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  • バイオカフェ「おいしい野菜の秘密〜DNAと品種改良の関係」

     2016年度、くらしとバイオプラザ21は「次世代農林水産業創造技術 新たな育種体系の確立」という内閣府のプロジェクトの中の「新しい育種技術の社会実装プロジェクト」の中で、多くの方と育種(品種改良のこと)について実験やクイズをしながら共に考えるバイオカフェを開いています。
     三鷹ネットワーク大学(4月24日)、多摩六都科学館(6月12日)、はこだて国際科学祭函館市青年センター(8月20日 )で「おいしい野菜の秘密〜DNAと品種改良の関係」を開催し、実験の指導とお話をくらしとバイオプラザ21 主席研究員 笹川由紀が行いました。


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    「おいしい野菜の秘密」はじまり、はじまり
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    実験準備も整って

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    大人も全員、実験します
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    多摩六都科学館でのバイオカフェ
     

    種あてクイズ

     4種類の野菜の種子と花の写真を並べ、それぞれがどの野菜の種子と花なのか、野菜の実物を見ながらクイズをした。ツノがある種はホウレンソウ、丸い小さい種はコマツナ、平らで白い種はトマト、もう一つの丸くて小さい種はブロッコリー。
    コマツナとブロッコリーは同じアブラナ科の野菜で種も花も似ているが、見た目が似ていない。ホウレンソウは、見た目はコマツナと似ているが、種子と花の形は全く似ておらず、別の科の植物。ホウレンソウはヒユ科。トマトはナス科でナスと似ている星型の花をつけ、種子はトマトの果実の中のゼリー状のところにある。
    アブラナ科には、いろいろな野菜がある。しかも、学名は同じだが野菜としては異なるものがあり、多様性に富んでいる。例えば、アブラナ科の野菜。ミズナ、カブ、コマツナなどはブラシカ・ラパBrassica rapaという学名の植物。ブラシカ・オレラシアBrasssica oleraceaの野菜の中ではケールが一番原種に近いといわれていて、そこから様々な変異体ができて、様々な野菜になった。葉が巻いて球状になったのがキャベツ、たくさんの花芽がつくようになったのがブロッコリーやカリフラワー、芽が丸く巻くようになったのが芽キャベツ、など多様。最近は茎の根元が肥大したコールラビ、葉牡丹のような見た目の芽キャベツ・プチベールなどがスーパーにも並ぶようになっている。
    また、トマト一つとっても、色・味・形などのほか、生食用・加熱用など適した調理方法が違うものなど多様な品種がある。 このような作物の多様性の秘密はどこにあるか?それはDNAにある。


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    野菜の種子と花の写真

    DNAを取り出す実験

    DNAとは
    デオキシリボ核酸のこと。植物は動けないので構造がしっかりした細胞壁がある。これは植物の特徴で、動物細胞にはない。他に植物にあって動物にないものに葉緑体がある。DNAは葉緑体にも核にもある。DNAはA、T、G、Cと呼ばれる化学物質が並んだもの。良く言われるDNAの二重らせんはとても小さいので目で見ることはできない。そこで今日は、このDNAがたくさん集まって目に見えるようになったものを、皆さんで見てみましょう!
     
    実験の手順
    材料はコマツナ、ホウレンソウ、ブロッコリー、トマト。トマトは水分が多くてDNAは取り出すのが難しい。
    手順は、
    • 細胞を乳鉢ですりつぶす。
    • 食器用洗剤(界面活性剤)と食塩を混ぜた溶液を加える。細胞と核の膜を壊してDNAを取り出すが、この膜は脂質とタンパク質で出来ている。そこで界面活性剤の登場。食事の後の食器を洗うのと同じで、洗剤で膜を分解する。食塩は溶けたDNA分子同士が電気的に反発せずにまとまりやすくする働きがある。
    • お茶パックなどで溶液だけ濾しとる。
    • DNAがエタノールに溶けにくいことを利用して、消毒用エタノールをいれてDNAが見えるようにする。


