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  • バイオカフェ in 大阪「最近メディアで紹介されている「ゲノム編集」って何?〜毒のないジャガイモを創る」

     2017年1月21日、第2回バイオカフェin 大阪を株式会社三菱化学テクノリサーチと共催で、開きました(於 大阪科学技術館)。お話は大阪大学大学院 教授 村中俊哉さんによる「最近メディアで紹介されている「ゲノム編集」って何?〜毒のないジャガイモを創る」でした。
     このバイオカフェは3回シリーズの第2回にあたります。第1回(12月17日)は大阪府立大学 教授 小泉望さんによる「いまさら聞けない遺伝子組換え」、第3回(1月28日)は京都府立大学 生物資源研究センター 助教 武田征士さんによる「花の魅力をサイエンスで探る」でした。
     1月21日は、ゲノム編集をクイズや演示実験を交えて、どう説明したらわかりやすく伝わるか、遺伝子組換え技術との相違点を説明できるか、様々な工夫を凝らしたお話に、多くの質問が引き出され、質疑応答も活発に行われました。


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    村中俊哉先生
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    会場風景

    主なお話の内容

     月に1回以上、「ゲノム編集」という言葉は新聞に登場する。植物には、トリカブトならアゴニチン、ケシならモルヒネというように、炭素、水素、酸素と窒素というわずか4つの元素で複雑な構造の分子を作ることができる力がある。
     
    クイズ1「世界中の植物は何種類の物質をつくれるか」
    (答え)100万種をつくれる。
    人がつくれるのが4000種。植物は動けないので光合成で食料を得る。逃げられない、攻撃できないが相手を殺したり、敵を呼び寄せたりできる物質をつくる。
    植物に特化した二次代謝産物の多くは毒物。植物はいろいろなものがつくれることが分かっている。
     
    クイズ2「ジャガイモはサツマイモよりトマトに近い」
    (答え)イエス。
    ジャガイモの原種は南米産でお正月のチョロギみたいな小さいイモだった。トマトは小粒で毒があった。トマトとジャガイモは近い仲間だが、ジャガイモは毒が落ちきれていない。ジャガイモの芽や緑の皮は毒がある。従来育種では毒をなくせなかった。
    植物はいろんなものをつくって環境に適応していくが、人間は作物化するときに毒をなくしたり、可食部を大きくしたりした。
     
    ジャガイモによる食中毒
     ステロイドグリコアルカロイド(SGA)というグループ。
     ジャガイモのソラニン、チャコニンは潜在性危険物質と言われる。イモほりのイモを洗って日向で干したために起こる食中毒が重篤ではないが毎年100件くらい起こる。食中毒防止のために保管、運搬でコストをかけて芽が出ないような処置が行われている。
     それではSGAはどのようにできているのだろう?SGAは、ジャガイモの中で、連続的な「酵素」のはたらきによってつくられる。酵素の本体はタンパク質である。DNAにある酵素の作り方の情報がRNAによって伝えられて酵素(たんぱく質)が合成される。したがって邪魔な酵素を絶つにはその酵素をコードしたDNAを壊せばよいのだが、、。
     
    クイズ3「植物の遺伝子を破壊することができるか」
    (答)できる
    DNAは紫外線で切れてしまうことがある。生物にはこれを修復する能力があるが、元通りでなく、少し違って修復されることもある。例えば一部が飛んでしまったり、ほかの配列が入ってしまったりが10万-100万分の1くらいの確率で起こる。起こったミスが植物に役立つものだと間違ったDNA配列が定着する。人間は都合のいい間違いが起こるとこれを利用する。

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    テープをDNAにみたてて。紫外線で切れたり、
    シールで修復したり、間違って修復したりする
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    〇Xのプラカードでクイズに回答する参加者
     
     
    作物の性質と遺伝子の変化
     植物のDNA情報を調べたら、イネの脱粒(粒がばらばら落ちる)しない性質を持たない個体を選びに選んで、今のお米になったことがわかった。しかもそれはDNA配列の一文字の違いだった。
     突然変異ナスで受粉しないでも実が膨らむ品種が見つかったが、これも植物ホルモンの遺伝子の変化で起こっていた。このように人間は遺伝子の改変を利用してよい品種を作る。
     
    ジャガイモの遺伝子に変化を起こす
     SGAがジャガイモでどのようにできるかを調べてみたら、SSR2という酵素が重要だということがわかった。なのでSSR2の元になるDNA(遺伝子)を壊せば毒性物質ができなくなると考えた。
     
    クイズ4「遺伝子を狙って破壊できるか」
    (答え) できる。しかし10年前はできなかった。
    10年前はDNAの狙った場所を切れなかった。DNAを切るはさみの働きをする人工酵素が、切りたい場所を見つけられるようになった!これがゲノム編集!今は切る場所を制御できる。はさみの働きをする酵素は何度も、何度も狙った場所を切る。そうすると修復エラーが発生し、狙った場所にDNAの変化が修復エラーによって起こる確率が高まる。
     
