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  • 大人のためのサイエンスカフェ「ゲノム編集とカレーライス!?」

    2018年10月13日、新潟県立自然科学館で大人のためのサイエンスカフェ「ゲノム編集とカレーライス!?」を行いました。スピーカーは大阪府立大学 教授 小泉望さん。涙の出ないタマネギと普通のタマネギの試食も交えて、にぎやかで和やかなサイエンスカフェとなりました。

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    コーディネーター 福島郁子さんにより
    バイオカフェの始まり
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    小泉望先生のお話

    主なお話の内容

    【はじめに】

    遺伝子組換えやゲノム編集は研究者にとってものすごく当たり前のことだけれども、多くの人にとってはそうではない。私は皆さんがこれらについてどういうところが分からないか、不安か、疑問かというところを教えていただきたくて、大阪から来た。

    【DNA、遺伝子、ゲノム】

    DNAとは、デオキシリボ核酸という物質の名前。遺伝子はDNAの配列のうち、機能を持つ部分。更に本日のお題であるゲノムというのは、ある生物のDNAの配列、ATCG全ての配列を指す言葉。ヒトゲノムというのは人間のDNAの並び、それ全てのことをいう。15年前の2003年にヒトゲノムは解読された。皆さんの全ゲノム情報も10万円くらいで解読され、どんな病気になるかというのも分かる時代になった。ちなみにこの“ゲノム”というのは“gene(遺伝子)”と“chromosome(染色体)”という言葉がくっついてできた。

    全ての細胞がDNAを持っている。私たちの身体の中には37兆個の細胞がある。1個の細胞の中には核があり、核の中には染色体があり、染色体の中にDNAがある。この一つの細胞のDNAを伸ばすと2mになる。2m×37兆個ですから、私たちの遺伝情報というのはものすごい長さになる。遺伝子というのはたくさんの情報を持っている。
    DNAを更に詳しく見ると、AとT、CとGがペアになって、二重らせん構造を作る。これはワトソンとクリックという2人の科学者が65年前に見つけ、1962年にノーベル賞を受賞した。人の場合、遺伝子は3万個程度である。遺伝子が3万個あるということは、辞書であれば3万個くらいの単語があるということ。ただ、辞書と違って遺伝子の場合には一見無駄と思われるスペースがたくさんある。ではこの遺伝子は何をしているかというと、タンパク質をコードしている。この遺伝子のATCGという文字に従ってタンパク質が作られる。DNAというのは情報としてあるのだけれども、実際にいろいろ機能するのはタンパク質。例えば、車の設計図があっても、設計図自体は走らない。走るのは車。実はこのDNAとタンパク質の間にRNAというのがあって、RNAが情報を伝える。例えれば設計図を基に車を作るのだけれども、その間で働く何かが必要になる。実際の車であれば、それを作る車の工場や、車の工場へ持って行くコピーのようなもの。タンパク質を作る工場というのはまた別にあるので、RNAは工場ではなく、工場へ持って行くコピーと思ってもらったら良いかもしれない。設計図は大事だから置いておいて、それをコピーして工場へ持って行って、そのコピーを元にタンパク質あるいは車を作るという。そして、遺伝子に何か変わったことが起きれば、できるタンパク質も変わる。

    【玉ねぎ】

    カレーライスの材料と言えば、人参、玉ねぎ、ジャガイモ…。まずは玉ねぎについて。玉ねぎを切ると、涙が出ますよね。今日のキーワードに「催涙成分」というのがある。この成分は揮発性なので、切ると酵素反応が起こってこの涙を促す成分が揮発し、目や鼻に届いて涙が出る。酵素反応は低温では進みにくいので、玉ねぎを冷やすと涙が出にくい。

