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  • サイエンスカフェみたか「わくわくビールセミナー」

     2016年7月1日、サイエンスカフェみたかが開かれました。お話はアサヒビール株式会社研究開発戦略部 佐々木克哉さんによる「わくわくビールセミナー」でした。わくわくビールセミナーは、これまで3回ともくらしとバイオプラザ21事務所で開かれていましたが、今回は初めて三鷹ネットワーク大学での開催でした。


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    佐々木克哉さん
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    会場風景

    主なお話の内容

    はじめに
    入社18年目。入社以来10年以上ビールの技術開発、特に麦芽の研究に携わってきた。今は研究戦略と知財の仕事をしている。
    アサヒビールの本社ビルの屋上のオブジェについていろいろ言われていますが、これはスーパードライがヒットした後に建てられたもので、社員の熱いスピリットを炎として表しています。
     
    ビールの分類
    基本的には発酵方法(酵母)とビールの色で分類される。
    ビールの色は麦芽の種類で変えることができ、淡い色から濃い色まである。
    発酵には、上面発酵(発酵終了後に凝集しないので泡にのって上面に酵母があがっている性質の酵母を用いる。発酵温度は15-25℃。発酵中にできる香気成分がつきやすい)と、下面発酵(発酵が終了すると凝集する性質があるので酵母は沈む。発酵温度は約10℃)がある。この他に醸造所の蔵に住みついている酵母で自然に発酵させる自然発酵というものもある。

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    試飲用ビール
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    恒例の乾杯で始まるわくわくビールセミナー

    今日の試飲用のビール
    ・スーパードライ ピルスナービール(淡色、下面発酵)。麦由来のでんぷんが十分に糖に分解され、それを酵母が十分に消費するため、発酵度が高い。副原料使用。
    ・レーベンブロイ(ドイツ) ピルスナービール(淡色、下面発酵)。麦芽100%ビール。わが社がライセンス契約を結び、日本で製造している。
    ・バスペールエール イギリスの伝統的な上面発酵の技術でつくられてきた。やや濃色の麦芽を用いており、色は濃い。
    ・ヒューガルテンホワイト(ベルギー) 上面発酵で淡色。特徴は小麦を使い、ホップのほかにオレンジピールとコリアンダーで香り付けをしている。小麦中のアミノ酸はロイシンが多く、発酵を経て酢酸イソアミルという特徴的なエステル香(バナナのような香り)がつく。瓶詰後、新たに酵母を加えて、瓶内で二次発酵をさせる。ドイツの小麦ビールはヴァイツエンなどと呼ばれるが、ベルギーの小麦ビールはホワイトビール、ベルジャンホワイトなどと呼ばれる。
    ・アサヒ スタウト(日本) 吹田工場でしかつくられていない。スタウトはイギリスで生まれた上面発酵の濃色ビールのこと。それまではポーターという黒ビールがあったが、糖を加えることによりさらにアルコール度をあげる(約8度)点が特徴。アサヒスタウトは戦前から同じレシピで製造している。
    ビールの色が濃いのはメーラード反応等による。焙煎した濃色麦芽を使う。
    ・アサヒ・ザ・ドリーム 糖質50%オフだがキレとコクのバランスが特徴。世界のビールコンテスト(world beer cup 2016)で銀賞。
     
    ビールの歴史
    大麦・小麦の栽培は6000年前に始まったと言われているが、ビールづくりの最古の記録は粘土板に描かれた絵(メソポタミヤ、約3500年前)。約2000-3000年前ではエジプトでちぎったパンを水につけて発酵させたと言われている。酔っ払いの絵もある。
    ハムラビ法典には、ビールを水で薄めた者は処罰されるなどのきまりも書かれている。
    8世紀頃、ドイツのカール大帝は大のビール好きだったので、ビールを広く普及させ、その地位を向上させた。このころ、従来のハーブや薬草に代わり、ホップを入れるようになった。ホップには抗菌作用があり、広く使われているようになった。
    1516年 ドイツでビール純粋令が公布された。ビールは大麦、ホップ、水だけでつくること。今は小麦を使ってもいいことになっているが、副原料を使用しない事は今でも守られている。
    19世紀、冷蔵技術、低温加熱殺菌、純粋酵母の製造というビールの三大発明があり、ビール製造は安定的な大量生産にむけて大きく進歩した。それまでは、発酵は蔵酵母頼み、発酵温度は気温次第、雑菌も繁殖しやすかった。今では、酵母の管理、温度コントロール、工程の無菌化ができるようになっている。
     
    ビールの原料
    日本では、ビールは酒税法で、麦芽、水、ホップ、麦そのほかの副原料で作られたものと定められている。
    ○麦芽(大麦)
    大麦は小麦と比べて「のげ」が長い。六条大麦とは種子の並び方を上からみたとき6列の花びらのような形になっている。二条大麦は麦の粒が大きくなり、でんぷんが多く、2列になっている。二条大麦はビールに使われることが多い。
    麦芽は、大麦種子を少し発芽させて乾燥させたもの。乾燥させると貯蔵性が高まる。焙煎乾燥すると黒ビールに使用される黒麦芽になる。
    少し発芽させると、麦芽にでんぷん分解酵素(アミラーゼ)ができる。酵母はでんぷんを食べられないが、分解されて糖になると食べられるようになる。そこで、デンプン分解酵素を得るために、未発芽の大麦ではなく麦芽を使う。米を原料とする日本酒の場合は、デンプンを分解するために麹を利用する。麹はデンプンを分解する酵素を分泌する。ぶどうを原料とするワインの場合はブドウ中の主な糖がブドウ糖であるので、分解する必要はない。
    ○ホップ
    ホップの毬花の中のルプリン粒が苦味と香りのもと。ホップを入れると、香り、苦味、抗菌、にごり防止、泡もちがよくなる。
    国産ホップもあるが、ホップも麦芽も輸入が大半を占める。
    ホップには、ビターホップ、アロマホップ、ファインアロマホップの3種類がある。
    ホップは寒冷地で栽培される(チェコ、ドイツ、北米、国内では東北、北海道など)。
    ○水
    水は硬度が高いと濃色ビールに向き、硬度が低いと淡色ビールに向いている。
    ○副原料
    副原料が入ると、味がさっぱりする。
    麦芽にたんぱく質等が含まれているので、麦芽が多いと重くなる。
    副原料としてつかわれるのはトウモロコシや米。 
     
