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  • コンシューマーズカフェ「科学技術の受容における市民の心理~放射線からゲノム編集まで」

    2018年6月25日、コンシューマーズカフェを開きました(於くすりの適正使用協議会)。お話は大阪学院大学 田中豊教授による「科学技術の受容における市民の心理~放射線からゲノム編集まで」でした。


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    田中 豊さん
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    会場風景

    主なお話の内容

    リスクとは何か

    リスク学会の定義によると、リスクは損失の程度と損失の発生する確率の掛け算だが、「確率」は一般の人には理解しにくい。
    損失の程度をどのようにとらえるか。例えば風評被害を含む経済的被害も検討すると、損失の程度も変わってくる。日常生活でも確率の視点は重要。飛行機墜落の確率は低いが、墜落した場合の被害の大きさから、実際は自動車事故の方が確率は高く、リスクも大きくても、飛行機の方が危険だと感じる人が少なからずいる。

    リスク認知とそのバイアス

    リスク認知とはリスクの主観的・直観的判断のことをいう。市民の感じる危険性は科学的・客観的な危険性とは乖離している。
    専門家は年間死亡率、統計学的確率などの客観的な数値をもって判断する。市民は直観的判断によって判断する。
    一般市民は新しくて、イメージしやすいものを怖いと感じる。事故が起こったときのカタストロフィー(悲惨な状況)の程度が大きい(原発事故のように、大事故が起こると一度に大勢の人に健康被害が及んだり、避難を余儀なくされたりする)、制御性が低い(自分でコントロールできるので、自動車運転には制御性を高く感じるが、原発は自分ではどうしようもできない)、遅延性が高い(被害が遅れてくる。子孫ががんになるかもしれないと想像する)、知覚可能性が低い(五感で感じられないとより危険だと思う。GMO、放射線など)、などの特徴を持つ科学技術に対して怖れを感じる。自然の物はより安全だと思いがち(ラドン温泉はいい)。これらをリスク認知のバイアス(偏り、ひずみ)という。
    2009年に私の行った調査では、
    ・ゼロリスクを求める人は8割。
    ・多くの人が被害をうけるものを危険だという人は9割。
    ・私達は自然放射線をあびているが、微量でも有害だと思う人8割いた。
    ・100ミリシーベルト未満の被ばくによる健康被害はないと考えられている。放射線だと神経質になる人は多いが、肥満、飲酒、喫煙のがんになるリスクとあまり変わらないが、同じ線量でも自然放射線より人工放射線が危険だと思っている。
    また例えば、遺伝子組換えとクローンへの認知(利益と不利益、安全性と不安全性)は、それらの技術を適用する対象が植物、動物、ヒトであるかによって、大きく異なっている。

    遺伝子組換え食品・食品添加物

    遺伝子組換え食品や食品添加物によって健康被害が生じるのではないかと思っている人も少なくない。自分ではコントロールできないこと(制御性)も不安の一因になっている。一度に多くの人に悪影響を及ぼすかどうか、知覚できないもののリスクを過大に認知する傾向がある。
    一方、市民は遺伝子組換え食品に否定的だが、実生活ではあまり気にかけていない。つまり、世論調査は購買活動に直結しているわけではない。2009年の調査では、従来品種改良は8割が食べてよいと回答し、遺伝子組換えは8割が食べたくないと言った。これらの意見をまとめるとGMOは強い抵抗感がある。気づかずに食べたり、止む終えず食べたりしているが、真の受容ではない。同じ価格ならGMOを買わない。そうなると、地元の反対でほ場での試験栽培ができなくなったり、事故・事件が起こると否定的態度の顕在化が予想される。だから、リスクコミュニケーションが大事だと考える。

    市民のバイアスはどうして生じるのか

    人は生来的に科学技術のリスク判断においてバイアスがかかりやすいものである。背景にリスクリテラシー不足が考えられる。一般的に専門家の方が一般の人より妥当な判断をする。しかし、専門家でも抜け落ちることもある。だから、専門家も一般市民も相手から学ぶべきで、価値観が違うことを理解しなくては、実のある話し合いはできないし、お互いの間に信頼も生まれない、とスロビックはいっている。

    心理モデル

    賛成・反対の心理的要因があると考えたとき、次の3つの要因がある。
    ・認知的要因(因子)
    ・感情的要因(因子)
    ・認知的要因と感情的要因の複合要因(因子)
    例えばアンケートに100問の質問があっても、背後には共通の因子がある。共通因子(意味合い)でまとめていくと、整理できる。そして、尺度をまとめると。100問の質問をしなくても、代表的な数問で調査することができるようになる。
    リスク認知やベネフィット認知などの認知因子、不安や恐れなどの感情因子、そして信頼や生命倫理観などの認知因子と感情因子の複合因子は、直接的あるいは間接的に受容に影響を与える。
    どんな内容のコミュニケ-ションをとれば受容に結びつくのか、その実証的根拠を示すために、心理モデルの作成を試みた。例えば不安が受容にとって重要であり、一般市民は不安を感じているというだけでは、その不安の内容や理由がわからないので、具体的にどのようなコミュニケ-ションを行えば良いのかがわからない。そこでその不安の内容や理由を明らかにするために、グループディスカッションを行った。
    ゲノム編集についてグループで話し合った結果、例えば不安については、
    ・長期利用データがない
    ・口に入れるものだから不安
    ・将来への不安
    ・人間はそんなことしていいのか
    ・新しい技術
    ・遺伝子操作への利用
    などの内容や理由が挙げられた。
    このようにして、各因子についてその具体的な内容や理由を明らかにし、これらの内容や理由に基づいて、各因子を構成する項目をつくり、心理モデルを作成した。