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    おいしい野菜を地元でつくったお味噌でいただきました
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    多摩六都科学館の案内板

    お話「私たちの、そして世界の食生活を支える育種技術〜未来への可能性を秘めた新旧技術」

    育種の歴史は人類の歴史〜人は生きるために植物の遺伝子の変異を利用してきた。
    世界の食生活を支えてきたのは育種技術(品種改良の技術)。人類は植物の遺伝子の変異を利用して食物を得てきた。
    植物の野生種は、実が小さく、毒があり、実は落ちやすく、一斉に芽がでないなどの性質がある。これらの性質は植物の生き残り戦略だが、栽培して、人間が食べるには不便な性質。私たち人間の祖先は、突然変異によって、より人間に都合の良い性質となった植物を探し、種子を採取し、増やしていったと考えられる。このように、雑草のような植物を栽培できる作物にしていく過程を「栽培化」という。栽培できるようになった作物を、さらに人間の都合の良いような、様々な性質に変化させ、多様化してきた。
    トマトのように、現在の作物に形、味、香り、収穫時期、流通しやすさなどの多様性があるが、これを「育種」、品種改良という。
    ではどうしてこのような性質の変化し、多様性がうまれるのか。これは実は、その作物のDNA、設計図の役割をするもので、これが少しずつ書き変わって起こったこと。DNAの変異が積み重なって、今私たちが食べている作物がある。例えば、コシヒカリ。系図で示すように、いろいろな品種の交配が何度も繰り返されて出来た品種であることがわかる。さらに今はコシヒカリを親にした子孫の品種も出来てきている。
     
    農業にはいろいろな課題がある
    異常気象、グローバル化、人口増加、食料問題などいろいろ問題があるが、これらに対応した新しい品種ができると問題解決に貢献できるはず。ここで大事なのはスピード。できるだけ早く解決しないといけない問題ほど、早く、いい品種が必要になるので、研究者は新品種の開発だけでなく、品種改良の技術開発にも取り組んでいる。
    そういった中で、現在注目されているのがゲノム編集技術。医療分野の研究でも活用されている技術で、最近は新聞やテレビのニュースなどでも取り上げられることがあるが、育種技術としても期待されている。
     
    そもそも育種ってなに
    交配の親にする品種を種子や苗として種苗会社、ジーンバンクが保存・保管している。
    新しい品種をつくるときには、望む形質をもった作物をかけあわせて子孫をつくる。戻し交配(親のもっている残したい形質を確実に残すため)と言って、例えば元々優れ品種にさらに他品種性質を1つだけ入れたい場合、その二つの品種の子供から望む性質持つものを選び、また優れた品種との交配を繰り返すこともする。いずれにせよ、交配と言っても、かけ合わせとそこからできた数万の子孫の苗を育ててより良いものを選んでいく作業は、非常に時間と手間がかかる。
    たとえば、おいしいイネに病気の強い遺伝子だけをいれたいときは、人工授粉のときに熱い湯につけて花粉を不活化して、小さな稲の花を開いて受粉作業をしたり、熟練した人たちが水田で生育した稲から良いものを選んだり、食味テストをしたりして、新しい品種が作られていく。

    選ぶ方法の工夫
    交配でできたたくさんの子孫を、種から育てて選ぶのには時間と手間がかかるので、これを効率化するために遺伝子の情報、設計図の情報を使う方法がある。
    例えばイネは12本の染色体を持っている。染色体はいくつかの遺伝子を納めた本のようなもの。どの染色体にどんな遺伝子があるのか、どんどんわかってきている。そこで、苗の状態でDNAを調べることで、病気に強いイネが選べて、選ぶ手間と時間が節約される。扱う個体数も減らせる。遺伝子、設計図の情報を目印、マーカーのように使うので「ゲノムマーカー選抜育種」という。「ゆめぴりか」はこの方法でつくられた。
     
