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  • サイエンスアゴラ2017シンポジウム「納得して医薬品とつきあうために〜医薬品の効き目と価格」

     2017年11月25日、お台場のテレコムセンターにて、サイエンスアゴラ2017シンポジウム「納得して医薬品とつきあうために〜医薬品の効き目と価格」を開催しました。
    くらしとバイオでは、2012年から毎年、サイエンスアゴラに出展、シンポジウムを開催してきました。
    今年は医療分野をテーマにしようと決め、その中でもお薬の価格についても考える企画にしました。
     話題提供は、日本製薬工業協会 専務理事の川原章さん、くすりの適正使用協議会 理事長の黒川達夫さんからいただきました。お話の後、話し合いを行いました。おふたりのお話の前に、話し合いが進みやすくなるように、くらしとバイオの笹川主席研究員の進行で、「こんな時はどういうお薬や治療法を選ぶ?」、フロアのみなさんと考えてみました。


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    川原章さん
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    黒川達夫さん

    「こんな時はどういうお薬や治療法を選ぶ?」

     風邪になったときと、がんの告知を受けたときを想像しながら、どちらの薬を選ぶか、参加者全員で考え、赤い札と青い札をあげていただきました。素早くカードをあげる人、悩んでからあげる人、みなさん様々でした。参加者のみなさんの意見は次のようなものでした。
    (1)風邪の場合
    くすり1(赤いカード):「早くよく効くが胃に負担がかかる。値段は40円」を選んだ人は16名。
    くすり2(青いカード):「効き方はマイルドだが、胃への負担は少ない。値段は60円」を選んだ人は14名。
    (2)がんの場合
    化学療法(赤いカード):「がんのサブタイプによって選ぶ。副作用はある。治療期間は12週間。値段は70万円だが、保険適用で21万円」を選んだ人は3名
    分子標的薬(青いカード):「がんのサブタイプを選ぶが効果が高い。副作用は化学療法よりマイルド。
    治療期間は54週間。値段は200万円だが、保険適用65万円」を選んだ人は27名



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    こんな時はどういうお薬や治療法を選ぶ?
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    会場風景

    「納得して医薬品とつきあうために ‐種類、研究開発、価格など ‐
    」            日本製薬工業協会 専務理事の川原章さん

     薬とは医療で用いられるもの、と考えてもらうとよい。「こういう成分が入っていれば薬」と思われる方もいるかもしれないが、実際にはそういうわけではない。例えば、ポカリスエットは口から飲めば飲料となるが、点滴で体内にいれるとなると薬となる。こういった例はいくつもある。
     それでは、医療とはどういうものか?医療には外科、内科、など様々な診療科があり、そこでの診療のほか、物理学的検査、診断検査、ワクチン接種、処方薬の投与などがある。また、外科治療でも麻酔剤や臓器移植後の免疫抑制薬などがある。ドラッグストアなどで販売している一般用薬の服用もセルフメディケーションといって、医療に入る。一般薬は製薬企業で価格を決めることができるが、保険診療では法律に則って薬の価格、薬価は決まっている
     ちなみに「投与」という言葉。「薬を投げる」のようで言葉が良くないという議論があった。「与薬」ではどうかという意見もあった。よく調べてみると「投」には「投票」という言葉もあるように、「いくつかのものから選んで差し出す」という意味があり、「投薬」で良いであろうという結論になった。
     
    医薬品の規制はなぜ必要か。
     効果のない薬あるいは食品のようなものが、あたかも効果があるように宣伝、販売されたり、あるいは不良品や偽薬が出回ったりすると消費者に危害が及ぶだけでなく、医薬品への不信感を生じさせることになる。また、医薬品の価格を必要以上に高く設定されるようなことがあると、経済的損失にもつながる。人間以外、ペットや家畜に使用する動物用医薬品、医薬部外品も規制対象となる。
     医薬品は一般薬と医療用に分かれている。医療用医薬品は処方せんがないと購入できない。処方せんによって使用されるのだが、一部には、さらに行政指導により適正販売が求められるようなものもある。また、コンタクトレンズ洗浄剤のように以前は医薬品だったが、現在は医薬部外品になったものもある。
     
    医療に使う医薬品・医療機器は多く、多様である。
     医薬品はいろいろなものから作られていており、その数は数千にのぼる。化学合成で作られるものもあれば、天然物由来の成分を利用したもの、バイオ技術を応用して作ったものもある。モルヒネやアスピリンが天然物由来であることは良く知られている。小人症の治療薬はバイオ技術を応用して作られた医薬品の代表例。投与方法、飲み薬にするか(経口)、注射にするか、吸入、塗布、貼付なども研究開発の段階で選んでいる。発毛剤のリアップは、元々は心臓病の薬だった。しかし、その薬を飲んでいる人の発毛が促進されていることが分かり、育毛剤へと開発された。
     人間は、元々“草根木皮”を薬として利用しており、それらを“薬種”と呼ぶ。例えば、アスピリンは、原料が植物由来の物質で柳の根の皮に含まれているが、バイエルが化学合成に成功、胃障害を少なくし製品化された。鎮痛剤として利用されるモルヒネも、植物のケシの子房で作られる成分。このように医薬品の開発は“ものづくり”と“発見”とが合わさって進むものでもある。ちなみに、現在放映中の朝の連続ドラマに出てくる主人公の実家の“薬種問屋”はまさにこの薬種を扱う問屋で、現在の製薬企業の前身。
     
