカルスから出てくるはずのシュートが出てこなくなる。これは正常なカルスと違って、細胞が増えることしかできなくなるので、ある意味、がん化のひとつと言えるかもしれない。
    • どうして花を選んだのか→これから伸びる分野だと直感的に思った。花は変化が激しく、遺伝子の変化できれいなものができると嬉しい。
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