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  • バイオカフェ「アミノ酸はすごい」

     2017年3月10日、門洋菓子店(日本橋)にてバイオカフェを開きました。お話は味の素株式会社グローバルコミュニケーション部サイエンスグループ小川裕子さんによる「アミノ酸はすごい!」でした。初めに岩澤葵さんと杉浦夏美さんによるフルートとクラリネットの演奏がありました。おなじみのムーンリバーで始まりです。


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    小川裕子さん
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    岩澤葵さんと杉浦夏美さん

    主なお話の内容

    • アミノ酸って何

    命の始まり
     30億年以上前、無生物の環境でどのように生命が誕生したかを、オパーリンは研究した。原始の海に似た溶液に雷のような電気ショックを与えたら、分子が結合してアミノ酸ができた。ミラーは1953年、原始大気のような分子を含む気体からグリシン、アラニンを合成する実験に成功した。隕石のショックだったという説もあるが、アミノ酸は生命の始まりであり、すべての生物はそこから進化した。
     生物は微生物から多細胞生物に進化したが、相対的なアミノ酸合成能力は微生物の方が優れていていろいろなアミノ酸を体内で作れる。高等生物は食べて得るアミノ酸から必要なアミノ酸を合成してそれを使って生きている。
     
    ヒトの体の2割はアミノ酸
    アミノ酸の長い鎖が立体構造を形作ってタンパク質になる。ペプチドとはアミノ酸が2個から数十個つながったもの。人の体は約半分が水分で残りの半分は固形物。固形物の約半分がタンパク質で、これは体の2割に相当する。摂取されたタンパク質はアミノ酸・ペプチドの形で吸収される。人の体には10万種類のタンパク質があり、主に4つの働きがある。
    ・体をつくる:筋肉など 例)アクチン、ケラチン
    ・生体内反応に関わる:酵素やホルモンなど
    ・体を守る:免疫グロブリンなど
    ・栄養や血液: 例)アルブミン
     ヒトの体内にある10万種類のタンパク質は20種類のアミノ酸でできている。アミノ酸には体内でつくることができない9種類の「必須アミノ酸」と体内で合成できる11種類の「非必須アミノ酸」に分けられる。必須アミノ酸の中にはBCAA(branched-chain amino acids)と呼ばれる枝分かれした形のアミノ酸が3種類(バリン、ロイシン、イソロイシン)ある。また、准必須アミノ酸といって、子どものときには体内で合成できないアミノ酸が3種類ある。一方、自然界には500種類ものアミノ酸がある。
     
    牛を食べても牛にならない理由
     食べたタンパク質は消化され、アミノ酸やペプチドになって吸収される。吸収されたアミノ酸はDNAによって必要なタンパク質に再構成される。
     
     

    • アミノ酸の様々なはたらき

    おいしさ
     アミノ酸には、大きく分けてうま味、甘味、苦味の三種類の味がある。タンパク質は味がないが、アミノ酸に分解されると味が出てくる。食べ物に含まれるアミノ酸と食べ物の味を分析すると、苦味を持つアミノ酸(メチオニン)はウニの味の決め手であることが分かっており、ウニの味からメチオニンを除くとカニのような味になることなどがわかっている。
     
    アミノ酸ってどうやってつくるの?
     味の素®はサトウキビなどを発酵させてつくられている。サトウキビをしぼってとれる液(糖蜜)の糖を微生物が体内にとりこみ、アミノ酸に変える。これを精製、乾燥して味の素®ができる。日本にはこのように味噌、醤油、酒、納豆など微生物を活用した伝統的な発酵技術によって食物を得てきた歴史がある。 
     
    栄養として 毎日の生活に欠かせない
     私たちの体は食べたものでできている。理想的なエネルギー産生バランスは、タンパク質から13-20%、脂質から20-30%、炭水化物から50-60%。最近の日本人が実際に摂っているアミノ酸バランスを調べると、脂質は多すぎでタンパク質は不足していることがわかった。ますます、良質なタンパク質(アミノ酸バランスのよいタンパク質)が必要になる。
     母乳、牛乳、卵は理想的な必須アミノ酸バランスを保っているので、これと小麦の必須アミノ酸バランスを比較すると、小麦は特にリジンが不足している。複数のアミノ酸はそろって働くので、1種類でも不足していると、一番少ないアミノ酸にあわせたバランスでしか利用されない。これを桶のモデルに見立てて、一番短い板の深さの水しかくめず、他のアミノ酸は利用されない。リジンを補うと、利用できないで捨てられていた(排泄されていた)アミノ酸をより多く利用できるようになる。
     病院で患者さんにアミノ酸輸液を点滴したり、経鼻・経腸でアミノ酸を補うのは、生きるのに必要な栄養バランス・量を整えるため、必要なアミノ酸をセットで効率的に利用できるようにするため。
     昔、タンパク質を分解してつくられたアミノ酸輸液は不純物が多く、発熱や吐き気などの副作用が多かったが、味の素㈱が高純度のアミノ酸の製造を始めたことにより、患者さんのQOLは大きく改善されるようになった。
     肌に直接アミノ酸を補うこともある。肌の真皮の成分はヒトコラーゲン(たんぱく質)。表面にある角層が頑張って、内側を保湿している。角層を構成している天然保湿因子の半分はアミノ酸。アミノ酸をスキンケアで補うと肌がみずみずしさやはりをとりもどす。傷んだ髪(切れる つやがない)にもアミノ酸を与えると傷みのためスカスカになった箇所にアミノ酸が入り込み、髪が補修され、しっとりとまとまりのある髪になる。
     
