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  • 蒲郡市生命の海科学館バイオカフェ「新しいみかんを目指して」

     2018年1月14日、蒲郡市生命の海科学館でバイオカフェを開きました。農研機構 果樹茶業研究部門カンキツ柑橘研究領域カンキツゲノムユニット後藤新悟さんによる「新しいみかんを目指して〜品種改良の最新技術」でした。初めにオレンジジュースからDNAを取り出す実験をしたり、カンキツ類で知っている名前をあげてホワイトボードに書いたり、蒲郡市生命の海科学館での初めてのバイオカフェはにぎやかに始まりました。


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    松本万尋学芸員の開会のことば
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    後藤新悟さん

    主なお話の内容

    はじめに
    みかん、ゆずなどをみんな合わせてカンキツという。昔に何かと何かの品種間で偶然に掛け合わせがおき、偶然に人が見言い出した「在来品種」には温州ミカン、ポンカン、ハッサク、文旦、イヨカン、日向夏、紀州ミカンなどがある。これらの在来品種等を親にして掛け合わせによって育成されたものを「育成品種」といい、清見、せとか、はるみなどがある。日本で栽培されているカンキツの7-8割は温州ミカンで、青島は温州みかんのひとつ。
     
    温州ミカンの品種改良 
     温州ミカンはおいしく、皮がむきやすく、食べやすく、栽培しやすいなど、利点が多い。そこで、温州ミカンのいいところを持つ品種をつくりたい。
     かけあわせは、めしべに花粉をつけて(受粉)行う。温州みかんを父親にしようとする(花粉を使う)と雄性不稔という性質で花粉が少なく受粉しにくく、掛け合わせは難しい。温州ミカンを母親(めしべに父親みかんの花粉をつける)にしたら、母親と同じ性質のみかんになってしまい、品種改良ができない。できた種は母親とまったく同じになり、同じ苗木ができる。この性質を「多胚性」という。たまに突然変異によって母親とは少し違った性質を持つ個体がでてくるので、それを品種改良に用いている。興津早生(おきつわせ)はそうしてできた温州ミカンの変異品種であり、収穫期が早い。
     枝変わり(同じミカンの木に1本だけ早く実る枝があるなど、一枝だけ性質が異なる)を利用することもある。蒲郡で多く生産されている宮川早生(みやがわわせ)は枝変わりからつくられた品種。
     雄性不稔性、多胚性により温州ミカンを使った掛け合わせが難しい。スイートオレンジの花粉を温州ミカンに授粉してやり、できた数千個体から3つだけ実際に掛けあわせが起こった個体が見つかった。このうちの1つが清見である。清見は単胚性なので、母を清見にして交配すると両親の性質を合わせ持つ(掛けあわせが起こった)子どもができることが分かっている。なので、清見はおいしいだけでなく、品種改良においても重要な品種。
     静岡県浜松市三ヶ日町で毎日2-3個食べる人が骨粗鬆症の発症リスクが低いという臨床研究結果が出た。これはみかんに含まれるβクリプトキサンチンの効果。三ケ日の温州ミカンは機能性表示食品となっている。カンキツの消費の拡大のためにも、よりよい品種ができてくることは重要。
     
    品種改良で問題解決
     今後温暖化の影響で台風の襲来が多くなると葉に傷がつきやすくなり「かいよう病」が多発すると考えられている。また平均気温の上昇で「浮皮」になると皮が浮き、傷みやすくなる。温暖化に備えた品種が必要になる。そこで、重要になってくるのが、効率よく良い個体を選ぶこととピンポイントで改良すること。
     まず、効率よく良い個体を選ぶことについて。葉の細胞の核の中に染色体がある。染色体の実態はDNAという化学物質でATGCが並んでいる。DNAの一部分が遺伝子として機能している。ATGCの配列はアミノ酸の合成方法を示している。アミノ酸が集まるとタンパク質になる。生物がもつDNAの中で個体の違いを示す目印をDNAマーカーという。その中で個体間においてDNAが1塩基だけ異なる現象を一塩基多型(SNP)という。このSNPをよい個体を見つけるときの目印として利用する。
    注目する性質に関係するDNA領域にある品種間のSNPを目印(DNAマーカー)にしてDNA鑑定を行うことで、その個体がその性質を持つかどうか、調べることができる。注目する性質持つものだけを接ぎ木すると、よいものができる確率があがる。コスト低減、品種改良の効率化につながる。
     温州みかんは在来品種で紀州みかんとクネンボの掛け合わせであったことが、DNAマーカーを使ってゲノムを調べることで推定された。種がなくておいしいい品種をつくりたい。種なしに関係があるDNAの領域がわかり、種なしの目印になるDNAマーカーも見つかった。DNAの情報が品種改良の効率化に役立っている。しかし、わかっていないことも多く、種なしになるメカニズムはわかっていない。
     
    ゲノム編集とは
     次にピンポイントで改良することについて。DNAが切れると生物にはこれを修復する性質がある。元通りに修復されることが多いが、そこに欠失、挿入が起こることがある。そうすると遺伝子の働き方が変わってしまい、形質も変わる。例えば、イネの脱粒性(種がパラパラ落ちない性質)、単為結果ナス(受粉しなくても実が膨らむ)も遺伝子の変異によることが解明されている。
     ゲノム編集では、ねらったDNA配列を効率よくピンポイントで変えることができる。ゲノム編集技術の代表はクリスパーキャス9という技術。ハサミの働きをする遺伝子が、病気に弱い遺伝子を切り変異を起こしたりする。変異が起こったものと親の品種をかけると、ハサミを持たない子がでてくる。このようにして、ハサミの遺伝子を消す。
     
