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  • ライフサイエンスイノベーションフォーラム「恐怖のプロファイリング」開かれる

    2019年9月4日 日本分析機器・科学機器展(JASIS)2019 ライフサイエンスイノベーションフォーラム「恐怖のプロファイリング~迫りくる〇〇」(主催 メタボリック・プロファイリング研究会)に参加しました。恐怖のプロファイリングシリーズは好評につき、今回は第3弾です。

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    根本直氏のはじめのことば

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    プログラム

    「はじめに ~NMR プロファイリングのひろがり」

    産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門 根本直氏

    本企画の企画運営をされている根本氏はNMRを用いた統計的パターン認識の第一人者として、このシリーズを始めた経緯と企画のねらい、今、注目されていることについてお話されました。
    「恐怖物質と網羅的解析時の誤同定問題を核として始めた恐怖のプロファイリングと題したシリーズ。今だと、まさに“AI”時代が迫って来ている。無作為、数で勝負の統計学に比べて、限定数のデータの質が重要になる統計的パターン認識は特徴空間の把握という本質に置いてAIに似ている。プロファイリング法を学ぶことはAIの動作の理解につながる。対象として地質に広げた原油と、医療では腎透析を紹介し、さらに重症化予防アプリへと展開している」

    「生涯健康を支える魚食と腎機能」

    マルハニチロ株 中央研究所 河原﨑正貴氏

    河原崎氏は3年前に魚食で臨床データ改善されたというデータを紹介されたが、今回はこれに続く研究を紹介されました。
    「本物、安心、健康な食で生涯健康維持のお手伝いを目指している。肝臓、腎臓は健康の要だが、腎不全はなってしまうと治療ができない。魚食で予防できないかと考え、脳卒中易発症系高血圧自然発症のラットに高含有DHA精製魚油を投与したところ、2000㎎/Kg/day 4週間で腎臓保護、脳卒中防止などの効果が現れた。腎臓、心臓、脳、眼は細動脈に血圧がかかり故障が起きやすい場所で、こういうところにDHAはよい効果をもたらしそうなことがわかってきた。研究を続けたい。
    研究をしていて思うことは総体は単なる部分の総和ではなくそれ以上から成り立っている。、全体像を把握する(わしづかみ)上でプロファイリングが役立つ。そこで用いるデータの質の保証と、サンプル提供者、測定者、分析者の連携が重要だと感じている」

    「次世代メタボロミクスに向けた技術開発―迫りくる高精度解析の要求」

    九州大学生体防御医学研究所 和泉自泰氏

    「近年の人工知能技術(AI)の発展に伴い、ライフサイエンス分野においても各種オミクスの大規模データの活用が注目されている。代謝物総体解析であるメタボロミクスは、高解像度のフェノタイピング手法として、医薬、食品、バイオテクノロジーなどの様々な分野で活用されている。しかし、現状のメタボロームデータは、取得した施設でのみの活用に制限されている。その理由は、異なる機関、異なる時期・異なる分析法で取得したデータを定量的に統合するためのガイドラインが存在しないためである。メタボロミクスのデータ統合に向けた世界の取り組みとしては、National Institute of Standards and Technology(NIST)が中心となりStandard Reference Material(標準プール血漿)をつくり、それを利用して、施設間や装置間の測定値を補正するすべを検討している。日本においても、2017年頃からメタボロミクスのデータ統合に向けた検討を開始した。現状では、約半数の代謝物においてはデータの統合が出来る可能性が示唆された。今後、これらの取り組みを続けることで、自分が取得したデータの客観的評価ができるとともにメタボロミクスデータの統合が可能になる時代が来るかもしれない。」