    動物や植物の成長を助ける
     家畜飼料であるトウモロコシはアミノ酸バランスが悪く、リジンが足りない。トリプトファンもやや不足している。リジンとトリプトファンを飼料に加えると、栄養バランスが整い、家畜が三倍の体重にまで成長した。
     動物よりは少ないが植物にもアミノ酸がある。例えば光合成に必要な酵素もタンパク質だし、光合成でできた糖のエネルギーでアミノ酸が合成される。そのために曇天で光合成が進まないときは、アミノ酸肥料が効く。
     
    アミノ酸はいろいろな場面で健康を支える
     分岐鎖アミノ酸(BCAA)は運動後の筋肉痛を緩和する。
    グリシンは深い睡眠に早く到達し、レム睡眠とノンレム睡眠のリズムを整えることで睡眠の質の改善をするはたらきがある。
     アラニンとグルタミンを摂取すると肝臓でのアルコール分解を促し、二日酔いを起こしにくくなる。
    酸味を持つアスパラギン酸と苦味を持つフェニルアラニンを結合させたジペプチド、アスパルテームは、ヒトの舌の上にある甘みを感じる部分(味蕾)にうまく結合するため砂糖の200倍の甘さを持つ。糖分を制限されている人には、このアスパルテームが有効な甘味料として使える。
     
     

    • 社会価値の解決への貢献

    栄養失調とアミノ酸
     世界では8億人が慢性的な栄養不良で苦しんでいる。そのうちの2億人は子ども。特に小麦を主食としている栄養不足の子どもの食事にリジンを補うと、アミノ酸バランスが改善され、こどもの発育がよくなったり、病気になりにくくなり、WHOが目指している死亡率の低下に貢献している。
     
    高齢化問題とアミノ酸
     年をとると、体内で筋肉を再構成する力が落ちるので筋肉が減っていく。ロイシンを摂取して運動すると筋肉を作る力が約125%アップするというデータがある。具体的には歩行速度が速くなり、歩行能力の改善に繋がっている。
     血中のアミノ酸組成を調べる「アミノインデックス」という血液検査では、わずか5mlの血液中のアミノ酸組成パターンから、胃、肺、すい臓、大腸、子宮、乳腺、前立腺など、女性は6種、男性は6種のがんのリスクを評価できる。神奈川県では未病対策の一環として、補助金を出して、この検査を奨励している。
     
    再生医療に貢献するアミノ酸
     再生医療に重要なiPS細胞や培養細胞の増殖・分化させるときに用いる培地の成分としてアミノ酸が利用されている。味の素㈱の高品質な無血清培地はiPS細胞を効率的に培養できるとして採用されており、とても期待されている。
     
    環境問題とアミノ酸
     家畜の飼料のアミノ酸バランスを、いくつかのアミノ酸を添加することで整えると、他のアミノ酸の利用も促進し、その結果排泄物の量が減り、環境への負荷が軽減される。
     アミノ酸と脂肪酸を結合させて作った洗顔剤やシャンプーは肌に優しく、さらに生分解速度が速いので環境負荷が少ない。
    今日ご紹介した内容はアミノ酸のはたらきの一部。アミノ酸はすごい!ので、当社Websiteにある「アミノ酸大百科®」もぜひみてください



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    会場風景
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    お土産はアミノ酸の活躍がわかるファイル

    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

      • 私は高齢者ですが、アミノエールを3か月摂取して、腿の筋力アップを感じている。
      • コラーゲンはペプチドの形で吸収されるというが、膝の靭帯に効くのか → コラーゲンは胃で消化され、アミノ酸やペプチドとして腸で吸収される。膝の痛みに効くというコラーゲンは体の中でアミノ酸等から合成されなければならないが、吸収・分解されたコラーゲン由来のアミノ酸やペプチドが再び体の中でコラーゲンになるか、まだはっきりと分かっていないと思う。
      • アミノ酸のバランスのお話があった。食事のバランスは、昼食で炭水化物が多かったら、夜は野菜を多くするなどして、一日でバランスをとるようにしているが、アミノ酸バランスも一日単位で考えていいのか → 吸収や代謝を考えると一回の食事の中で整っている方がいいと思う。
      • ヒトの体ではDNAを介して20種のアミノ酸から10万種類のタンパク質をつくられる。自然界の500種のアミノ酸はどうやってつくられるのか → 化学反応などでできている。
      • 人工甘味料でブタの培養細胞に異常が起きたという報告を読んだ → この実験は試験管で行われた。実験動物を使う実験もある。いずれの場合も食品添加物として人体で想定される濃度よりずっと高濃度で行われている。少なくともアスパルテームは胃で2つのアミノ酸に分解されるため、人の健康に悪い影響を及ぼすことはないと考える。
      • アスパルテームはアレルギーを誘発することはないのか → アレルゲンは8ペプチド以上であると言われている。アスパルテームは2つのアミノ酸(アスパラギン酸とフェニルアラニン)からなるペプチド構造なので、アレルギー原にはならないと考える。
      • 植物の葉にアミノ酸を与えるといわれたが、植物は栄養を根から吸収するのではないか → 植物は葉と根の両方から栄養をとることができる。土壌にアミノ酸にまくと土壌微生物に分解されたり、花、葉、実に届く前にで植物の体の中で分解されたりしてしまうので葉から栄養を与えた方が効率的。
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