    作り方
    ○仕込工程 
    麦汁(麦ジュース)をつくる工程。麦芽には様々な酵素があり、たんぱく質、でんぷんも分解される。酵素の至適温度となるように工程で温度を変えて、それぞれを分解していく。
     その後、麦汁濾過工程で、大麦の穀皮(麦かす)を除去する。
     次に煮沸工程で麦汁を殺菌する。ここでホップを入れ、香りと苦みづけを行う。
    ○発酵工程
    発酵工程では酵母は麦汁の中の炭素源、窒素源を取り込んで、アルコール、炭酸ガス、エステル等の香気成分をつくる。
    仕込工程は1日でできるが、主発酵には約1週間かかる。発酵1-2日目に液面に泡が増え始める。4日目には泡があふれ、6日目ごろに泡が収まる。  
    屋外タンクはタンクの上部が閉じているが、液面より上部に余裕をもたせ、泡立っても溢れないように設計している。
    後発酵工程では熟成(約2-3週間)させ、未熟臭を除去させる。
    ○濾過工程
    酵母、及びたんぱくとポリフェノールの重合物を除去する工程。濾過には珪藻土を使う。珪藻土に酵母を吸着させる。
    生ビールはこの後に、精密ろ過をすることで完全に無菌化する。生ビールとは「加熱殺菌していないビール」のこと。非加熱処理であれば缶に入っていても生ビールという。
     
    ビールの品質
    味の品質管理は、官能検査(テイスティング)と分析の両方で行う。ビールの香りには700成分あるといわれ、単独で閾値以上のものは少なく、多くの成分の相互作用で香気ができていると考えられている。味成分も240成分あると言われているが、単独で閾値以上のものは2つだけである。このほかに、泡の評価(泡だち、泡付き、泡もち)もあり、きれいな泡のためには、グラスは綺麗に洗うことが大切。
    ビールはできたてがおいしいので、早く飲んで頂きたい。高温下で保存すると酸化し段ボール的な香りがつくことがある。瓶ビールでは日光に数時間さらされるだけで日光臭という獣的な香りが生じる。ケースに入った瓶ビールでは蓋をして遮光した方が良い。


    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 活性炭は濾過に使わないのか → 一般的には活性炭を使用するとビールの味に寄与する成分も除去されてしまうので難しい。
    • ビールの炭酸ガスは発酵工程でできるのか → 発酵工程でできる、若干の調整は可能。
    • 酵母は培養しながら繋いでいるのか → 発酵後に酵母を回収し、次の発酵に用いる。いつまでも繰り返し利用できるわけではないので、酵母の状態をみて、新たに培養した酵母を使う事もある。
    • 品質の管理はどのように行うのか → 麦汁、主発酵終了時などステップごとに試飲したり分析したりしてチェックしながらつくっていく。
    • 自分で好きなように作れるとしたら、どんなビールが作りたいか → ヒューガルデンホワイトのような個性的なビールをつくってみたいですね。
    • ビールの値段は、製法で違ってくるのか → 製法、原料による大きな違いはない。国内では税率の違いが大きい。クラフトビールとの価格の違いは生産規模の違い、輸入ビールとの価格の違いは輸送費などが価格に影響してくる。
    • 瓶ビールと缶ビールとどちらがおいしいのか → きちんと保存されていれば、缶も瓶もグラスに注がれたビールを区別できる技術者はいない。缶は金属臭を心配する人がいるが、コーティングされているので金属臭はない。
    • クラフトビールとはどういう意味か → かつての地ビール同じ。小規模醸造設備でつくられているビール。
    • アルコールを上げるとアルコールの味が気になって飲みにくいと思う → ビールのアルコール度数は4度くらいから10度を越えるものまである。確かに度数が高いとアルコールの味が目立ってくるので、度数の高いものは比較的濃色系の味の濃いものが多い。
    • ビールのライフはどのくらいか → 夏場の高温下だと1か月たつと敏感な人は味の劣化が分かる。購入したらすぐに冷蔵庫に入れることをお勧めする。(なお、賞味期限は一般的には9か月程度)
    • ビールに適した大麦はあるのか → ビール用大麦は皮が薄くてでんぷんが多いものが適している。国内外で育種を行っている。
    • 外国のノンアルコールビールと比べると日本のノンアルコールは酸味があり、おいしいと思えない。その中ではアサヒのノンアルコールがおいしいと思う → 国内のノンアルコールビール(Alc0.00%) は発酵工程が全くないので味の調整のために酸味料を入れることはある。これに対して外国のノンアルコールビールは少し発酵させてアルコール度数を1%未満に抑えているものが多い。アサヒのノンアルコールビール(ドライゼロ)はあえて麦芽を使用しない方法で、ビールにできるだけ近い味を目指してつくった。
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