    医薬品の開発
     非臨床研究はGLP(Good Laboratory Practice)、臨床研究はGCP(Good Clinical Practice)という、それぞれ厳しい基準を順守しつつ開発される。医薬品の申請には有効性、安全性がデータで示され、それらが確認されてから販売されるしくみになっている。申請時に得られたデータを元に添付文書を作成、それらは医薬品を処方する医師や調剤する薬剤師らに提供される。承認後、薬価基準にその医薬品が収載(保険適用)されると使用が開始される。現在、薬価も厳格なルールの策定・整備が進んでいる 
    医薬品が承認されるまでには、およそ1000人の患者さんに使用することで、効果と安全性が確認される。それでも、100万人に使用すれば、何か新たな副作用などの事例が発生するかもしれないので、承認後もモニタリングをするしくみになっている。
     
    新薬の算定プロセス
     承認されてから薬価算定にはかなり細かいルールがあり、それにしたがって決められる。例えば、類似の薬がある場合はそれに近い値段をつける、安全性や効果がより高くなると価格も高くなったり、同じ医薬品が海外で販売されている場合はその価格との調整を行ったりする。類似の医薬品がない場合には、基本的には原価計算で決められる。
     例えば、1錠50円、1日3錠を服用する医薬品の新薬が開発されて、1日2錠を服用すれば済む、しかもこれまでの類似医薬品より効果が高い、薬理作用が違うなどすると、1錠100円になるなど、このように考えて薬価が決められている。
     
    安全対策 
     医療は不確実性が高い行為。例えば、同じ症状で薬を投薬しても効果のでない人もいるし、何もしなくても治ってしまう人もいるケースがある。薬剤投与を含む医学的介入、医療行為は私たちの健康に大きな貢献をしているが、不確実性があり、害を与えてしまう事もある。そこで、医学的介入に起因する害と、そうではない害はきちんと区別され、理解されなくてはいけない。
     
    研究開発の重要性
     研究開発により、新しい医薬品や治療方法が生み出されるが、臨床試験は研究開発の最終段階で最も重要な部分。現在使用されている医薬品は、研究者、医師、薬剤師だけでなく、これまでに臨床研究に参加した被験者も含めて、多くの人からの財産である。臨床研究では開発段階の薬を初めて飲んだ人がいたはずで、私たちが使用している医薬品は、そういった協力者がいたからこその財産であることを忘れてはならない。
     
    薬のことを知ってもらうために
     2016年12月に、科学技術館に「クスリウム」として、薬について学べる展示をオープンした。他にも第一三共株式会社のクスリミュージアム(東京都)、エーザイ株式会社の内藤記念くすり博物館(岐阜県)など、一般の方が薬について学べる施設があるので、機会があればぜひ訪れて欲しい。
     日本製薬工業協会でも「製薬産業の理解のために」*という、35分程度の動画を作成している。京都大学の山中伸弥先生のコメントなども入っている。冊子など薬をよく知ってもらうツールを提供しているのでぜひご覧になって欲しい
    (*日本製薬工業協会のホームページでもご覧いただけます。
    「製薬産業の理解のために」 http://www.jpma.or.jp/about/movie/pharmaceutical_industry/
    「くすりの情報Q&A55」

    「外国生まれのくすり、ジェネリックとは、どのようにおつきあいすれば良いのか」
        くすりの適正使用協議会 理事長の黒川達夫さん


     医薬品は生命に関わるもの。患者さんから一日も早く辛い症状を和らげて、職場や学校、家族の元に戻ってもらうためのツールであり、また、そのために医師や薬剤師が存在している。医薬品を使う時は、自らが意思決定をし、納得して選ぶことが大事になる。このことを科学的に見ていきたい。
     
