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    「いまさらきけない遺伝子組換え、今こそ知りたいゲノム編集」

     2017年9月23日、バイオカフェin大阪2017 第一部は大阪府立大学大学院 教授 小泉望さんのお話を伺いました。タイトルは「いまさらきけない遺伝子組換え、今こそ知りたいゲノム編集」でした。第二部のスピーカー 大阪大学大学院 教授 村中俊哉さんも加わり、活発な話し合いもできて、今だから聞けたバイオカフェとなりました。

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    小泉望さん
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    会場風景

    主なお話の内容

    1. DNA 遺伝子 ゲノムそしてタンパク質
     これらのことばの違いを説明するのは難しく、専攻している学生でもすっきり説明できないことがある。
    動物・植物の性質を決めるものは遺伝子。DNAはデオキシリボ核酸という、化学物質の名前。DNAは長い大きな分子。1953年、このDNA分子のモデルを提唱したのがワトソンとクリック。
     全ての細胞にDNAがあり、ヒトの場合、60兆個の細胞それぞれにDNAがあることになる。ヒトのDNAの長さは2mで、細い糸状になって細胞に格納されている。遺伝子はACGTの文字で書かれているDNAの長い配列の中の一部。ヒトの遺伝子は3万個。イネは4万、生物の遺伝子の数は大体数万程度。
    遺伝子の働きはタンパク質をコードしている。コードするというは、遺伝子ごとにタンパク質のアミノ酸配列が記されているということ。
    「遺伝子すなわちDNA」という表現は間違いではない。すべてのDNAが遺伝子とは限らないが、今は意味の分からない配列の意味するところが将来、解明される可能性はある。遺伝子(gene)とゲノム(genome)は、英語の綴りは似ていて、その生物のDNA全部をゲノムという意味がわかりやすい。日本語だとつながりにくい。2003年、ヒトのゲノムの全配列が決定された。
    遺伝子は生物の設計図といわれるが、ゲノム自身は機能しない。設計図から自動車ができて初めて走るようになる。遺伝子はタンパク質をつくって初めて機能する。タンパク質は栄養素として摂取されるが、体内で働くタンパク質は、消化酵素、筋肉をつくり、機能する。タンパク質は複雑な立体構造をもっていて、数万の働きを担い、生物の性質を決める。例えば、アルコール分解酵素をつくる遺伝子の働きで、お酒が強い、弱いに影響を与える。配列が少し違うとできるタンパク質が異なり、働きも異なる。
     
    2. 遺伝子の変化と品種改良
     遺伝子を変化させることで品種改良が行われてきた。店頭にいろいろな色や形のトマトが並んでいる。これはDNAの塩基配列に変化が起ったからで、突然変異を利用してきた。自然突然変異でホワイトタイガーが生まれ、八重桜ができた。
     放射線を照射して多様なキクが作られている。DNAが切れると修復する性質がある。そのまま修復されることもあるが、「非相同末端再結合」といって、元どおりにならないこともある。この現象が突然変異の原因になる。
     1900年、メンデルの法則が再発見されてから、遺伝子の働きが理解され、品種改良が本格的に始まった。よい遺伝子とよい遺伝子が取り入れられると、品種が改良される。突然変異や交雑による品種改良では、多様な集団からほしい性質をもった植物を選び出してきて利用する。多様なトマトは突然変異と交雑で得られた。
     
    3.遺伝子組換えによる品種改良
     遺伝子組換え技術では、外から宿主(遺伝子を変化させたい植物)に遺伝子を入れることができる。
    アグロバクテリウムという土壌細菌には自分の遺伝子を植物に送り込む性質がある。1980年代にアグロバクテリウムを使った遺伝子組換え技術ができた。実際には交雑できない場合に、遺伝子組換え技術が使える。
     アワノメイガという害虫の害が大きいアメリカでは、栽培されているトウモロコシの8割が遺伝子組換えで害虫に強くなっている。ダイズも雑草の害が大きいので6〜8割が遺伝子組換えで除草剤耐性。これらは、他の生物(微生物)の遺伝子を使って作り出された。日本の食用油、家畜飼料では遺伝子組換え作物を大量に使っている。
     放射線を使って遺伝子に変異を与えようとしても、どこを切るかわからない。
     