    催涙成分の出発物質があっても、涙はでない。出発物質と酵素は別々の所にあり、玉ねぎを切って細胞がつぶれることによって、出発物質と酵素が出会う。出会うことによって、中間物質というのができて、それから催涙成分と風味成分ができる。玉ねぎを炒めると、良い匂いがしておいしくなるが、あれば風味成分。中間成分から風味成分に変わるのは、自然に反応が進む。一方、催涙成分は催涙成分合成酵素によってできる。この酵素や遺伝子をハウス食品の今井さんらが2002年に発見してNatureに掲載された。そしてイグノーベル賞を2013年に受賞された。9月22日に今井氏の所へ行き、この玉ねぎについて聞いてきた。催涙成分合成酵素はタンパク質からできていて、RNAのコピーを介して作られる。RNAを壊すと設計図のコピーがなくなるので、このRNA干渉という方法を10年弱前にやられた。すると、酵素ができないので、催涙成分もできない。しかし、これは遺伝子組換え。大事なことは、催涙成分合成酵素の遺伝子を見つけたことによって、この遺伝子の働きをなくせば催涙成分ができなくなるということが分かったこと。

    遺伝子組換えを使わずに、他の方法で遺伝子・DNAを壊すことを考えた。DNAを壊してしまったら、タンパク質もできない。つまり、催涙成分合成酵素ができないのではないかということを考えた。ではどうやって遺伝子を潰すか。一般的な方法としては、放射線などを用いてひたすら遺伝子に傷をつけていく。例えば、皆さんも放射線を過剰に浴びると癌になる。それは私たちのDNAに傷がつく、変異が入るから。植物の新しい品種を作ろうとする時には、放射線を当てて遺伝子のいろいろなところに傷をつける。玉ねぎもそうすると遺伝子のいろいろな所に傷のついた玉ねぎが採れる。その中で、傷をつけたいところに傷を付けることができるが、実際には1万分の1か、もっと低い確率でしか当たらない。ハウス食品は放射線ではなくて重イオンビームを当てて、涙の出ない玉ねぎ「スマイルボール」を開発した。ニホニウムは重イオンビームを当てて作られた。このスマイルボールは甘く、水にさらさずに生で食べられる。しかし、残念なことに、風味成分も無い。なぜかというと、壊れたのは催涙成分合成酵素ではなくて、一つ上のアリイナーゼという酵素の遺伝子だから。これが壊れると、催涙成分もできないが、風味成分もできない。欲しいのは、催涙成分の遺伝子だけを壊したもの。またランダムに壊すのは効率が悪い。他の方法がないだろうかということで登場するのが、「ゲノム編集」。

    ゲノム編集は遺伝子を狙って壊そうという技術。Cas9というDNA切断酵素を使うと、遺伝子の並びの中からある特別な場所を見つけて、その狙った遺伝子だけを壊すことができる。このCas9を使うのがゲノム編集である。ゲノム編集では、特定の遺伝子・DNA配列を壊すことができる。そもそもどうやって遺伝子が壊れるかというのは、放射線あるいは重イオンビームなどでランダムにDNAを切断すると、元々私たちの身体にはDNAを修復するというメカニズムが備わっていて修復されるが、たまに失敗する。失敗すると、遺伝子が壊れる。ゲノム編集の時には、Cas9が決まったところを切る。そしてDNA修復が起こる。やはりたまに失敗する。ランダムな切断だとどこが切れるか分からないが、ゲノム編集ならほぼ百発百中で狙った遺伝子を壊すことができる。しかし、できるものは同じ。ということはゲノム編集の方が良い。実際に今井さんたちが研究をしている。

    一方で、Cas9を働かせるためには、Cas9の遺伝子を玉ねぎに入れなくてはならない。Cas9の遺伝子と壊れた遺伝子が玉ねぎに入っている状態になる。このままでは、Cas9が入っているという時点で遺伝子組換え。よって、普通の玉ねぎと交配をしてCas9が無い状態にして、催涙成分合成酵素だけが壊れたものが望まれている。挑戦しているが、まだ催涙成分合成酵素が壊れたものもできていない。

