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  • TTCバイオカフェ「タネ屋(種苗会社)のお仕事」

     2017年5月19日 東京テクニカルカレッジ(TTC)でバイオカフェを開きました。お話は株式会社日本農林社 代表取締役 近藤友宏さんによる「タネ屋のお仕事」です。初めに北政扶美子さんによるハープの演奏がありました。


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    近藤友宏さん
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    北政扶美子さん

    主なお話の内容

    滝野川のタネ屋
     日本農林社は北区滝野川にあり、最寄り駅は西巣鴨駅。
    1852年、初代 鈴木政五郎が創業したと言っているが、実際は1830年ごろから、農家の副業として始まっていたようだ。屋号は丸政。
    明治になって、3代目は合資会社大日本農園とした。戦時中、種子は国として重要な物資として国家統制下におかれ、全国のタネ屋は13社にまとめられた。私たちは日本農林種苗株式会社の中に入っていた。
    戦争が終わり、1952年 株式会社日本農林社になり、今日に至る。
     滝野川には白山通りが通っているが、その横にとげぬき地蔵の通りがある。これは旧中山道で、江戸時代にはたくさんのタネ屋があり、「タネ屋街道」といわれた。滝野川ゴボウ、滝野川ニンジンはここに生まれる。
     1850年ごろの絵草紙があるので、紹介したい。二人連れが、練馬大根のタネ屋の店主にこの種を買ってまいたら生えるのかと聞いているところが描かれている。「農家が副業で作っている種だから生えるよ」と店主は回答している。
     江戸は当時としては大都市でその周り(練馬、板橋など)では江戸で消費する野菜を生産していたことがわかる。当時の種は農家は大根を生産しながら、一部の大根は収穫せずに花をさかせて種をとっていた(自家採種)。
    いい種をとるのがうまい農家が種を売るようになったのがタネ屋の始まり。滝野川の農家は生産より種採りに特化していき、参勤交代の大名が中山道の種を買って帰っていった。
     鎖国が解かれると、いろいろな野菜の種が海外から入ってきた。ダイコン、カブ、ナスなど一部を除き現在食べられている野菜は明治以降に入ったものがほとんど。日本農林社の記録にも、欧州の種を輸入して、改良し増やしたことが書いてあったり、球根の育て方の本も作ったりしている。
     戦後はF1種子の時代になり、種つくりが変わり、滝野川にタネ屋は少なくなってしまった。
     
    たねやが届けるもの
     すべての種子から芽が出るとは限らない。よく発芽する「いい種」をとるのは難しい。昔は半分しか生えない種が流通することもあった。
     タネ屋が提供する種は、「高品質種子」でちゃんと芽がでて、「優良品種」でよい作物ができる。つまり、この種をまけば、太い大根ができなくては困る。このふたつこそがタネ屋が届けるべきもの!高品質種をとるために採種技術をみがき、優良品種をつくるために品種改良技術をみがく。種は見た目からだけではそれが良い種子かどうかわからないため、種の商売では「このタネ屋の種なら大丈夫」という信頼を得ることが最も重要。
     日本農林社はコマツナ、キャベツ、ハクサイを中心に取り扱っている。小さい種を扱いやすくしたペレット種子も販売している。
     法的に製品に表示しなくてはならない項目は、生産地、内容量、原産地、農薬処理、発芽率など。キャベツでは75%以上の発芽率が基準値。しかし、実際には90数%くらいの発芽率でないとプロの農家は満足しないだろう。粉衣(ふんい)というのは種子を農薬(殺菌剤)でコーティングしていることを示している。
     例えば、わが社のキャベツには35-6種類あり、それぞれ名前があるが、キャベツではこれらの品種名がスーパーマーケット店頭ではほとんど示されない。一方、トマト、トウモロコシ、イチゴ、サツマイモなどは品種名で売られることもある。キャベツの場合の品種名は、消費者の選択というより栽培者のための分類で、栽培地域(気候)と播種・収穫時期、寒さに強い、病気に強いなど条件にあう品種がつくられている。消費者向けという意味では甘さ、食感をターゲットにした品種改良をすることもある。
     以上より、品種改良には終わりがないことがご理解いただけたと思う。そして、重要なテーマの一つは1年中、途切れることなく出荷できるように、様々な季節に対応した数多くの品種を開発すること。
     
    種苗業界
     日本種苗協会には、種の小売り店、種苗卸会社、種苗メーカーが合わせて1100社所属しており、その中で私たちのように品種改良をしているのは50社くらい。その他は流通。
     昔は滝野川まで泊りがけで種を買いに来て栽培方法を習ったりしていたが、今は種を作る人と地域で売る人という分業が進んだ。会社の数は流通の方が多い。ユーザーへのアフターサービス、テクニカルサポートは地域の流通が担っている。
     ほとんどの日本の種苗メーカーの規模は数億から数十億。小売り業者も家族経営が多く、数億から数十億規模。
    世界の種苗業界をみると、モンサントのシェアが4分の1、デュポン・パイオニア、シンジェンタと続き、世界では3-4兆円規模の市場でその大部分は、トウモロコシ(4割)、ダイズ(2割)、ワタ、ナタネなどの油糧作物と飼料(フィードクロップと呼ばれる)。世界の大手企業にも野菜・花部門はあり、品種数は多いが、その売上額は小さく、市場規模は4000-5000億円程度。10位前後には、サカタ、タキイがいて500億円くらい。
     年に一度、世界の種苗業界の集まる会議を行っている。今年はハンガリーで開催されるので、明日(5月19日)出発する。参加すると、日本のタネ屋は野菜や花が中心でフィールドクロップ中心の会議の中では存在感が小さい。種子法が廃止される中で、野菜の種の会社が主要作物に参入できることになるが、野菜種子と穀物種子ではビジネスモデルが大きく異なるので、すぐに主要作物をてがけるのは難しいのではないだろうか。
     
