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  • TTCバイオカフェ「私達の身体にすむ細菌たち」

     2017年11月24日 東京テクニカルカレッジでバイオカフェを開きました。お話は理化学研究所総合生命医科学研究センター 研究員 須田亙さんによる「私達の身体にすむ細菌たち」でした。初めにシエル東京室内楽団(ホルン 伊勢久視さん、クラリネット水野美香さん、ファゴット江黒未希さん)による、楽器の説明と演奏がありました。


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    須田亙さんのお話
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    シエル東京室内楽団の演奏

    お話の主な内容

    はじめに
     ヒトの身体にすむ細菌たちを「Human microbiome」という。私は、その中でも腸内細菌と唾液に棲む細菌の研究をしている。私たちの身体の細胞数は37兆個というが、住んでいるバクテリアの数は数十から数百兆匹といわれる。私たちの細胞の数より多い。人間は自分が主役だと思っているが、主役は細菌たちかもしれない。
    私の研究対象である唾液には10の九乗匹、糞便1gは12乗の細菌がいるといわれる。人の持っている遺伝子は 万だが、細菌の持っている遺伝子は50万個。
     ヒト常在細菌叢の生態とその働きを調べる研究は1970年代から行われているが、培養が前提だった。培地に生える細菌は1%といわれる。今は、直接、細菌のDNAを読む。1980年代は菌数が多くて網羅しきれなかったが、2006年から次世代シーケンサーができ、1000倍近い速さでDNAを読み取れるようになった。
     
    ヒト常在菌叢の解析法
    1• 糞便にいる菌の菌叢単位で調べる
    2• メタゲノム どんな菌がどんな遺伝子がある
    3• 分離培養
     
    腸内常在菌叢の働き 
     ヒトの細菌を年齢順にいていくと、乳児のときは30-40種類だったのが、固形物を食べるようになると100-200種になる。菌の種類で分けると、Bacteroidetes門が多い。離乳するとFirmicutes門といわれるグループが増える。
     菌の構成の割合は個人個人で違う。ひとりの人における割合の変化を経時的みても菌の構成バランスは変わらない。
     菌叢の構成のバランスは一卵性双生児でも、親族でも赤の他人くらい違っている。皮膚細菌叢を指紋みたいに個人識別に使えるという論文も出ているくらい。
     患者と健常者では違いはあるのか。Dysbiosisとは、腸内細菌叢のバランスが壊れることをいう(構成異常)。病気によって腸内細菌叢が変化してしまうことがわかっている。腸内細菌叢は病気によって特徴的な有意差があった(菌の種類、構成バランス)。菌叢が変わったから病気になったのか、病気になったから変化したのかについて全てがわかっているわけではないが、肥満などでは、腸内細菌が原因となることがマウス実験などで確かめられている。
     腸内細菌の中に、このTregを増やす働きをする細菌がいることを発見した。無菌マウス(帝王切開で無菌室で育てる)にヒトのTregを誘導する腸内細菌をみつけた。それは17菌種のミックスだった。菌を1種類ずつ入れてもだめ。これらの常在細菌は1種ではなく、集団で機能するようだ。
    また、無菌マウスが作られたことにより、常在細菌が生存に必須ではないことが示唆されている。マウスの場合は、無菌の方が外のマウスより1.5倍長生きすることも分かった。
    腸内細菌叢のバランスは健常者と患者で有意差がある。例えば、腸内細菌叢は肥満の原因になる。双子で太っている人の便移植をしたマウスは肥満になり、痩せている人の便移植をしたマウスは太らなかった。
     実験用マウスにも性格がある。行動が活発な系統のマウスと消極的なマウスの腸内細菌叢を便移植で入れ替えたら、活発マウスは消極的に、消極的マウスは活発になるという報告もある。腸内細菌が性格にも影響しているかもしれないことを示唆するものであるが、原因は解明されておらず、ヒトでも未確認である。
     便移植とは、健康な人の糞便の菌叢を集めて、疾患患者に移植する方法。抗生剤耐性を持つ菌が腸に棲みつく病気があり、抗生剤が効かない患者さんに、抗生剤を使った後、腸洗浄した人に健康な人の便移植をしたら、治療効果があった。
     
