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  • 千葉市科学フェスタ2016 サイエンスカフェレポート
    「世界でひとつだけの花〜先端技術で創りだされるステキな新品種」

     2016年10月9日、千葉市科学館で行われた千葉市科学フェスタ2016でサイエンスカフェを開きました。お話は農研機構野菜花き研究部門 主任研究員 佐々木克友さんによる「世界でひとつだけの花〜先端技術で創りだされるステキな新品種」でした。参加者は佐々木さんを囲み、珍しい花の樹脂標本を手にとってみながら話し合うことができました。


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    佐々木克友さん
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    会場風景

    お話の主な内容

    はじめに
    私の所属している野菜花き研究部門の役割は、以下の3つです。
    • 新しい花の創出技術(交配育種、遺伝子組換え技術)
    • 栽培・開花技術(光、温度、病気の制御)
    • 品質保持技術(切り花の日持ち)
    今日は、新しい花の創出に関係する部分を中心に話します。
     
    育種とは
    育種とは、「人に都合のいい形質をとりだて新しい品種をつくることです。
    このごろは花弁がバラのように多いトルコキキョウの品種もできています。トルコキギョウは 1970-80年代までは一重咲きが売られていましたが、交配育種でバラ咲き(八重咲き)が誕生しました。
    育種の歴史は人類の歴史でもあり、遺伝子に生じる変異(変化)を利用して植物の様々な形質(性質)を改良しています。
    例えば、トマトの野生種は小さく、一斉に芽が出ず、すぐに実が落ち、毒があり、おいしくありません。これらの問題点を育種によって、おいしく、大きく、毒を気にしないで食べられ、一斉に実がなり、種がすぐに落ちない性質に改良したのが今のトマトです。こうして、育種の前までは単なる植物だったものが野菜になりました。
    野生のイネには脱粒性といって、種がポロポロ落ちる形質があります。種がすぐに落ちるのは、生産性は悪いのですが、生きるための戦略といえます。
     
    交配育種
    交配育種の場合は、形質の目標を決めたら、使える遺伝資源を探すことになります(入れたい性質が保存されている種などがないか)。イネは種で遺伝資源を保存できますが、花は株で保存しています。なぜならば、一般に売られている花の多くは自家不和合性といって、遺伝的に近すぎるもの同士では種ができない性質があるからです。
    〇花の交配育種
    農研機構では、日持ちのよい花をつくることを目標として、植物の老化遺伝子が働かないようにするために、エチレンがでないカーネーションを作出しました。これで切り花が1か月くらい日持ちするようになりました。
    この品種にさらに病気に強い形質も加えて、「かれんルージュ(可憐、枯れん)」というカーネーションが誕生しています。この交配育種には15年かかりました。細菌病にかからない野生種を片方の交配の親にして、カーネーションとかけあわせて大輪化などをしてできあがっています。
    〇突然変異育種
    自然界では、紫外線等が原因になってDNAが切れることがあります。多くの場合、DNAは切れたあと、修復されますが、ごくまれに修復ミスが生じます。突然変異育種では、DNAが何らかの要因によって切れたあとのDNAの修復ミスを利用して育種しています。
    私たちの研究所で行った、突然変異による新しい形質を作り出した例について説明します。理研(和光)の施設で重粒子線(重イオンビーム)をあてることで突然変異を引きこす研究を行いました。重粒子線は、がん治療に用いられていることでも知られていますが、理研では年間の数%程度が育種などの用途に利用されているようです。
    これまで、理研の施設では、サイネリア、サクラ、ナデシコ、トレニア、酵母について重粒子線を使った突然変異育種による品種が作られています。
    キクでも2品種に重粒子線をあてていて、品種の一つである‘セイマリン(白花)’では花びらが丸くなったり、花弁の先がされたり、葉に斑が入るなどの変化がありました。‘広島紅(ピンク)’に重粒子線をあてると、花びらがボート型になるなどの変化が見られました。重粒子線を当てたあとに再分化した株を2500株程度、温室に出して花の形質を確認したところ、10株くらいに変異が観察されました。効率が低い理由としては、キクが6倍体(同じ遺伝子が6セットある)で変異が6か所に入らないと、変化が表れにくいこないことが考えられます。植物の倍数性(ゲノムが何セットなのか)は育種の再に、手法を考慮しなくてはならないことを再認識しました。
    〇遺伝子組換え技術
    キクでは重粒子線での変異導入は効率がよくないと考えられました。キクなどの変異導入の効率がよくない植物に対しては、遺伝子組換えは効果的に新しい形質が直接的に付与できる手法といえます。
    遺伝子組換えの手法について、インドシナ半島原産のトレニアを用いて説明します。トレニアを使う理由は、遺伝子組換えの操作から5か月程度で花が咲く(サイクルが早い)ために、短い期間で花の実験ができるからです。
    遺伝子組換え技術の手順を説明します。、まず、トレニアを無菌的に培養し、植物の核に外来遺伝子を注入することができる土壌細菌(アグロバクテリウム)を用い、無菌的に育てた植物に対して遺伝子を導入します。アグロバクテリムが感染した細胞からカルス(細胞の塊)ができ、そのカルスから小さい植物体が出来てきます。この植物体を順化(外の環境に次第に慣らすこと。急激に環境を変えるのではなく、中間的な環境に慣らすことで、より厳しい環境に対応できるようにすること)したあとで鉢あげします。
    遺伝子組換え技術で国内で商品化されたものとしては、カーネーション、バラなどの観賞用の花もあります。
    世界で大量に消費されているものには、除草剤耐性ダイズ、害虫抵抗性トウモロコシなどの穀物が挙げられます。
    江戸時代の変化朝顔を遺伝子組換えで復活させようという研究が進められていて(筑波大学)、江戸時代の書物でしか見られない朝顔が再現されています。
     