    遺伝子組換え技術とは。そしてゲノム編集へ
     遺伝子組換え技術では、入れたいDNA配列を決めてから、それを導入する。例えば、青い色素をつくる遺伝子をもっていないバラに、パンジーの青色をつくる遺伝子を入れる。
    サントリーは青いカーネーション「ムーンダスト」、青いバラ「アプローズ」を作成した。
     
     よい品種をつくることは農家のめんめんとした努力の積み重ねの成果だった。遺伝子組換え技術もゲノム編集も育種の一つの手段と考えていいだろう。
    ゲノム編集技術はZFN、TALEN、CRISPR /Cas9の順で開発された。
    私はSGA合成経路をゲノム編集で壊すことにした。具体的には、TALENという技術を使った。
     増殖用のジャガイモの小さいイモを輪切りにして、アグロバクテリウムという菌を使ってハサミに相当するTALENを入れ込み、ホルモン処理などをして苗をつくる。そうしてTALENでSSR2のDNAを切断すること、つまりゲノム編集によってソラニン、チャコニンが激減したジャガイモをつくることができた。
     人工気象器(温度、日照をコントロールした温室)を使って栽培しているが、見た目は従来のジャガイモと同じで、イモもちゃんとできる。
    ジャガイモには遺伝子組換え技術で導入したハサミの酵素をつくるDNAが残っている。かけあわせをすると、メンデル法則にしたがって、はさみのDNAをなくすことができるはずで、今はそこのところをやっている。
     一方、ハサミDNAを使わない方法も研究中。
     これまではコストをかけてSGAができないようにしてきた。どんなジャガイモにもこの技術は使えるので、「食の革命」だと思っている。日本のジャガイモが世界標準になるだろう。
     
    代謝のスイッチング
     これまでは毒だから除去してきた芽をジャガイモスプラウトとして利用できるようになれば、機能性食材になる可能性もある。
     ジャガイモに微量含まれる機能性ステロイドは、アルツハイマーを改善したり、肥満を予防したりする効果が期待できる。ジャガイモで、SSR2のDNAとは別の酵素のDNAをゲノム編集で切断すると、切ると毒を宝に変えられるかもしれない。
     つまり、鉄道のレールのポイント交換のようなもので、毒に行くレールから機能性成分を含むジャガイモになるレールに代謝のスイッチングができる。
     同じことが、ジャガイモに近いトマトでもできないかと考えている。ゲノム編集は何度も同じ場所を切ることで、自然突然変異の起こる効率を高める。
     
    その他の事例
     トマトは虫媒、人による受粉作業をしないと実ができないが、受粉せずに実がふくらんだり、おいしい形質を持たせたりできないか。
     ゲノム編集技術は新しい形質を導入するより、何かをなくす方が得意。ソバアレルギーのもととなるアレルゲンたんぱく質をなくしたそばを作ることも可能。マグロは天然資源が枯渇しつつある。近大マグロなどで完全養殖の研究が進んでいる。養殖中に衝突で半分死んだり、共食いしたりする。ゆっくり泳ぐようにマグロの性質を変化させることができるかもしれない。
     
    遺伝子組換え技術との違い
     ゲノム編集は、正確に少しだけゲノムの情報を変えるのに適している。はさみで大胆に切り刻むというよりも、赤ペンで校正するというイメージに近いかもしれない。自然界で起こる遺伝子破壊の効率をあげる。最後にはさみ(赤ペン)の酵素をつくる遺伝子を除去すれば、外来遺伝子が残らない。
     逆に遺伝子組換えご技術では外来遺伝子を残し、外来の性質が現れることが目的。従来育種でできるが、コスト、時間、手間を省けるゲノム編集は育種の効率化を可能にする。
     SIP(内閣府で行っている、戦略的イノベーション創造プログラムといっていくつかチームで協力して研究する)には4つの部隊がある。私はゲノム編集を使っていろいろな作物を作る部隊にいる。ここではイネ、トマト、イモ、麦、キク、ダイコンなどを対象にしている。
    「ゲノム編集の衝撃」という本が発行された。いい面だけでなく問題も指摘している本なので読んでください。特許のこと、ジャガイモのことも書いてあります。