    遺伝子を書き換える工夫
    栽培化や育種の過程では、交配や自然におこった突然変異、言い換えれば自然現象でDNAが書き変わった結果、望む形質になったものを選んできた。DNAの書き換わりによりどのような変化が起こるのか。突然変異で起こった例では、イネではDNA一文字の書き変わりで実った稲が枝から落ちにくい(脱粒性のない)ように変わったり、ナスでは数百文字が抜け落ちてしまった結果、受粉しなくても実がなるナスができたりしている。
     
    今直面している育種の課題
    今、育種が急がれるような課題を改めていくつか挙げてみたい。例えば日本では平均気温が上がることで果物の産地が変わってしまうのではないかと懸念されている。リンゴについても生産適地が北上し、長野でリンゴができなくなるかもしれないと予測もあり、暖かくても栽培できるリンゴの品種必要性が考えられる。梅のポックスウイルスが広まり、いろいろなところで切り倒しているが、まだ病気の根絶ができない。ウイルス病耐性の梅が望まれる。海外ではオリーブにもウイルス被害がでている。オーストラリアは乾燥耐性コムギの開発に取り組んでいる。米国のかんきつ類やイネの害虫被害も大きい。
     
    ゲノム編集
    そういった中で、先ほど紹介したゲノム編集技術が注目されている。ゲノム編集技術は、偶然を意図的に起こすことができる技術だといえる。遺伝子組換え技術を使うが、最終製品では突然変異や交配で作られた品種同様のものが理論的に作ることができる。
    どのような技術かというと、特定のDNA部分だけを狙って切る、特注の「はさみ」を使う。あらかじめ設計図のどこを変えると形質が変わる、ということがわかっている場合、その部分を狙って切る特注のはさみ遺伝子、はさみの設計図を作物に導入する。そうすると、設計図を基に作られた特注のはさみが狙ったDNA部分を切る。切れたDNAを修復する時に修復ミスが起こったると、DNAの書き変わりが起こり、望む性質の作物が得られる。
    望む性質の作物が得られたら、特注のはさみは必要なくなるので、片付ける。実際にははさみ遺伝子を持っていない品種と交配して、最終的に望む性質を持ち、かつはさみ遺伝子を持たない個体を選ぶ。
    これに対して遺伝子組換えは導入した遺伝子が最終製品に残る。青いバラでは青い色をつくる遺伝子が残っている。
     