    医薬品の種類と働き方
     医薬品には錠剤、散剤、カプセル、注射、貼り薬、塗り薬など、様々な形態のものがある。いずれの形態の医薬品にせよ、最終的には体内に医薬品成分を持ち込んで、働かせる。服用したあと、お腹の中でふくらんで排便を促したり、血液中の細菌に働きかけたりするくすりもある。感染症のように体内に入ってきた細菌のような異物が原因である場合、くすりはヒトの体に直接作用せず、細胞膜の構造の違いを見極めて細菌だけを攻撃して病気を治す。
     ところが、がんの場合は話が違う。元々は自分の細胞であるがん細胞は、その違いが極わずかなので見分けるのが難しい。そのため、がんのくすりの開発は難しい。
     医薬品は、体にとって異物であるので、使わなければ使わないほうが良いもの。ただし、くすりは生命の機能に関わるものなので、良いものが発明されれば世界から求められる。
     例えば肺炎。ある抗生物質Aを使うと退院まで一週間かかるが、新しいくすりは退院まで3日と短縮される。このようなくすりができると、これは世界中から必要であると求められるようになる。診断がついた時点で手遅れになってしまうような病気に効果があるようなくすりができれば、それも世界中から求められるだろう。医薬品のマーケットには国境がない。
     錠剤は飲むと5分ほどで大きさが小さくなり、細かくなる。その後、くすりの成分は消化管から吸収され、血液に運ばれて体中に運ばれる。途中、脂肪組織につかまってそのままなくなってしまったり、肝臓や腎臓などで別の化合物に変化して胆汁や尿として排泄されたりする。くすりは、体の中で役目を終えたらどんどん排出されなければならず、血中濃度が効き目の強さや安全性を測る目安になる。適度な血中濃度を保つために、くすりは一日数回に分けて飲む。
     医薬品は販売前に品質についてもデータを取って確認する。例えば保管について、わざと高温条件などで保存し、服用した後に体に悪影響を及ぼす物質ができないかどうか、確認をしている。
     効果や安全性については、身体に入ってからどのように働きかけるのかを調べてデータを取る。この後さらに、患者さんに協力していただき、臨床データを取って確認していく。
     
    外国生まれのくすり 
     くすりの効き目は、性別、体重、身長、年齢の違いなどで違いがある。これは、私たち人間は生物なので仕方のないこと。その他、症状の程度、肝臓や腎臓に障害を持っているかなどの違いによりくすりの成分が排出されにくかったり、代謝や排せつにかかわる酵素の働きに個人差があったりするなど、安全性や効果には差がある。また、くすりによっては人種差と個人差があることもある。これはジェネリックであるか、外国で作られたくすりなのか等、そういったことは関係ない。このことから、くすりを使う時は医師や薬剤師と症状を相談しながら使用しないとうまく効果がでないこともある。
     ちなみに、開発、試験研究の方法や考え方は世界共通。信頼性を確保するしくみも共通のものが確立されている。ただし、ルールを決めるのは比較的容易だが、海外には管理が難しい国もあり、厚生労働省はそれらの国に対してもルールを守るよう、厳しく対応している。
     
    ジェネリック 
     後発医薬品は、医師が処方箋に医薬品の一般名を記載するので“ジェネリック”と呼ばれている。後発医薬品も、安全性や効果の目安となる血中濃度は先発医薬品と同じように推移する。また、外国で作られたジェネリック医薬品も有効性、安全性、品質については同様に作られている。ジェネリックは開発費用が少なく薬価が安い。先発医薬品の薬価の0.5掛けである。
     使い方も先発医薬品と同様に、個人差もあるので医師や薬剤師に相談しながら使う。

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    話し合いの時間1
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    話し合いの時間2

    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 海外ではくすりの宣伝はどのようになっているのか? →(川原さん)医療用医薬品のテレビCMは、アメリカ以外の国では禁止されている。
    • 薬価の決め方について、類似薬の無いものは原価で薬価を決めるということだったが、毎年、どんどん薬価が下がると原価割れのようなことが起こったりしないのか? →(川原さん)起こりうる。そうなると、新薬開発のインセンティブがなくなる。特許期間内に売り上げを上げておかないと、次の新薬の研究開発につなげることができない。話題になるオプジーボは開発費が大きく、類似薬がない。最近、適応できるがんの種類が増えたため、結果的に医療費が増えると批判されることになってしまった。
    • 近年は保険医療で使用できるくすりが増えている。薬価収載するときのルールで、上市した後は市場が値段を決めるようになるので、2年おきに薬価の見直しがある。この時、医薬品の市場が大きくなると、くすりの値段を下げるルールもあり、近頃はこの下げ方が大きい。また、薬価の考え方は欧米とも違っている。あまり薬価が下がってしまうことも心配しているが、社会保険(国民皆保険制度)のしくみが壊れてしまっては仕方がないので、このバランスをどのように保つのかが難しい。
    • 人種によって効き目が異なることがあるということだったが、日本人のほうがくすりの代謝が速い場合には、国内販売するくすりについては成分を調整したりするのか? →(黒川さん)開発する過程、臨床試験でこの病気に効果があるだろうという用量を決める。人種によってベースラインが異なるので、結果的に国によって成分量が変わることもある。ただし、くすりの効果には個人差もあるので、それだけでは効果を一定にはすることは難しい。
    • 今、通っている病院は、医師がいくつかのくすりを薬価も含めて提案してくれる。でも、以前の病院は、高いくすりを選んで処方されていたようだった。何か医師と患者との関係性について、とくに慢性疾患の場合は処方する医薬品を決める際のルールなどはあるのか?医師と患者との話し合いは推奨されているのか? →(川原さん)今、あなたが通われている先生は良い先生だと思う。患者さんがたくさん質問してくれて、医師がそれに対して説明してくれる関係は良いと思う。医療費、お金に関することは、病院の相談窓口のソーシャルワーカーの人と話をするのが一般的。患者への対応について、保険医側のルールはある。保険医療機関の病院で患者さんと接する医師はすべて保険医であり、そのルールである保険医療養担当規則に従うことが求められている。
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