    4.ゲノム編集とはなにか
     純白系エノキダケは放射線育種でつくられた。照射しても遺伝子が切れてから、目的にあっているかどうかがわかる。ある遺伝子をこわしたいと思っても、狙ったところ切れるかわからない。狙ったところを切れるのがゲノム編集。
     Cas というDNAの二本鎖を切る鋏の役割をする酵素が、ガイドRNAという配列が切りたい配列をみつけてくれて、そこを切る。変異を入れたいところに起こせる。できあがったものをみたとき、突然変異とゲノム編集は同じにみえる。植物の場合は外来遺伝子として組み込まれた鋏の酵素が組み込まれる。
     ゲノム編集技術の利点は、狙った遺伝子に突然変異を起こせる、操作が簡単(植物は遺伝子組換えと同じ操作をするので、そんなに簡単ではないが)、倍数体(遺伝子を4組もっていたりする植物)に有効であるなどがあげられる。欠点は、原則として遺伝子組換えのように別の生物の遺伝子を使うことができない、植物では鋏の遺伝子を交雑で取り除かなくてはならない。
     海外では切っても茶色くならないマッシュルームはゲノム編集技術でつくられ、実用化が認められている。リンゴを切っておくと酸化して茶色になるのと同じ原理なので、酸化する酵素の遺伝子をこわした。
     芽に毒を作らないジャガイモ、筋肉量が増加した牛(筋肉増加を抑制する遺伝子をつぶす)、筋肉量が増大したタイ(京大)などが研究段階ではつくられている。


    話し合い

  • は参加者、 → は小泉さんと村中さんの発言

    • ヒトの遺伝子が3万はわかるが、DNAは32億というのはどのように数えるのか。 → DNAは塩基対で数える。32億塩基対がならんだ長さが2mとなる。
    • ゲノム編集は、DNA編集と呼んでもいいのではないか。 → DNAは物質名。働きを変化させる目的をもって行うので、ゲノム編集があっていると思う。
    • ゲノム編集で耐病性を持たせるとしたら、病気に関係する遺伝子をこわすのか。 → 実際には病気に強い遺伝子を外から入れる方が多いと思うが、理論的には病気になりやすい遺伝子をつぶすゲノム編集技術はあり得る。
    • ゲノム編集とは二本鎖を切るだけで、その後のことは修復のなりゆき任せになるのか。 → ゲノム編集技術は標的を正確に切れる。交雑や遺伝子組換えよりも、正確さが高い。 
    • ゲノム編集技術は何をするのか、わからない。「わたしははにんげんです」の「は」ひとつ消す(欠失)にはゲノム編集は向いている。「わたしはスーパーにんげんです」と「スーパー」ということばを外から入れられるのは遺伝子組換え技術。「わたしがにんげんです」と1文字置換するのも、ゲノム編集に向いている。
    • ゲノム編集の「ノックイン」(切ったところに遺伝子断片が入る)を使うと、より正確に遺伝子組換えを行えるのか → はい。
    • 遺伝子を切るだけなら規制対象にならないのか。 → 「わたしははにんげんです」において「は」がひとつしかない品種を探し出すのは従来育種で、「は」をひとつ欠損させるのがゲノム編集。ここでは従来育種とゲノム編集の区別ができないので、カルタヘナ法で定められている遺伝子組換えの定義からははずれる可能性がある。
    • 筋肉増加抑制遺伝子をこわして筋肉量の多いタイをつくるのはどのようにするのか。 → 一か所を切って、欠損が起こったりすると遺伝子が働かなくなる。植物ではcas9をつくる遺伝子を入れるが、魚では卵にタンパク質であるcas9と切る場所の配列を見つけるRNAを入れる。魚の場合は遺伝子をいれていないので、カルタヘナ法の対象外だが、自主規制しながら研究している。
    • 筋肉タイの子どもは筋肉タイになるのか。 → はい。
    • 白いエノキダケはいつできたのか。自分は白いエノキダケしかみたことがないので、それが自然のエノキダケだと思っていた → 放射線育種には50年位の歴史がある。
    • 紫外線でガンになるというのは、DNAが切られているのか。 → 紫外線でDNAが切られても普通は修復が起こるので日に当たった人全員がガンになるわけではない。
    • ゲノム編集は切るだけでどうして遺伝子が変化するのかわからない。 → ガイドRNAに導かれて1万回くらい切ると、1万回に1回くらいは繋ぎ間違いが起こる。この間違いを利用する。繋ぎ間違いが起こると、そこは標的の配列でなくなるので、もうcas9はその場所を切らなくなる。ゲノム編集技術はすごい技術だが、環境、微生物、ヒトに対して利用するとどうかという議論が重要だと思う。

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