    ゲノム編集への期待
    ゲノム編集技術を使うと、時間や手間などを抑えて効率よく、望む性質の品種を作ることが出来ると期待されている。早く作ることができれば非常事態にも対応できる確率が上がる。
    育種に利用できる遺伝子の情報がこれから増えたとしても、必要な遺伝子持った作物(遺伝資源)が海外にあることもある。今後、海外由来の作物を日本に持ってきて利用すること障壁が高くなりつつある。このことを考えると、ゲノム編集技術は現時点で国内にある遺伝資源の有効活用につながる。
    また、はさみ遺伝子がきれいに片付くことが確認できると、遺伝子組換え作物に該当しないと判断される可能性もある。そうなると莫大な予算がかかる安全性審査が省略され、日本の種苗会社も参入できるかもしれないという期待がある。
    では、現在国内ではどのような研究開発が進んでいるか。
    一つ目はソラニンのできないジャガイモの研究はかなり進んでいる。この他に受粉しなで実るトマト、アレルゲンの少ない米、作物ではないが養殖しやすいマグロなどの開発がゲノム編集技術を利用して進められている。
    そして、これは私の個人的な夢だが、こういうものができると良いな、と思うものを2つほど紹介したい。一つは、地上深くに根を張って乾燥に強い作物。イネの根の伸ばす方向に関係する遺伝子があり、地面に対して垂直の方向に、深く根が伸びる遺伝子型が見つかっている。これを交配育種などで栽培品種に応用し、乾燥に強いイネを作ろうという試みはあるが、イネ科の作物に同様の遺伝子があれば、同じような変異で乾燥に強くできる可能性もある。トウモロコシやコムギなど、重要な作物にはイネ科のものが多く、現在これらの乾燥耐性品種が望まれている。ゲノム編集技術で、そういった品種が作れればよいな、と思う。もう一つは今は農業ができない土地でも栽培できるマメ。アズキやササゲの仲間には、塩やアルカリ性、酸性などの土壌でも生育するものがある。これらの性質に関係する遺伝子が見つかってくれば、アズキやササゲの栽培品種や、その他ダイズなどのマメ類作物の変異体をゲノム編集技術で作れるのではないか、それにより世界の農地面積を広げることができないか、と期待している。
    研究者は技術開発、それを応用した新品種開発、安全性評価などに関する基礎研究など、様々な問題解決を目指し、プロジェクトを組んで頑張って取り組んでいる。一方で、新しい技術に不安を持つ人も出てくるのは当たり前で、開発する側が一方的にならないよう、市民をまきこんだ情報提供や意見交換を行っていきたいと考えている。私たちくらしとバイオプラザ21は、この情報提供や意見交換の場を作り、いろいろな立場の人たちを繋ぐ役割を果たしたい。

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    はこだて国際科学祭でバイオカフェを開催
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    今年のテーマの海の幸である「イカ」のバナーの前で

    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • コシヒカリができたのは昭和というが、もっと最近に登場した気がする → コシヒカリが出来て品種登録された後、当時すでに広く栽培されていた品種から置き換わっていくのに時間がかかるので時間差があるのではないか。
    • 高温登熟とは? → 米粒が実る時期に高温になりすぎると、米粒がもち米のように白くにごったりすることがある。これは米の等級が下がる原因となり、価格が下がるため、農家は収入減となってしまう。数年前も埼玉県中心に問題になり、ニュースでも取り上げられた。
    • イネの設計図のところに低カドミウムとカドミウム吸収というのがあるが、違いは? → 低カドミウムの遺伝子はカドミウムの吸収を抑える働きをし、カドミウム吸収の遺伝子はカドミウムを吸収しやすくなる働きをする。吸収する性質の遺伝子は、汚染物質を吸収するファイトレメディエーションに使えるのではないかと言われている。
    • 狙った場所だけDNAを換えることができる技術はないのか → 変異を与えるには、放射線や化学物質を使って遺伝子に変異を与えることができる。しかし、遺伝子のどこに変異が起こるのかは、やってみないとわからない。遺伝子組換え技術は新しい遺伝子を追加して新しい性質を付加できるが、導入遺伝子がゲノムのどこに入るのか、今のところ位置までコントロールできない。ゲノム編集は遺伝子の狙った位置に変異を与えようという技術で、はさみを入れる場所を指定することができる。ただし、場所指定の仕方を厳密にしないと、狙った位置以外のAGCTの並び方の似ている他の場所を切ってしまう可能性もある。もし意図しない場所で変異が起こってしまっても、作物の育種の場合は元々その過程で目的以外の変異が入ることもあるし、戻し交配で意図しない変異を取り除くこともできる。ただし、医療分野での応用では意図しない変異を起こさないことはとても重要。
    • ゲノム編集はどこの研究機関でしているのか → つくばを中心とした農林水産省所管の研究所のほか、先ほど紹介したように筑波大学が受粉のいらないトマトを、農研機構がアレルギー低減米を、大阪大学がアルカロイドを作らないジャガイモを、それぞれ開発中。そのほか、岩手大学で進めている果樹の世代を早く進める研究も注目されている。医学の分野では多くの大学などが進めている。iPS細胞とゲノム編集技術を組み合わせた研究も進められている。
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