    遺伝子組換え技術とは
     遺伝子組換え技術では他の生物の遺伝子を導入するので、今までできなかったものができる。ゲノム編集は効率よく今、ある遺伝子を抜く。遺伝子組換え技術では、花を青くする遺伝子を持たない植物に青い花を咲かせるために、青い遺伝子を組み入れ、青い遺伝子が残っていて働き、花が青くなる。
     私は以前、イネの研究をしていた。病原菌が来た時だけ遺伝子のスイッチがはいるプロモーターと耐病性の司令官の遺伝子(イネからとった)によって病気に強いイネをつくった。この遺伝子を使って常に耐病性を頑張らせておくと、病気には強いが生育に障害がでる。病原菌がきたときだけ耐病性を頑張らせるので、病原菌がいないときの生育障害はなくなる。このイネを商業栽培するには、安全性の確認をしなければならない。これは安全でないからはでなくて、ルールに従っているため。
     
    まとめ
     ゲノム編集技術のメリットは、ピンポイントで改良できること。ゲノム編集でできた農作物が遺伝子組換え体でないと認められると、遺伝子組換え審査不要になり、大きなコスト削減につながる。審査不要かどうかは世界で議論中。日本も世界の状況をみながら検討している。
     ゲノム編集を使った研究では、ソラニン合成遺伝子をつぶしたジャガイモ、受粉しなくても実が大きくなるトマト、アレルゲン(アレルギーの原因になるタンパク質)を低減した米などがある。海外では耐病性カンキツの研究が行われている。私は雄性不稔性カンキツを研究していこうと思っている。
     ゲノム編集技術の安全性確認は、慎重に科学的データを積み重ねながら検討し、みなさんの意見を聞きながら進めていく。


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    みかんジュースをつかってDNAを取り出す実験を
    しました
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    説明に熱がはいる後藤新悟さん
     

    話し合い

  • は参加者、 → はスピーカーの発言

    • 系統とは何か→A品種とB品種を掛け合わせて、50個体できたとき、50系統という。これらはそれぞれ違う性質を持っている。1年に20通りの組み合わせして、1系統から50個くらいの種をとる。それら約1000系統を毎年接ぎ木している。種が入りにくいときはたくさんの果実から種を集めて、その中から良い個体を選ぶ。
    • ゲノム編集技術において、クリスパーの遺伝子を入れるところは組換え技術か→はい、そうです。
    • DNA、ゲノム、遺伝子、染色体の区別がつかない→染色体をほどくと細くて長い構造をしている。これはDNAという化学物質の鎖。鎖が糸巻のようにまとまっているのが染色体。全染色体をまとめてゲノムという。遺伝子とは、タンパク質のつくり方を示しているDNAの部分をさす。 
    • ゲノム編集でできることは、はさみをいれて遺伝子を壊すだけか→今ある遺伝子を壊すだけでなく、DNA配列が変わり合成されるタンパク質の活性が上がることもある。遺伝子の前についているプロモーターという配列は、いつ、どこで、どのくらいタンパク質をつくるかのスイッチをオンにするか決める役割がある。プロモーターにゲノム編集で変異を起こさせて、スイッチを入りっ放しにすることもありうる。
    • 遺伝子組換えダイズの栽培や研究はアメリカだけがやっているのか→日本では栽培していないが、研究はやっている。
    • ゲノム編集技術でできることは、遺伝子組換え技術より狭い範囲のことのように思える→ゲノム編集はスイッチオフにすることが多いが、遺伝子組換えは外からいろんな遺伝子を入れられるので、幅が広い。私はカンキツの前は病気に強い稲をつくる遺伝子組換え技術を使った研究をしていた。
    • 新しい果樹ができるのに、どのくらいかかるのか→カンキツは通常種を播いて実ができるのに10年かかる。しかし、カラタチに1系統ずつ接ぎ木し、接ぎ木した木をまっすぐ上に伸ばすように育て、その後、枝を横に倒すと、接ぎ木をしてから2-3年後に花がつき、果実もなる。この方法を用いると播種から4-5年で実が取れるようになる。さらに4-5年かけて果実調査をして、よい系統が選抜できると、その枝をカンキツ産地の各県の試験場のカラタチに接ぎ木して試験栽培をしてもらう。20年かけて、2000系統に1つくらい新品種ができる。
    • アレルギーは遺伝子組換え農作物によって起こるのか→アレルギーがなぜ起こるかは複雑でわかっていないことも多いが、アレルギーは遺伝子組換え農作物がつくられる前からある。直接、関係があるとは考えにくい。
    • 遺伝子を組み換える方法を教えてほしい→アグロバクテリウムという土壌菌を作物に感染させる。アグロバクテリウムは自分の遺伝子を植物の染色体に組み込む性質がある。アグロバクテリウムのDNAの一部を研究者が興味のある遺伝子に置き換えてから植物に感染させる。
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