    「機能性フードペアリングのABC―迫りくる食べ合わせのワナ?」

    九州大学農学研究院 藤村由紀氏

    「私の研究対象はお茶。これまでの研究で、お茶は体によいことはわかっていたが、どのように体によいのかはわかっていなかった。お茶の成分の緑茶ポリフェノールの生体内での挙動について調べると、その受容体があって生理活性を発揮することがわかった。ある種のがんでは、お茶の生理活性を阻害する物質ががん細胞で特異的に増えることもわかってきた。そこで、食べ合わせ(機能性フードペアリング)の視点で調べたところ、ニンニクにはそのような阻害物質を抑える成分があることがわかった。また、みかんやレモンなどの柑橘類や緑黄色野菜には、緑茶ポリフェノールの効果を高める成分があることもわかってきた。こうして、昔から言っている食べ合わせの科学的な理由が徐々に明らかになってきた。同時に、効果を弱める食物の組み合わせがあることもわかりつつある」

    「人新世 Anthropocene紀の栄養学」

    女子栄養大学 香川靖雄氏

    「人新世(アントロポセン)という、人と地球と一緒にとらえる、新しい考え方がある。これからの時代は、アントロポセンの枠組みの中で、激しい環境破壊から人がSDGsで地球を護らなくてはならない。しかし、SDGsは国連で採択されたが、地球規模の課題は多く、大きく、重い。日本では高齢化、食の国際化の中で要介護者と認知症が増えている。
    栄養学も遺伝子栄養学(飢餓耐性を持つアジア人、耐寒性をもつ白人では食生活も異なるはず。地中海食は白人に適している)、時間栄養学(昼夜逆転の高齢者、引きこもりの人には、生活のリズムが重要。1日の中で細かく立ったり座ったりする動きがフレイル予防に向いている)などの考え方で、栄養以外の要素も取り入れて考えていかなくてはならない。
    まとめとして、日野原先生の食生活を振り返ると、ブロッコリー、魚食、豆類をとられており、葉酸、DHA、大豆のレシチンが認知症予防に有効らしいことがわかる。さらに最近の食事炎症指数という新しい健康食の評価法によると、100年前に母 香川綾が唱えた「魚1豆1野菜4」(100g、100g、400g)に一致した理想食がNIPPON DATAの食事解析から立証された。この健康食は日本人が長期間、再生可能な農漁業で和食を発展させ、遺伝子もそれに適合したために環境保全食でもある」

    「誤解されるバイオテクノロジーあれこれNeo」

    くらしとバイオプラザ21 佐々義子

    3年前の恐怖のプロファイリングでは、遺伝子組換え食品の表示などを例に、「正しく怖れる」ことについて話した。今日は人と恐怖の関わり方について話したい。遺伝子診断をもとに乳腺切除をしたアンジェリーナ・ジョリーさんは確率で表されるがんの恐怖と向き合った人だと思う。これに対して世界のはしか大流行の背景にある、反ワクチン運動は「正しく怖れていない」ケースではないか。一方、企業から始まった「イーストフード、乳化剤不使用表示」自粛の呼びかけの広がりをみると、事業者から食品添加物を誤解して恐れている人への積極的な働きかけという画期的な出来事だと思う。
    分析関係の方には分析値の持つ意味を折に触れて発信して頂き、消費者が正しく恐れることができるように手助けして頂きたいと思う。

    「ライフサイエンスイノベーター」

    講談師 神田真紅氏

    神田真紅さんは、歴史・ゲーム・SFなどのオリジナル講談を得意とする女流講談師。昨年、ベトナム戦争から戻ったところで終わっていたJASIS特別作ジョン・クレイグ・ベンタ-伝を今回全編初公開!となりました。
    「ジョンは負けん気が強く、人の言うことを聞かず、兄と比べられて育った。水泳が上手だったが、コーチに自分流のやりかたを否定されたことに腹を立て、推薦枠で進学できるチャンスをやめてしまった。ベトナム戦争では、厳しい規律が性に合わず、入水自殺を図るが、水泳が上手で鮫から逃げ出して生き延びてしまう。衛生兵として働きながら、重症でも前向きな負傷兵は生き残れることを目の当たりにして、生命に深い関心を抱き、戦争から戻って生化学・生理学で博士号をとりNIH(国立衛生研究所)の研究者になった。ここでも所長のワトソンと衝突したが、研究委員に支えられついにはゲノム科学研究所(The Institute for Genome Research)を設立し、世界で初めての生物として、インフルエンザウイルスのゲノムの全配列を解読した」

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