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  • 未来バイオ勉強会「転機に立つ日本のイネ育種」開かれる

    2018年3月20日、未来バイオ勉強会「転機に立つ日本のイネ育種」がバイオインダストリー協会で開かれました(コーディネート くらしとバイオプラザ21)。イネに関連する3名の研究者をお招きし、多角的にイネの先端研究についてお話しいただきました。
    2018年度はゲノム編集技術を用いた作物をめぐる規制について、環境省、厚生労働省が検討会を立ち上げた年でもあり、ゲノム編集への注目が高まっています。しかし、ゲノム編集は分子生物学的な研究手法によってゲノム情報がわかってこそ、実現する技術です。日本の得意分野であるイネを例にして、次世代シーケンス解析、ゲノム編集、遺伝子組換えについて学ぶ機会を持てたことは有意義なことでした。

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    富田因則氏

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    小松 晃氏

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    齋藤三郎氏

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    会場風景

    話題提供1

    「新・緑の革命:グローバル化時代と地球温暖化に適した超多収・大粒・早晩生コシヒカリの次世代シーケンシンス解析に基づく開発」

    静岡大学グリーン科学技術研究所 教授 富田因則氏

    ポスト緑の革命
    昨今、地球温暖化によって多発する大型台風、集中豪雨が水田稲作に多大の損害をもたらしており、イネをより倒伏しにくく丈夫に改良する必要がある。一方、TPPやTAG交渉をはじめとする自由貿易化の流れでコシヒカリの逆輸入が危惧されるため、より低コスト・多収に改良して国際競争力を高める必要がある。かつて、緑の革命に代表される短稈育種では、イネの背丈を短く改良することにより、多肥・密植によって生産性を向上させたが、世界的に単一の短稈遺伝子sd1に依存するものであった。現在、コメの単収は頭打ちとなっており、本研究ではさらなる頑健・多収化をもたらす“新・緑の革命”を目指した。

    新・緑の革命に有効な遺伝子の同定と「スーパーコシヒカリ」開発
    本研究では、激化する気候変動や逼迫するグローバル化に対してイネを改良するのに有効な未知の遺伝子を探索した。すなわち、イネをより頑健にするsd1とは異なる新規の短稈遺伝子、強稈・旺盛化する遺伝子、真夏の高温登熟を回避する早生又は晩生の遺伝子、並びに、低コスト・多収化して国際競争力を高めるための大粒遺伝子、穂数を増大する遺伝子等、有望でもこれまで未利用だった形質に関する原因遺伝子を解明した。本法では、有望形質を戻し交雑によってコシヒカリに移入する過程において、当該形質の遺伝法則を解析するとともに、作出した同質遺伝子系統の次世代シーケンサーによる全ゲノム解読によって原因DNAを同定した。これらのゲノム情報の解明に基づいて、コシヒカリの同質遺伝的背景において、短稈遺伝子に加えてさらにバイオマスを増大する遺伝子、早晩生遺伝子、大粒遺伝子等を集積することによって、気候変動に対する耐性と国際競争力を高めたスーパーコシヒカリ系統群を「コシヒカリ駿河シリーズ」9品種としてリリースした。
    本研究で蓄積したゲノム情報並びに有用遺伝子を集積した50系統に及ぶ同質遺伝子系統のリソースは国内外のいろいろな問題解決に貢献し、今後、海外を含む広い品種にゲノム編集技術等を適用して“新・緑の革命”を引き起こすために、必須のゲノムデータとして期待される。

    話題提供2

    「イネのゲノム編集はこれからどうなるのか-実用化と普及の鍵を考える」

    農業・食品産業技術総合研究機構 上級研究員 小松 晃氏

    これまでの品種改良技術の変遷
    人類は野生種を栽培化し、育種して多様な作物が得られるようになった。初めは良い形質を偶然見つける経験則に従った育種だったが、重イオンビームや放射線などで切れた遺伝子を生物が元から持っている力で修復するときに生まれる突然変異体も利用して、品種が改良されてきた歴史がある。
    ゲノム編集では切れたDNAが修復される際に偶然起こる、欠失、置換、挿入を利用して品種改良を行う。これは従来育種の重イオンビームや放射線による変異誘導と、原理は同じ。

    ゲノム編集を用いた育種の研究
    ゲノム編集技術を使って、ソラニンを低減したジャガイモ、アレルゲンの少ないダイズやコメの研究が行われている。私はイネのシンク能(一穂につく籾数、粒の重さ)を改変しシンク容量の増大を目指し、さらに収量性の向上、コスト削減ができるイネの研究をしている。
    植物のゲノム編集では初めにDNAを切る酵素をコードする遺伝子を導入する(この時点では、遺伝子組換え作物)。2017,2018年度に行った野外栽培試験では、外来遺伝子を交雑で除去したイネを栽培したが、環境省での検討開始前だったため、カルタヘナ法に則った隔離ほ場での栽培試験を行った。

    アウトリーチ活動
    ゲノム編集イネ系統の野外栽培試験は、マスコミにも取り上げられ、見学者に直に植物体を見てもらうことができる「アウトリーチツール」にもなりえると考えている。ぜひ見学に来て頂きたい。また、その他にサイエンスカフェ、ワークショップなど、モデレーター、サイエンスライターと連携した双方向コミュニケーションにも力を入れている。

    話題提供3

    「食べる免疫療法―スギ花粉米について」

    東京慈恵会医科大学 教授 齋藤三郎氏

    アレルギーの治療
    花粉症に対する抗体医薬品が発売された。抗体医薬品は高いので、3割負担でも5万円以上かかる。重症患者数200-300万人として計算すると、抗がん剤ほどでないとしても、これも医療費を圧迫することになるだろう。舌下免疫療法でも年間3万円前後の負担で効果が現れるのに、3-5年かかり、医療費がかさむうえに、治療に時間がかかるとドロップアウトする患者も増え、いろいろ難しいことがある。

    スギ花粉症とは
    スギ花粉が来ると抗原提示細胞がこれを捕らえて提示する。それをヘルパーT細胞が受けてB細胞にIgE抗体を作らせる。肥満細胞はIgE抗体を表面につけ、ここに花粉が来ると架橋をつくりヒスタミン顆粒が放出される。これでアレルギー症状が起こる。
    花粉症治療米に含まれているのは、スギ花粉のアレルゲンのペプチドなので(ペプチド療法)、IgE抗体にくっついても架橋を作らない。ヒスタミン顆粒は放出されず、アレルギー症状は起きない。

    スギ花粉米の安全性試験と利点
    マウスやサルを使った安全性試験を行った後、2012-13年は、患者さんの協力を得て、安全性試験、比較試験、容量検定試験を行った。T細胞の反応が抑制され、患者さんの症状も改善された。
    イネは自家受粉する、栽培しやすい、たんぱく質の発現量が多いなど、植物としての扱いやすさという強みがある。スギ花粉米は治療期間が短い、安価、長期保存できるなど、多くの利点がある。中でも架橋ができないために副作用がないことは、治療の行う上で最大のメリット。これを患者さんのために使わない手はないと思う。スギ花粉症と診断された人に限り、パック米で販売する方向を実現できないだろうかと考えている。アウトリーチ活動にも力をいれていきたい。

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