    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • はさみのDNAは本当に残らないのか? → はさみが抜けた証拠の積み上げのためにデータをとっているところ。次世代シーケンサーでゲノム編集体とホスト(もとになった植物)の全ゲノムを比較する。組織培養トマトのゲノムはもとのトマトとは異なっている。植物の遺伝子にはもとから柔軟に変化する性質があるらしい。従って従来育種との比較でしか議論できないと思う。
    • 食べて安全か? → 流通している遺伝子組換え作物は安全性確認ができたものだけ。ゲノム編集のはさみ遺伝子の除去が証明できれば、トレースして安全性を調べることになるだろう。
    • 突然変異の誘導、交配、ゲノム編集、遺伝子組換えのそれぞれを比較するのだと思うが、技術の選択肢は多い方がいい → ケースバイケースで利用していく。
    • ジャガイモからSGAをなくすことは突然変異ではできないのか? → ジャガイモは四倍体、小麦は六倍体といって、ゲノムが4セットあるいは6セットある。形質に変化が生じるにはジャガイモでは4か所で同時にDNAが切られないとだめ。したがって突然変異でジャガイモからSGAをなくすことはとても難しい。ゲノム編集は狙って、SGAを作る酵素遺伝子(SSR2)を4セット切ることができたので、SGAを激減させることができた。
    • ジャガイモの毒をなくすのにどのくらいかかるか? → 狙う遺伝子の機能をきめ、SSR2遺伝子がとれた。ここまでに4-5年。ゲノム編集をはじめて、試行錯誤中。はさみの遺伝子をいれない方法が確立された。ここまででさらに2年。イモを大量に増やす民間技術を使えたら、繁殖用の子イモを増やせる。それによって加速していくだろう。一方で規制、安全性、パテントの問題がある。
    • 四倍体の植物で遺伝子を破壊することはゲノム編集以外では扱いにくいのか。ジャガイモは四倍体でその全部が変わったのか →  SGA生合成に関わる酵素遺伝子がなにであるか、今まではよくわからなかった。今回、SSR2が重要な酵素であることがわかったので、ゲノム編集でなくても、例えばゲノム育種でも品種改良ができるかもしれない。それでもジャガイモは栄養繁殖性が強く、種子を採るのが難しいから、従来育種では非常に時間がかかる。
    • 毒の作用とはどんなことが起こるのか? → 哺乳類の細胞膜を破壊する。
    • はさみはランダムに切るのか? → SSR2の場所を狙って切る。TALENで切ったときに何種類もの変異体がとれた。いろんな配列が出来てくることがわかった。これから四倍体すべてが安定して切れるようにしていく。
    • 標的遺伝子にガイドRNAがくっつくといったが、DNAの二重鎖を切るのか。4倍体では8本切ることになるのか → キャス9という酵素がDNAの二重鎖を切る。ジャガイモは4セットであるから8組の鎖が切られることになる。
    • ゲノム編集の技術の特許は? → SSR2遺伝子については国内の民間企業が保有している。ゲノム編集の技術、TALENやCRSIPR/Cas9は海外の複数の研究機関が権利を主張している。
    • 四倍体のすべてに変異を起こせるのか? → 必ずしもそうでなく、1つだったり2つだったり3つしか起こらないこともある。PCRと手法で調べて、実際はシークエンス(DNAの配列を読む)ことによって決めることができる。 
    • 四倍体のゲノム編集は大変なのか? → 思ったよりも高頻度で切れている。数%の頻度で4本とも切れているものが取れている。
    • コムギは六倍体なのか? → パンコムギは六倍体。ゲノム編集によって、うどんこ病にならないパンコムギもできている。
    • 九州大学が国産のゲノム編集技術を作ったというが? → PPRというたんぱく質を利用することによって、RNAを標的とした技術が進んでいる。これをDNAに応用しているところ。特異性を高めるといい技術になると思う。国産技術だとライセンス料を払わない利点が生かせるかもしれない。
    • 狙った配列を切断するときに似たところを切らないか? → オフターゲットという。ジャガイモSSR2の場合、それに似た配列であるSSR1を間違えて切らなかった。SSR1以外にオフターゲットが起こっていないかどうかはわからない。前述の通り、植物では組織培養をするだけでゲノムが大きく変化するので、動物とは異なる議論が必要。
    • 従来の遺伝子組換えより安全だと感じた。遺伝子組換えになかった懸念は? → ヌルセグリガントといって、最後に導入したハサミ遺伝子がなくなっていたら、カルタヘナ法の対象からはずれると考えられるが、食品の安全性確認などは必要だと思う。
    • ゲノム編集のデメリットはまだ見つかっていないのか? → 最後に導入したハサミ遺伝子が残っていなければ、従来育種とかわらないと理論的には考えられる。トレースできる仕組みづくりや情報開示が大事だろう。
    • 代謝スイッチングは期待できると思った? → ジャガイモで毛状根という根っこだけを増やす方法だと、ソラニン、チャコニンがゼロになって機能性のステロイドが大幅に増えていることを確認している。イモについてはまだ調べてられていない。根や葉を用いることより有用物質生産ができるかもしれない。
    • ゲノム編集で作ったジャガイモの安定性は? → 初めに使ったTALENでは「モザイク」になって安定性があまりよくなかった。新しく開発されたTALENではSSR2のDNAが4セットとも切れていて安定性は向上中。
    • ソラニンはなくても、植物としては大丈夫なのか? → わからない。虫の忌避とは関係がないようだ。アンデスの草食動物とジャガイモ原産地は重なっているので、共進化と考えられる。SGAがないジャガイモがモグラに狙われやすくなったりするかもしれない。
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