    遺伝子組換えは新しい遺伝子を組み込むもの。ランダムな突然変異とは、放射線や重イオンビームでいろんなところに変異を入れる、DNAを傷つける。それらと比べ、ゲノム編集では狙ったところを壊すことができる。他にも遺伝子が壊れることがあり、これをオフターゲットという。これを問題視するかどうか、という議論もある。

    【ジャガイモ】

    みなさん、ジャガイモの芽を取る。結構面倒。そこで、大阪大学の村中先生が毒のないジャガイモを作れないかという研究をしている。ジャガイモの芽や緑の皮には、ソラニンやチャコニンという毒が溜まる。この毒を作る遺伝子を見つけて、ゲノム編集で壊した。よれによって、劇的にソラニンとチャコニンを減らすことができた。これはもうCas9が入っていないものができている。

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    試食用タマネギを切る
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    試食タイム

    体験

    スマイルボール、冷蔵庫で冷やしたタマネギ、室温のタマネギの順で、それぞれ4つ割りにして、匂いを嗅いだり、目に近づけたりしてみました。
    普通のタマネギは少しツンとしました。スマイルボールのスライスに小泉先生のお手製のドレッシングをつけて試食。玉ねぎの味がして、水にさらしていないのに、おいしくいただきました。
    会場はタマネギの匂いがいっぱいになり、後半の質疑応答では、涙が止まらない人もあり、あわててタマネギにラップをかけました。

    質疑応答

    • は参加者、 → はスピーカーの発言
    • ソラニンの少ないジャガイモの他に、ゲノム編集でどんな作物が売られているのか。商品化されたものはあるのか
      →国内外で商品化されたものはない。アメリカで切っても黒くならないマッシュルームがゲノム編集でつくられたが、商品化はされていない。
    • 日本では
      →GABAという栄養素が多く含まれるトマトが最も実用化に近い。早く大きくなるタイ、ソラニンのできにくいジャガイモは、できているが実用化に至っていない。
    • クリスパーCas9の仕組みは
      →Cas9というDNAを切るタンパク質とガイドRNAといって狙った場所にCas9を連れて行くタンパク質の複合体になっている。切る場所の目印は20塩基くらいの配列。他に同じ20塩基の並びがあるかもしれないので、オフターゲット(狙っていない場所を切る)も否定できない。かなり正確にねらった所を切り、オフターゲットの確率も低いが、その数字はまだ示されていない。
      医療では、オフターゲットが起こると深刻な問題なので、特に注意して研究を進める必要がある。
    • ジャガイモもクリスパーで作られているのか
      →ゲノム編集技術にも変遷がある。ジャガイモはターレンというクリスパーより前の技術でできている。クリスパーは第三世代のゲノム編集技術といわれている。
    • 遺伝子組換えは安全なのか
      →遺伝子組換えに対する消費者のイメージはよくないが、研究者からいうと安全でないという根拠はない。不安に思う消費者とどのように話し合っていけばいいのか、考えることが多い。
    • 安全でないという根拠はないが、安全であることを示す根拠もないのではないか
      →確かに100%の安全はないが、100%安全な食べ物は無い。
    • 遺伝子組換えでないと豆腐に表示されているのは、大豆の大部分は輸入だから、国産をアピールしているのか
      →遺伝子組換え作物で輸入されているのはダイズ、トウモロコシ、ナタネくらい。しかし、食用油は表示義務対象外。豆腐、納豆は表示対象。メーカーは非組換えを調達しているから、「非組換え」と表示する。日本は世界有数の組換え消費国だが、表示対象でない製品で多く使われているので、使っていないと錯覚している人が多いと思う。実際には、家畜飼料はほとんどが遺伝子組換え。日本に輸入されているものの半分は組換えと考えられ、日本の畜産は遺伝子組換え作物で支えられている。
    • ゲノム編集が商品化されていない理由は組換え嫌いの消費者のせいか
      →国がゲノム編集のルールを決めていないから。8月に国が規制の案を示し、10月19日までパブリックコメントを募集している。
      私は涙がでないタマネギが商品化されて、選べたらいいと思う。もし涙のでるタマネギが混入していても、健康被害は起こらない。
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