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  • 日本リスク学会春季シンポジウム『リスク学から感染症問題を考える』

    2020年6月26日、日本リスク学会は春季シンポジウム:『リスク学から感染症問題を考える』をオンラインで開催しました。同学会は2月28日に同学会WEBサイトに「新型コロナウィルス感染症特設サイト」と設け、3月23日、「新型コロナウイルス問題を考えるためのリスク用語集」を公開しています。現在、日本では32の団体がCOVID-19 に関するWEBサイトを公開していますが、ほとんどが理系の学会です。日本リスク学会は2つの文系学会のうちのひとつとして、しかもかなり早い時期に公開したといえるでしょう。
    本シンポジウムでは、私たちが直面している感染症問題と向き合うときにリスク学がどのように貢献できるか、日本リスク学会がどんなに活発に活動しているかが報告されました。

    「新型コロナウィルス感染症特設サイト」

    「新型コロナウイルス問題を考えるためのリスク用語集」

    「リスク学からどんな貢献ができるか」

    岸本充生理事(大阪大学)

    リスクの概念をとり入れると、白でも黒でもないリスクを定量的・定性的に表したり、過去のリスクと比較したり、トレードオフや費用対効果の検討が行えるようになり、リスク学は合理的意思決定に役立つ。
    また、意思決定のプロセスは、科学的ファクトを基礎にして、ベースラインのリスクを評価したり、リスク管理オプションを列挙したり、それぞれのリスク管理オプションの影響を評価したりして、リスク管理措置を決めていくわけだが、日本のCOVID-19では、科学的ファクトとリスク管理措置の決定の間が見えにくく、人々はリス管理措置の変更されても(学校に行ってよい、科学館を開いてよいなど)、その理由を理解しにくかったのではないか。リスク学の考え方で、このプロセスを可視化することで、予め決まっている管理措置によって科学的ファクトやリスク評価が歪められたりしないようにできるのではないかと期待する。

    「接触感染経路のリスクについて」

    藤井健吉理事(花王安全性科学研究所)

    感染症対策には、感染者、感染源、感染経路のそれぞれに関するものがある。感染経路には、患者からの飛沫感染と、飛沫が付着したドアノブなどの環境表面に触れることで起こる、接触感染がある。2009年、A型インフルエンザのときのデータから「濃厚接触において飛沫による感染確率は50%、飛沫が付いたものからの接触感染確率は30%」だとわかったので、三密回避とマスク着用によって50%をコントロールできるならば、環境表面からの感染リスク30%をさらに低減できないかを考え、ガイダンスを作成した。
    環境表面に残ったウイルスは、室温では数日間は失活しない。付着した表面の材質(金属、ガラス、プラスチック、木など)によって感染力保持時間は異なる。
    中長期の感染回避に向けて、リスク回避行動指針が必要だと思う。ことに日用品をつかった感染ルート除染も検討し、ガイダンスを刷新していく。

    「環境表面のウイルス除染ガイダンス」

    「感染症流行時のメンタルヘルスの諸問題」

    竹林由武氏(福島県立医科大学)

    緊急時のメンタルヘルスと心理社会的サポート(MHPSS)に関する機関間常設委員会(IASC)リファレンス・グループが作成した ブリーフィング・ノート(暫定版)「新型コロナウイルス流行時のこころのケアVersion 1.5」の翻訳に関わった。これは医療従事者向けのものだが、リスクコミュニケーションやソーシャルサポートについても言及されている。高いメンタルヘルスのリスクを抱える集団には高齢者、子どもだけなく、医療従事者などの専門家も含まれる。
    こころのケアで大事な原則は、①人に害を与えない、②人権と平等を促す、③当事者参加型にする、④既存の資源とその可能性を念頭に置く、⑤多層的な介入、⑥差別のない支援システムの6つ。そして心のケアにおいて大切なキーワードは精神保健の専門家だけでなくコミュニティーの力である。

    「新型コロナウイルス流行時のこころのケアVersion 1.5」

    「WHOのリスクコミュニケーション」

    竹田宜人理事(北海道大学)

    COVID19を東日本大震災のケースと似ているという人がいるが、日本全国が対象で、ハザードの個人差(軽症者 無症状者など)、直接対話ができず、「自粛警察」が登場するなど、異なっている側面も多いと思う。
    WHOはCOVID-19への「RCCE : Risk Communication and Community Engagement(リスクコミュニケーションと地域社会の積極的な関与)」の基本的な考え方と、準備から初期対応に関するチェックリストをまとめたガイドラインを作成した。この翻訳に関わったので紹介する。
    RCCE は、誤った情報の氾濫を防いだり、適切な行動への信頼を構築したり、健康に関する助言に従う人々を増やしたりするのに役立つ。チェックリストには、以下のような具体的な幅広い内容の項目があげられている。これはその一部だが、活用してもらいたい。

    • 最初にわかっていることと、とわかっていないことを伝える
    • いつも人財と資源を準備しておく
    • 計画性を持つ
    • 平常時から内容確認の方法、情報の出し方の手続きを関係者で合意しておく
    • 広報内容のチェック機能整備
    • メッセージテンプレートを作っておく
    • メディアリストの整備
    • 公衆衛生のアドバイスを与える訓練
    • うわさや誤報を発見する仕組みづくり

    「コロナウイルス疾患への対応―WHOガイダンス」

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