    遺伝子組換えと重粒子線の組合せによる新しい形質の作出
    濃い紫のトレニア花は5種類のアントシアニンという色素からできています。
    紫色のトレニアに重粒子線を当てても、花弁の色に期待したほどの大きい変化は見られませんでした。これは変化が起こっていても元の色が濃すぎてわかりにくいためと考えられます。色が淡くなるように遺伝子を組み換えた植物体に重粒子線をあてたところ、花弁の色、模様、形の異なる289種類の花ができました。
     
    光る花づくり
    人の目で見てもすぐ分るほど強く光って見えるような花の作出を目指しました。光る花の作出には、富山湾にも生息していることが知られる海洋プランクトン由来の蛍光たんぱく質を用いており、これを白い花を咲かせるトレニアに導入しました。薄い花弁に対して大量の蛍光タンパク質を蓄積させるために、タンパク質が効率よく蓄積される遺伝子配列(翻訳促進因子)と遺伝子を効率よく蓄積させる配列(転写効率が上昇するターミネーター)も利用しています。光るトレニアは2014年度に開催されたヒカリ展(国立科学博物館)で展示され、18万人が見に来ました。
     
    花器官だけで遺伝子機能を抑制する
    今年の6月には、新しい組換え技術の手法を報告しています。1種類の遺伝子の機能(転写因子といって、遺伝子の発現を制御する機能を持つタイプの遺伝子)を抑えるだけでこんなにたくさんの種類の花ができました。実際には1種類の遺伝子の機能を、花の中でも生育時期や器官(例えば、花弁の根元や先端など)特異的に、様々なバリエーションで抑制しました。これはいろいろな種類の花を創りだす技術だという事がいえます。
     
    ここまで、様々な育種の手法についてはなしをしましたが、実際には、交配、重粒子線 遺伝子組換えのそれぞれの技術のよいところを目的に応じて選んで利用するのがいいと思います。最後に新しい育種技術であるゲノム編集技術について紹介します。
     
    ゲノム編集技術 
    ゲノム編集技術とは、遺伝子を切る活性のあるタンパク質を導入して、特定の遺伝子をターゲットとして切ることで狙った遺伝子に対して変異を生じさせる技術のことです。ゲノム編集という言葉が、2015年は50回ほど新聞に登場したようです。
    遺伝子が切れた場合には、大体は修復されますが、修復ミスにより変異が起こることもあることは先ほどもお話しました。さらに遺伝子配列内で2か所切れると、挟まれた部分が抜け落ちてしまいます。すると、その部分に変異が生じます。。
    育種をしている中で問題解決に役立つ品種を、多くの人が早くほしいと願っています。カーネーションの育種に15年かかった話をしましたが、さらに果樹の場合は30-50年と育種年数が長くなります。研究員によっては在職中に結果をみられないこともあるでしょう。ゲノム編集技術だと、花や果樹の育種を早められるかもしれません。
    今は、ゲノム編集技術を使って、例えば日本でも「ソラニンを抑えたジャガイモ」「アレルゲンを抑えた米」の研究が進んでいます。
    ここまで話をした中で、新しい品種を作る技術は多様にあることが分ったと思います。ケースバイケースで技術を選び、目的を達成することが大事になるかと思います。
    花の研究者として、今後の花の研究に期待することは、花のサイエンス、教育、産業、文化的な活動への貢献などが挙げられます。そして多くの人が花やサイエンスに関心を持ってもらえるようなお手伝いができたらよいと思っています。

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    花の樹脂標本
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    樹脂標本を手に取りながらの話し合い

    話し合い

  • は参加者、  → はスピーカーの発言

    • 枝変わりで一枝だけ珍しい花が咲いたときの遺伝資源の保存はどうするのか → 枝変わりは新しい品種として登録したりすることもあるようです。ただし、必ずしもいい形質(色)に変化するわけではないので、求める色でない枝変わりは切戻して元の状態にします。
    • 種ができないために株で保存しているものはどのくらいあるのか → 800種類以上の株を遺伝資源として保存しています。同じ株のなかだと種はできません。仮に種子ができた場合でも、親系統とは必ずしも同一の花が咲かなかったりします。
    • キクはどうやって維持したり、増やしたりするのか → キクの品種(形質)は種子ではなく、株などで保存しています。株(品種)を増やすのは挿し木などの手法が用いられます。国内で栽培されるキクの苗の生産は、海外で挿し木で増やして生産されています。
    • 前の質問の続きにもなるけれど、食料の場合はどうなっているのか。あと、果物は同じ木の中で枝ごとに違う品種になっていることもあると思うけどどうか。 → 国内でつくられているイネ、コムギは種子で遺伝資源が管理されています。果物でも基本的には同じ木からできる果物は同じ品種だと思います。リンゴのふじの苗からできるのはふじのリンゴで、枝ごとに違う品種になることはないように思います。一方で、同じ木からできても果物の品質の違いから、違う等級のりんごとして売られることはあるかもしれなません。また、果樹は挿し木で増やします。
    • アサガオから種をとっても1年目と同じ花が咲くとは限らないと思っていいのか → そうです。
    • 自家不和合性の花にはどんなものがあるのか → アブラナ科、ナス科のものが多いようですが、自家不和合性に強弱があるので、種はできたりします。
    • 光る花の光る時間はどのくらいか → 生の花はずっと光ります。ドライフラワーにしても数か月光り続けるようです。光るのはタンパク質として活性があるということなので、ドライフラワーにしたとき、タンパク質がどのようなメカニズムで活性を保ち続けるのか、わかっていないこところがあります。
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