    いい種をとる
    大根の種取は通常栽培では、晩夏に播種。
    次に母本選抜を行う。大根を抜いていて、いい大根ができていたら土に戻す(植え戻す)。親世代の大根には太さや長さにばらつきがあり、そこで種をとってまくとばらつきは広がっていく。植え戻しなどにより親世代のいいものを最後まで育てて種をとることが「いい種」をとることになる。
    子どもや親に似ることは昔から知られていた。いっぱいとれるイネをのこして種をとるなどの選抜を意識してやってきたのがタネ屋。
     
    DNAの働き
    植物の特性を決めるのはDNA。DNAは染色体として観察できる。大根は9組18本、キャベツは 9組18本、トマト12組24本の染色体をもっている。
    めしべの卵細胞と花粉が結びついて受粉する。その前にそれぞれ減数分裂が起こって、染色体数が半分の細胞ができ、受粉すると9組18本にもどる。
    自然のしくみは多様性を拡大したい方向で、育種家はそろえていきたいので、育種は両者の戦い。この他に減数分裂のときに染色体に組換えが自然に起こる(乗り換え)。ひとつの染色体の中で混合が起こる。
    ばらつきをおさえるには1対の染色体が同じもの2本になると都合がいい。いったん同じ染色体の対がそろえられれば、交雑したときに親と同じものができる。すべての株で、純系ができたとか、固定されたという。この状態にするために自分の花粉をめしべにつけて(自殖)は種をとることを7-8回繰り返す。その結果99%が同じ染色体の対になる。これを純系づくりという。
    イネは自殖できるが、トウモロコシでは自然節理で自殖弱勢といって、性質はそろうが草丈が小さくなる現象が見られる。アブラナ科、ニンジン、タマネギでも自殖弱勢が起こり、売り物にならなくなる。
     
    ハイブリッド F1
    固定した親系どうしをかけあわせると、雑種強勢といって性質がそろって大きくなる。これがF1ハイブリッド。固定した親と親をかけた種が商品になる。
    ところが自家不和合性という性質がある植物は自殖(自分の花粉で受粉すること)ができず、自己花粉だと花粉管がのびない。アブラナ科は自殖がうまくいかない。そういうときは花が咲く前の不和合性が働く前に花びらをとってめしべの先端に先に咲いている花の花粉をつける。自殖弱勢は起こるが形質をそろえることができる。
    8世代かかって自殖系統をつくるのを効率化するために、作物によっては海外の異なる気候の場所を使って1年に3世代まわすことができる。一般にはアブラナ科はそれが難しいので、8年かけて自殖系統をつくる。何百通りの組み合わせのF1をつくってみる。いいものができたときに、その親系統を使って種を増殖する。
     
    採種とは
    〇高品質:発芽率がいい。純度が高い(他の植物の種が混じっていない。採種の畑が近いと、となりの会社の花粉がかってしまう)、健全種子(種に病気がついているとだめ)。種を比重や形状で選んで、品質検査をいっぱいしている
    〇よい種をつくる
    よい気候の地を選ぶことが一番大事。技術を高める。
    アブラナ科、タマネギ、ニンジンは乾燥地が原産地で、地中海性気候(地中海 南アフリカ オーストラリア東部 チリ)が採種に向く。これらの場所はワインとオリーブの産地なので出張で良い思いができる。スイカの種のように発展途上国の田舎で採種することが多い作物では、出張で大変な思いをすることも。
    私たちはチリでも種とりをするが、野生の雑草と交雑するのでネットをかける。野生のアブラナがあるのでハクサイの採種はネットをはる。
    日本のたねやの使命は優良品種の高品質種子を安定的に生産すること。
    高品質種子を生産するため、世界各国の種子をつくる適地をさがしていく。

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    大藤道衛先生からはじめのことば
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    会場風景1

    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 「藍宝(ランポウ)」という日本農林のキャベツと他社のキャベツを栽培中。他社のものはそろいが悪かった。その理由は → 採種の問題だと思う。国内の採種地では周辺の宅地化が進み、家庭菜園で栽培されたブロッコリーの花粉が種採り用のキャベツの畑に飛んでくることがある。
    • 「夢いっぽ」というキャベツは抵抗性がついているが、硬いと思う → 耐病性品種にしたからまずくなったとはいえないと思うが、硬いことについては今、検討中。寒玉系でもおいしい品種はあるのでつかってください。 
    • 気候変動問題に対して、解決は種子で!と思いますか → 気候変動を新しい課題と思っていない。昔からやってきた品種改良の延長上にあると思う。むしろ採種が気候変動でうまくいかなくなるのを心配している。気候変動問題を種子の開発で全て解決できるとか、種に任せろとまでは思っていない。
    • キャベツの育種者権はどのくらい性質を変えればとることができるのか → 親系統を盗まれることがなければ特許、種苗登録しなくても、そのF1をつくることはできないので、実質的に守られていることになる。特性の固定した親の種を守っていれば、F1の種子には自然のプロテクションがかかっている。だからF1では特許はとっていないので、どのようにしたら特許がとれるかは経験がない。

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    会場風景2
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    話が熱がこもって
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    会場風景3

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