    私の研究について
    (1)腸内常在菌
    2016年、106人の日本人の腸内細菌叢の遺伝子を対象に次世代シーケンサーで調べた。 便は酸素吸着剤をいれた袋に入れて送ってもらった。(酸素があると嫌気性の菌が死んでしまう)
     日本人の腸内細菌叢はフランスやオーストリアの人のものと近かった。食生活や遺伝子が似ているはずの中国の人はアメリカの人に近かった。
    メタゲノム解析による腸内細菌の機能の解析の結果、日本人の腸内細菌叢はメタン生成に関わる遺伝子が少なく、酢酸生成に関わるものが多かった。日本人は炭水化物を消化したときにできる水素を酢酸にして排出しているが、欧米人はメタンにして捨てている。だから、日本人のオナラは燃えないだろうと思う。
    (2)唾液の研究
     人間は1日に1-1.5リットルの唾液を飲み込んでいる。唾液に含まれる菌のうち、培養できるのは5割。男女差はなく、年齢による変化がある。唾液の菌叢は喫煙や貧富に影響され、食生活にはあまり関係しないようだ。また、生まれ(その人の遺伝子)より育ちが菌叢に影響し、病気になると唾液の菌叢に変化が生じる。
     口腔がん、肺炎、腎臓炎、肥満、肝硬変、すい臓がんなどの様々な疾患で唾液の菌叢が変わることが知られており、唾液の菌叢を調べることで病気の早期発見や診断に利用できたらいいと思って研究している。
     炎症性腸疾患で唾液細菌叢が変わることを発見した。唾液1mlには10の8-9乗の菌がいると言われている。我々は日々大量の唾液細菌をのみこんでいる。
     口と腸はつながっていて飲み込んでいるといっても腸内細菌と唾液細菌の菌叢は異なっている。病気に人の腸内細菌の中でみつかる唾液細菌が多いことから、無菌マウスに人の唾液(健常者と、炎症性腸疾患、クローン病の一種の患者)を入れたマウスの炎症細胞がとても増えた。
     
     唾液の細菌酒は腸疾患の原因になりえることを実験的に示すことができた!



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    シエル東京室内楽団のみなさん
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    ポスター

    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 赤ちゃんにキスしてはだめというが → 赤ちゃんにキスすると、数億匹の唾液の細菌が入ることになる。受け取った菌がすべて定着するわけではない。赤ちゃんの腸内細菌の大部分が大腸菌だったり、乳酸菌だったりする。菌の入ってくる順に免疫ができるメカニズムがわかっていない。与えられた菌が定着するとは限らない。抗生剤の乱用により、腸内で悪さをしているのは抗生剤耐性菌がほとんど。
    • 腸内細菌叢は個人特有で、便移植で治るのは、患者が健常な時のもっていた菌叢に戻すということか → そういう報告はない。
    • 活性汚泥で水の浄化をしている。水質異常を起こしているところに正常な活性汚泥を入れて生物ピラミッドが構成されると水質が正常化すると考えている。菌叢は異常と正常でかわらないが、移植がスターターになって生物ピラミッドが形成されるようだ → 私たちは菌叢でとらえるのでなく、無菌マウスに原因菌をひとつずついれてつきとめていく。17種類いれたときに酪酸が合成されることが鍵であるとわかった。相互作用をもつ菌のセットを入れるようにしていきたい。
    • 菌叢が国、個人でバリエーションがあるのに、機能は一緒というのが興味深い → 病態の各国間の比較は今後の課題。
    • 腸内細菌は体の中であっても、外界という感じがする → 腸内細菌は役割があり人が消化できないものを消化している場合もある。人の消化を外部から手伝っているといえるかもしれない。
    • 看護学生をしている。移植のときに事前に適合を調べるように、便移植でも適合するかを事前に調べるのか → 移植するものに病原菌が含まれていないようにする。一般的には家族の便の移植することがおおい。また細菌の100倍くらいのウイルスがいることがわかっている。
    • 私は中学までパキスタンでその後は日本にいるので、自分の腸内細菌に興味をある。 → 腸内細菌は離乳後10歳くらいまでかけて徐々に出来上がってくるのではないかとおもう。
    • マウスの性格に影響するのは一時的か → 菌叢は元に戻る。ヤクルトで大量の乳酸菌を飲んでも元に戻る。抗生剤を大量に使うと悪い菌が定着することもある。ピロリ菌の除菌前後で菌叢が変わったりするようだ。
    • 便移植ではどのくらいの量をいれる → 菌数、細胞数はよくわからないが、副作用はなく、致死量もないのではないか?病原菌はチェックしている。
    • 細菌叢の個人差は、菌叢が変化したから病気になるのか。病気になったから菌叢が変わるのか → 全ての疾患ではないが菌叢が理由になりうると言う報告が出てきている。痩せたマウスの実験 エネルギー効率がよくなる 同じものをたべてもやせる 太る 腸内細菌で太りやすさをいうことはできる  効率がよくなるとあまり食べなくてよくなる
    • 日本人と似ている腸内フローラを持つ国とは、その国で使われている薬剤と関係するのではないか → その可能性があり、我々も解析を進めている。
    • 臭いで癌を見つける犬がいるが、口内最近や腸内細菌を関係するのかと思った → 唾液の菌叢は関係しているかもしれない。
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