    リスクコミュニケーション

    リスコミの定義はいろいろあるが、一方的な情報提供や説得の手法ではない。リスコミには、次のような特徴がある。
    ・双方向性
    ・リスクとベネフィットの両方の視点
    ・パートナーとして対等の立場でコミュニケーションする
    ・説得でなく、共考の姿勢
    リスコミの姿勢について解説したとき、講師に肯定的な感情がわくと、説得にプラスの影響が生じる。心理実験では実験直後、2か月後(スリーパー効果)で有意差が出た。
    わかりやすさの効果は、理解ができることと、知的好奇心が満たされたことによる快い感情を産むため、という仮説を立てて、研究を進めている。
    GABAトマトをテーマにして、わかりやすい説明による快感情を生むことができたら、ポジティブな思考や受容につながるのではないか。

    リスクリテラシー

    ゼロリスクは存在しない、リスクとリスクのトレードオフ、リスクとベネフィットのトレードオフ、メディア報道にはバイアスが存在している、などに対する理解が必要である。リスク認知のパラドックス(重大なリスクが克服されてくると、次の重大でないリスクを重大視する傾向がある。それも克服されるとさらに小さいリスクを重大視する傾向がある。)や、一般市民のリスク認知にはバイアスがあるということを理解していることも重要。
    私達は技術との付き合い方を勉強しなくてはならない。リスクに対する考え方に関する説明が、科学技術の説明とともに必要。これがリスクリテラシー教育。

    まとめ

    心理モデルを利用して、どの因子に働き掛けるには、どのような内容のコミュニケ-ションが必要かを理解した上で、それに応じたコミュニケ-ションを行えば、一般市民の理解が得られやすい。コミュニケーターはポジティブな感情をもって話し合えるようにする。わかりやすい説明を行い、「リスクの考え方」も伝える。したがって、リスクリテラシー教育が必要。

    質疑応答

    • わかりやすい説明がリスコミに効果的だというが、これまでわかりやすい説明に務めていたはず。受けのいい人を選ぶのがいいのか
      →それは当然だが、今回はそういうことをデータとして示せた。ここにいる人の多くはコミュニケーションをうまくやってきた人が多いと思う。気づかなくても、それはポジティブな感情を持ってもらえるように工夫をしていたのだと思う。リスコミの話をすることも、コミュニケーターと聴衆のよい関係づくりにつながる
    • 企業の人間だとだめなのだろうか。どうせだましにきたんでしょうと思われやすい。コミュニケーションをいつ始めるがいいか
      →事故が起こってからコミュニケーションをするのでなく、普段からしていなくてはならない。機会をどうやって設けていくかが大事。まずは教育でリスクリテラシーを持っている人を増やすことが大事だと私は考えている。必要に応じて、機会を利用してメディアに発信してもらうとかがいいのではないかと思っている。
    • 私は楽しい実験(90分)で頭が柔らかくなったところで、理科の話をする。間違ったことを発信する人がはびこるのは、いい発信をする人がやるべきことをやらないから。面倒くさいので間違った発言を見過ごすのはやめようと思う。動物実験をしていたので文句をいわれたことがある。日頃から科学的におかしいことに対してはちゃんと発信していきたい。
    • リスコミの説明は二段構え(科学技術の説明とリスクリテラシー)でした方がいいということですね
      →そうです。コミュニケ-ション内容としては、リスクリテラシーと科学技術の説明との二段構えが必要で、コミュニケ-ターが参加者と接する姿勢としては、対等の立場で共考することが必要だと考えます。
      わかりやすいと思うと、それは快感につながる。短絡的なメッセージは、誤解されてその情報が利用されやすくなる。
    • わかりやすさについて。よく理解できない生徒に
      一生懸命に詳細に教えると、ますます混乱するので、切り落として説明するようにしている。
    • 今日の話は情報発信者側の話が多かったが、実際には情報の受け手から学ぶことが多い。
      →そうです。そのことはスロビックが情報発信者の学ぶ姿勢が大事だと指摘している。
    • アンケートにおいて、調査に回答してもらえなかった人は、「回答拒否」ということか?
      →「回答拒否」の場合もあるが、「訪問したが、外出していて会えなかった」場合や「すでに転居してしまっていた」場合、さらには「死亡していた」場合などもある。社会調査の場合、適切なサンプリングや実施方法を採ることで、日本人の代表性が確保されるといえる。調査の設計のやり方が重要。また継続して調査結果を追って行くことも重要であり、例えば、原子力安全システム研究所の原発に関する態度に関する継続調査は、価値があると思う。
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